第二十七話 江戸の決戦
「海は良い」
船の舳先に立ち、帆太郎将軍が呟く。
「そうですな」
脇に控える木偶坊乞慶が頷く。
ここは海賊将軍、難破時化丸の船団の旗艦である。帆太郎将軍は家来のうち乞慶だけを連れて時化丸の大船団の一員となった。目標は武蔵国、江戸湾である。江戸は敵の頭領、平武蔵守水盛の本拠地である。それを海賊衆五千と共に急襲するのである。敵は東海道を下る本隊に目が行き、そちらに多くの兵を送り込むだろう。ゆえに江戸は手薄、と判断しての作戦であった。
「帆太郎殿」
難破時化丸が船室から出て来た。
「この三浦を回り込めば江戸は後一息。そろそろ準備されるが良かろう」
「はい」
帆太郎将軍は下士に手伝わせ『伏縄目』の鎧を来た。青が目に眩しい。
「海の王者平氏に相応しい色だな」
時化丸が言うと、
「なんの威厳も謂れもない無銘の甲冑。ただ色だけで選んでしまいました」
衒いもなく言う帆太郎将軍。
「ただ、この剣は亡き父から貰った名剣。これで父の仇を討ちます」
と左腰の剣を撫でた。
「さあ、三浦は越えた。江戸はもうすぐだ」
「おう」
帆太郎は気合いを入れた。
「武蔵守、覚悟」
江戸湾の湊には、水盛に飼い殺しにされていた笹舟四郎兵衛が惰眠を貪っていた。海賊大将、難破時化丸退治の為に組まれた船団だが、肝心の時化丸が相模湾に来ない。当然、遠国の海まで捜索する権限はない。結局江戸湾に長い事停泊し、情勢の変化を待った。そのうち、綱紀は乱れ、四郎兵衛の軍は弱体化した。
「あんれ、東の方向に船が見えるぞ」
見張りの兵が呟く。
「どうせ、漁師だろ」
同僚の兵士が答えた。だが船影はだんだん大きくなり、やがて黒山の如くになった。
「大変だ。敵襲だ」
危険を知らせる銅鑼がなる。笹舟四郎兵衛は飛び起きた。
「敵は何隻」
「五十隻は下りません」
四郎兵衛の船は二十隻であった。急伸する時化丸の勢力に全く追いついていない。
「全艦出撃」
四郎兵衛は体中に流れる冷や汗に怯えながら指揮した。実戦は初めてである。それも自軍に倍する船隻。勝てるはずは無い。絶望的な戦いであった。
一方、時化丸軍。
「敵の艦船二十、全艦湊を出ました」
「よし、三十隻は敵と正面からぶち渡ろう。我らを含め二十隻は敵の背後に船をやり、湊を抑えてしまう」
「おう」
「では各々、配置に付け」
四郎兵衛の船隻はまっすぐ時化丸軍の三十隻に突っ込んで来る。これを任された烏賊蔵は、
「火矢を放て。火炎で船を沈める」
と火攻めを命じた。
『シュー』
『バーン』
一斉に火矢が討たれ敵船の帆が燃える。
「おのれ、卑怯な。ならばこちらは敵船に乗り込む」
四郎兵衛は白兵戦を指示した。
「敵が近づいて来た。沖に逃げるぞ」
烏賊蔵は命令した。
「卑怯な、敵が逃げるぞ、追え」
四郎兵衛が命ずる。
四郎兵衛軍が江戸湾を離れた瞬間、時化丸本隊二十隻が湊に入った。一斉に乗組員が兵士となる。
「帆太郎殿、二千で大丈夫か」
時化丸が聞く。
「大丈夫。敵は手薄のはず。それにこの奇襲によって動揺するでしょう」
帆太郎将軍は船に乗せていた『如竜』に跨がり、前進した。乞慶がそれに従う。時化丸は兵二千を指揮した。彼らは海の男なので馬には乗れない。なので帆太郎将軍は海賊衆の動きに合わせながら前進した。
「なに、帆太郎軍が江戸湾から襲って来ただと」
苦災寺から帰還したばかりの武蔵守水盛は動揺した。だがそれを顔には出さずに。
「陸奥守様、出羽守様、それに安倍殿、竹原殿迎撃をお願いします」
