第9話同級生

金髪、耳にはピアスををつけた青年が、ホームに降り立った。

喫茶室に入って来た時、ふと、どこかで見覚えがあるような・・

その青年は、僕を見ると、猛ダッシュで向かってきた。


「お前、健吾だな。は、やっぱドジでヘタレだな。むかつく。ボコってやる。」


僕に向かって、青年、そうこの男は、俺をイジメ、あげくに病院送りにしたやつだ。

やっと顔を名前を思い出した。大河内 聡 同級生だった奴だ。

やれやれ、死んでも僕をイジメる気か。


途中、由香里ちゃんが足をだし、

大河内は無様に転び、目論見は失敗。。

「ちきしょう、痛いじゃないか。邪魔しやがってこの」

口は、相変わらず悪いんだな。


「あなた、むかつく。」

由香里ちゃんは、一言そういうと、紅茶を運ぶお盆で頭を叩いた。

大河内が不思議な顔で振り向きざま、もう一度叩いた。

3度目は 奥田神父さんが、由香里ちゃんの振り上げる手を、つかんで止めた。


「いいじゃない。私も”むかついた”のよ。彼と同じ」

由香里ちゃん、もしかして僕のために怒ってくれてる?

高校生の時のイジメは、暴力を受けた事しか思い出せないけど。


「あなたの気持ちは、わかりますが、そこまででいいでしょう。

けがの功名で、彼も少し冷静になったようです。

健吾君、紅茶よろしく」

僕は、ごく普通に紅茶を入れた。

不思議だ。あのころは、大河内ら3人のグループが、憎かったし怖かった。

朝の来るのが憂鬱なくらいだったんだ。


由香里ちゃんが出すと、熱い紅茶をぶっかけそうなので、僕が出した。

大河内は 一瞬、不思議な顔をしたが、いつもの口調で、


「はん、お前は死んでもヘタレなんだな。胸糞悪い。

大体、お前が親父の出した謝罪金を受け取って穏便に事を済ませれば、

俺は少年院に行くこともなかった。」


知らなかった。僕の父は大河内を許さず、警察に訴えたんだそうだ。

僕は、両親にイジメを訴えた所で、「許してあげなさい」とか「やられたらやりかえせ」

とか、言われるかと思って、何も相談出来なかったのに。


紅茶を飲んで、また、頭が冷えたようだ。

「小山内、お前は、どうして死んだんだ?」

そうか、俺の苗字は、小山内。小山内 健吾 が僕だ。


フルネームがわかったのは、大河内のおかげだけど、複雑だ。

「いや、それが実は、自分でも何も覚えてなくて、ここで働かせてもらってんだ。

苗字も今、やっとわかった所。」

「け、とことん、とろいヤツだな。だから死んでしまうんだ」

いやいやいや、それをお前に言われたくないな。大河内。


「さっきもいった通り、俺は少年院に入ったらすぐ、親父に勘当された。

院から出たら、ワル仲間には、無防備なヘタレを殴るくらいがせいぜいなヤツって

評価されてさ。しょうがないから、生活のため働いたさ。」

確かに僕は無防備というか、無抵抗だった。最初のころは、抵抗してたんだけど、

途中から、どうでもよくなったんだ。


「大河内君は、まだ虚勢をはってるんですか。

若者らしいといえます。が、彼は真面目に働いてたんですよ」

由香里ちゃんが、”意外~”って顔で、大河内を見てる。

「神父に隠し事できないのか。それとも、ここがあの世とやらだからか」


「いいえ、ここは現世とあの世の境界の”彼岸”です。

あなたは、これから”あの世”へ旅立たねばなりません。

ホームのほうから、川が見えますか?」

「おお、結構、広い川がみえる」


この言葉に、やっぱりという顔で神父さんはため息をついた。


僕は前から疑問に思っていた事を、聞いた。

「個人によって見える川が違うのは、わかったけど、その場合も川の上を歩くんですか?」

僕は、海にしか見えないから、怖くて行けない、退去期限がきましたっていわれたら、

どうしよう。


「その川がどんな川であろうと、渡ります。当然、途中で沈む人もいるようですが、

大丈夫です、もう死んでますから」


神父さん、そのジョーク笑えない。空気が冷えたよ。

由香里ちゃんも、目がしら~っとしてる。

神父さんは、うけなかったので、咳払いでごまかし、

「いえ、大丈夫なのは、本当です。沈んだ人は、また現世に転生します。

