第13話「アイルズの特訓」

「軽く20件ほど依頼を受けてきた。さぁ行こうか」


そう言う藤音さんの顔はとても笑顔だ。

楽しみだね、とエリオスくんも楽しそうだ。

そりゃあ、僕だってエリオスくんたちの為に頑張るけど限度があると思う。とアイルズは真顔になる。

だって20件って…!そんなの終わるわけないって!と反論しようとしたがこの2人がいれば出来そうだと思ってしまった。そして二人は終わらせる気でいる、余力を残して。

僕のためにやってくれているわけだし嫌だとは言えないし、何より何を言っても無駄なんだろうなぁ・・・と思う。

そしてそのままズルズル付いて行けば、モンスターがいるであろう場所に辿り着く。


「取り敢えずあいつからやろうか」


藤音さんが指差すのは何だか気持ちが悪い植物…植、物?

うにょうにょと消化液みたいなのを頭に付いている花から分泌している。

うえ…と思っているとモンスターがこちらに気が付き襲ってきた。

すかさずエリオスくんが前に出て応戦する


「アイルズさん、魔法お願い!」


エリオスくんはモンスターの触手を切り刻みながらも致命的なダメージを与えず、僕が攻撃出来るようにモンスターの気を引いてくれている。よし…!


あれは植物だから恐らく弱点は炎属性だ、魔力を練り、魔法の詠唱を始める。

僕はエリオスくんや藤音さんみたいに詠唱無しで魔法は使えないけど、それでも魔法は使える。


「エリオスくん下がって!」


詠唱が終わればあとは魔法を発動するだけ、エリオスくんが避けたのを確認し、僕は杖をモンスター目掛けて振る。

そうするとモンスターの下から火柱が上がり、炎が消える頃には燃え尽きて姿はなかった。ちょっと火力強すぎたかな?


まだパチパチと火が燃える音がする。

アイルズは表情に花咲かせ、やったよ!とエリオスと藤音を見れば満足そうに頷き


「この調子なら今からでもEXモンスターにも挑戦できそうだな」


「だね」


と恐ろしい事を言っていた。

いやいやいやいや!いきなりEXモンスターは無理だって!2回目では無理だって!!

そう訴えるが2人は何故?という顔をしている。


「だって実際に戦わないと…ねえ?」


「なぁ?」


ねーとエリオスくんと藤音さんは顔を見合わせている。


狩りを生業としていたエリオスと忍として生きる藤音の2人は生きるか死ぬか、やらなければ殺られる、そんな極限の世界で生きていたため強くならざるを得なかった。

それ故に少しゴリ押しでも何とかしようとするところがある。


「それにアイルズさんまで攻撃は通させないから安心して」


「そうそう、だから君は魔法に専念してくれ。」


「う、うん」


エリオスと藤音の言葉にときめきを覚えたアイルズは気が付けば頷いてしまっていた。

なんという安心感!


そして、あれやこれやと言われているうちに3人はEXモンスターの元まで来ていた。

先日エリオスと藤音が倒したドラゴンではなく、泥…というよりスライムの様なもので構成されたゴーレムだった。


「じゃあアイルズさん、魔法お願い」


「頼りにしてるよ」


それだけ言うとエリオスと、藤音はゴーレムに先制攻撃を仕掛ける。

硬化の能力があるようで、藤音さんの刀を弾く。

エリオスくんも槍を刺すけど、ゴーレムは硬化していた体を元の状態に戻し槍先を体内に飲み込む

エリオスくんは慌てて槍を引き、槍がゴーレムの体に飲み込まれるのを防ぐ。


「あいつに効く魔法は…」


考えろ…スライム状になったり硬くなったり…多分あいつは外部からの物理的な攻撃の場合硬化する…

じゃあ非物理的な攻撃なら?