水盛はやんわりと命令した。兵力は約四千。まさか負ける事はあるまい。
指揮は陸奥守高見が取った。本当は安倍義良に取らせたかったが高見らは義良を俘囚と侮っている気配があるため、大事を取っての起用だった。
「卑怯なる手を使う帆太郎を倒すぞ」
高見の一声に兵が答えた。
「おう」
一方海では烏賊蔵が数的有利を使って奇手を用いていた。二隻の船を長い鉄製の縄で括り、開いた空間に敵船を誘い込む。そして二隻が同時に敵船の横を通ると敵船の舷に縄が引っかかり操縦不能に陥る。これで十隻の船を航行不能にした。
「よし、後は皆で取り囲んで倒すぞ」
烏賊蔵の命令が響き渡った。三十隻の艦隊が八隻まで減った四郎兵衛の船を襲う。
「白兵戦に持ち込んだな。望むところだ」
そう言う四郎兵衛の顔は青い。三十隻から三千人の海賊が四郎兵衛の艦船に傾れ込む。勝負はあっという間に着いた。
帆太郎軍は江戸付近で、陸奥守高見の軍と衝突した。海賊達は慣れぬ陸戦に苦労すると思われたが、
「揺れない地面での戦いなんて楽勝」
とばかりに敵をなぎ倒していった。
「我らも負けられぬぞ」
たった二人の騎馬、帆太郎将軍は剣を振るい、乞慶は薙刀で敵を倒した。
「つ、強い」
陸奥守高見は怯え出した。
「将軍が怯えてどうしますか」
安倍義良と竹原清季が宥めるが、
「駄目だ、退却だ」
高見は逃げ出した。
「是非も無い」
義良、清季も退却した。
「さあ、江戸の武蔵守の館に突撃だ」
帆太郎将軍が叫ぶ。そこへ烏賊蔵が現れる。
「海の戦はどうした」
帆太郎将軍が聞くと、
「敵は全滅。大将の笹舟四郎兵衛は討ち死に」
烏賊蔵は報告した。海にいた海賊が陸に上がり、帆太郎軍は五千になった。
そのころ江戸の武蔵守水盛の館では最終決戦の準備が進んでいた。
臼大五郎を大将に、太刀持剣太郎、浦裏羅生、布袋寅吉、大島大八の猛者がついに力を発揮する時が来たのだ。これに安倍義良、竹原清季、逃げ帰った高見に出羽守高音が籠城する。
「この戦に負け申したら、わしは腹を切る」
水盛は宣言した。
「しかし、辛抱すれば必ず、足柄峠か碓氷峠より援軍が来る。辛抱じゃ。少しの辛抱じゃ」
水盛は自分に言い聞かせるように言った。
しかし情勢は帆太郎軍に味方する。前の安房守で豪族の千葉秋胤が蜂起し、無人となった坂東を悠々と進み帆太郎軍に合流した。さらに相模の郡司、座間吉連と愛甲猛広(あいこう・たけひろ)、逗子雷鳥(ずし・らいちょう)が味方に参上した。上野、下野、常陸、上総、下総からも帆太郎将軍に味方しようという郡司、豪族が挙兵した。武蔵の郡司達は武蔵守に恩を感じつつ、鳴りを潜めていた。
「さあ行くぞ」
帆太郎将軍が先制攻撃を始める。
「乞慶、其方は門を開け」
「はっ」
「千葉殿は搦め手を」
「承知」
「ならば、座間殿らは東門を」
「畏まりました」
吉連達は東へ走った。
そのころ乞慶は海賊衆と大手門の破壊に取りかかっていた。そこへ強弓がうなりを上げて飛んで来た。寅吉軍の矢である。雨あられのように降り注ぐ矢。海賊衆が一人、また一人と倒れていく。
「何たる弓の遣い手。ならばこれでも食らえ」
乞慶は薙刀を思いっきり投げ付けた。
「わああ」
寅吉の胸に薙刀が突き刺さった。
「ひいい」
逃げ惑う弓兵。乞慶は大手門を破った。
「それ、突進」
帆太郎将軍が先頭切って館の中に入り込む。そこには太刀持剣太郎と浦裏羅生が居た。
「大将軍とお見受けいたす。尋常に勝負」
太刀持が剣を繰り出す。
「やー」
帆太郎将軍が必死に受ける。凄い剣だ。そこに、
「わしとも勝負だ」
