Why Japanese people(3)


「結論から言えば、『文月くんと一緒ならどこでも同じように楽しい』というのが、チョコさんの抱くであろう感想ですよ」


ベーコンさんは神妙な面持ちで言いました。

それを聞いたオレンジさんも、自然と表情が険しくなります。


ベーコンさんの言葉が本当であれば、すでに日本を救う術はありません。

文月くんがいればどこでも同じ、ということは、すでに日本という国から完全に関心が無くなってしまったということと同義だからです。


文月くんは、静かに口を開きます。


「いやー、俺、愛されちゃってますねー」

「そういう話をしているんじゃねぇですよ?」


この文月くんの発言にはさすがのベーコンさんも呆れ顔です。

文月くんは「冗談です」と答えながら、正座に居直りました。

こんな場面で冗談を言えてしまう余裕の精神力を持った文月くんに、オレンジさんは胸キュンです。そのまま心臓が止まってしまえばいいのに。


「それでは、観光以外で考えましょう。ベーコンさん、俺の恋人であるチョコさんが日本を滅ぼしたがっているので、阻止してはもらえませんか」


文月くんからのお願いに、ベーコンさんはうなずきました。

アスパラさんの持っている科学力を用いれば、たしかにチョコさんを楽しませることは可能であるかもしれません。アスパラさんの発達した科学技術を使えば、にわとりをに変えてしまうことだって可能なのです。地球上には存在していなかったそんな珍妙な新種(頭部は獰猛な肉食爬虫類でありながら、こけこっこーと鳴きます)の登場によって、実際に各地の鶏舎は血で染め上りましたが。


「だけど、チョコさんの家にもアスパラさんが十人もいますから、並の『魔法』では対抗できませんよ」


オレンジさんの言葉に、文月くんはうーんと唸ります。

たしかに、チョコさんの家にもアスパラさんが住んでいます。単純な数の差で考えれば、文月くんチームが彼らよりも面白いものをチョコさんに提供できるか、不安なところです。


「日本って面白れぇって思わせればいい話なんです。てめぇの無い頭を絞って考えたらどうです?」

「生憎、俺には搾りカスみたいな脳みそしかないので」

「そりゃ頭蓋骨も役不足って感じでしょうね」


ベーコンさんに嫌味を言われながら、文月くんは一生懸命かんがえました。

搾りカスみたいな脳みそをさらに搾って、すでに文月くんの頭はカラカラです。いや、空々カラカラです。

もうレモンを搾りに搾って種が出てくるみたいに搾りました。あ、これはべつに今後みなさんがレモンを搾る時に脳みそをぎゅっとする光景を連想してしまうように、とか、そういう悪意のある例えではありません。ぜんぜん。ぶちゅっとね、種が出てきちゃう感じと、脳みそがぶちゅっと、みたいなね。違いますよ?


「アスパラベーコンさん、いい案を思いつきましたよ」

「私はそんな美味しそうな名前じゃねぇですよ」

「俺です。俺が日本を愛していることをチョコさんにアピールしてみたらいいのです」


隣で聞いていたオレンジさんは首をかしげます。

文月くんの発言は、あまりに今更といった内容で下ので、無理もないです。


しかも、文月くんはチョコさんの家を出てくる前に、充分に日本の良さというのをアピールしてきたのです。


「とっておきのがあるんです。これは外国とは異なる、日本であるからこその文化です」

「と、いいますと?」

「コメディです。お笑いです。笑いの感性というのは、各国の文化によって異なります。俺は日本の笑いが好きですから、これだけは替えがききません」


文月くんは自信満々の様子で答えました。オレンジさんも納得の表情です。

一方でベーコンさんは「え、なんで私よばれたの?」という微妙な顔になりました。まぁ、役立たずでしたもんね。今回はただの口が悪いクマでしかなかったわけですけれど、アスパラさんって本当にすごい能力をもっているんですよ?


はてさて、結論が出てからは文月くんの行動は早いものでした。

それでも、帰り道にTSUTAYAに寄ってはバラエティ番組のDVDを借り、ネタ番組の違法アップロードをyoutubeで探し、といったことをしていたら、チョコさんの家に到着したころには、もう半分くらい日が暮れていました。


チョコさんは待ちに待ったという様子で文月くんに抱きつき、文月くんは両手いっぱいのDVDを抱えたまま、なんとかチョコさんを受け止めました。

 

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