絶賛少女、野ばらくん(2)


その時です。

背後からぬっと伸びてきた手に、文月くんは肩を掴まれました。


びくっと体を強張こわばらせた文月くんは、恐る恐る振り返ります。


「やぁ、君が転校生の文月くんだね。待っていたよ」


と、妙になれなれしい口調で話しかけてきたのは、この学校の教員であり、文月くんのクラスの担任であるシェリー先生です。


シェリー先生は30代前半の独身女性で、趣味は婚活パーティー。そして婚活パーティーで「ご趣味は?」と尋ねられると「料理と手芸です♪」と答えているらしいです。


文月くんはシェリー先生に連れられ、職員室に向かいました。


「文月くん、私の考えていることがわかるかな?」

「はい。なんとなく」


文月くんは考えました。

どう見たって文月くんは男子です。いくら女子用の制服を着ていたとしても、男子です。

シェリー先生がそれを見抜けないはずがありません。

これは通報です。死刑です。


おびえる文月くんの前に、シェリー先生はスッと一枚の紙を取り出します。


「この空欄に君の名前と印鑑を押してくれれば、今回の件は黙っておくから」


そう言って彼女が取り出したのは、なんと婚姻届です!

この女、とうとう脅迫まがいの行為で結婚相手を手に入れようとしています!

これが三十路みそじという一線を越えてしまった女のやり方なのです。この学校に通っている花も恥じらう女子高生たちも、いずれはシェリー先生のような恥も知らない大人になってしまうのでしょうか。花から恥じらいってものを学んでほしいですね。


「そ、それよりもシェリー先生。大変なのです」


文月くんは慌てて話をらしてしまおうと、彼がここまでに至った経緯を説明しました。

先生の協力もあれば、この学校をチョコさんの気に入る形に変えることも少しは楽になるでしょう。


しかしながら、事態はそこまで甘くありません。


そこで始業の鐘が鳴ってしまったのです。

始業の鐘が鳴ったら授業をはじめないといけません。学校がなくなってしまうというのに呑気だと思われるかもしれませんが、そんなこと他の人は知りませんし、もしも言ってしまえばパニック必至です。


教室に行くと、クラスメイトはみんな席についていて、ざわざわという騒ぎの中、転校生である文月くんは登壇しました。


「えーっと、え、あ、どうもー。転校生の文月くんですー」


クラスメイトはみんなざわざわとしています。

当然です。ここは女子高ですから。転校してきた文月くんは男の子ですから。

 

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