第24話「かつての仲間へ」

口を開いたのはオリジナル。


「…」


「おーい、どうした?俺の分身」


オリジナルはレナントの前に立ち、顔を優しくぺちぺちとする。

レナントはそれに怯え、エリオスの後ろに隠れて服をぎゅっと掴んだ。


「俺は怖くないぞー泣くなー」


オリジナルはいいこいいことレナントの頭を撫でる。

しばらく撫でているとレナントも危険ではないと思ったのかエリオスの後ろから出てくる。


「久しいな分身!」


突然抱きついてきたオリジナルにレナントは狼狽える。

久しぶりと言われてもレナントは自分がクローンである事を先程知ったばかりで、ましてやオリジナルとあった記憶などない。

レナントがそう伝えるとオリジナルはレナントの頬に手を添える。


「可哀想に、記憶を…」


オリジナルの顔は少しだけ悲しそうだ。

レナントはオリジナルが言っている意味がわからずきょとんとしている。


「まあお前が気にすることではないさ」


レナントにはオリジナルの目が少しだけ笑ったように見えた。

そしてオリジナルは体の向きを変え、フーリオの元へ向かう。


「レナント…」


「フーリオ…」


とても久しく再会した2人は見つめ合う。

そして…


「いってぇ!!!!」


オリジナルレナントがフーリオの鳩尾に一撃入れ、フーリオは蹲る。

会いたくて仕方がなかった相手に突然鳩尾に一撃入れられてフーリオは混乱する。何故、と顔を上げるとオリジナルはぷんぷんと怒りを顕にしていた。


「レナント…?」


「お前分身に酷いことしたな?全部見てたぞ」


レナントが見たものは右目を通して、見ていたと言えばフーリオは驚く。


「何で…お前は死んだんじゃ…」


フーリオの言葉にレナントは口を開いた。

ドクターの実験のせいで自分は自我を失い、色々なものを壊し、最後には俺自身も壊れてしまった。

その後自分はこの研究所に犇めく、ラビリの実験によって死んだ者達の呪いを受けたことをきっかけに、先ほどのドクターの魔法の発動によって完全に目を覚ました。オリジナルレナントは話す。


「ははは!!そうか!呪い!そんな事もあるのか!」


ラビリはオリジナルの言葉によって何か閃いたようで笑い出す。

オリジナルはそんなラビリを無視して言葉を続けた。


「まぁ、俺がこうしてここにいるのも癪だがアイツの実験の所為って訳だ」


「だったら私にもっと感謝してくれてもいいんじゃないかな?」


ラビリの言葉を聞いたオリジナルは素早く射撃するが、ラビリはおぉ怖い、と言って軽々とそれを避けた。


「お前が実験などしなければこんな事にはならなかった。」


「そうだね、でもそれだったらレナントくんも存在しなかった。」


ラビリの一言一言は一々オリジナルの精神を逆なでしていく。

オリジナルとラビリの睨み合いは続き、先に折れたのは


「やっぱりお前は俺が殺す、もう犠牲者は増やさせない」


「何故?君だってレナントくんが出来上がるのを楽しみにしてたじゃないか」


いつもショーケースの前でいつできるのか私に聞いていただろう?

