第21話「閉ざされた道」
「…藤音さん、アイルズ、どうやらエリオスとドラたまは別々にいるらしい」
ラビリの元に向かう途中、今まで無言だったレナントが口を開く。
「えっ、別々って…」
「二手に別れよう」
アイルズがオロオロとしているとレナントは提案した。レナントの案に、今度は藤音がレナントが居ないと道がわからない、と言う。
「大丈夫、俺の魔力を道標に使えばいい」
そう言ってレナントが手を差し伸べると魔力の塊が視覚化される。
「これに付いて行けばドクターの元に辿り着ける」
「…ドラたまは、レナントに頼んでもいいか」
藤音がそう言えばレナントは頷く。
藤音はそれを見て息を切らしているアイルズに行こうと声をかけ、また走り始めようとするが、レナントはそれを引き止めた。
何だ、と藤音が振り返ればレナントは眉を潜め、言う。
「ドクターから目を離すな」
あの男の術中に嵌ればタダでは済まない。
レナントはそれだけ言うと走り出した。
レナントが言った、目を離すなという忠告、藤音はそれに顔をしかめる、だがすぐに顔を変え、アイルズに行くぞと言って魔力の塊を標に走り出す。
一方、エリオスとは別の部屋に拘束されていたドラたまは、誰もいない部屋でじたばたともがく。
「ふん、ぬっ!!」
だが、もがいてももがいても拘束が解けることは無い。
ドラたまは諦めて大人しくなる。
「くっそー!あの変態野郎!」
ドラたまの怒りは部屋に響くばかりで、相手には伝わらない。
どうにかして此処から出ないと、とドラたまた策を練る。
その時、部屋の扉が音を立てて開かれた。
その先にいたのは
「レナント!レナントやないかい!」
「ドラたま!」
無事か、どこも何もされてないか、レナントはドラたまに焦った様子で近寄り、所持していたナイフでドラたまの拘束具を壊す。
「大丈夫か?」
レナントは自由になったドラたまをそっと抱き上げる。
心配するレナントに対しドラたまは大丈夫や、といつもの調子で返す。だが、次の瞬間ハッとして声を上げた。
「大丈夫ちゃう!エリオスや!エリオスをはよ助けたらなあかんねん!」
はよ行くで!とドラたまはレナント脳での中でもがく。
そんなドラたまを制する様にレナントは抱く力を強して言う。
「待て、藤音さんとアイルズがエリオスの方に向かってくれてる。」
レナントの言葉にドラたまは少し落ち着いたようでホッと息を吐く。
そしてレナントはドラたまを抱いたまま部屋を出た。
暫く走り続けるとレナントはある部屋の前で立ち止まる。
「どないしたんや」
そう言うドラたまに、少しだけ付き合ってくれ。とレナントは返す。
ドラたまは頷き、大人しく抱かれている。
やたら綺麗に手入れのされた扉を開き、レナントとドラたまは部屋に入る。
中は薄暗く、何かが入っているであろうガラスのショーケースには布が被せられており不気味な雰囲気を漂わせていた。
「こんな部屋に何の用や?」
綺麗ではあるが使われていなかったのか部屋はホコリっぽく、ドラたまはげほげほと咳をしている。
レナントは何故かこの部屋が気になって仕方がなかった。そして、ちょっとな、と返しドラたまが咳き込まないように上着の中で抱いて、自身はホコリで咳き込みながらも部屋を進んでいく。
部屋の奥まで進んだ所で突然扉が締まる。
「何や!?閉じ込められたで!?」
レナント達は閉ざされた鉄の壁を見つめ、焦りを覚える。
監視されているのか?それともこの部屋に入ると締まる仕組みなのか?レナントは冷静を保とうとしながら考える。
ドラたまはレナントの腕から飛び降りて扉に体当たりをする。
だが扉はビクともせず、振動だけが部屋に伝わる。
何度かドラたまが体当たりしたその時、ショーケースを覆っていた布がバサッと音を立てて地面に落ちた。
「な、何やこれ…」
声を上げたのはレナントではなくドラたまだった。
