第14話「危険なクエスト」

この街に来て1ヶ月ほどたった.

療養という目的で来たけどそれは最初だけで、僕の希望でクエストをこなし特訓する毎日を過ごしていた。ただエリオスくんと藤音さんの方針によりそれは鬼のような難易度と量だった…

でも、そんな生活は新鮮でとても楽しい、それにそんな生活を続けていたおかげで僕たちの息はもうぴったりと言っても良いくらい合っている。

ふふ、なんだか嬉しいや。



「何を笑っているんだ?」


目の前に座っている藤音さんが言う通り、僕の顔は綻んていたようだ。


「何も無いよ」


「嘘つけ、まだ笑ってるぞ」


なんて言いながらも藤音さんも笑っている。

最初の頃は2人と距離があったけど今では大分縮まり、少しずつ2人の事が分かってきた。


エリオスくんは顔に出ないだけで感情は豊かで喜怒哀楽が割とはっきりしている。戦闘はめちゃくちゃ強い。

しっかりしてるけどどこか子供っぽくて放ってけないかな。そこがなんと言うか…構いたくなるんだけど。

後やたら人に好かれる、自分から積極的に話しかける訳では無いけど、何だかんだで話すのは好きみたいだし素直な性格で好かれやすいのか顔なじみになった店の人から行く度に何かしら貰っているし、やたら構われている。


藤音さんは普段は無表情だけど割と顔に出るタイプのようで、喜怒哀楽が激しい。忍者って聞いてたけど忍者って感情とか抑えないとダメなんじゃないの?と聞いてみたらちゃんとメリハリをつけていれば良いらしい。

藤音さんもしっかりしてるけどどこか子どもっぽい所があってエリオスくんとよく似てる。

後,

何故かはわからないけど藤音さんはエリオスくんを中心に動いている。


世話を焼く藤音さん、そんな藤音さんに甘える所があるエリオスくん、2人の関係はまるで兄弟のようで羨ましい、なんて思ったり。


そんな思考は隅に追いやり、僕たちは談笑をしながらクエストを探しに行ってるエリオスくんが戻ってくるのを待っていた。


この旅は基本的にエリオスくんが基準となっているので彼がしたい事をするスタンスだ。

藤音さんは言わずもがな、僕もそれに不満などない。

ただ・・・エリオスくんは落ち着いた見た目と雰囲気の割に行動派で、どんなクエストを持ってくるのか検討がつかず少しハラハラしている。

EXモンスター狩りなんてしょっちゅうだしね…



「ただいま」


そうこうしているとエリオスくんが戻ってきた、その手にはクエストの内容が書いた紙を持っていた。

なんだろう…この寒気…


「あのね、このクエストやりたい」


テーブルに置いたクエスト用紙に書かれていたのは龍神の神殿での探索クエスト。

えっ、待ってこれ難易度めっちゃ高いヤツじゃないの。赤色で「Danger」って書いてるよ!!


「エリオス」


藤音さんの声は真剣だ。

藤音さん言っちゃって!それは流石に危ないって!

そして藤音さんは言う。



「このクエストは4人以上だ」



「そこじゃないよ!?」


「うおっ、どうした急に」


ツッコミの為に突然声を上げた僕に藤音さんとエリオスくんは目を丸くしている。

言うところはそこじゃない!!!何なの藤音さんもそっち側なの!?


