4.

 ぎこちなくキィをなぞり始める。

 家で練習してきたとはいえ、やはり難しい。

 小さく鳴り始めた音の群れの中にも、ぎこちなさが混ざっていく。

 ちらりと左を見る。

 ぽつん、と一つだけおかれた椅子。近くに放られた真っ赤なランドセル。プールの塩素で少し茶色くなったボブカット、それにしては白い肌。薄いピンク色の唇。

 そして――暗闇をも吸い込みそうなほど真黒な瞳。

 目が合う。

 小学生とは思えない、他のクラスの女の子たちとは明らかに違う、瞳。

 僕の、ものだ。

 僕だけの、少女。

 演奏もどきが崩れていく。

 怪訝な顔をされたので、慌てて楽譜を見る。

 睨みつけ、必死で読み取り、鍵盤へと刻んでいく。


 二人きりの世界でとぎれとぎれの音楽を楽しむのが、僕らの夜の日常だった。

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