4.
二人だけの秘密の時間は、二週間ほど続いた。ぼくは彼女との話題を作ろうといつもより多くの本を読んだ。もちろん、ぼくが彼女に教えるだけじゃなくて、彼女がぼくに知らないことを教えてくれることもあった。大川さんはやはり他の子とは違い、はっとさせられるような考えを持っていた。
その日は、いつか話そうと決めていたあの「あいしてる」の話をした。ぼくも勉強して世界中で起こったケンカのことを「戦争」と言うのだと知っていたし、彼女もそれについて理解していた。大川さんはぼくの話をいつも通り濃い茶色の瞳をこちらに向けて聞いていた。それもあって、ぼくも分かりやすく自分の言葉で説明することができた。成長したものね、と言いあう。
ぼくはここで、少し声を潜めた。
「でも、ぼくはいまだにこの『あいしてる』っていう言葉がよく分からないんだ。辞書を引いても出てくるし毎日使っているけれど、何かが違う気がするんだ」
これが、ぼくが二週間かけて出した結論だった。「何か」が何なのかまでは分からなかったが、それでも大川さんは真剣にうなずいてくれた。彼女はあの僕をどきどきさせる、人差し指と親指で唇を包み込むようにして考えるそぶりを見せつつ、口を開いた。
「わたしもあんまりこのことば、すきじゃないの。『あいしてる』ってなんなのかな。そんなにかんたんにつかっていいのかな――」
その時だった。
「大川!」
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