「Dangerって書いてるでしょ!」


「でも死人が出るようなクエストじゃないって受付の人言ってた」


あ、それなら…って納得しかけたけどそうじゃない。

悶々と頭を抱えていると藤音さんが言っていた言葉を思い出す。


《この子は一度言ったらなかなか折れないぞ。諦めろ。》


あぁ、こういう事かぁ…と今になってそれを実感する。

チラリとエリオス君を見ると、ダメ?と見つめる瞳と目が合い、エリオスくんがやりたいならいっか、と僕は絆されてしまい頷いてしまった。

エリオスくんなら大抵のことはなんとかしちゃうだろうし…


「じゃあ一緒に行ってくれる人探してくる」


ちょっと待ってて、と言いエリオスくんは嬉々として行ってしまった。


「あの瞳に見つめられたら駄目だね」


「だろう?」


彼が童顔な所為もあるが、子どもの様な真剣な瞳でお願いされたら頷くしかなかった。

戦ってる時以外は本当にEXモンスターとタイマン張れるようには見えない。


藤音さんも、私も初めてEXモンスターのクエストに行こうと言われた時は全力で止めた、と話してくれた。

でも結局エリオスがやりたいなら、と頷いてしまったらしい。

藤音さんも止める時期はあったんだというかやっぱり行ったんだ藤音さん…ともあれエリオスくんのお願いに基本的にGOサインを出す今では考えられない



「だが、多分エリオスはただ行きたいだけではないと思う。」


「何か目的があるってこと?」


僕が問えば藤音さんは頷く。


「何を考えているかはわからないが多分、そんな気がする。」


藤音さんの言う事も分からなくもない。

何だかんだで賢い子なので何か考えがあるのかもしれない。

とりあえず僕たちはエリオスくんが戻ってくるまで雑談して待っている事にした。



一方、エリオスはクエストに同行してくれる人を探すためにギルドをキョロキョロと見廻していた。

ギルドでは基本同行者を探す人もいるので、エリオスのその姿も珍しい訳では無い。


「どうかしたのかい坊ちゃん」


同じく同行者を待っていたのか、腕っ節に自信のありそうなガタイの良い男性がキョロキョロしていたエリオスを見かねて声をかける。

エリオスは男性に事情を説明すると、男性の顔は引き攣り謝りながら去っていってしまった。


「…やっぱり駄目かな」


死ぬわけでもないのにみんなは何をそんなに恐れているんだろう。

ただ神殿へ行くだけなのに。

いや、多少は危険だけど…

無茶と我侭を言っている自覚はある。


だけどやりたい事もあるし…何より好奇心には勝てないんだよね


エリオスは自己完結すると再びクエストに同行してくれる人を探す。

だがなかなか同行してくれる人は見つからず、皆クエスト内容を聞いては逃げてしまった。



​───────



「今日はどうするか」

時を同じく、ギルドのクエスト掲示板の前で立っている褐色肌の青年、レナント・シングラー。

クエストを受けるか受けないか悩み、じっと掲示板を見つめていた。


そんな青年を見つけたエリオスはもしかしたら一緒に行ってくれるかもしれない、と声をかける。


「すみません」


声をかけるが無視をされてしまった…のではなく賑わっているギルドではボソッと呟いたエリオスの声は周りにかき消されてしまったのだ。

エリオスはもう一度、次は服を引っ張りながら声をかける。


「すみません」


「ん?」


服を引っ張られた青年は気がついたようで振り向く。

エリオスを見た青年は、自分より頭一つ程小さいエリオスの目線に合わせるように腰を屈めてどうした?と返す。


「一緒にクエストに行ってくれませんか」


「クエスト?構わないがどんなやつだ?」


青年はこの後、軽率に了承した事を後悔することになる。

エリオスはポケットから依頼書を取り出し青年に見せた。


「これ」


「こっ…!」


青年は目の前に出された依頼書を見て絶句する。

龍神の神殿へのクエスト。

知らない訳ではない。

・・・ある程度の場所で水の壁に阻まれて奥には行けず、故に死者こそ滅多に出ないものの、最近は魔物が活性化しており危険には変わりない。そもそも神のいる場所に、お祈りならともかく冒険しようという怖いもの知らずの人間は早々いない。

だが、目の前の少年は行く気の様だ。


「お兄さんもダメ?」


エリオスの言葉にレナントは気付く、お兄さん" も"と言うことは何人にも断られて来たのであろう。

少ししょんぼりしている少年を見て行ってやりたいのは山々だがなぁ…と青年は頭をかいた。

安易に頷けないが、取り敢えずなぜ行きたいのか理由を少年に聞いてみることにした。


「君はどうしてそのクエストに行きたいんだ?」


「え?」


断られると思っていたエリオスは、返ってきた青年の言葉に首を傾げる。


「何人にも頼んでるってことは余程行きたいんだろう?その理由を聞かせてくれ」


今までは、理由を聞かず真っ先に断られてしまっていた。だが、目の前の青年は理由を聞こうとしてくれる。

エリオスは話し始めた。


「最近、魔物は活性化してるし、農作物も、魚も、取れなくなって世界的に異常な状態が続いてるでしょ?僕の故郷も影響を受けててね、それを何とかしたいからこのクエストを受けたいんだ。」