人間になるか、動物になるか、植物ってのもありですし、私はよくそのシステムは

わからないのです。まだこの仕事、下っ端ですから」


由香里ちゃんは、まだ質問したそうだったけど、神父が急に、

喫茶室から出て、草原に向かう戸を開いた。

僕も由香里ちゃんも、大河内も、あわててついていった。


「お~い。こっちです。転ばないように気を付けて」

神父さんの言葉をかけた方向に、からし色のモコモコとしたものが、

こっちに向かってくるのが見えた。

近づいてわかった。からし色のモコモコセーターを着た小さな女の子だ。

あの子、地獄から帰還した?まさかね


「はじめまして、今日は一言、お礼を言いに来ました。

金髪のお兄ちゃん、助けてくれてありがとう。」

大河内は、知らない子だって ロリコンじゃないからと ヘンな言い訳してるし。


その子は、お辞儀をして頭をあげると、頭に焦げ茶色の小さな耳がピョコっとでた。

ついでに、シッポも。そのうち、小さな子狐に変わった。


「生きている子狐では、これが精いっぱいでしょうか。

人型になって、お礼を直接伝えたかったのでしょう。」

神父さんは、その子狐を抱き上げると、やさしく撫でた。


「もしかして、俺が車で事故った原因になった子狐か?

まったく、チビのくせに、こんな所まで遠出しやがって。

ホラ、さっさと母親の所へ帰れ。道にまよわないようにな」

大河内は、神父さんから子狐を受け取ると、ポンっと草原においた。

子狐は、最初は振り返り振り返りながら、走っていった。そして、姿が消えた。


「俺はよ、保護司の紹介で、大工の見習いしてたんだ。

事故を起こした日は、寝坊してちょっと、いや、だいぶ急いでた。

そこに、あの子狐が飛び出したもんだから、ハンドルを目いっぱいきったんだけど、

運悪く、電柱に激突してさ。まあ、子狐が助かったんなら、

少しかは、俺も役にたったって事だな」


大河内って、見かけによらず、優しいんだな。

高校の時のあの凶暴性は、なんだったんだ。

由香里ちゃんは、意外を通り越して、唖然としてる。

大河内って、ワルだったけど、もしかして、本来はこっちの姿?


「小山内、俺、お前をボコボコにしてたけど、恨んでないのか?

復讐するなら、今しかないぞ。」大河内は、大胆不敵そうなワル・・

を演じてる気がする。

うん、そう彼らを恨んでたし、それよりも怖かった。

ただ彼岸効果?とてもいうのだろうか、今の子狐騒動で、毒気を抜かれたような。


「つまりはですね。”僕はひどい事をしました。ごめんなさい。復讐されても

しかたないです”っていう意味です。大河内君。ここで素直になれないってのも

珍しいですよ」

神父さんの通訳が入った。ま、僕にもなんとなくわかったけどさ。


「僕は大河内と3人の仲間の事、恨んでないっていえばウソになるけど、

それよりも、僕は今でも怖いんだ。

お前たちにボコられた時、後ろで何もせず笑ってみてた奴がいたろ。

僕は、彼が恐ろしい。ここに来る前に出会ったけど、一目でわかった。

家から出るのも、恐ろしいくらい怖かった。なにせヘタレだしね」


大河内はヘンな顔をして、考えてる。

「小山内、お前、やっぱ記憶がちゃんと戻ってないだろう?

俺らの仲間は、俺を入れて3人だ。4人じゃない。

もちろん、あの時も3人しかいない」


断言する彼に、嘘はなさそうだし、でも、僕はハッキリ覚えてる。

名前はわからないけど、その周囲は暗く、顔立ちもはっきり見えないのに、

白目の部分だけ光って見えた。思い出したくもない。

でも、覚えてるのは その場面と、街で偶然 見かけて時だけだ。


神父さんは、あわてて、駅舎の中に入り、電話をかけてる。

その電話。見た事もない”懐かしの黒電話”ってやつだけど、線がつながってない。

それとも、レトロな型の携帯とか?

神父さんは、いつになく真剣な顔で何かを訴えていた。

駅長室にある電話なので、何を言ってるのかはわからなかったけど。

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