ラビリの言葉にオリジナルは今正に撃とうとしていた手を止める。

ラビリは言葉を続けた。


「レナントくんを楽しみにしていたという事は実験を認めていたってことだよね?何で殺されなきゃならないの?」


こうしてレナントくんと会わせてあげたのに感謝こそされても、殺される筋合いはないとラビリはオリジナルに訴える。


「それについては認めるし、感謝もしてやるよ」


オリジナルはそこで一度区切り、その後言葉続けた


だが、何より俺が許せないのはフーリオを騙してる事だ。


「えっ…」


オリジナルの言葉に声を上げたのは突然話の矛先が自分に向いたフーリオ。

オリジナルは続ける。


街を、仲間を、全てを壊したのは俺だ。

そしてフーリオ、俺はお前の命まで奪おうとした。


その言葉にフーリオは目を見開く。

もしそれが本当なら自分はとんでもない勘違いをしていたことになる。

自分は、街も仲間も全てを奪っていったのが偽物のレナントだと思っていた。いや、そう聞かされていた。だがオリジナルのレナントが言うにはそれは俺だという。

ならば偽物のレナントが言っていたことは本当だったのか。


「貴様…!俺を騙していたのか!!」


フーリオは真実に辿り着き、怒りを顕にして声を上げた。

矛先となった本人は悪びれもなく、一言。そうだよ、と言った。


「ていうか君といいオリジナルといい寧ろ感謝して欲しい位なんだけど?瀕死だった君を治療してあげて、しかも君の願いを叶えてあげたんだよ?」


レナントを蘇らせること。そして全てを奪っていった偽物を殺す力を、という君の願いをね。


ラビリの言葉にフーリオは黙る。

自分は全てを奪っていった偽物を殺すため、そして本物のレナントを蘇らせる為にラビリの元に居て、自らの体を実験体として差し出していた。

だが真実はどうだ、自分が殺そうと思っていたのは自分が会いたくて仕方がなかった人物。

フーリオはその真実に絶望する。

自分のしてきたことは一体何だったのかと。


「あぁ…!その顔、良いよ…絶望してどうしたらいいか分からないんだね?誰かに縋りたくてたまらない、そんな顔をしているよ?」


ラビリは楽しそうにフーリオに話しかける、だがフーリオは言葉を返さず、ただ項垂れていた。その代わりにオリジナルの言葉が発せられる。


「お前のそういう所本当に気に食わねぇんだわ、よくも俺の大事な仲間を傷付けてくれたな」


そういうや否や、オリジナルは無数の射撃をラビリに向かって放つ。

だがその弾はラビリには当たらず、彼を守るようにして前に立ち塞がったNo.5に命中していた。


「偉いぞNo.5」


ラビリは上機嫌で褒めるがNo.5は反応を示さない。

オリジナルが飛ばした無数の弾は全て直撃しており、その威力は相当なもので人間が当たれば蜂の巣になっている程だ。無事な筈が無い。


「ちっ、邪魔な奴だ」


オリジナルがそう言い、もう一度射撃を繰り出そうとしたがそれはNo.5の発した言葉によって動揺した為、叶わなかった。



「なんで…」



動揺したのはオリジナルだけではない、フーリオとレナントもその声を聞いて動揺し、自らの耳を疑った。


「レナ…ント…おにい…ちゃ…」


オリジナルレナント、フーリオ、そしてオリジナルの記憶を持ったレナント、3人には聞き覚えのある、懐かしい声が、辛うじて人の、いや、既に人ではない形をしたNo.5から発せられた。