エリオスはもう一度依頼書を見せる。

なるほど、と青年は紙を受け取りまじまじと見る。

先程は場所しか見てなかったので依頼内容までしっかり見ていなかった。よくよく見てみると、神殿探索と龍神への供え物を捧げる、というクエスト内容が書いてある。

そしてエリオスは言葉を続けた。


「龍神に直接会えるなら会ってお願いしたいし、後は好奇心かな」


エリオスの言葉に感心していた青年はズッコケる。

好奇心ね…

とはいえちゃんと理由があって行きたいと言っている、龍神に会う気でもあるようが・・・。

危険は伴うだろう、だがクエストに危険は付き物だ。青年は決断を下しエリオスに言う。


「…分かった、同行しよう」


「…!本当!?」


エリオスは少しだけ身を乗り出し、青年の手を掴んでありがとう、と言った。


「だがこのクエストは4人用だぞ?後2人集まるかどうか。」


青年が不安を口にするとエリオスは言う。


「それなら大丈夫、仲間が2人いてお兄さん合わせて4人だから。」


それなら大丈夫か、レナントは頷き、こっち、と手を引っ張るエリオスに引かれるまま付いて行った。





「同行者見つかると思う?」


エリオスを待つ藤音とアイルズ、暫く本を読んだり武器の手入れをしたり各々が時間を潰していた。

アイルズあら藤音に向けられた言葉はそれを中断させる。


「どうだろうな」


藤音は視線を、手入れしている武器からアイルズに移す。

エリオスの事だから内容を黙って誘う、ということはしない。

だが、エリオスがお願いしても危険なクエスト故に同行してくれる人物はなかなかいないだろう。


そんな話をしていると、おーいとエリオスの声が2人の耳に届き、帰ってきた、と藤音とアイルズはそちらを向く。


「一緒に行ってくれる人いた」


エリオスの後には先程の青年がいた。

手をエリオスに引っ張られてきたため、身長差で少し腰が曲がっており歩き辛そうだ。


「見つかったんだ、良かったね」


「うん」


アイルズの言葉にエリオスは頷く。

そして藤音とアイルズはエリオスが連れてきた人物に視線を移す。


「初めまして、君が同行してくれる人だよね?」


「あぁ」


レナントはアイルズの方に向いた。

そしてクエスト内容は聞いてる?と聞かれそれに頷く。

レナントの返答に良かった、とアイルズは笑う。


「エリオスの頼みを聞いてくれてありがとう」


アイルズの後ろから藤音が現れ、礼を言う。

その後自己紹介しようか、という事になり各々が名乗る。

そして最後に


「レナント・シングラーだ」


レナントが名乗る。

そしてレナントが名乗り終わると、エリオスはクエストの受付に行くと席を立って行ってしまった。

3人だけになり、無言の時間が続き、レナントはちらり、と藤音とアイルズを見る。


それにしても不思議な人達だ。

エリオスの考えや、3人の見た目からして、明らかにギルドのクエストで生計を立てる様な冒険者ではないのは分かる。

それに


「アイルズ、お前吸血鬼か」


俺の言葉にアイルズは目を見開く。

その後涙目になって藤音さんの後ろにすすす、と隠れてしまった。

しまった、言わない方が良かったか。

つい《見えてしまった》から言ってしまった…


「レナントくん吸血鬼は嫌い?」


そして正体を当てられたアイルズは藤音さんを盾にしながらぷるぷると震えて聞いてきた。

すまん、そうじゃない、そうじゃないんだ!ざ、罪悪感が…!


「吸血鬼が嫌いかどうかはともかくアンタは嫌いじゃない」


別に危害は加えられていないし、敵意も感じないので嫌う理由はない。

俺がそう言うとアイルズはパァァと顔を綻ばせて藤音さんの後ろから出てくる。


「レナントくん良い人だね!」


いや良い人認定の定義緩すぎるだろ。

レナントはそう思ったがあえて口には出さなかった。


そんなやり取りをしている内にエリオスが戻ってきて俺達は、この4人で神殿に向かう事になった。

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