僕は魔力を練り詠唱を始める。


だが、エリオスくんと藤音さんが形成を立て直している正にその時、ゴーレムの攻撃魔法が僕目掛けて降りかかった。

しまった、魔法を使うのか…!降りかかる攻撃に意識が向いてしまい、僕の詠唱は途切れる。



避けれない



降りかかる攻撃を見つめて立ちすくしていたが、僕には当たらなかった。

僕の目の前には藤音さんがいた。


「すまん!大丈夫か!」


エリオスくんが魔法を薙ぎ払い、残りの払いきれなかった攻撃は藤音さんがギリギリの所で僕との戦いの時に使っていたバリアを展開して防いでくれていた。

そしてエリオスくんはゴーレムの意識を引きつけ、囮をしてくれている。


「すまない、攻撃を通させないと言ったのに…」


藤音さんは申し訳なさそうにしている。

僕は首を降る。


「大丈夫、2人が守ってくれていたから攻撃は通らなかった」


今度はちゃんと気を逸らさないように、エリオスくんたちを信じてもう一度詠唱をし直す。

そうだ、2人の強さは分かってるじゃないか、そんなエリオスくんと藤音さんが守ってくれているんだから何を怖がることなんてない、そう思うだけで不安が消え、詠唱に集中することが出来た。

そろそろ詠唱が終わる


「エリオスくん、藤音さん!」


集中する為に閉じていた瞳を開き、2人を見る。

僕の声に振り向いた2人は頷きゴーレムから距離をとる。

その際に藤音さんが光の拘束具でゴーレムの動きを封じてくれたから的を絞ることが出来た。


「くらえ…!」


練った魔力を開放し発動させるとモンスターの足元と頭上に魔法陣が展開される。

魔法陣が輝き電気を纏う、そしてバチバチと音をさせた直後激しい轟音と共に雷が敵目掛けて落ちた。

辺りには焦げた臭いか漂っており、ゴーレムの姿は跡形もなく消えていた。


「アイルズさん!」


ゴーレムが消えたのを確認しているとエリオスくんが僕に駆け寄ってきた。


「ごめんね、攻撃通させないって言ったのに…」


エリオスくんは藤音さんと同じように謝る。

その顔はとてもしょんぼりとしていた。


「大丈夫、2人が守ってくれたからね」


「本当に?」


「本当に、僕に怪我があるように見える?」


ほら、と腕を広げるとエリオスくんは良かった、とほっとした表情を見せてくれた。


「さ、次に行こう」



​───────



「今日中に終わって良かった」


藤音さんとエリオスくんは満足そうにしている。

あれからひたすらモンスターを探しては倒し、探しては倒しを繰り返し、やっとクエストにあるモンスターを全て倒し終り、僕達は街にある酒場的な店で遅めの昼食を食べていた。

僕が魔法を発動するまで前線で敵の相手をしていたエリオスくんはよほどお腹がすいていたのかとてつもない量のご飯を食べている。


「息も合ってきたもんね」


ご馳走様、と器を置き、オレンジジュースを飲むエリオスくんはまるで子どものようだ。


「明日はもう少しクエストを増やしてみようよ」


でもその後発した言葉は鬼だと思った。

藤音さんもエリオスくんの言葉に同意をし、2人は明日はどんなクエストにしようかと盛り上がっている。



エリオスくんと藤音さんには言っていないけど、僕は今まで戦闘とは無縁の生き方をしてきた。

城に閉じ込められてる時は呪いのせいだから僕の実力ではない。

だから魔法は使えてもモンスターに向かって使ったことは無いし、仲間がいる戦いなんてもってのほか。

こんな僕でも魔法は使えるし力になれば、と戦闘に参加する事を申し出たけど、結局連携が取れず迷惑をかけてしまった。

だけどエリオスくんたちは戦闘初心者の僕の為に色々教えてくれている。・・・ちょっとごり押しだけど

それが嬉しくもあるけど申し訳ない。


それでも2人は僕に危険が迫った時、本気で助けてくれたし、それに…


「僕たちの息が合ったら怖いものなしだね」


「そうだな」


なんて言ってくれるから僕は、本気で強くなって、2人の力になりたいと思ったんだ。


次の日、受けるクエストは本当に増えたけどそれでも僕は頑張った。

2日目とはいえ、昨日、今日、と数をこなしているので昨日よりも息が合っている気がするし、何となくコツを掴んできた。

そして2日、3日、1週間、と続けていけば僕たちの息は合い始め、戦闘にも慣れてくる。


結局この特訓は3週間続き、その頃にはモンスターだけじゃなく、EXモンスターを倒すコツもわかってきたし何より息がぴったりになった気がする。

これで僕も、2人の役に立てるかな?