と浦裏。二対一とは卑怯なり。すると、
「我は征夷大将軍、平明明の家臣、木偶坊乞慶なり。どちらか拙僧と勝負じゃ」
乞慶が割って入って来た。
「木偶坊だと。ふざけた名前だ。わしがお前を倒す」
と浦裏が戦う相手を乞慶に変えた。先ほど、薙刀を投げたので、乞慶は剣を抜く。
「それ」
「やあ」
手練二人の激闘が続く。
「では、我らも」
太刀持が言い、帆太郎将軍と一騎打ちになる。
「たあ」
「受けよ」
二組の戦いが続く。周りの兵や海賊衆たちは呆然と二組の一騎打ちに見とれる。そのうち、
「喝っ」
と叫んで乞慶が浦裏の脳天をぶち抜いた。意識を失い、馬上から転がり落ちる浦裏羅生。一斉に海賊衆から喚声が湧く。
「海賊衆よ、我と館の中へ突進だ。殿、卑怯になりますから助太刀はいたしませんぞ」
そう言って乞慶は館内に向かう。
「望むところよ」
帆太郎将軍は太刀持の豪剣を受けていた。
(今まで戦って来た中で、一番の遣い手だ)
帆太郎は若干焦って来た。
(落ち着け、落ち着けば敵の弱点が見つかる)
「たああ」
太刀持の剣がうなる。それを躱しながら、
(そうか、剣を振った瞬間、身体が左に流れる)
そう察した帆太郎将軍は次の一手を待った。
「とうりゃあ」
太刀持の剣がしなる。渾身の一撃だ。
「隙あり」
背中を見せた太刀持に帆太郎将軍は剣を上から垂直に下ろした。
「うわあああ」
悶絶し、落馬する太刀持。帆太郎将軍は太刀持の首級を斬り、楽にしてやった。
「武蔵守様、正面が切られました」
臼大五郎が報告する。
「そうか、切られたか」
繰り返す、水盛。
「この戦、負けでござるな」
水盛は安倍義良、竹原清季を見て言う。
「お二方は落ち延びられよ。帆太郎の敵はこの平氏のみ、今なら間に合います」
「しかし」
「戦の勝敗は時の運。北方へ落ち延び、再起を期されよ」
「ははあ」
義良と清季は退席した。
「我らはどうなる」
陸奥守高見が怯えたように尋ねる。出羽守高音も同様だ。
「叔父御らも逃げたければ逃げよ。止めはしない」
ならばと、高見、高音兄弟は逃げ出した。
「もはやこれまで」
水盛は生き残った大島大八と臼大五郎に甲冑を着せて貰い、最後の戦場に赴いた。その際、
「輿も要らぬ。杖も要らぬ」
と杖を投げ捨て、動かぬ、右足を引きずって歩く姿に大八、大五郎は涙した。
「最後の戦お共いたします」
家宰の渋谷近春も参上し、三人で部屋を出た。
「武蔵守が出て来たぞ」
海賊衆が喚いた。その顔は知らなくても不自由な身である事は有名だ。
「よし、我こそは征夷大将軍、平帆太郎明明である。父、風花太郎平光明の仇、武蔵守殿を討ち取り申し上げる」
名乗りを上げる帆太郎将軍。それを聞いた水盛は、
「ははは」
と笑い声を上げた。
「血迷われたか、武蔵守殿」
帆太郎が訝しがると、
「お主に仇呼ばわりされる謂れはない。太郎兄者、いや平光明は生きている」
帆太郎は驚いた。
「何!」
「もうすぐここにやって来るだろう」
そう言って水盛は天を見上げた。空が青い。二十五年前の相模湾のようだ。あの日の太郎兄者は格好が良かった。海賊将軍、難破時化丸を追い、船を何艘も飛び抜けられた。あの日が懐かしい。わしは平氏総帥の任は荷が重かった。いつまでも太郎兄者の腹心でいたかった。それなのに、太郎兄者はわしを信用せず、橘義康らと結び、勝手に坂東制覇を目指してしまった。悔しかった。一言、わしに申してくれれば、それに賛同し、太郎兄者の副将としてお役に立ったのに……水盛が回想していると、
