第十五話 枯木
敵の主を殺そうとも、身を焼く炎は消えなかった。
身体を燃え上がらせているグンカは、一歩一歩、小屋へと近寄り、その扉を開けた。
「うう、ううう……!」
小屋の隅で頭を抱えて小さくなり、一枚の紙片を片手に震えている少女の姿があった。
「グン、カ……よか、良かった……! すごく大きな爆発みたいなのがあって私、本当に心配で……あ」
守り続けることできたのだろうか。
きっと、できたに違いない。
駆けよってくる少女を左腕で制し、グンカは枯れ果てた頬に笑みを浮かべた。ぽとんと、左腕が地に落ち、そのまま灰となった。
「グンカ────後ろ!」
振り向いた眼前に、大鎌の刃が迫りきていた。
なんとか避けると、グンカは大鎌の主へ肩から体当たりし、その身体を押し倒した。
「う、ぐ、あづ……!」
苦悶の表情を浮かべる敵にのしかかり、グンカは目でイラに言った。
────逃げろ。
と、そう。
「……うん」
悄然と頷くイラの瞳を真正面から見つめ、枯れた青年は炎の最中に不器用な笑みを浮かべ、
────キミだけは生きてくれ、イラ。
そう、口を動かした。音は伴わなかった。とうの昔に喋ることができなくなった枯木は、それでもなお、少女へ願ったのだ。
「うん……!」
言葉は聞こえなくとも、意志は少女へ伝わった。
走り去る少女の背中を見届けると、枯木は燃えながらのたうち回る何者かを冷然と見やり、すっかり燃え尽きてしまうのを見届けた。
そうして。
ふらりと立ち上がり、よろめき燃えながら、小屋の背後へと──さきほどの爆発を受けても毅然と佇み続ける一本の花木のもとへと歩み始めた。
花は、すっかりとしぼんでしまっていた。
「────」
樹の根元、石のお墓の前に膝をつくと、枯木の青年は先ほど少女を送り出したときと同様の、不器用な笑みをその顔に浮かべ、
────終わったよ、フヨウ。
言い終えると、どさりと倒れ込み、灰と散った。
すると見る間見る間に、花木は枯れて、白い朽木となった。枯木の青年の死とともに、芙蓉の木もまた、寄り添うように果てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます