第3話
2回目のキスから2日後。
いつもと変わらない5限の授業。
遠野さんをみると隣の席の森田と話をしているくらいだ。
授業中なんだから自重してほしい。
そういえば森田は遠野さんと幼馴染みらしい。
小中高と腐れ縁だと森田が言っていた。
「それじゃあ、今日はここまで!今日の所しっかり復習しとけよ」
担任のフジケンがそう言うと放課後になった。
今日も昼休みに俺は呼ばれている。
誰だと言われればそれはもちろん遠野さんだ。
場所はもちろんあの薄暗い体育倉庫だ。
体育委員の備品整理の時間は昼休みなので会うこともない。
俺の様な不真面目な一面を持った生徒を除けばだが…。
その不真面目があって今の不思議な関係があるのも事実だった。
この関係に決着をつけたい自分がいた。
今度こそ俺は遠野さんに告白して、このキスの為だけの関係を変えてみたい。
俺はこの6日間で恋をしたいと言う気持ちを隠し切れずにいる。
順番こそ間違えたが、告白すれば遠野さんだって考えるはずだ。
中学時代の競艇が趣味の斉藤先生も『勝負事と結婚はその場の流れと勢いが大切だ』と言っていた。
今がその時なんだ!
俺はそう思い教室を出て体育倉庫に向かった。
※
体育倉庫で待っていると遠野さんがドアを開けて入ってきた。
「今井いる?」
「あ、ああ。今来たところだよ」
ちょっと嘘をついたが気にしないことにした。
こういう余裕を持った態度が好感度を高めると昨日読んだ恋愛雑誌に書いてあった。
伊達に書店で立ち読みしてきたわけじゃない。
スマホに載ってなくて泣く泣く読んだだけだが効果はあるはずだ。
「教室に友達待たせてるの。早く済ませよう」
そういうと遠野さんは近づいて手を腰に回される。
「待って、遠野さん!俺君に言いたいことがあ…」
俺が言い終わる前に口を口で塞がれた。
「んっ、んんっ!んっ…」
口の中で舌と舌とが蛇の絡み付きのように混じり合う。
唾液から出来る水の様な音が耳に響いている。
相変わらずの甘いレモン味だった。
「ぷはぁ!中々やるじゃない。前よりは良くなってきてるわよ」
遠野さんがキスを終えてそう言う。
二人の口から唾液の糸が出来て、それがすごくいやらしかった。
「俺だって言いたいことがあるんだ」
「何よそれ」
「こういうことさ」
俺は言葉で言うよりも遠野さんの口に向かってキスをした。
「ちょっと、んんっ!」
自分から舌を入れてキスをするのは初めてだった。
慣れない舌使いで口の中をひたすら舐めまわす。
「ん…んっ!んんっ…!」
遠野さんの頭を右手で押さえつけて離れないようにし、左手で腰に手を回す。
まるで恋人のように…。
こういう姿勢をとれば彼女だって解ってくれるはずだ。
俺の気持ちが、遠野さんを好きだと言う気持ちが伝わるはずだから…。
俺は執拗に舌を入れてキスに集中する。
当たった胸が柔らかくて気持ちが良い。
遠野さんの両足に自分の右足を挟むように入れて太ももの感触を味わう。
温かくて柔らかかった。
この感触を味わいながら俺は窒息寸前まで舌を入れ続けた。
我ながら情熱的なキスだと思った。
俺は切なげにキスを終える。
遠野さんは顔が惚けている。
俺は彼女をひたすら無言で見つめていた。
この時間を終えたくない気持ちで胸がいっぱいだった。
「遠野さん俺…君が…」
「あんたなんてことしてくれるのよ」
「えっ?」
「もう少しで忘れそうだったわよ」
えっ?何言ってるんだ?
「ど、どういうこと?」
俺は動揺を隠せないまま遠野さんの言葉に質問する。
「気持ち良かったけど、大切なことも解ったから…」
遠野さんは俺の質問をガン無視して言葉を続けた。
「大切な事?」
俺はまた質問する。
まさかここから俺無しではもう生きていけないとかそういう熱い展開になるのだろうか?
俺のキスが伝わって2人は晴れて恋人になれるのだろうか?
それはすごく嬉しい!
なら待とうじゃないか、この先に待つ。彼女の言葉を!
やっぱり読んでおいてよかった恋愛本!
恋愛の神に圧倒的感謝しざるを得ないだろう。
青春はあったんだ。
待つだけじゃなかった。
自分から進むことで手に入るんだ。
俺は今日そのことを自身の行動で解ったんだ。
彼女に言わせていいのか?
未来の息子に笑われる前に俺から言うべきだろう。
「遠野さん!俺は君の事はこれからも一生大切に…」
「私ね!森田が好きだって解ったの!」
…は?
「えっ?だ、誰?」
「同じクラスの森田よ。小中高と一緒の幼馴染みのね。ずっと友達だと思ってたんだけど、やっと気づいたんだ。私森田の事が好きなんだって」
「え、でも前田さんは?」
「ん?まああの子もいつか分かってくれるわよ」
ふざけてんのか?この女…それとも素なのか?
「そういうわけだからさ、今日でこの関係も終わり。あんたもこの事もう言えないでしょ。あれだけのことしたんだし、最後にあんたとのキス悪くなかったよ♪」
「ええぇ!ちょ、ちょっとおぉー!!」
そう言い終えると遠野さんは体育倉庫を出て行った。
「えっ…あの置いてけぼりなんだけど…なにこれ?」
無事にファーストキッスを奪われた今井君。
しかし彼の心中は複雑な物だった。
彼は今日ほど女と言うのが理解できないと理解した。
「そんなのあるかぁー!ふざけんなぁー!何が可愛い女の子は清楚だあぁー!!」
薄暗い体育倉庫の中で俺の絶叫がこだました。
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