「その戦止めよ。その戦止めよ」
大音声が上がり九騎の駒が猛烈な勢いで走って来る。その先頭の武者は漆黒の甲冑を身に纏い、黒毛の馬に乗っていた。残る九騎のうち五騎は僧兵姿。その外見からは都の山法師とは違う強さを醸し出している。後は大斧大吉、小吉親子に、梅田大輔だ。
「征夷大将軍、平帆太郎明明は居るか」
漆黒の武者が帆太郎将軍を指名する。
「私が帆太郎だ」
名乗りを上げる。
「俺は風花太郎平光明である」
漆黒の武者が名乗る。
「えっ、ち、父上であらせますか」
呆然とする帆太郎将軍。
「そうだ。息子帆太郎よ。ここまでよく生き抜いて来た。褒めて使わす」
「父上。死んだと聞かされておりましたものを……」
帆太郎の目からは涙が流れる。赤子の時に大斧大吉に救い出されて以来の再会である。もちろん、記憶などない。しかし、勇壮なその姿をみて、かつて大吉やその妻、おときに聞かされた数々の武勇伝を聞いて想像していた者と一寸も変わらぬお姿。帆太郎将軍は感動していた。そして光明に歩み寄る。
「そなたの苦労、道すがら大吉から聞いたぞ。若年から戦場に駆り出され、数々の武勲をたてたのじゃな」
「はい。大斧の父上や大斧小吉、梅田大輔、木偶坊乞慶、それに源氏や鎮西の方々に助けられここまでやって来られました。今日、ここで武蔵守を倒せば我が望み、全て叶います」
帆太郎は涙ながらに話す。しかし、
「次郎を、武蔵守を討つ事は許さぬ」
光明は帆太郎将軍の思いをぶち壊した。
「何故です。武蔵守は父上を裏切り、坂東を簒奪したもの、討ち取らねば帝に申し訳が立ちません」
帆太郎は怒った。
「馬鹿め、次郎は新田を作り、灌漑工事を行い、民の為に働いておる。不自由な身体でな。そう、次郎の身体を不自由にしたのは俺だ。その事申し訳なく思っている」
「太郎兄者!」
水盛は光明の謝罪に驚く。
「あの時、俺も若かった。勢いに任せての暴挙。許せよ」
「兄者!」
水盛がゆっくりと光明に近づく。
「俺は今、次郎がやっている事、間違いとは思わぬ。国を富ませ、民を潤わす。途中の方法は違うが、最終目標は二十五年前、俺が考えていた事と同じ」
「そうです、私はその目的の為、あくどい事もしました。しかし、それも全て、坂東の民人を潤わす為。その為には西朝との戦いも辞しません。しかし、帆太郎将軍の戦略に負けました。この上は潔く腹を切ります」
水盛は覚悟を決めたようだ。一度は坂東を制したが、弟たちの無能ぶりに振り回され、しかも今、征夷大将軍平明明に館を攻めとられた。思い残す事は無い。
「馬鹿者! 生きて坂東、いやこの国の為に働け」
光明は水盛を思いっきり殴りつけた。
「帆太郎。次郎はこの国に必要な人材。それを殺すと言うなら、俺はお主を斬る」
「しかし父上、積年の恨みは」
「それこそ私怨。国家の為には無駄だ」
「納得いきません。私は坂東平氏を倒す為に日夜研鑽して来ました。それを今更、水に流せと言われても無理です」
「ならば、剣を抜け。俺と勝負だ」
「何故です。何故親子で斬り合わなくてはならないのですか」
「主義、主張が違う時、武士は力で物事を決めるものだ」
光明は剣を抜いた。
「仕方ありません」
帆太郎も光明に貰った剣を抜いた。まさか父と戦うためにこの剣を抜くとは。親子再会の喜ぶべき場が一瞬の内に修羅場と変わった。
「やめるだ」
大斧大吉が割って入るが、
「邪魔だ」
光明は凄い力で大吉を放り投げた。
「来い、帆太郎。お主の実力、試してやる」
「大斧の父上を投げ飛ばすとは、もはや尋常のことでない。気でも狂われたか。いくぞ」
