学園っぽい世界
冒頭
文月くんにとって、恋人の望みは叶えるべきことであります。
そして文月くんにとって、恋人の望みというのは阻止してはいけないものであります。
「遅刻しちゃう~」って朝食のトーストを口にくわえながら登校中のチョコさんに、曲がり角で衝突したのは、転校生の文月くんです。
尻もちをついたチョコさんは短いスカートのせいで、パンツをばっちりと文月くんに目撃されてしまいます。クマ柄でした。
「やぁ、文月くん。わたし、この学校を廃校することにしたから」
「おやおやチョコさん。まだこの後に『じゃあ、転校生を紹介するぞー』からの『あんたは、今朝のノゾキ魔!』って流れが残っていますが」
「でもね、文月くん。私、気付いてしまったんだけど、私が通っているの、女子高だったんだよ」
文月くんは焦りました。
あぁ、だから自分はスカートを履かされたのですね、とか、いろいろと思うことはありましたが、それ以前に、チョコさんが学校を廃校にしようなんて言い出したことに、驚きが隠せません。
だって文月くんは、恋人のチョコさんが世界を愛してやまない博愛主義者であり、世界中の贅の限りを尽くさんとすれば尽くせてしまうようなお金持ちであり、幸福という言葉を擬人化して表現したら、こんな姿になるだろう、と思っていたからです。
そんなチョコさんが
チョコさんはココア色の髪の毛を指先にくるくると巻きつけながら、口を尖らせます。
「だって、わたし、この学校には飽きてしまったの」
「飽きるとか、飽きないとか、そういう問題なのですか」
「そういう問題なの。何より、文月くんと一緒に通えない高校なんて価値はないでしょう」
「だったら初めから女子高に通わなければ良かったのでは?」
チョコさんは、そこまで言ってからハッと気づいたように口を開いて、すぐに文月くんの方を向き直り、バツが悪そうにもじもじとしました。
「あ、あの、べつに文月君の性別に不満があるとか、そういうことじゃなくてね?」
「その場合は学校を廃校にするより俺の性転換手術の方が手っ取り早いですもんね」
「その手があったか!」
「やめてください。ほんとうにやめてください」
文月くんは肩を抱えて震えました。。
チョコさんは可愛らしくて素晴らしい女性ですが、恐ろしい提案ばかり思いつく女性です。
ところでチョコさんが学校を廃校にしてしまうというので、文月くんは大変です。
チョコさんが「光あれ」といってしまえば、光が生まれてしまうような世界なのです。それくらいの財力と権力と暴力を持っているのがチョコさんという女性なのです。言ってしまえば神様のような存在なのです。
「チョコさん。チョコさんが学校を廃校にしてしまいますと、俺は通う学校もないニートという結果になるのです」
「私と文月くんが通うためだけの学校だって私には作れてしまうのよ。それなら私は校長先生ね」
「生徒は俺ひとりですか」
「誰に気兼ねすることなく、ラブラブし放題の学園ライフよ!」
「先生と生徒の恋愛は御法度ですよ」
さて、困りました。
いよいよチョコさんは本気です。
本気でこの後、学校を廃校にしようと考えています。
文月くんは万策尽きたと言った様子で頭を抱えますが、その時、妙案を思いつきます。
「では、チョコさんの学校も意外と捨てたものじゃないってところをアピールしてみせます」
「文月君、今日は妙にやる気だね」
「えぇ、もちろんですよ。俺はチョコさんの、その制服姿が気に入ってるんです」
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