第9話「囚われの吸血鬼」

「うわ、古いお城」


実家に行った次の日、私たちは予定通り街外れの城に来ていた。

回復アイテムはカンストさせたから大丈夫だろう…多分。

少々の不安を胸に抱えながらも門をくぐるとエントランスにたどり着く。

古いピアノ、絵画、今にも落ちてきそうなシャンデリア、それらは過去に人がいた事を示していた。


「罠は無いみたいだな」


侵入者が居ても、城に変化は見られない。

それでも注意を払いながら、城の中をを探索する。

アイテムの見落としがないかしっかり確認するのも忘れない。こういうダンジョンは隠しアイテムが多いからな、どうせ取るなら取りこぼしのない様にしたいじゃないか!


誰に向けて言っているのか分からないが藤音がガッツポーズを決めていると、前方を歩いていたエリオスが声を上げる。


「どうした!」


藤根は素早くエリオスの元へ駆け寄ろうとするが、その光景に藤音は己の目を疑う。

エリオスは宝箱を発見したのだが、それは宝箱にカモフラージュしたモンスターだった。

急に襲い掛かってきたモンスターに驚きながらもエリオスはその辺にあった棒をつっかえ棒にして、モンスターの口…?を閉じれなくしていた。

びっくりさせないで、と言いながらエリオスはそのモンスターの口の中に手を突っ込む。


「あれ、宝箱なのにアイテム入れてないの?」


エリオスは躊躇いなく手を入れて探っている。モンスターは涙目になっており、敵ながら不憫だ…とその光景を唖然として見ていた藤音はモンスターに同情した。


「なんだ」


残念そうに手を引っ込め、つっかえ棒を抜く。

その途端、自由が効くようになったモンスターは怯えながら逃げていった。

その気持ちわからなくもないぞ…と藤音はモンスターが逃げていった方に同情の目を向ける。


「藤音さん行こう」


一方エリオスはいつも通りの感じで、私に先に進もうと言う。

エリオスって結構敵に対して当たりきついよな…戦う時雰囲気がガラリと変わるしな。

なんて事を考えながら付いていく。


罠らしい罠が無いあたり、この城自体は特に危険ではなく、やはり大広間の吸血鬼が危険らしい事が分かってきた。

いやまあさっきみたいなモンスターもいるのだろうが、あれから一体も遭遇していない。

逃げたやつが仲間に知らせたのだろうか。

とはいえボス戦(仮)の前に体力削られてアイテムが減らないのは良いことだな。


それからひたすら城を探索し残すは大広間だけとなった。


「この先に…」


中から危険な気配は感じない、本当に吸血鬼がいるのだろうかと疑いたくなるが、人の気配は感じるから居るのは間違いないのだろう。


「藤音さん、準備は?」


エリオスの問いかけに私は頷く。問題ない。

私が頷いたのを見て、エリオスは扉を開く。



​───────



「来客かな」



大広間に足を踏み入れる。

部屋の奥中央にある椅子には、話で聞いたとおりの、身なりの良い銀髪の男がいた。

男の声は少しだけ、嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。


「おじゃましてます」


男の声にエリオスは一言返す。真面目か。

エリオスの言葉に男は一瞬目を見開いて、笑う。


「あっははは!…ここ別に僕の城ではないから気にしないでよ。僕はここに閉じ込められてるだけだからさ。」


男は笑っているが、何気なく凄いことを言っていた気がする。

閉じ込められてる…?そんな風には見えないが…


「で、君たちは何でここに?わるーい吸血鬼退治?」


そう言う男の言葉には警戒心も敵対心も含まれてはいない。

ただの純粋な質問。


「ううん、あなたと話しをしに来ただけ。」


「僕と?そんな事の為にここに来たのは君たちが初めてだよ!」


何が面白いのか今にも転げそうな勢いで笑う男、あ、むせた。

咳き込み、涙目になりながらも、男は言葉を続ける。


「僕に聞きたいことがあるなら何でも聞いてよ、答えれる限りは答えてあげる。」


男の言葉を聞いたエリオスは早速質問をする。


「じゃあなぜあなたはここに居るの?」


「んー…僕、閉じ込められててここから出れないんだよね。だからここに居るしかないんだ。」


「寂しくない?」


「寂しいよ、だってずーっと1人なんだもの」


「どうやったら出れるようになるの?」


「あの水晶を壊すしか無いね」


エリオスと男の質問と回答の繰り返し。

そして、自分の背後にある大きな水晶を指差しらそれを壊せばここから出れるという。


「今までいろんな人が来たと思うんだけど何で帰れった言ったり攻撃するの?」


「…あの水晶の呪いのせいで僕の意思と関係なく人を傷つけてしまうんだよ。今は大丈夫だけど、それ以上近づけば僕は君たちを傷つける事になる。君たちもどうかこれ以上こちらに来ないでほしい。」