どうした、とドラたまに声をかけようと体を捻ったレナントの視線はドラたまの奥にあるショーケースに奪われた。
「…っ!」
レナントの視界に広がるその光景は想像を絶するもので、レナントとドラたまは固まる。水が揺らめく、そのショーケースの中には
「お、れ?」
「…」
レナントは己の目を疑う。
何故自分にそっくりな人がショーケースにいるのか…それも1人ではない、その部屋にあるショーケースの中身全てが同じ見た目をしている。
レナントはへたりこんでそれに釘付けになったまま動かない、ドラたまはそんなレナントの顔をぺちぺちと叩き我に返す。
「…レナント、見やんとき」
はよエリオスのとこに行くで。そう言ってレナントの服を引っ張る。
レナントは上の空の返事をするとよろよろとふらつきながら立ち上がる、それをドラたまはぐいぐいと強く引っ張るが覚束無い足で進むレナントの服は伸びるばかりだ。
悪趣味な…そんな悪態を心の中で吐きながらドラたまはレナントを扉の前まで導いた所で気づく、そうだ、自分たちは閉じ込められていたのだ。
ドラたまはチラリとレナントを見る、レナントは未だ整理がついてない様で呆然としていた。
とりあえず何か出るための仕掛け等がないか、ドラたまが部屋を探しに回ろうとしたその時、扉が勝手に開いた。
「なんなんやほんまに…」
ドラたまは探す手間が省けて助かったと思ったが、その不可解さ故に感謝する事は出来なかった。
だがとにかく出てしまおう、ドラたまはレナントの服をを引っ張り外まで導く。
あの異様な空間から逃げ、少し落ち着いたのかレナントの足取りは普段通りを取り戻しつつあった。
「…」
無言のままレナントとドラたまは道を歩く。
早くエリオスを助けに行かなければ、そう自分の心を急かすが、レナントの身体は言うことを聞かない、本能がラビリと顔を合わせるのを拒否しているのだ。
あの男が何をしていたかは知っていたつもりだった、だが自分と同じ見た目をした人間を作っていたなんて知らなかった。
そしてふと、レナントは自分の歩幅に合わせて歩くドラたまに気付き、先に言ってくれと言う。だがドラたまは首を振る。
「真っ青な顔したやつ置いて行けるわけないやろ」
だがエリオスが、と言うレナントにドラたまは言い返す。
「藤音とアイルズなら大丈夫やろ、それにエリオスの魔力はわいにちゃんと来とる。命に別状はあらへん」
ドラたまがそう言えばレナントはそうか、とだけ返し、騒ぐ胸を抑えながらエリオスの元へと足を進める。
───────
「おや、気を失ってしまったか」
先程まで自分の手を掴んでいたエリオスの腕がだらんと落ちたのを見てラビリは残念そうに呟いた。
だが、次はどうしようかと鼻歌を歌いながら側に置いてある器具を吟味する。
これだ、とラビリが器具を手にし、それを持ってエリオスの方へ向いたまさにその時、部屋の扉が勢いよく蹴破られた。
「エリオス!」
扉を蹴り飛ばした藤音は部屋に入るなりぐったりしているエリオスを見て、傍にいたラビリに切りかかる、が避けられてしまう。
しかし藤音は構うことなく刀を振るう。
とめどなく繰り出される藤音の攻撃を、ラビリは軽々と藤音の攻撃をかわしては藤音を煽る。
だが、藤音はどれだけラビリに煽られようとその攻撃を止めようとはしない。
「そんな太刀筋ではお姫様は助けられないよ!」
ラビリの言葉に藤音はフッと笑い、刀を突く。
「王子様が1人だなんていつ言った?」
ニヤリと藤音が笑みを見せた瞬間、ラビりの隙を突いてアイルズが気を失いぐったりしているエリオスを必死になりながら抱えて逃げる。
しまった、とラビリがそちらに意識を向けるがその隙を付いて藤音がラビリの鳩尾に一発入れ、拘束する。
「くっ、…!」
自由を奪われたラビリはなす術もなく壁にもたれる。
それを見て藤音は戻るぞ、とアイルズに言うがアイルズの元には一つの危機が迫っていた。
「やってくれるじゃねぇか」
