第15話「龍神の住まう神殿」
4人は神殿へ訪れていた。
「ここか、雰囲気あるな」
「じめじめしてる…」
「カビ臭い」
藤音がじーっと中を見ながら頷き、アイルズはうわぁ…と身体を擦り、エリオスはなんとも言えない微妙な顔をしている。
正直雰囲気があるとかじめじめとかカビ臭いというレベルではない程雰囲気は悪い。神聖な龍神を祀る神殿なのにだ。
嫌な感じしかしないレナントはエリオスの頼みを受け入れた事を一瞬激しく後悔した。だが今更引くわけにも行かなのでそのまま3人について行く。
それに
「戦闘になったら前は任せたよ」
とアイルズが言えばエリオスと藤音は任せろ、といった顔で頷いた。
出発する前に一応戦闘スタイル等を確認した時、エリオスは前衛、藤音は中衛、アイルズは後衛、となんともバランスの良い組み合わせで尚且お互いが強固な信頼関係を築いている事をレナントは知った。
危機感がないのかそれともお互いがお互いを信頼しているから余裕があるのか、とにかく今から危険な場所に足を踏み入れるというのに緊張感のない3人には不安しか感じないが戦闘面では問題なさそうなので、それにレナントは少し安堵し、先へと進む3人の後ろを付いて行く。
所で、一応神殿内を探索してみたけど結構罠とかあるぞ…大丈夫か…
ためらいなく神殿に入っていくエリオスたちに付いて行きながら俺は魔力を飛ばして神殿内を調べる。
「レナントくんは傭兵か何か?」
そちらに意識を集中させていたため、アイルズの言葉に一瞬反応できずぽかんとしてしまった。
「あぁ、そうだよ」
別に隠すことでもないしそうだ、と頷く
「じゃあこの神殿には来たことある?」
「無い、こんな所よっぽどの物好きか怖いも知らずか、死に急いでるやつ位だ。」
「ならエリオスくんはよっぽどの物好きに入るのかな」
アイルズはあはは、と笑いながら前を歩くエリオスを見る。
物好きね、俺はエリオスに理由を話して貰っている為彼がどのような意図でこの神殿に来たがっていたか知っている。
だがアイルズの言い方だとどうやら知らないようだ。
「アイルズは聞かなかったのか、理由を」
「うん」
あっさりと頷かれてしまった。
「エリオスくんが行きたいなら僕はそれに付いて行くだけだからね」
とはいえ、一応行こうと言われた時は危険だから止めたけど。とアイルズは笑う。
アイルズと藤音さんは、危険だから止めはするが、エリオスの意思は出来るだけ尊重するらしい。
傍から3人を見ていて思ったが不思議な関係だな…
その後暫く他愛もない話をしていたが、ある所で前を歩いていたエリオスと藤音さんの足が止まり、俺たちも続いて足を止める
「分かれ道だ」
目の前には二手に分かれた道。
「どっちに進もうか」
3人がうーん…と考え始める。
俺は二つの道に魔力を飛ばしてどうなっているか探っていた為どうなっているか分かる。
右はトラップは見当たらないけど多分ハズレ、左はあからさまにトラップがあるけどアタリ
左に行こう、と言いたいが俺が探索したのを信じるかわからないしそもそも、トラップのある方に行くことになるのだから、分かってても言い辛い
「…レナント、考え込んでどうした?」
ブツブツつぶやく俺に気が付いたのか藤音さんが声をかける。
「あ、あぁ…その、正しい道、俺、分からなくはないんだが…その…」
俺の言葉に藤音さんだけでなく、エリオスやアイルズも不思議そうに首を傾げる。
「えーっと、分からなくはないってどういう事?レナントくんはここには来た事ないんだよね」
アイルズが、さっき話してた事を言う
「俺はこういう魔力の玉を飛ばして地形や、その場所の状況をある程度知ることができるんだ、それで今両方に飛ばしてみたんだが…」
3人は俺をじっと見つめる
だがその目線は疑っているものではなく、純粋に話を聞いている眼差しだった。