男は来ないでほしいと言いながらも、その言葉の裏には助けて欲しい、といった感情が込められている。

それにしても…なるほど、男を助けるには男と戦いながら、あの水晶を壊さないといけないのか。これは厄介だ。

そもそも、やたらと対応が良いがこらは水晶を壊させるための罠か?


「でも、寂しいんでしょ?」


「…」


エリオスの言葉に男は黙る。図星なのだろう。

素直に助けてと言えないのは恐らくその呪いのせいだ。

だが、対処法を知ったからと言って私たちにはそう簡単にどうすることも出来ない。


「藤音さん」


エリオスはこちらに振り向く。内心どうにかして助けたいと思っているのだろう、なんとなくわかる。

だが…


「エリオス、助けたいと思う気持ちはわかるが、罠かもしれないんだぞ」


私はエリオスを守ると決めたのだ。

あくまでも、彼の身の安全を優先する言葉を選ぶ。

そして、私の言葉に返したのはエリオスではなく、男だった。


「そうだよ、1度攻撃をし始めたら身の安全は約束できない。それに、そこのお兄さんが言う通り罠かもしれないよ?気持ちだけで十分だよ、ありがとうね」


眉を下げて、申し訳なさそうにお礼を言う。

罠ではない。どこまでもこちらを気遣う今の一言で私は確信を得た。この男は本気でこちらに危害を加えたくないのだと。

そして、吸血鬼の言葉を聞いたエリオスは私に一言、ぼそりと言う。


「藤音さん」


「まさかと思うが…」


あれを本気で何とかする気じゃないだろうな、と考えていた私の予想は残念な事に的中する。

声色からなんとなくそう言うとは思ってたけども…


「なんとか出来るのか」


「分からないけど、ほっとけないよ」


何処からか槍を取り出し、構えた。

どうやら言っても無駄らしい。私も武器を取り出す。


藤音はエリオスを見て微笑む。

エリオスはそんな藤音を見て頷き、ありがとう、とだけ言って男に向き直る。

突然武器を取り出したエリオスと藤音に男は驚いて、何のつもりか、と問う。


「あなたを放っておけないだけだよ」


エリオスの言葉に男の瞳は、一瞬だけ希望の色を見せた、だが直ぐに曇ってしまう。


「やめるんだ、今の僕は呪いのせいで強化されている。人間が適うものじゃない!」


「当たらなければどれだけ力が強くてもどうってことはないよ」


恰好いい事言っているが、要はゴリ押しというとっても脳筋な戦術。

だが、彼なら本当にやってのけそうだ、と私も勇気づけられる。


「…どうして危険とわかっていてそこまでするの。僕は強すぎる力を加減ができない、君たちを傷つけしまうのに」


「言ったでしょ、放っておけないだけって。…藤音さん準備はいい?」


「あぁ」


私がエリオスの言葉に頷くと、その場の空気はガラリと変わる。

男が言った通り、近づくと男は魔法を展開する。だけどそれは自分の意思ではなく、呪いの所為なのだ。その証拠に男は歯を食いしばり、呪いに抗っている。



魔法には魔法を、と私も対抗する。

私は向かってきていた閃光を無数の光の刃で撃ち落とし、残りは男に目掛けて向かう。

詠唱無しで魔法を使ったのに驚いたのか、男は慌ててバリアで自分を守護する。

動きを封じようと思ったが…ちっ、当たらなかったか


そんな事をしているうちに私の周りは魔法が幾つか展開されていた。

光を纏って自分を守るが、これは…一つの場所に留まるより動いている方がいいかもしれないな。

攻撃が止むと同時に藤音は自分が得意とする素早い攻撃へシフトチェンジする。




「そこっ!」


一方エリオスは、水晶に攻撃を仕掛けていた。

だが、水晶はちょっとやそっとの攻撃では傷一つすら付かないようで、『貫通』のスキルを持つエリオスが全力で仕掛けても貫けない程である。