「こ、わいよ」

「たすけ、て」

「おに、ちゃ…」


少年や少女、様々な声色がNo.5から発せられる。

いち早く真実に気が付いたオリジナルは射撃ではなく、ラビリの元に走って頬を思い切り殴った。


「テメェだけは本当に許さねぇ…」


殴られたラビリはニヤリと笑みを浮かべたままオリジナルを見つめている。


「何を言うかと思えば…」


壊したのは君じゃないか


ラビリの言葉に手を止め、No.5に顔を向ける。

オリジナルは視界こそ布で遮られているものの、全く見えないわけではなく、僅かな視力でNo.5を捉える。

No.5はオリジナルを見つめて名前を呼び続けていた。そんなNo.5悲痛な表情を見せる。


「俺のせい…なのか」


「君が目を覚ました時寂しくないように直してあげたんだ、みんな一緒にいられるようにね」


お兄ちゃん、お兄ちゃんと擦り寄るNo.5を優しく撫でながらもオリジナルは唖然としていた。

自分が壊した者たちがこのような姿になってしまった事、そしてそんな姿になっても自分を慕ってくれる事、かつての仲間たちのことを思い嘆く。


「さぁやっとみんな再会できたね」


喜ばしいことじゃないか、何故悲しむんだ?とラビリは言う。

そして思い出したように言葉を続けた。


「そう言えばフーリオ、君の望み、一つ残ってたね。」


「え?」


ラビリがそう言って指を鳴らせばフーリオは苦しみ出す。



「あ゛、がっ…!!」


「「フーリオ!」」


2人のレナントが突然苦しみ出したフーリオの名を呼び駆け寄る。

だがフーリオはレナントたちが視界に入っておらず、ただもがき苦しんでいる。


「さぁ、もう力は十分にある。だからの君の望み、全てを奪った偽物を殺す時が来た…と言いたいけど全てを奪っていったのはオリジナルで偽物はレナントくんなんだよねぇ」


参った参った、と頭をかいた後ラビリはそうだ、と嬉々して言う。


「もう面倒くさいから両方殺しちゃえば?」


それが合図だったかの様にフーリオはレナントたちに襲いかかる。

だがレナントに斧が当たる寸前でそれは止まる。


「いやだ…俺は…っ、!!」


フーリオは自身を支配する力に抗う、だがそれも厳しくなって来たのか徐々にフーリオの意識は呑まれていき、自我が奪われるのにそう時間はかからなかった。

フーリオが再びレナントに襲い掛かったのを見てレナントをエリオスたちの方へ突き飛ばす。


「悪いが分身を頼んだぞ!」


それだけ言うとオリジナルはフーリオと交戦し始めた。


「おい!お前ひとりでは危険だ!」


手を貸すぞ、そう言おうとした藤音の言葉はオリジナルによって遮られる。


「これは俺達の問題…いや、俺の問題だ、俺がケリをつける。その気持ちだけ受け取っておくさ!」


あんがとな、とそれだけ言って斧を振り回すフーリオに対しオリジナルは身一つでそれに向かっていく。

一見オリジナルが不利に見えるがすばしっこいのかオリジナルは軽々と避けていく。


「ったく、お前は本当に騙されやすい…っな!」


オリジナルはやれやれ世話が焼ける、とそんな態度を取りながらも攻撃はちゃんと避け、そして隙が出来た瞬間、鳩尾に蹴りを入れる。

子供のような見た目から繰り出されるその蹴りはフーリオを軽々と吹っ飛ばす程の威力を誇る。

そして蹴りを入れた後素早くフーリオに詰め寄り、立ち上がれない様に手を取りのしかかる。


「成程、これでフーリオを操ってるのか」



フーリオの首に付けられたチョーカーを見てふむ、と少し考えた後オリジナルはレナントにナイフを貸してくれ、と声をかける。

突然自分に声を掛けられ驚いたものの、レナントは柄の方を向けてナイフを投げる。


「サンキュ」


ナイフを受け止めるとそれを逆手で持ち、チョーカー目掛けて振り翳す。


「痛くしたら悪いな」


そう言って振り下ろせばチョーカーに亀裂が入り、かしゃん、と音を立てて床に転がった。


「ほら、起きろ」


ぺちぺちと頬を軽く叩けばフーリオはゆっくりと目を覚ます。

そしてオリジナルが目覚めの気分はどうだ?と問えばフーリオは最悪だ、と言って笑った。


「お前には…本当に適わねぇな」


「お前の攻撃は隙が多いんだよ」


空白だった時間を感じさせず、2人はお互いの顔を見て笑い合う。

オリジナルの記憶を持つレナントはそれが羨ましくもあったがその記憶が自分のものではないと受け入れた為、その光景を見守っていた。

だがふと、背中に体温を感じて振り返る。


「エリオス?」


「…」


エリオスは何も言わず、ただ黙ってレナントの背中にもたれていた。

1人の寂しさを知っているからこそ、エリオスは黙って寄り添う。

そんなエリオスを見てレナントは少し微笑む。そして、視線を感じ顔を上げると笑みを浮かべる藤音たちと目が合い、レナント自身も笑みを見せた。

出会って間もないものの、困難を乗り越えたエリオスたちだからこそ、レナントは彼らに今までの人とは違う特別な感情を抱いていた。

