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以来、先住民族の子供たちの知識の吸収速度に関心を抱いたアキノは、教室での授業を手伝うようになった。
最初の集落での逗留が終わる頃には、教師役のボランティア青年とも多少親しくなり、また最初はよそよそしかった子供たちともいくらかは打ち解けた。
「これは、進化論で説明できるものだと思うんです」ふとした時、青年は持論をアキノに語って聞かせた。「つまりですね、彼らの祖先がこの月に到達して以来、この寒々しい荒野で生きていくことを宿命づけられたんです。――環境に適応出来ない人間は、ただ滅んでいき、そして環境に適応できる人間、たとえば知能の高い個体だけが生き残っていった。」
「アキノさんは、先住部族の掟、って知っていますか」
その問い掛けに、アキノは多少どきりとした。
「あ、ああ。……あれだろう? 食べ物を均等に分けなかったとか、そういう利己的な振る舞いをした奴は、共同体から追放されてしまうっていうやつ。一時期、メディアでよく話題になっていたな」
「そうです。それです。逆に言えばですね、そういう文化を持たなかった部族は、やがて部族内で利己的な人間が多くなって、集落を維持できなくなって、滅んでいったんだと思うんです。この環境だと、人間が、生き物が死んでしまうのなんてあっというまですからね」
「なるほどな……賢くて、かつ公正な人間でないと生き残れないような環境ってことだな……」
アキノは、本当の自分の目的が悟られたわけではない、と安心するとともに、青年の話には素直に感心してみせた。
逗留も終わりが近づいてくると、アキノにも、そろそろ子供たちの違いがわかるようになってきた。――逆に言えば、それまで見分けることができていなかったのだ。しかしここで、アキノを責めることは難しい。なぜなら、先住部族の子供たちは、あまり感情を表に出さず、その表情から個性というものを判別し難かったからだ。
しかしようやく、彼らはアキノにも砕けた表情を見せるようになってきたのだ。
月先住民族を植民地経済に対して有用ならしめんとする私案 @annri
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