​───────


「藤人!見つかったって本当か!」


ヒペリオンは藤人に詰め寄る。

本当だ、と返せばヒペリオンは本当にありがとう!と言って藤人を抱きしめた。

このひと月、藤人は時間が許す限り常にヒペリオンに頼まれた人物を探していた。


「自分で頼んでおいて何だがよく見つけれたな」


ヒペリオンは藤人に問う。

それもそうだ、この世界のどこにいるかわからない人物を探すなんて普通に考えれば無茶な話だ。だが、それでもヒペリオンは何が何でも見つけなければならなかった。

そんな無茶な頼みを藤人は何とかしてくれたのだ。


「まぁ、正直見つけたのは本当に奇跡に近い…というか偶然というか…なんというか…」


せっかく見つけ、ヒペリオンも喜んでいるのに藤人の返事ははっきりしない。

どうしたのかとヒペリオンが問えば藤人は話し始める。


元々は式神を飛ばしたりして探していたがどうしても見つからず困っていた、その時ふと、藤音が気になって式神を飛ばせばそこにいた、と。


「えっ、じゃあ藤音くんと旅している子が…?」


ヒペリオンの言葉に藤人は頷く。

でも藤音くんは女の子と旅をしていたんだろう?とヒペリオンは藤人に問えば藤人は歯切りの悪い言葉を返す。


「私も彰音に聞いただけだから女の子と思っていたんだが…どうやら彰音の勘違いだったようでな…」


小柄で可愛いって思ったから女の子と勘違いしたんだと、と言えばヒペリオンは彰音さんらしいや、と小さく笑う。


「しかも偽名を使っていたようだ、藤音が警戒していたんだろう。」


私達里の人間が彼に危害を加えないように、普段里は部外者を入れることは許していないからそれで警戒してたんだと思う、藤人はそこまで言ってため息を吐く。


「じゃああの時本当にすぐ側にいたってことか…」


「まぁ、そういう事だな」


ヒペリオンはそうか…とだけ言って黙る。



何故だろう、見つかって嬉しいはずなのに喜べない、それもそうだ。

私が彼を探していたのは儀式の為で…その儀式の成功率はほぼ0、失敗すれば命を落とす。離れていたとしても血を分けた我が子が可愛くないはずない。

そんな儀式、本当はやらせたくない、だが儀式をしなければ世界は滅びる。

だけどいつかは話さなければ、覚悟を決めなければいけない。

その時が来たらきっと君はもっと私を憎むだろうな…エリオス。



「ヒペリオン」


藤人は頭を抱えているヒペリオンを呼ぶ。

あぁ、どうした?と藤人の方を向けば頭に藤人の手が乗せられ髪をわしゃわしゃとされる。


「わっ、な、なんだ!」


「まずは喜ぼう。思ったより早く見つかって儀式まで余裕はあるのだから」


ヒペリオンがそうだな、と答えると藤人は言葉を続ける。


「それに、藤音が一緒に居るとなると少し厄介だ、時間をかける必要がある。」


「藤音くんが?」


「あぁ」


藤人は言う。

あの2人、いや1人増えていたから3人だな。式神を通して暫くあの3人を観察していたのだが藤音の彼に対する執着心、とでも言えばいいのか、とにかく無闇に引き離せば藤音は激しく抵抗してくるのは間違いない。


「藤音くんが…やはりランバリー家と風賀の繋がり…運命というものには抗えないのだな。藤人と私が一緒に居るように、藤音くんもエリオスと一緒になっているとは。」


「そうだな」


私が彼を手放さなければ藤音くんもエリオスと共に育ったのだろうか…私と藤人の様に。


「藤人、もう暫くエリオスの様子を見ててくれないか。」


私の言葉に藤人は頷く。


「全てを話すのは儀式の直前で構わない」


どうせ命を落としてしまうなら、少しでも長く何も知らないまま精一杯生きて欲しい。それが私の願いだ。

それに、私は彼に嫌われているからね、あまり刺激はしたくない。


「嫌われている?お前何をしたんだ。」


ヒペリオンの言葉に藤人が尋ねる。

主君として君臨しつつも争いを好まず民の事を良く考えて国を動かしているこの男が、特に騎士団という身近な位置にいた人間にそんな風に思われる事はかなり珍しい。


「…」


私の問いにヒペリオンは答えない。

まぁいい、言いたくないのなら問い詰める気は無い。

だが、顔を合わせた時、もしエリオスくんがヒペリオンに危害を加えようとするなら私は彼と対峙しなければならない、そうなると藤音との対峙も避けられないだろう。


「とにかく、私は…私の命が持つ限りは様子を見続けよう」


きっと私の命は儀式までは持たない。

もしかしたらヒペリオンがエリオスくんと対面する時私は既にこの世にいないかもしれない、ヒペリオンを置いて先に逝くのは私としても心配だが彼の奥方のテイアー様やクロノスもいるのだからきっと大丈夫だ。