「右はトラップは…あからさまには見かけないが行き止まりで多分ハズレだ。左はトラップがあるが奥に広い抜けた空間がある事がわかった」
「…」
「トラップがある方が正解か、」
「だから、正しい道を行こうとすればわざわざ罠に飛び込む事になる」
アイルズがそっかあ・・・と言ってから3人はまたもやうーんと悩み始めた。
いやまぁ、俺は本当のことを言ってるが、この3人はもう少し疑うことをした方がいいんじゃないか…
なぜ今日知り合ったばかりの人間の言葉を易々と信じる
そして暫く考えた後、行くか行かないかはエリオス次第だ、と藤音さんとアイルズが言えばエリオスは少し迷った後
「僕行きたい」
と一言言う。
「決まりだ」
「決まりだね」
藤音さんとアイルズはそれに続けて声を揃えた。
そしてエリオスは俺を見る。
「レナントさんも良い?」
エリオスは俺に言う。
元より同行すると言ったのだから構わない、と返せばエリオスはありがとう、とすこーし口元だけ笑った気がした。
感謝される覚えはないが…まぁ、先程言ったのもあるが3人だけを進ませるのは危険だと思った。
「これからはもっと気をつけて進まないとな」
そう、こういう所。
本来もっと気をつけるとかそういう問題じゃないんだ。こんな所、命が惜しかったらもっと慎重に進むべきで、ずかずかと足を進めるべきではないんだ!
そんな俺の考えは思惑に3人が気づくはずもなく進んでいく。
やっぱりこの3人おかしくないか?事情があるんだろうが、身なりのいい2人と異国風の格好が1人。いやまぁそれも気になるがそこじゃない。何と言うか…
悶々と思考を回しても結論は出ない。まぁ、今回限りだろうし別に気にする必要はないか、と思った時、何かを察したのかアイルズが振り返って小声で話しかけてきた。
「レナントくん、僕たちが気になる?」
的を得た言葉に俺は思わず目を開く。
「まぁ…」
他人の事にずけずけと入り込むのは申し訳ないと思いつつ気になるのが現実だ、だから俺は頷いた。
「だったらあの二人に聞いてごらんよ、普通に答えてくれるから」
そうは言っても…
ちらりと前の二人を見る。
「って、おい!大丈夫か!?」
話どころじゃない、目を離した隙にエリオスがトラップに引っかかっていた。
幸い死ぬようなものではなくただ、宙ぶらりんになっており、藤音さんが小刀のようなもので普通に縄を切ってエリオスを救出していた。
「そんな驚くとは…」
「いやだってこんな所のトラップだぞ!?死ぬかもしれないんだぞ!?死んだらどうするんだ!?」
思わず涙目になって反論した。
やっぱり一緒にいてハラハラする…
「レナントくんっていい人だよね」
もっとドライな人かと思ってたよ
今のやりとりを見ていたアイルズがそう言って肩に手を置き、ニヤニヤとこちらを見る
「そりゃどーも」
思わず照れくさくなってアイルズから目を逸らし、礼を言う。
それからというもの、トラップに引っかかるのは主にアイルズだった。
一方エリオスと藤音さんはというと神殿のトラップに慣れてきたのか軽々と避けていた。そしてそのしわ寄せが全部アイルズに来ているのだ。
「おい、大丈夫か…」
「あいたた…悪いね」
すっぽりと尻だけ穴にはまって面白い状態のアイルズに手を差し出す。アイルズは差し出されたレナントのその手を掴み、アイルズは穴から脱出する。
「アイルズさんまたはまってる」
「レナントにちゃんとお礼言うんだぞ」
「人を子供扱いして!君たちの方が大分年下の癖に!!」
穴から無事脱出したアイルズは二人の言葉にぷんぷんと頬を膨らましてる。子供か。
とはいえ世話が焼ける人間は嫌いじゃない。
「困った時はお互い様だ」
その光景に懐かしくも微笑ましくなり、思わず笑う。
あぁそうか、この3人に対してさっきから思っていたのはこれか。
