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「ぼくも、最初は驚きましたよ」ボランティアの青年はしみじみと言った。「一応、総督府が定めた教育綱領もあるにはあるんですけどね。でも、初等教育くらいならすぐに終わってしまうんですよ。それで時間が余っちゃって、試しに発展的な内容を教えてみたら、それもすぐに理解しちゃいまして」


 授業が終わったあと、青年とアキノは向かい合っていた。


「驚いたよ。こんなこと、知らなかったから。いや、彼らの知能が高いということは聞いていたのだけど、それがまさかこれほどとは」


「知らないのも無理はありませんよ。だって、こんなこと言ったって誰も信じてくれないんですから。ぼくもですね、何度か総督府の機関に報告したんですが、まるで相手にされなくって」


「そうだろうなあ……」


 アキノ・シヲルはふと考え込んだ。

 この人道支援の一環として行われる教育活動は、なにも先住民族かれらのためだけを考えた、無償の愛によるものだけではない。彼らを教化することで、いずれは地球通商連合の経済力として取り込もうという、そういう目的を含んだものなのだ。

 つまり、彼らボランティア隊商は、同時に伝道師でもあり、経済的な侵略者でもあるのだ。(もっとも、この隊商の責任者をはじめ、そんなことを考えもしないような無邪気な人間も多くいるが……)

 これほどの知能の高さなら、きっと先住民族たちは総督府の想定よりも早く教化されていくことになるだろう。――しかし、それから先はどうなる?

 今、より僻遠の部族でさえも、地球人類を凌駕する可能性を見た。それはほんとうにこの授業における学力のみにとどまるのだろうか?

 より総督府に近い先住部族は、すでにあの憎たらしい監査役として、金融機関などに足場を見つけているのだ。その圧倒的な公正さと知能が月面経済に進出してきたとき、果たしてそこに、旧地球人類の居場所なんていうものは、存在するのだろうか……?

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