闇を包んだ光の寂しさ
オフィーリアが竜を召喚したらしい。朝にもそんな事を言っていたジュリアに呼び出されて、リディアは女の前に姿を形作った。人間が魔術粒子を呼ぶ、意思に応える粒子を、宙に漂っていたリディア自身――魔術粒子を見ることが出来ない人間には不可視である意思の集合体――の殻をつくるように。中身をがらんどうに、より大きく、畏怖を与えられるように。たくましい獅子、凶暴な牙を揃えた鼻面、大きな翼。
塔の最上階は屋根と柱だけだ。ここを狭苦しく感じる程荘厳な姿を、この人間の女に見せつけてやるのだ。
「彼女は、竜に取り憑かれている」
体表に鱗を形成しながら聞いた話をまとめるとそういうことになる。オフィーリアは召喚した竜に一晩で恋してしまったに違いない。なぜなら、
「夜の色をしていた。オフィーリアが召喚した竜は見ていないと言っていたね?」
夜の色。つまり黒。ジュリアは未だおずおずと頷く。この女はいつになればこの私に慣れるのか。あまりにもいつも怯え怖れるものだから、それに満足しているとはいえ飽きがきてしまいそうだ。
「その竜に是非会いたいものだね」
オフィーリアとかいう女を呼び出されたその晩のうちにたらし込んだのだろうか。だが、夜の色を、オフィーリアの眼はしていたのだ。ちりちり、意思の狭間が熱を持つ。
「魔術粒子は汚れるのさ。人間の意思を受け取り使われるほど、黒くなるんだね」
ジュリアをせっついてみるとしよう。こんな思いつきを、するほど自分は狡い竜だったろうか。
「オフィーリアが取り憑かれているのはくろい竜だろう。その女の内面を染め上げているのさ」
ジュリアはただ頷く。この女は絶望させられて、どんな顔をして何を言うだろう。そして、私を満足させる結末を持ってくるだろうか。背筋がぞくぞくし尾が震えた。
「竜はきれいな魔術粒子を使う。くろい竜はつまり、人間の操る魔術粒子でできているんだね」
ジュリアは顔を真っ赤にした。リディアのこの身は、ジュリアの操る魔術粒子をひとつも使っていない。これはつまり、召喚とは言えない。
さあ、何を言う。リディアはわらった。だが意思の狭間がもった熱は変わらずそこにあることも感じている。他の意思を、この、ジュリアにオフィーリアをどうにかさせようと煽り楽しむ狡い意思をじりじりと焦がし焦らせる。リディアはこの熱の名前を知らない。なにがしかの感情であろうことはわかる。それはジュリアが、この身にリディアと名付けた時にそういったものがあると知ったからだ。この熱は感情だが、あの時のものとは異なる。もっとどうにもできないものだ。だがどうにかしたい。まるで埋めるかのように。
オフィーリアが竜を召喚したらしい。だが、やっと相まみえる同胞は私を置いて先に闇へおちてしまった。
151124
第72回フリーワンライ自主練
お題:闇を包んだ光の寂しさ
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