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 食料、医療品、燃料に簡単な通信機、それとボランティアを載せて、隊商は月の荒野を進んでいた。

「しかし、助かりましたよアキノさん」ボランティアの男は屈託なく言った。「アシを貸していただけるなんて、ほんとうにありがたいです。きょうび、運送手段はなかなか確保できませんからね。自前のものだけでは、どうしても不足してしまいましてね」


「……いえ、わたしも常々この人道的活動に興味を持っていましてね」アキノ・シヲルは心にもないことを平然と口にした。「ちょうどいい機会だったんです。微力ながら、お力添えできれば幸いです」


 月の荒野は、地殻変動や流水の影響を受けないため、比較的平坦である。しかし、それでもその不整地を走破できる性能の運送手段となると、いくら需要があって量産されているとは言え、ある程度高価になってしまう。


 月先住民族に対する支援活動は、地球通商連合とその隷下である月総督府の基本的な政策の一つではある。この隊商だって、それらからの補助金がなければ満足に活動できないだろう。

それでも、これらの遠大な人道的活動はどうしても、優先度を下げられがちだった。


 月面計画都市の建設などを請け負う公社は、受注競争を勝ち抜くために、施工計画をかなり強引なものにしているのだ。そしてその無理を実現するために、金にあかせて運送手段をかき集め、それによって運送費は社会問題になるほどの高騰をみせていた。


 割を食っていたボランティア隊商の前に現れたアキノ・シヲルは、彼らからすると渡りに船だったのだろう。彼は首尾よく総督府の認定を受けたボランティア隊商の一つに潜り込むことに成功していた。


 道中、団体の責任者らしい男から、なにか熱心に人道的意義とか、そういうことを語られた気がしたが、しかしそんなことに梅雨ほど興味もないアキノはその内容を全く覚えようともしなかった。

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