Why Japanese people(4)
「さぁ、24時間耐久、コメディ視聴マラソンをはじめましょうか」
「帰ってきたと思ったら、どうして私がそんな罰ゲームを受けることになっているの?」
さすがのチョコさんも困惑です。
しかたのないことです。文脈だけ拾えば
「日本滅ぼすよ」
「待って! お笑い番組見よう!」
ですからね。
これで困惑しない人はいません。
中でもチョコさんの返答はまだ優しい方です。おそらく世界人口の半分は一言目に「は?」って発して二言目には「私の話を聞いてた?」とリアクションすると思います。
「俺、気付いたんです。日本が滅びてしまったら日本のコメディはもう楽しめないということに。たしかにフルハウスとかアルフとか好きですけど、やっぱり日本のコメディが俺は好きです」
「なるほど。文月くんがそう言うなら、たしかに日本を滅ぼすのは待った方がいいかもしれないね」
待った方がいいかもしれないね、だと、いつかまた滅ぼすつもりのように思えるのですが。きっと滅ぼすつもりなのですね、チョコさん。
文月くんは愚か者なので、そんなチョコさんの文脈には気付きません。
それにしても、あいかわらずのチョロさです。
チョコさんはチョロさんに改名するべきだと文月くんは常日頃から思っています。
そもそも、文月くんのたった一言の説得で納得するなら最初から日本を滅ぼそうなんて口にしないでいただきたいですね。チョコさんは思いつきと気まぐれに人生を任せすぎです。
「それではそろそろ行きましょうか」
「でも私、あまりお笑いって見たことないのよね」
「だから今から見るんでしょう?」
文月くんはチョロさんと二人で、テレビルームに行きました。
テレビルームというのは大画面が壁に埋め込まれていて、音響設備にも優れた部屋のことです。チョロさんは毎朝ここでニュース番組を見ますが、アナウンサーの毛穴までくっきりと映るほどの高画質です。
ちなみに、映像技術が進化するたびに壁ごと破壊してテレビを入れ替えるので、チョロさんの家でもっとも頻繁にリフォームされる部屋でもあります。
DVDを再生すると、文月くんもよく見慣れたコメディアンが拍手と共にステージ上に現れました。
U字工事です。あの栃木出身の方言で漫才をするコンビです。あれ、
それにしても、どうしてこのチョイスなのでしょう。文月くんのチョイスが渋すぎます。このセンスにはさすがのチョコさんも理解に苦しむのか、ちらちらと画面と文月くんの顔を交互に確認しています。
「文月くん。1つ言ってもいいかしら」
「はい。なんでしょう、チョコさん。今の僕は笑いすぎて腹筋が六つに割れそうなんですが」
「この人たち、面白くないわ」
沈黙。
「いやいや、何を言っているんですか。チョコさん。さすがのチョコさんでも、その発言はいただけないですよ」
「これは本心よ。申し訳ないけど、笑えないくらい笑えない」
「おっとそれは笑っちゃうくらい笑えない冗談ですよ」
「そう。文月くん。わかったわ」
チョコさんは立ち上がりました。
こうして日本は滅びました。
きっかけは些細なことでした。
チョコさんは、文月くんと理解し合えない分野であるならば滅んでしまえばいいと、日本ごとお笑いを滅ぼしてしまうことに決めたのです。
チョコさんは自分の持っていた株式を全て売り払い、日本の株価は大暴落。
日本経済は冷え込み、とうとう日本は財政破綻まで進みました。
東京のビル群は軒並み廃墟と化し、職を失った元サラリーマンたちがスーツを着たままゾンビのように徘徊しています。
国家としての体裁を保てなくなった日本国は隣国に分割されて外国占領下に置かれました。外国に出稼ぎに行った労働者は酷い条件で雇われ、奴隷のような扱いで働かせられているようです。
かつての文月くんの会社に勤めていた彼らも同様です。
彼らは「お金では買えない貴重な経験を買っているんだ」と自分に言い聞かせているようですが、以前のような眼の輝きはありません。
一方で文月くんとチョコさんは、合衆国に移り住んで悠々自適な人生を送っています。
文月くんは日本の笑いのことなど全て忘れ去り、最近ではアメリカンジョークまで扱えるようになりました。文月くんのギャグセンスはすでにワールドクラスです。これにはチョコさんもご満悦の様子。
これからも彼らは笑いの絶えない生活を送るのでしょう。もちろん、笑い声はすべて「HAHAHA☆」ですよ。
第二章 Why Japanese people 完
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