第17「青いトカゲ」
「エリオス!」
藤音たちはは砕けて落ちていく氷の中に走っていったエリオスの安否を確かめるため慌てて駆け寄る。
藤音が怪我はないか、と声をかけようとしたのだがエリオスの腕の中で伸びている生物を見て固まる。
「…何だそのトカゲ」
「さぁ…砕ける氷の中に見えたから受け止めたんだけど…」
ということはこれがあの龍神!?これが!?アイルズが声を上げる。
禍々しい気を纏っていたとはいえ、あれだけ威厳のある姿をしていたあの龍神がこのトカゲか…と藤音は見つめる。確かに、龍神は氷漬けにされていたはずなのに、その辺に落ちている氷に龍神の肉体の欠片すら見当たらない。
「ほー…このトカゲがねぇ…」
レナントは伸びているトカゲをぶにぶにとつつく、そしてエリオスも先程からトカゲを
撫で回しているのだがそれでもトカゲは目を覚まさない。
「ねぇ、このトカゲ多分さっきの龍神だと思うんだけど、目が覚めるまで待ってていい?」
エリオスは藤音たちに提案する。
伸びさせたのは自分たちで、クエスト内容がお供えといっても意識のない小動物を放っておくのも可哀想だし…何より直接話したい、と言う。
「危険な気配はもう感じない、俺はエリオスに賛成だ」
レナントはトカゲをぶにぶにとつつきながら賛同する。
レナントに続き、アイルズも藤音も異論はない、とエリオスの提案に賛成した。
「じゃあ暫くここで休むか、お腹も空いただろ」
藤音がそう言えば何処から取り出したのかエプロンを身に付け鍋を持つ。
そしてアイルズに火を頼む、と声を掛ける。
「はいはーい」
アイルズが詠唱を始める、調理に使う程度の火なのでものの数秒で詠唱は終わり、いつの間にか出来上がっていたその辺の石を並べた囲いに魔法を発動させる。
そして身体が冷えるといけない、と大きめの石の囲いに焚き火用の火を付ける。
「エリオスくん、そのトカゲくんを暖めてあげて」
アイルズがそう言うと、身に付けていたマントを脱いでトカゲをそれで包む、エリオスはありがとう、と言ってマントに包まれたトカゲを受け取り、アイルズと一緒に焚き火の前に座りトカゲを抱きしめる。
「藤音さん、何か手伝おうか」
手持ち無沙汰になったレナントは1人で料理を作ろうとしている藤音に声を掛ける。
「いや、こっちは大丈夫だ。レナントも疲れているだろう、エリオスたちと休んでてく
れ」
自分だって疲れているだろ、とレナントは反論しようとしたが藤音にほら危ないから、とあしらわれてしまった。
再び手持ち無沙汰になってしまったので、藤音に言われた通り大人しくエリオスたちの元に行く。
「あ、レナントくんいらっしゃい。追い返されたんでしょ」
「あぁ、手伝おうかと言ったんだが断られてしまった」
藤音さん料理はこだわり強いから手伝ってもサラダの葉をちぎるくらいしかやらせてくれないよ、とアイルズが笑って言えばレナントはそうなのか、と納得して焚き火の輪に入って暖まる。
「…レナントさん、抱っこする?」
「えっ…!」
「何かじっと見てるから抱きたいのかなって…違う?」
エリオスがそう言って差し出せばレナントは首を横に振って嬉しそうに受け取る。
エリオスがそういうのも最もで、レナントは腰を下ろしてからそわそわとトカゲを見ていたのだ、いや腰を降ろす前から興味津々につついていた。
現に、よほど嬉しいのかトカゲを抱きながらニコニコと笑みを見せ、辺りには花が飛んでいるようにも見える
「レナントくん小動物好きなの?」
「あぁ、この守ってやりたくなる感じが何とも言えない」
ほわほわと顔を綻ばせトカゲを撫でるレナント。
人は見かけによらないなぁ、とアイルズはその光景を見て思った。
