絶賛少女、野ばらくん


世界を滅ぼしに滅ぼしまわって、やがては神話になるだろう少女、チョコさんのたどり着いた末が、この学校であります。

歴史のある、由緒正しい女子高です。


そんなところに、セーラー服を着た文月くんが登校しました。

一見すると女装して女子高に忍び込んでいる変態かと思われるかも知れませんが、彼は今日からこの学校の生徒です。

学校に提出された書類では、性別の欄は空欄でした。


「と、いうわけで、オレンジさん。俺の恋人がこの学校を廃校にしたがっているので、阻止してはもらえませんか」


文月くんは大真面目な顔でそんなことを言いますが、傍目に見れば、女装して女子高生に話しかけている変態にしか見えません。

オレンジさんも、突如として目の前に現れた女装男子に、お口をあんぐりと広げて、動揺を隠せません。


「文月くん、あなたにそんな性癖があって、チョコさんにお願いすればそれが叶えられたとしても、超えてはいけない一線というのは、あると思いますよ」

「勘違いしないでください、オレンジさん。俺はさっきも説明しましたよ。これはチョコさんからお願いされて、この服装になっているだけです」


文月くんがどれだけ言い訳をしたところで、何も知らない他の女子高生にとっては完全なる不審者であり、恐怖の対象でしかないのですが。

そしてそんな彼と普通に会話をしているオレンジさんに、周囲からは畏敬のこもった視線が。


くわえて説明しておきますが、これは決して女装趣味を非難するような意味合いの不審者扱いではありません。女装をしている男性が女子高に侵入してきたから不審者なのです。ちょっと人とは異なる趣味を持っているからといって、すぐに不審者だと断定するような女子高生は、この学校にはいません。


他者の趣味にとても寛容な校風なのです。


女装をしている人が路上を歩いていたとしても、「うわ、ちょっと、ねぇ……」と思って距離をとるくらいで、その人を不審者として通報したりはしませんし、遠くから大声で「キモすぎwwww」といった罵倒をすることもありません。


そして改めて宣言しておきますが、文月くんは不審者ではなく、今日からこの学校の生徒ということになっています。


「とりあえず、そんな服は脱いでしまってください。みんなからの注目の的ですよ!」

「いえ、女子高に俺のような男がいる時点で注目の的になってしまうと思うのですが」

「いいから服を脱いでください。パンツは私のものを貸します」

「おや、オレンジさんは何かしら異なる目的を持っているのでは?」


何やら性的な興奮状態になっているオレンジさんをなだめながら、文月くんは自分の今後について考えます。


まさかこのまま教員にでも見つかってしまえば、間違いなく拘束&通報&死刑です。

チョコさんの通う高校に侵入してくる不審者など、裁判の余地もなく死刑にするように取り決めてあるからです。

さすがの文月くんも死刑は嫌だと思っているようで、自分の行く末に一抹の不安を覚えるのでした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る