フーリオが斧を持ち、エリオス庇うアイルズを今にも真っ二つにしようと振り上げていた。
アイルズ、そう藤音が叫ぶよりも早くそれは振り下ろされる。
だが次の瞬間、金属が何かに弾かれる音が部屋に響く。
「あ、危なかった…」
アイルズとエリオスの周りには結界が張られており、フーリオの斧はアイルズの目先30cm程の所で止められていた。
フーリオは舌打ちをして後ろに下がる。
「無駄に硬い結界張りやがって…テメェから真っ二つにしてやる!!」
フーリオは再び斧をかざし結界に向かって振り下ろす。何度も何度も。それだけ振り下ろせばいくら硬い結界であろうと強度は弱まっていく。
結界の強度が後一撃で壊れるだろう、という程になった時、フーリオの動きが止まる。
「藤音さん!」
「アイルズ…エリオスを連れて今のうちに逃げろ…!」
藤音がフーリオを拘束し、攻撃をさせないようにしていた。
でも、とアイルズは言葉を被せるが藤音はさらに声を上げて早く行けと叫ぶ。
だがアイルズが動くよりも先にフーリオが藤音の拘束を解き、再び斧を振りかざされる。
今度こそ駄目だとアイルズがエリオスだけは何としてもと抱きしめ庇う。
次の瞬間、バリン、と結界が壊れる音はしたが攻撃は一向に来ない。
恐る恐るアイルズが目を開き、振り返る。
「氷…?」
目の前には冷気を放ち、自分たちを守るようにして生えている氷の結晶。
「…エリオスくん?」
「…アイルズ、さん…を、切ら…せるも、のか…」
まだ苦しみが残っているのかエリオスは言葉を切らしながらフーリオを睨みつけた。
「エリオス!」
藤音は氷に怯んだフーリオの隙を見て蹴りを入れ、目を覚ましたエリオスに駆け寄る。
藤音さん、と弱弱しい声で呼ぶエリオスに藤音は怖かったよな、と言って謝り頭を撫でるとエリオスはほっとした表情を見せた。
だが、安心したのも束の間で、体制を整えたフーリオは再び攻撃を仕掛ける。
今度は斬撃ではなく、様々な方向から迫る沢山の射撃。
「くっ…」
藤音は負けじと光の刃を放ち、貫く。だが射撃に関しては相手の方が上手の様で、恐ろしい程の精密さで制御されたその射撃は藤音の魔法を掻い潜り真っ直ぐ弾道を描く。
避けられない
藤根はエリオスとアイルズを庇い目を瞑る。
その瞬間、炸裂音がすぐ側で鳴り耳に残るその音は藤音の聴覚を麻痺させる。
「この射撃は…」
藤音とアイルズはフーリオが呟いた言葉を最後まで聞きとることが出来なかったが、フーリオに負けない程の精密な弾道に、2人は自分たちを助けてくれた人物の名を呼ぶ。
「レナント」「レナントくん!」
「みんな」
そう言うレナントの声は震えていたがホッとした声色だった。
「エリオス!」
そして、レナントの後ろからドラたまが現れエリオスの元に駆け寄る。
無事か、とエリオスの手を舐めればエリオスは小さな声でうん、と返し、そして君も無事で良かったとドラたまの頭を撫でる。
正に感動の再会、といった空気がエリオス達の周りに漂う。
だがそれをぶち壊す様な高笑いが響き渡り、空間は再び緊張感に支配される。
「何がおかしいわけ!?」
アイルズは声の主に向かって叫ぶ。
声の主、ラビリはエリオス達を見ながらその後ろを指す。
「ここはね、施設の最深部なんだ」
口角を上げて含み笑いをするラビリに対して、藤音たちが警戒心を顕にしてラビリを睨みつける、そしてそんな中、レナントはハッと何かに気づく。
「…!」
レナントは慌てて振り返る。
「あぁ、気付くのが遅かった様だね」
ラビリがニヤリと目を細めて笑えば部屋の扉が固く閉ざされる。
しまった、と思った時には既に遅くエリオス達は完全に逃げ道を絶たれてしまった。
そしてラビリの喜々とした声だけが部屋に伝わる。
「君たちはもう、外に出れない」
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