とはいえこうしてエリオスくんたちの和に入り込んでいる自分も世間では忌み嫌われている吸血鬼なんだけど、と脳内で付け足す。
「誰か、器を出してくれ」
いつの間にか調理を終わらせたいた藤音が呼び、レナントがトカゲをエリオスに返し、俺が手伝うと言って荷物から器を取り出し藤音の元に向かう。
「すまないな」
器を受け取り藤音はそれに料理を盛る。
エリオスたちへ持っていってくれ、と言われレナントは料理か盛られた器を両手に持ちエリオスたちの元へ戻る。
そして再び藤音の元に向かい、お前の分だ、と料理が盛られた器を渡される。
「じゃあ私たちも向こうに行って食事にしよう」
藤音が歩き出せばレナントもそれに付いていく。
全員揃ったところでいただきます、と言って料理に手をつけ始めた。
「それにしても起きないなそのトカゲ」
ある程度箸を進めたところで藤音が食事をするエリオスの膝で伸びているトカゲを見る。
「くすぐってみても起きなかった」
「くすぐったのか」
「うん」
エリオスは、なんで起きないんだろうねーと言いながらトカゲのお腹を撫でる。
そこでアイルズがあっ、と声を上げた。
「もしかして魔力が無いからじゃない?」
魔力?エリオスが首をかしげる。
「ほら、魔力を使えば使うほどお腹がすいたり、疲れたり、気を失ったり、使いすぎると最悪死ぬでしょ?魔力ってのはある意味命の源でもあるから、それが尽きてるか何かで目を覚まさないんじゃない?」
アイルズの推理に3人はなるほど、と頷く。
「じゃあ魔力をこのトカゲにあげればいいの?」
「多分ね」
「じゃあご飯食べ終わった後にやってみる」
今やるんじゃないんだ…エリオスくんの言葉に僕は思わずツッコミを入れる。それに対してエリオスくんは、だって藤音さんが作ってくれたご飯冷めちゃうから、と返して食事を再開した。
あ、藤音さんがすっごい嬉しそうな顔してる。
「ごちそうさま」
エリオスくんが食べ終わった様で、器を重ねている。
先に食べ終わっていた藤音さんがそれを受け取って、エリオスくんはトカゲに向き直る
。
「で、魔力ってどうやったらあげたらいいの」
「うーん…昔読んだ本には気持ちを込めてって書いてたんだけど…」
「気持ちで何とかなるなら苦労はしないぞ」
「藤音さんなんて元も子もない事を…」
藤音さんのある意味正論とも言える言葉にレナントくんと僕は思わず苦笑いをする。
ただエリオスくんは藤音さんの言葉に頷いていたけど…この子たち本当にドライだなぁ・・・
「とりあえずやってみる」
エリオスくんはトカゲを抱きしめる。
ひんやりした空気が漂ってるのはエリオスくんの氷属性の魔力のせいだよね…
暫くエリオスくんが抱きついて魔力を注いでいると、トカゲの耳がぴくりと動く。
「今動いたな」
「本当?じゃあもう少しかな」
そう言ってエリオスくんが抱きしめる力を強めたその時
「何すんねん苦しいやろ!!!!」
「あ、起きた」
辺りに聞きなれない方言が響き渡る。
僕達3人はその気迫に目をぱちくりとさせてトカゲを見つめることしか出来なかった。
僕らに気が付いていないのかトカゲはエリオスくんに突っかかっていく。
「お前かずっと魔力寄越してたんは」
「うん」
「お前氷の属性持ちやろ?」
「そうだよ」
僕達を置いてエリオスくんととトカゲはどんどん話を進める。
どうやらトカゲは怒っているようでエリオスくんに噛み付いている。
「せめて普通に魔力送ってくれや!危うく氷漬けになるところやったやんけ!」
いやついさっきなってたよ、なんて口を挟めるはずがなく僕は2人の会話を見つめている。
「あ、ごめんさっき氷漬けにした」
言った!躊躇いもなく言い放った!