水晶は地上から少し高いところにあり、攻撃を仕掛けるために高く跳んだエリオスは着地しようとするが、その時男が氷属性の魔法を展開し、エリオスを貫こうとする。

それに気が付き、空中で咄嗟に体勢を変え、突き出した氷を槍で薙ぎ払い、着地する。


「水晶を壊すのには、あの人の動きを止めないと…」


次々に仕掛けられてくる魔法を避けながら、対抗策を考える。


「藤音さん!」


何か閃いたエリオスは藤音の元に向かう、その時男が武器をエリオス目がけて振りかざしたが難なく受け止め、藤音にある提案をする。


「どうした!?」


「お兄さんの動きを止めることって出来る?」


話している間にも、攻撃は絶え間なく仕向けられる。

今はエリオスが分厚い氷で自分たちを覆っているので、少しだけ余裕があり、エリオスは何か作戦があるようで藤音にそれを話す。


「出来なくはないが、せいぜい数秒だと思う。」


どれだけ動きを封じても相手が武器を取って向かってくるのではなく、棒立ちのままでも魔法を使う相手なので意表を付いて隙を作る事しか出来ない、後は精々自分が一騎打ちで時間を稼ぐ位だと、藤音はエリオスに伝える。


それを聞いたエリオスは、十分、とだけ言って口角を上げ、ニヤリと笑みを見せるが目は笑っていない。


「じゃあ藤音さん、悪いけどあの人の足止め、お願い。」


「わかった、だが警戒は怠らないでくれ。」


「分かってるよ」


それを合図に、2人を覆っていた氷は砕け散る。

エリオスは再び水晶に向かって走り、藤音は男に向けて拘束魔法を仕掛け、光の糸ががんじがらめになって男の動きを止める。


「く、っ…!」


拘束がきついのか、苦痛に少し顔を歪める。

今だ。藤音は走って、エリオスの盾になるように男の前で武器を構えた。

男は力ずくで拘束を解き、藤音目がけて武器を振りかざし、藤音も己の刃で受け止める、ここからは純粋な力勝負。


「頼んだぞ、エリオス…!」


藤音は目の前の男に意識を集中させるが、男の力は強く、藤音は押し負けそうになる。

そして、あまりの圧倒的な力の前に、バランスを崩し、藤音は後ろに倒れてしまう。

しまった、と思うよりも早く、男が武器を向けてきていた。

立ち上がる余裕はない、と藤音は地面に倒れたまま武器を受け止める。



一方エリオスは、再び水晶に攻撃を仕掛けていた。

ただ闇雲に攻撃しても壊せない、意識を集中させ、槍を水晶に突き立てる。

やはりなかなか砕けない。だけどここで諦めるわけには行かない。


「砕けろ!」


何度も、何度も、攻撃を続ける。

その行為は一見無駄に見えるが、それでも少しずつ水晶にダメージが蓄積されていた。


そして最後の一振、大きく振りかぶって突き刺した槍は水晶を粉々に砕き、欠片は音を立てて地面に落ちる。



「う、わっ!」


水晶が砕け、呪いが解き放たれると男は気を失い、そのまま倒れこむ。

一方藤音も、突然気を失った相手に驚き、そのまま倒れてきた男の下敷きになる。


「お、重い…!」


自分より背の高い男の下敷きになり、藤音はもがく。殴って退けることは出来るだろうが、気を失っている相手に流石にそれは可哀想すぎる。


「エリ、オス…悪いが助け…っ!」


「わかった」


藤音の、助けを求める超えにエリオスがは慌てて駆け寄るのだが・・・・・・


「あっ」


「えっ」


石の段差に躓き、バランスを崩し、倒れた。

普段なら受身を取ったりして回避するのだが、流石に疲れているのかしてそれが出来ず、そのまま男と藤音の上に倒れ込む。


「ちょ、っ…ま…っ」


人間が2人自分の上に乗っかっている、しかも1人は気を失っていて、余計に重い。

エリオスの、自分を見る慌てた顔を見ながら藤音はそのまま意識を手放した。

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