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隊商が、ある月先住部族の集落に到着してすぐに、アキノ・シヲルは一人抜け出し、集落の人間に対してある心理テストをした。そしてそこが《嘘つき村》なんかではなく、他の集落と同じように公正な月先住民しかいないことを悟ると、彼はもはや一切の興味をなくした。
しかし隊商の面々の手前、その無関心を悟られないように努めなければならなかった。他人を偽ることは彼にとって慣れたものだったが、退屈というものは、身動きの取れない苦痛のようなものだった。
「アキノさん、どうです。授業の様子を見学されませんか。――面白いものが見れると思いますよ」
ボランティアの学生――なんと、このためにわざわざ地球の大学からやってきたのだという! ――の申し出は、すっかり退屈していたアキノの興味を多少引くものだった。
アキノが曖昧に頷くと、ボランティアの青年は表情を明るくし、よほど嬉しいのかアキノの手を取り、《教室》まで引っ張っていった。
教室といっても、簡単な骨組みからできるテントのようなものである。その中にはこの集落に住む子供、十数人の姿があった。低重力下ゆえに地球上と比べ子供の身長は高くなるとは言え、それを差っ引いて考えるに、そこにいる子供だちの多くはまだ10代のはじめであることは見て取れた。
教室の前方に立ったボランティア青年は、生徒たちに声をかけ、テキストを開く。内容は数学であるが――しかし、青年がホワイトボードに書き出す数式を見たアキノは驚くことになる。
そこに書かれたのは、代数式だった。それを、つい数日前までは義務教育すら受けていなかったはずの月先住民の子供たちが、今まさに修めようとしているのである!
たしかに、月の先住部族の知能が高いらしいというのは知っていたが……とアキノは驚きを隠せなかった。まさか、これほどまでとは……
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