第12話「心の療養」

次の街にたどり着いた3人。

海沿いの活気溢れる港町で、多くの人で賑わっている。


「凄い人だかり!」


わくわくするねぇ、とアイルズは笑顔をこちらに見せる。

正直1番テンション高いのはアイルズだろうな、と藤音は思ったがエリオスをチラリと横目で見て撤回する。

エリオスも声こそ挙げないものの、瞳は楽しそうに揺れている。


「さて、あちこち見るのもいいがまずは宿を探そう。」


「「はーい」」


声のテンションは違うもののエリオスとアイルズは声を揃えて返事をする。

何だか兄弟みたいだ、と少し笑いそうになりながら私は歩き出した。



「3人部屋はあるだろうか」


「3人部屋ね、あるわよ」

宿に着き、2人に座っているように言い、私は部屋を借りに行き空き部屋があるか聞く。

宿屋の受付の女性は空き部屋があるのを確認し、部屋の鍵をよこす。

借りれたのはいいが、アイルズの療養がある。少しの間借りても良いかを聞く。


「構わないけど…理由を聞いてもいいかしら」


仲間を療養させたい旨を伝えると、あの青い服の子ね、と女性は言う。

エリオスは大人しく席に座っているがアイルズはきょろきょろしながら座っている。おい病み上がり。


「いや、あの…白い方なんだ…」


気まずい、頼むから落ち着いて座っててくれ白い方。

女性の顔を見ると、療養…?という顔をしている。わかる、その気持ちわかる…


「あれでも昨日はゾンビの様な顔色をしていて病み上がりなんだ…」


「そうなの、部屋はあるから構わないわよ。詮索しちゃってごめんなさいね」


「いや、こちらこそすまない…」


多分あれ遠足とかではしゃぐ子供と同じなんだ、後ではしゃぎ疲れて寝ちゃうタイプの。

誰に言うわけではないが、そんな事を考えながら私は2人の元に戻り、部屋に向かった。


部屋に荷物を置いてのんびりしているとアイルズが口を開く。


「ねぇ、エリオスくん、藤音さん、僕外見に行きたいんだけど…ダメかな?」


アイルズは申し訳なさそうに、手を合わせている。


「僕も見に行きたい」


そして、何故か聞かれる側だったエリオスもアイルズと同じように私を見る。


「構わない、行こうか」


「やった!」


布団で寝ているだけが療養ではない、楽しい事をしたり、見たり、そういった心にも療養は必要だ。却下する理由はない。

私たちは先程の港に行くことにした。


エリオスとアイルズは観光、私は減ったアイテムを買い足しに行く。

カンストしていたはずのアイテムはほぼ底を尽きていた。

何故かと言うと、街に向かう道中、度々戦闘があったのだがその度にアイルズが集中してモンスターに狙われるわ襲われるわ…それを助けながら回復をしていたらアイテムがガンガン減っていた、と言うわけだ。