一方トカゲはエリオスくんの言葉に、何やて!なんて言いながら尻尾をびたんびたんして怒りを顕にしている。
「仕方が無いでしょ、君に正気を取り戻させるにはそうするしかなかったんだから。」
覚えてない?僕達に襲い掛かったの。
エリオスくんがムッ、とした顔でそう言えばトカゲは固まる。
「すまん、バッチリ思い出したわ」
「そう」
トカゲはすまんかったなぁ…と言いながら尻と耳をへにゃんと下げている。
エリオスくんは気にしていないようでトカゲの頭を撫でながらアイテムを取り出している。
「じゃあはい、これ」
「なんやこれ」
「お供え」
エリオスは果物が盛られた籠を取り出し、本来の目的である龍神に供え物をする為にトカゲにそれを差し出す。
そしてエリオスは1から説明する。
「それでね、今世界では何かと異常が起きてるから、何とかしてもらえないかと思って
ここに来たんだ。」
エリオスくんの言葉を聞いたトカゲから先程までのコミカルな雰囲気が消え失せ、真剣な顔で世界にそこまで影響が、とかぶつぶつ呟いている。
何事かと黙って見ていた4人だったがエリオスがトカゲを見て言う。
「ねぇ、君、世界の異変の理由知ってるんでしょ?」
エリオスはトカゲに詰め寄る。
「知ってる…というか近いで」
あと顔もごっつ怖いで、トカゲがそう言ってエリオスの眉間に前足をぶにっ、と当てる。
エリオスはごめん、と言ってトカゲから距離をとった。
「お前が知りたがってること話したるわ」
そしてトカゲは話し始める。
「まず、この世界に起きてる異変は太陽の儀式が行われてへん事が原因や、つまり儀式をやらん限り異変は収まらん」
「太陽の、儀式…本で読んだけど確か世界存続がかかった儀式なんだっけ」
「せや、そしてそれを出来るのは執行者となったシャンリアネ帝国を治めるランバリー家の人間、しかも殆ど直系だけや」
「待ってくれ!」
大人しく話を聞いていた藤音が慌てて声を上げる。
どないした、とトカゲが聞けば藤音は話し始めた。
「ランバリー家の王族の直系って…ヒペリオン陛下か!?」
「いや、そいつやない、今回はその息子が執行者や」
トカゲの言葉に藤音は胸をなで下ろす。
いや、なで下ろしていいものなのだろうか、うちの家系はランバリー家と繋がりがある、陛下のご子息には会った事はないが…
悶々と考える藤音をトカゲは見る。
「話戻してええか?」
「話を遮って悪かった、続けてくれ」
「まぁ、ランバリー家としては儀式はギリギリまでやりたくないんやろうな、儀式の執行者はほぼ確実に死ぬんやから」
「えっ」
4人は驚く。
それもそうだ、まさか皇帝の一族がそんな死ぬような儀式を背負っていたなんて思いもしなかった。
「とはいえ太陽の儀式の詳しいことなんて知ってんのはごく一部の人間や、下手したら代に当たらんかったら神官ですらしらんで」
「そうなのか…」
「まぁ、そんなん知られたら確実に生命の危機にさらされるからな、国家機密中の国家機密や。まぁ…うっかり話してもうたけどお前ら口外したらあかんで」
いや、説得力ねぇな!この場にいた誰もがそう思っただろう。盛大なブーメランにも程がある。
ふと、トカゲの話を聞いていてなにか引っかかったのか今度はアイルズが尋ねる。
「まって、直系が儀式を執行するんだよね?でも儀式を執行したら殆ど死ぬって矛盾してない?」
「ええ所に目つけたな、せや、直系が儀式を執行するのにその直系はそこで血が途絶えてまう。何せ儀式の期限は執行者が18歳を終えるまでや、18で跡継ぎ残してる奴は早々おらん」
トカゲの言葉に4人は更に首を傾げる。
「ま、直系と言っても代々の長男やなくて「皇帝になった人物の」長男って言うのが正解やねんけどな」
代々の長男が儀式を執行しなあかんかったらこの世界とっくの昔に滅びてんでと、トカゲは付け足して言う。
