4.

 ……しょこらと私の間に隙間風が吹いていることは、分かりきったことだった。

 この町で最初にできた友達だとはいえ、週に二回、約十五秒間だけの交流では、当然、距離も離れる。


 そもそも私達の間にはお互い踏み込み過ぎない妙な距離感があった。


 高校に入ってからも低空飛行で続いていた気まずい関係を、彼女は大切なストラップを取ることで、終わらそうとしただけだったのだろう。

 残り一年、この状態で朝を過ごすことが、嫌になったのだ。

 遠回りに拒絶する言葉や今までの態度は、しょこらなりの優しさだった。


『この世で一番嘘を見破るのが簡単な、でも本当に見破ろうとするのは難しい人が誰か、知ってる?』


 頭の中でしょこらの声が響く。


 本当は答えが「自分」であることなど分かっていたはずだった。


 当然、自分の嘘は自分が一番よく知っている。ただ、それから目をそらさずに立ち向かうのは多大な勇気がいる。

 中学生らしい、安っぽい小説で出てきそうな解答だ。


 しかしいつからだろう、私は自分に嘘をついてきた。

 私達の間に壁なんてものは無い。

 違和を感じながら、ずっと誤魔化してきた。

 まだ素直だった中学生の私が問題と向き合えと言っても、決して振り向きはしなかった。


 気がついてしまえば、もう自分への言い逃れなどできなかった。


 マンション下特有の強風が、体の芯まで私を冷やしていく。二人の間を守ってくれていたエレベーターからは、既に出てしまった。


 来年には進路も決まり、離れ離れになるに違いは無かった。私達の間にある溝はもう埋まらないのだ。いっそ私から彼女を拒絶していれば、とすら考える。


 足を前に投げ出し、細かい傷のついたストラップの金属部分をぼんやりと見つめる。そうだ、どちらにしろ、もう――。




 その時、不意に夕日が雲の間から差し込んだ。




 燃えるような、それでいてどこか寂しげな表情をしたオレンジ色の光が、私の手元の鞄を照らし出した。


 取り付けられたストラップの金属が、沈んでいく太陽の光の最後の一欠片を反射して金色に輝く。


 中学時代の、痛々しい、しかしこの同じ空の下で確かに存在した会話が蘇る。しょこらが目を細めたときのまつげの長さや、謙虚でありながらいたずらっ子のように上げられる口端の淡い桜色を思い出す。


 嘘つき、と言葉が自分の口から漏れる。嘘つき、嘘つき、嘘つきだ。


「また、自分に嘘をついてる」


私も、そしてしょこらも。頭の中で中学生の私が叫ぶ。本当に自分は諦めてもいいと思っているのか? もう、何も出来ないのか?


 私の中で、何かが弾けた気がした。


 立ちあがり、エントランスホールを駆け抜ける。降りてきたエレベーター内の鏡には、怒ったような、それでいて泣き出しそうな、変な顔をした私が立っていた。鏡の中の自分に向かって、問いかける。


 ……私は彼女のために、何ができる? 

 私は、何がしたい?

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