私と戦った時あんなに動けてたのに、とアイルズに言うとアレは呪いのせいで身体強化されてたんだもん!と返された。


とはいえまだ出会って間もないから息が合わないのは仕方が無い、それは討伐クエストをこなして何とかすればいいのだから。


「さて、どこに売ってるかな…」


これからの事はとりあえず隅に追いやり、宿で貰った観光マップを片手に私は賑わっている街に向かった。



「藤音さんだけ別行動かぁ」


「アイテムがなくなったから買い足すんだって」


「それについては本当に面目ない…」


アイルズは頭を下げる。

戦闘中、自分が敵にやられっぱなしで藤音がアイテムをひたすら使ってたのを思い出す。


「アイテムってお金すっごいかかるよね…」


藤音が使っていたアイテムには割と高価なものもあった筈だ、それを思い出して自分はどれだけ2人にに迷惑をかけるのだろう…とアイルズは項垂れた。

そんなアイルズにエリオスは言う。



「でもお金は腐る程あるから大丈夫」


「凄い台詞をさらっと言うね君は」


そんな台詞初めて聞いたよ。

しかもそれを言ったのが10代の少年というのが凄まじさを際立たせる。

だが腐る程あると言うのは事実なようで所持金はとんでもない数字を叩き出していた。

嘘だろ…とアイルズの顔は引き攣る。


「何でそんなに持ってるの!?」


「えっと…もともと持ってたお金と・・・後EXモンスター狩ってたら貯まってたよ」


「EXモンスター狩るの!?狩れるの!?」


怒涛の質問攻めが始まる。

詰めよるアイルズを気にする事無くエリオスは言う。


「割といける」


「脳筋!」


さらっと言った後に加えて、初めは見てるだけだった藤音さんも今ではバリバリ戦ってるから、と親指をグッと立てて言うエリオス。

それがどうしたのか、とさほど気に止めることなくエリオスは言葉を続ける。


「ねぇ行かないの?」


「行くけど…」



彼らにとってEXモンスターを狩るのは普通のことなんだな…とアイルズは何かを察し、エリオスについて行く。



街には、朝取れたばかりの魚を売っている店、船で運ばれてきたほかの地域の野菜や果物などがあり、2人は色々な露店を見ては目を輝かせて完全にお上りさんである。

そして、一通り見終わった頃、エリオスは思い出した様にアイルズに声をかけた


「アイルズさん、あっちに本屋さんがあるんだけど行っていい?」


「本屋さん?」


一通り回ったが、エリオスの指さす方向に本屋などあっただろうか…とアイルズは疑問に思い首を傾げる。


「ちょっと裏路地なんだけど面白い本がいっぱいあるんだ」


「裏路地…ってそんな所にある本屋さん良く知ってるね、この街に来たことあるの?」


アイルズの問いに、一回だけ、とエリオスは頷く。

なるほど、来たことがあるなら多少知ってても不思議ではない。

面白い本なら自分も興味がある、とアイルズはエリオスに付いていくことにした。


賑やかな道を外れ、人通りの少ない道に入る。

あまりの人気の無さにアイルズは不気味さを感じるが、エリオスが気にすることなく歩き続けているのでアイルズも怯えながらも付いて行く。

そしてある古い建物の前で立ち止まった。

エリオスはドアの横にあるベルを鳴らして扉を開ける。



「いらっしゃい」


品の良さそうな初老の男性が読んでいた本から視線を外し僕たちを見る。

エリオスくんを見ると男性は微笑んでこちらに寄ってきた。


「おやおや騎士の坊ちゃんじゃないか」


「こんにちは…といっても僕はもう騎士じゃないんだけど…」


「そうなのかい?」


男性は、そうかいそうかい、と言うだけで特に深く聞くことはなかった。

事情の知らない僕にとって気になる単語が出たんだけど、楽しげな2人を邪魔してまで詮索するのも良くないかと思い、聞くことはしなかった。


「そして…そちらの方は?人ではないようだが…」


男性の意識が僕に向けられる。

人ではない、という言葉にどきり、としたが敵意などは感じないので慌てはしなかった。

とはいえ一目見ただけでそう言われてしまっては、流石に身体が強張って冷や汗を流す。


「この人はアイルズさん、吸血鬼なんだよ」


「吸血鬼!なるほど、道理でべっぴんさんなわけだ!」


エリオス君が僕の正体をあっさり言ってしまえば男性は一瞬目を見開きその後、ははは、と笑う。

もうちょっと驚くとかそういうのはないのだろうか…別に敵意を向けられたいとかじゃないけどなんと言うか、こうもあっさり受け入れられると嬉しような恥ずかしいような…


「ルロイさん、本見てもいい?」


「あぁ、構わんよ」


「やった」


ありがとう、と言ってエリオスくんは本棚の元へ行ってしまった。

気になった本があったのか既に取り出して読み始めている。


「アイルズくんと言ったかな、良かったらこちらに来て私の話し相手をしておくれ」


客人が来るのは久々でね、とルロイさんは微笑んでいる。

私はルロイさんの対面に置いてある椅子に腰掛けた。


「今お茶を入れてくるから待っててくれ」


と言ってルロイさんは奥に引っ込んでしまった。

あぁ…そんな気づかいしてもらわなくても良いのに…!

とはいえ好意を無下にするのも失礼なので大人しく待つことにした。

待っている間、頭を動かして店をぐるりと見ていて気がついたのだがこの店の本はやたら分厚く高そうなものが多いと思った。

あと明らかに怪しい雰囲気を醸し出す本とか…

一体何処から集めるんだろう…そんな事を考えているとルロイさんが戻ってきていたようらで、ティーカップに注がれた紅茶を差し出す。


「匂いのキツいものではないから君でも飲めると思うよ」


「えっ、わざわざすみません」


一口飲んでみると丁度良い渋みと香りがした。とても美味しい。


「君から見たら私なんて若造だろうに、気を使わなくて構わんよ」


いやまぁ確かに僕は貴方の倍以上は軽く生きてますけど…なんと言うかそれでもルロイさんは貫禄があるのでついついかしこまってしまう

うー…とそんな思考をぐるぐるさせていると、ルロイさんは面白い吸血鬼がいたものだ、と笑っている。

朗らかに紅茶を飲みながら笑っているルロイさんを見て僕は思った。

この人には勝てない気がする…


それからは、ルロイさんの事や、僕とエリオスくんが知り合った経緯や、3人で旅をしている事、エリオスくんの事を少しだけ教えてもらったり色々な話をした。

帝国の騎士団に所属していたこと、今では幻と言われる錬金術をおばあさんから教わっていた、といった色々な事を。あの子地味に凄い経歴持ちだったんだ…只者ではないと思ってたけど…

チラリとエリオスくんに視線を移せば熱中して本を読んでいる。

あぁしてみると普通の子なのになぁ…人は見かけによらないものだと僕は思った。


「おや、だいぶ話し込んでいたようだ」


ルロイさんの声に、時計を見ると2時間ほど経っていた。

そろそろ戻らないと藤音さんが心配する、エリオスくんに声をかけるが本に没頭しているようで反応はない。

…そうだ!