「まぁ、ランバリー家としては辛いとは思うけどしゃーないわ、これは流石の太陽神でも変えられへんからな」
トカゲとしても心は痛いのか、軽く言っているように見えて尻尾がぺたんと地面についている。
「とにかく世界の異変は太陽の儀式が終わらん限りどうにもならん。でもわいの意識が呑まれる程の乱れは初めてや…おい坊主」
トカゲは俯いていたが顔を上げてエリオスを見る
「…僕?」
「お前以外に誰がおんねん」
なにか考え事をしていた様子のエリオスは突然トカゲに坊主と呼ばれ、苦い顔をして答える。
「とりあえず少しくらいなら異変を沈めたる、お前の力貸せ」
トカゲ曰く、水を司る龍神の自分は世界に漂う、魔力とはまた違う「気」を循環させる役目があり、異変のせいでその力が弱まって意識が呑まれた。
だから、再び気を循環させれば少しは異変がマシになる、ということだ。
「龍神ともなればそれくらいの魔力あるんじゃないの?」
今まで黙っていたアイルズだったが、トカゲの言葉に質問をする。
「本来ならそれくらい余裕やけどわいは悪い気に意識を飲まれてもうて、それを浄化されたからな、今魔力すっからかんやねん」
「すまん、それは私のせいだ」
私が浄化の術をかけたから…と藤音が目を伏せて謝ればトカゲは、寧ろ浄化されないと戻れなかったから構わない、と返す。
水を司る龍神がそんな状態だったのだ、世界で異変が起きない方がおかしい。寧ろ大水害が起きてないだけマシだ、とトカゲが付け足して言う。
そんなに危険な状態だったのか、と藤音たちは冷や汗を垂らす。
「というわけで坊主、わいと契約してくれ」
「ただ魔力渡すのに契約っているの?」
「契約した方が都合がええんや。例えば、魔力供給が楽に行われることやな、他にもまぁ色々あるけど、何より龍神直々に契約を求めてるんやで!?契約せん手はないやろ!」
ふーんと言いながらエリオスは話を聞いているが、藤音たちはそんな押し売りみたいな…と苦笑いをする。
「ま、とにかく今すぐに少しでも異変を収めたいなら契約してもらわなキツイわ」
今すぐにでも、龍神の言葉を聞いたエリオスは頷き、わかった、言おうとした途端藤音が待ったをかける。
「さっきから良いように言っているが契約したとしてエリオスに悪い事は起こらないんだろうな」
藤音はトカゲに詰め寄る。
何のデメリットもなくそんな都合のいい事あるはずが無いと藤音は考えていた。
それに対し龍神は一つだけあると言えば藤音は再び詰め寄る。
「近い!…デメリットは、常に魔力が減り続ける事や」
「そんな危険な事なんで黙ってたのさ!」
魔力は命の源、それが減り続けると言うことは後後命に関わる。そんな事駄目だ、とアイルズも声を上げる。
「落ち着け、魔力が減り続けても坊主は氷属性でわいと相性も良いし、この魔力量なら命に問題あらへん。」
まぁ、2.3日は倦怠感を感じるかも知れんけどすぐ慣れるやろ、とトカゲは言う。
藤音はそれを聞いてもう一つ尋ねた。
何故一番年下のエリオスなのかと。
「こん中やったら坊主が一番相性ええのと魔力保有量が一番多いからやな」
「…そうか」
藤音は、エリオスが危険な目に会うのではなければ異論はないようでおとなしく引き下がる。
アイルズとレナントも異論はないようで特に口を出さない。
「坊主、保護者の承諾は取れたで」
トカゲはエリオスに向き直る。
保護者ではないんだけど…と言おうとしたエリオスだったが、今までの旅を思い出せば
藤音が親の様に世話を焼いてくれるのを思い出し、ふと、藤音を見る。
「ん?どうした?」
エリオスの視線に気が付いた藤音が、不安なら変わろうか。と言えば、エリオスは首を振り、大丈夫、と答える。
そしてトカゲと向き合い目を見てはっきりと言う。
「じゃあ契約しよう。」
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