「…お前の方は何とかならないのか」


ヒペリオンは藤人を心配そうに見つめる。

藤人の体調は最近特に良くない、それは命の終わりが近い事を意味していた。


「ならないな、奴を始末しない限り。」


「だったら騎士団を派遣するから!それで…!」


「駄目だ」


高い戦闘力を誇る騎士団を派遣して藤人の命を奪う奴を倒せるなら、とヒペリオンは提案したがそれは、騎士団でも歯が立たないだろうと言う藤人本人の言葉によって却下される。


奴は神を食らった妖怪、いくら強いと言っても人間が刃向かうには分が悪すぎる。良くて多くの負傷者、最悪全員死亡、なんてありえない話ではない。

そう言えばヒペリオンは黙る。


ヒペリオンも子どもではない、民が安心して平和に暮らせるために、国を背負っているのだ、自分のわがままでそんな事起こしてはならないのは分かっている。

それでも幼少期から、いや、自分の赤ん坊の頃からの付き合いの友人が命を落とそうとしているのに自分は何も出来ないのだ、もどかしさにヒペリオンは拳を握る。


「この件に関してはお前が気に病む必要は無い」


藤人は頭を優しくなでる


「子ども扱いするなよ…」


「私から見ればお前は子ども、いや弟か?」


「…」


子どもだと言われ、むう、とヒペリオンが頬を膨らますが、弟だと言われて悪い気はしない、そんなヒペリオンを見て藤人は小さく笑う。


「私もお前も、気苦労が絶えないな」


「…そうだな」


2人は溜息を吐くと、部屋に静寂が訪れる。

そんな静かな空間に、コンコン、とドアが鳴る。


「入れ」


「失礼いたします。陛下、そろそろお時間です」


入ってきたのはヒペリオン直属の部下で神官のクロノス。

ヒペリオンは一国の主だ、いつまでも藤人と話しが出来る訳では無い。

えー、とヒペリオンが渋るがクロノスはもう時間です、ときっぱり言い放つ。


「私も失礼しよう。」


扉の近くに藤人も歩いていく。

クロノスが扉を開けて藤人が出るのを待つ。


「藤人様、お送り致します。」


「いや、大丈夫だ、それよりヒペリオンを見ておいてくれ、こいつはすぐ逃げるからな」


「それいつの話だ!」


確かに昔っから勉強や政務が嫌で逃げてその度に藤人には迷惑かけたけど!とヒペリオンが抗議すればクロノスは本当に貴方という人は…、と呆れた目を向ける。


「とにかくちゃんと仕事はするからクロノスは藤人を送ってやれ!」


これは命令だからな!と付け加えればクロノスは承知いたしました、と返事をして藤人と共に門へ向かった。

こいつは皇帝になろうが変わらないな、と藤人は少し笑ってからクロノスの後を付いて行く。


門を出て馬車に乗っても道中会話はない。そのまま馬車は動き続け、そして風賀の里の門まで辿り着くと藤人はクロノスに礼を言う。


「いえ」


「クロノス、ヒペリオンを頼む」


「…突然どうされました」


藤人の、普段とは違う雰囲気から放たれた言葉にクロノスは問いかける。


「いや、何となくだ」


儀式の件での重圧か、それとも自分がいなくなった後の事か、どちらの事かは分からないが藤人はただ、頼んだ、とだけ言う。

クロノスは藤人の言葉を聞き、藤人を見つめ口を開く。


「私が陛下をお支えするのは当然のことです」


「その言葉を聞いて安心した」


それだけ言うと藤人はクロノスに背を向ける。

あれだけ真っ直ぐな瞳でお前の事を考えてくれている者がいるなら私が居なくなっても大丈夫だな。


見送るクロノスの視線を受けながら、藤人は門をくぐった。

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