「エリオスくん」


「うわっ!」


背後から耳元で声を掛けると流石に気が付き、驚いた声を上げた。ドッキリ大成功!

かなりびっくりしたようでちょっと涙目になっている、そんなエリオスくんの反応が面白くて僕はついつい笑ってしまう。


「笑わないでよ・・・」


ぷくっ、ほっぺたを膨らまして僕を睨む。

えっ、この子の睨んだ顔怖い・・・


「ご、ごめん怒ってる?」


ごめんね?ごめんね?と僕が狼狽えながら謝っていると、いや別にそんなに怒ってないよ・・・としょんぼりしながら言われる。

もしかしてあんまり顔に出る訳じゃないから誤解されやすいタイプなのかな・・・


「で、どうしたの?」


「え、あ・・・そろそろ戻らないと藤音さん心配するよと思って」


「そうだね」


エリオスくんは帰ろうか、と言ったが、本を本棚に戻さず持ったままルロイさんの元に行く


「ルロイさんこれ買いたいんだけどいくら?」


「それかい?」


ルロイさんが本の金額を言うとエリオスくんは同じ額を支払う。

割と高額なのにそれを躊躇いなく払ってしまうエリオスくんが恐ろしい。


「僕たち暫くこの街にいるからまた来てもいい?」


「あぁ、もちろんだ。またいつでもおいで。」


別れ際に、エリオス君はありがとうと言ってルロイさんにハグをする。

なんだろう、この孫とおじいちゃんみたいな微笑ましい光景。

その様子を見ていると、ルロイさんが僕に話しかける。


「アイルズくんもまたおいで」


今度は藤音さんという人も連れて、と言われ僕はそれに頷く。

そしてルロイさんにお茶のお礼をしてから僕たちは店を出た。




宿に戻ると藤音さんがおかえりと言って出迎えてくれ、ご飯を用意して待っていた。

どうやら宿の厨房を借りたらしい。

お、お母さんだ…



そしておかゆでも思ったけど藤音さんの料理ってすごい美味しい、。

もぐもぐと料理を堪能していたら藤音さんが思い出したように話を始めた。


「アイルズ、体の具合はどうだ?」


「え?あ、うん。かなり万全だよ」


元々吸血鬼は快復力高いし、今日すごい楽しかったから、と伝えると藤音さんは満足げに頷き言う。


「じゃあ君には明日から討伐クエストをしてもらう」


「えっ、討伐クエスト!?」


「ああも息が合わないとこれからの戦い苦労するからな、今の内に特訓だ」


明日はハードだがら今の内に蓄えておいた方が良いぞ、と言って藤音さんは箸を進めている。

いや、その、特訓は良いんだけど僕魔法しか出来ないし前に出たら真っ先にやられるし…特訓でどうにかなるのかな…

チラリとエリオスくんを見ると凄いご満悦顔で頬張ってた。

不安を胸に抱きながらもエリオスくんに和んでいると藤音さんが話の続きを始める。


「で、アイルズの得意分野は?」


「へ?」


「近距離戦とか、魔法とか、得意な分野は無いのか?」


「魔法なら得意だよ」


攻撃、回復、補助、属性魔法、その辺は一通り使える事を伝えると藤音さんは目を見開いてた。


「それなら何で前に出てくるんだ?前に出たらろくに魔法使えないだろ」


「だって僕も2人の力になりたいし…エリオスくんや藤音さんが前で戦ってるのに1人だけ安全な場所にいるみたいで申し訳なくて…」


「…はあ」


「何で!?何で溜息吐くの!?」


「いや…」


全くこの男はお人好しというかなんというか・・・藤音はアイルズの言葉に頭を抱えた。

そして、藤音がそんな事を思っているとは知らないアイルズがショックを受けていると、食べ終わったであろうエリオスが器を置いて話し始める。


「気を使って無理して前に行かなくても大丈夫だよ」


エリオスの言葉にアイルズは何故?と問いかける。


「出来る人が出来る事をやればいいんだよ。無理して出来ないことをしなくてもいい。」


お互いで補い合う、その為の仲間じゃない?

僕はそう思ってるよ、と言うエリオスの言葉にアイルズは確かに・・・と納得する。


「そういう事だ、アイルズは後ろでどっしり構えてくれてたらいい」


エリオスに続く様に藤音がそう言えばアイルズは頷く。

そして、2人の力になれるように明日は頑張ろうと、心に決めた。

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