3.

「ばかばかしい」

と、頭の中のイメージをかき消すように僕は言った。

 何か喋っていないと、暗闇にのまれそうな気がしてならなかった。

「そう思わない? 女の子たちって、どうしてあんなに噂話が好きなんだろう。君も、僕も、こうしてちゃんと存在してるって言うのに」

 机を全て後ろに引いて、一つだけ残した椅子に座る彼女に話しかける。そうだね、と、鈴のなるような声がピアノの向こう側から聞えてきた。その声を聞いて、僕はほっとする。

 大丈夫。今日も、大丈夫。

 ランドセルの中に手を突っこんだまま、彼女にたずねる。

「今日は何、弾いて欲しい?」

「……シューベルト」

 か細い声に、了解、と返事をする。持ってきた大量の楽譜の中から、かろうじて「シュー…」と読めるぼろぼろの用紙を取り出す。題名は英語で書かれていて、僕には読めない。

 えっと、最初は――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る