帆太郎将軍は飛んだ。
「馬鹿者め、大地に足をつけてこその力。上に飛んだは愚策の骨頂」
光明は帆太郎将軍の降りて来る場所に剣を振った。
「たあ」
帆太郎は光明の剣を足場にして後方に、とんぼ返りをした。
「ほう、身軽じゃの。これならどうだ」
光明が回転しながら剣を振って来る。それを後退して避ける帆太郎。
「逃げるばかりでは敵を倒す事は出来ないぞ」
光明は猛烈な剣を次々繰り出す。帆太郎は防戦一方になった。
「ふん、その程度の力で征夷大将軍とは笑止千万」
光明が言うと、
「これを食らえ」
光速の剣が帆太郎に炸裂した。
「ち、父上」
そう言い残し、帆太郎は大地に伏した。
「見たか、帆太郎。弔いは俺がやってやる。雲瓢、帆太郎の亡骸を苦災寺へ持って行け。多少火に燃えたが葬式ぐらいは出来るだろ」
そう言うと、ようやく現れた西軍の大将代理、源来光に、
「西の大将に申し上げる。征夷大将軍、平帆太郎明明は俺が殺した。斯くなる上は、早々に西の都に戻られよ」
来光は答えた。
「大将軍を失った以上、我々は撤退する。しかし、戦力を整え再び坂東を攻める事は必定。その時は光明殿、お手合わせ願いたい」
しかし、光明は、
「俺は僧侶に戻る。人を殺すのはこれで最後にしたい。あとは次郎と勝手に戦をせい」
と取り合わなかった。
「さて、次郎」
光明、今度は東軍に振り返り、
「今、お前のしている事に間違いはほとんどない。命を懸けて、信じる道を進むが良い。だがな、聞いた話では、西の帝は税務改革など、民の為の施策を自ら行なおうとしている。一度話し合ったらいかがかな。戦無しに改革が出来れば、それに越した事は無い」
と説得した。
「兄者がそう仰るなら、考えてみます」
「おう、よく考えろ。しかし、もたもたすると新しい大将軍が討伐に来るかも知れぬぞ」
「はい」
水盛は答えた。
「それにしても情けなきは、三郎、四郎、五郎、六郎、七郎にここにはいない八郎、九郎だ」
光明は弟達に説教をした。
「お主達がもっとしっかりしていれば、次郎もこれほど苦労しなかったはずだ。もっと次郎の施策を凝視し、自が政策をしっかり作れ。それが出来ぬなら国司を辞めよ」
「ははあ」
弟達は平伏した。
「では俺は苦災寺に帰る。明日からは住職、光明法師だ。二度と血なまぐさいところに戻すなよ。雲瓢、雲呈、雲堂、雲天、雲丹戻るぞ」
六人は帆太郎の亡骸を持って帰って行った。
「待ってくれぞい」
大斧大吉、小吉、梅田大輔、木偶坊乞慶それに難破時化丸が後を追う。
時化丸は、
「何で帆太郎様を殺したんだ」
と今にも食って掛からん勢いだ。
「時化丸、戦を止めるには愛する息子を殺さなくては行けない事もある」
光明は答えた。だが、
「今回は違うがな」
と言った。
「えっ、今回は違う?」
時化丸が戸惑う。
「ここは信頼の置ける者達しかおらぬから言うが、帆太郎は死んでない」
「えっ?」
「何ですと」
驚く家臣達。
「あの時俺は剣の背で帆太郎を打ち据えただけだ。衝撃は強かろうが身体に斬り傷はない。今は気絶しているだけだ。まあ、俺の剣をまともに受けたのだから当分は目覚めないであろう」
「そうか」
時化丸は納得したようだ。
やがて苦災寺に到着。水盛軍に燃やされて、大分やられたが本堂は無事。客間も無事だった。なので客間に帆太郎を寝かせた。それから何日も帆太郎は眠り続けた。
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