忘れない、忘れたくない、昔の仲間と過ごしたあの時間、世話の焼ける奴らばかりで放っておけなくて・・・そうか、俺は昔の仲間とこの3人を重ねていたんだ・・・
何故自分は危険を冒してまで3人とクエストに来ているのか、いつもなら何とも思わないのにこの3人に対しては情が湧いてしまうのか、先程まで悶々ど悩んでいた思考が晴れる。
今まで色んな人とクエストに行くことはあった、それでもあいつらと重なって見えることはなかった、なのに。この3人は今までと違う、違うと分かっているのにどうしてもあいつらと重なってしまう。
いくらこの3人に世話を焼いても、死んだ仲間は戻らない、それは分かってる、だけど、今は少しだけこの気持ちに浸らせてほしい。
俺はそんな不純な思いを胸に抱き、先へと進む3人の後ろを付いて行く。
それから一行が暫く歩くと噂に聞く水の壁が現れる。
渦潮のような激しい水の流れで、侵入者を拒むように水が動いている。
エリオスが石を投げ入れてみればそれは水圧で跡形もなく粉々に砕けてしまった。
「どうする?これじゃ先に進めないけど…」
「…」
エリオスは少し考えた後、ちょっと下がってて、という。
「何をするつもりだ、危ないぞ?」
藤音が言い。
口には出していないがレナントも心配そうな目をしている。
そんな仲間の心配を知ってか知らずが、エリオスは水の壁に手をかざし、魔力を練る。
そうすると周りの空気が冷たくなり冷気が漂い始め、やがて水の壁が凍っていく。
「凍っちゃった…」
そう言うアイルズの息は白く、辺りの気温が低いことがうかがえる。
そして水の壁を凍らせた本人は自らの武器を手に取り氷の壁に突き立てた。
液体ではなく固体になったそれは突き立てられた衝撃に音を立てて崩れる。
「はい、通れるよ」
先に行こう。とエリオスが藤音たちを振り返れば3人とも目を丸くしていた。
今まで誰も突破することが出来なかった障害をいとも容易く取り除いてしまった。
「あ、あぁ…行こうか」
「うん、行こう」
ぽかんとしていた藤音とアイルズだったが、思考が戻ってきたのかエリオスの後を付いていく。
多分、この水の壁って多分仕掛けを解除して進む所だと思うんだがまさかゴリ押しで行くとは…
レナントは視線の先にある石をはめる装置を見た。
そしてレナントの考えは大正解で、側にあった隠し扉の先に石を持ったEXモンスターがいたのだが、結局エリオスたちはそのモンスターに会うことはなかったのだった。
「何かどんどん空気悪くなってないか?」
「確かに…」
「そうか…っておいエリオス!?」
アイルズとレナントは奥に行く連れに濃くなる禍禍しい空気に当てられ眉をひそめる、一方藤音はけろりとしており、そしてエリオスは特に話すわけではなく唯ひたすら先へ先へと歩いていた。
「なに?」
「あまり一人で先に行くと危ないぞ」
「…ごめん」
エリオスが謝ると、藤音も別に怒ってるわけじゃないんだ、と言って謝る。
普段なら自分たちを気にして1人で先々進むことはしない、だが今は先に行こうと藤音たちを置いていきそうな勢いだった。
普段とは違う、エリオスの行動に藤音は何か引っかかるものを感じたがあえて聞かなかった。
そしてそのまま歩き続ければ重たい雰囲気を醸し出す扉の前にたどり着く。
「ここが…最深部…」
エリオスの声色は待ちに待った、という雰囲気を思わせた。
直ぐにでも扉の向こうに行きたかったのだが先ほどの藤音の言葉を思い出し、扉に伸ばしたその手を留める。
「この奥に危険な魔力の反応がある、入る時は覚悟を決めた方がいい」
レナントは扉を見て呟き、エリオスや藤音、アイルズはそれに続いて頷き、4人は何が起こっても大丈夫なように準備をすることにした。
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