そんな嬉しそうに笑みを見せるレナントを、フーリオとオリジナルも見守っていた。


「分身にも、俺としてじゃなく、レナントとして大事に思える人がいてよかった」


「…」


嬉しそうにしているレナントを見てオリジナルは嬉しそうに、フーリオも少しだけ、複雑な感情が混ざった笑みを見せていた。

レナントの記憶を共有し、ずっと他人との関わりを淡白にしてきたことを知っているオリジナルはその光景を見て安心をする。

そして、一息ついた後



「さて…」


オリジナルが視線を移した先にはNo.5


「あいつらを、楽にしてやらないとな」


オリジナルはNo.5に向かって歩みを始める、

だがフーリオがオリジナルの手を掴んで引き止める。


「フーリオ」


オリジナルは振り向く。

瞳は見えないが声色は離せと言っている。


「あいつらを、殺すのか?」


フーリオの声色は殺さないでくれ、という気持ちを顕にしていた。

あの様な姿にされても過去の仲間達なのだ、それを楽にするということはどういう事かフーリオは理解はしていたが認めたくはなかった。

たがオリジナルはきっぱりと言う。


「フーリオ、あいつらはあの姿で幸せだと思うか?」


フーリオは静かに首を振った。


「俺は、食べ物に困らず、危険に脅かされることなく、みんなで一緒にいれる幸せな生活が欲しかった。いや、俺だけじゃない、俺達いつもそう言っていたよな。」


俺達は戦争によって孤児になり、明日を生きていくことさえままならない環境を生きていた、だからあいつらの生活を保証するあの男の交渉に乗ったんだ、自分の身を差し出してな。

そう語るオリジナルの声は悲痛なものだ。


「だが今はどうだ?あんな風にされてしまってあいつらは幸せなのか?あの男の言いなりで生かされているあの状況が」


そんなオリジナルの言葉に、No.5に視線を移すとラビリを守るように横に立っている。

フーリオは視線を咄嗟に逸らす。


「すべてを辿れば俺が撒いた種だ、俺がすべてのケリをつけなければならないんだ。」


この身にかえてもな、そう付け加えたように呟かれたその言葉は誰の耳にも伝わる事は無かった。


「だったら…俺もやる…」


フーリオは声を震わせて斧を手に取るがオリジナルが手を重ねて下ろさせる。


「お前じゃ殺せない」


それだけ言ってフーリオに背を向けた。


「成程、No.5を殺すんだね?過去の仲間を」


「あぁ…あいつらを、お前の支配から楽にしてやる」


ラビリがNo.5に指示を出せばNo.5とオリジナルは衝突する。

図体の割に素早い動きをするNo.5の攻撃を交わしながらオリジナルは魔力を練る。

目の前で繰り広げられるオリジナルレナントとNo.5の戦いにエリオス達はただ黙ってみていた。

No.5腕は腕を振りかぶるがそれをいとも容易くオリジナルレナントはかわす。

何度も何度も攻撃をされるものの、オリジナルレナントは決して反撃をせず、ただ魔力を練り続けていた。


「エリオス、と言ったか、悪いが少し力を貸してくれ」


一度は断ったものの、オリジナルレナントは少し無理だと思ったのかエリオスにNo.5を拘束するように頼む。

レナントを通して記憶が共有されているため、エリオスたちの戦闘スタイルも知っていた、その上でオリジナルはエリオスに力を貸してくれるように頼んだ。


「わかった、どうすればいい?」


「悪いな、俺が合図したらNo.5の動きを封じてくれ」


エリオスはチラッとNo.5を見る。

動きは早いができない事は無い、エリオスは頷いた。

それを見たオリジナルは頼んだぞ、と言ってNo.5との交戦を続ける。

そして暫くしてオリジナルが、一瞬の隙を付いてNo.5を怯ませ、今だ!と叫べばエリオスが魔法を展開し、No.5の足元を凍らせ、動きを封じる。


「ありがとな」


「…どういたしまして」


エリオスがそう返したのを見てオリジナルは少し笑ってから、練っていた魔力を放出させる。


「さぁ、ねんねの時間だ」


そう言ってオリジナルの手が空を切れば、魔力の刃がNo.5を貫き、その場に倒れる。

オリジナルは倒れ込んだNo.5に向けて足進め、しゃがみこんだ。



「レナ…ン、と」


「うん」


「お、ニイ、ちゃ…」


「うん、」


No.5はオリジナルを見つめて何度も何度も呼ぶ。オリジナルはただそれに頷く。

やがてNo.5が何も発しなくなった時、オリジナルは目を瞑り、手を重ねる。



「おやすみ」



そう呟けばオリジナルを光が纏い、そしてはじけて消えていった。

少しの間目を瞑り、かつての仲間達への祈りを捧げる。


そしてそれが終わると、オリジナルレナントはラビリの方へ体を向ける。





「さぁ、最後はお前だ。ラビリ・ティタール」

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