第6話「植物の多い街」

シャリーやラピスに別れを告げて、街を出る。

クエストは登録の時貰ったバッチを見せれば、シャンリアネ国内のどの街のギルドでも受けれるらしい。

なんて便利なシステムなんだ、と藤音は感心する。


次の街までアイテムや経験値の為に歩いて向かっているのだが、エリオスにはこの辺りのモンスターは弱すぎる様で、さっきから一撃で倒しており、勝利したにも関わらず物足りなさそうな顔をしている。

次第にモンスターの出現率が減っていく、エリオスはやはり物足りないらしく、またEXモンスターのクエストに行きたいと、お願いされた。

私も、リベンジしたいと思っていたのでエリオスの言葉に頷いた。

そんなことがありながらも、私達は街道を歩き続け、街に辿り着く。


ざっと6.7時間だろうか。

先程いた街から一番近い街のはずなのに。到着にかなりの時間を要した。

のんびり歩くのも旅の楽しみでもあるのは事実だが、ものには限度がある、今度から馬車を使おうと藤音は決意する。


街に入ると、エリオスを見るなり、歳を召した町人がが感激の声を上げた。



「か、神の使いだ…!」


そう叫ぶと、街の人はこちらを振り向く。

意味がわからず狼狽えていると、あっという間に人に囲まれてしまっていた。

神の使いとはどうやらエリオスの事らしい、なぜなら街の人はエリオスしか見ていないからだ。

そして当の本人のエリオスは怖いのか、私の服をぎゅっと掴んでぴったりくっついている


「ふ、藤音さん…」


突然の出来事にエリオスも助けを求め、私を呼ぶ。


「すまないが離れてくれないか。」


少しだけきつめの声色で言えば、街の人達は、ハッとなって大人しくなり、私達からはなれていく。

思ったより聞き分けが良くて助かった。


「エリオス、君は神の使いだったのか?」


エリオスに問いかけてみると慌てて首を振っていた。


「僕そんなのじゃない」


となると、神の使いとは一体何なんだ…気になるがまずはこの囲まれている状況をどうにかしたい。暑苦しい。

そう思っていながらも、どうする事もできずに立ち尽くしていると、一人の女性が人混みを掻き分けて私達の前に現れる。


「皆さん、旅の方を困らせてはいけませんよ。」


現れたのは女性。街の人は彼女を見てシスター、と呼んでいたので恐らく聖職者なのだろう。

女性の言葉で街の人は散り散りになって、私達の周りも静かになる。


「ごめんなさいね、疲れているのに大勢で押しかけてしまって」


彼女は私達に頭を下げる。

構わない。というと女性はそう言ってもらえるとありがたいわ、と笑う。

丁度いい、神の使いとはなんなのか彼女に聞いてみることにした。


「あぁ、それはね、この街では金髪碧眼は神の使いと言われていているの、だからみんなこの子のことを神の使いと言っていたのよ。」


金髪碧眼は、太陽神ヘリオスの象徴で、それと同じ金髪碧眼を持つ人間は神聖な神の使い、というわけらしい。

確かに金髪碧眼は珍しいが…そうか、そんな風に考えている地域もあるのか。そういえば名前も一文字違いだしすごい偶然だな。

新しい発見に藤音がうんうん、と頷いていると女性は続けて言う。


「貴方は達冒険者?」


「あぁ」


「やっぱりね、宿屋はここをまっすぐ行けば着くわ。クエストを受けるなら宿屋で受け付けてるからそこで受けてね。」


「ありがとうお姉さん」


「良いのよ」


それじゃあまた会えたらいいわね、そう言って私達に親切にしてくれた女性は去っていった。

彼女と話しているうちに、街の人も散り散りになっており、私達の周りは通れる位になっていたのでとりあえず、長旅で疲れた体を休めるために宿に向かう。


宿に入ると、もう話が広まったのか主人が目を見開いてエリオスを見る。

だが直ぐに元に戻り、いらっしゃい!と活気のある声で出迎えられた。


「2人部屋は空いているだろうか」


ちょっと待っててくれ!と主人がが部屋の確認をしている。

その間、ソファに腰掛けて待っていたのだが、ある事に気が付く。

この街はやたら植物が多い気がする、

街に足を踏み入れた時から思っていたが、特に匂いの強い植物が多い様な…まぁ、匂いと言っても、ハーブ系の爽やかな匂いなので別に気にはならないのだが。

この街の人はよほど植物が好きなのだろうか、なんて事を考える。


横に座っているエリオスはを見ると本棚から本を取り出して読んでいた。

そういえば私が寝ている時も本を読んで時間を潰していたな、恐らく読書が好きなのだろう。

…それにしても読む速度早くないか!?パラ、パラと捲られる本は既に最後の方である。

そこまで分厚い本ではないが、それでもたかが5分でそれだけ早く本を読むエリオスに驚きを隠せない。

また新たな発見をしたなぁ…とエリオスを見ていると、主人が呼んでいた。

まだ読んでいる途中だったので、エリオスに待ってて、と言って受付に向かう。


「お客さん、部屋空いてたよ!はい、これが鍵だ!」


「ありがとう」


「いいってことよ!」


主人が豪快に笑うが、思い出したように、あ、と声を出す。


「ウチは料理が下手なやつばっかりで食事を提供してなくてな、食べるなら基本的に外の店になるんだが、厨房の貸し出しもやってるから使うなら言ってくれ。」


片付けさえしてくりゃ好きに使ってくれていいぞ!!と主人は人の良い笑顔で言う。

じゃあ後で貸して欲しいと、言うと快く頷いてくれた。

ついでに、この街の事や、やたら多い植物の事を聞いてみる。


「あぁ、それは魔除だよ。街の外れに城があるんだがそこに吸血鬼がいるって話なもんで、この街は吸血鬼が苦手な匂いの強い植物を置いているんだ。」


なるほど、ちゃんと理由があったとは。

それにしても吸血鬼とは何とまぁ…

だが、主人の口ぶりから嘘ではないのだろう。


「一応クエストにも城の探索があるんだが、行った奴は帰ってくるなり、あそこには行くな、って言うんだ。」


大広間には古い城に似つかわしくない、身なりの良い銀髪の男がいて、その男が死にたくなければ早く帰れ、って言うんだ。

大体のやつは何故だ、と聞くんだが、その瞬間魔法で攻撃され、大方腰を抜かしながら怯えて帰ってくる、とういうのが事実らしい。

で、その大広間にいる男がまさに吸血鬼ってわけだ。


「そんな城がすぐある割には随分楽観的なんだな」


「そうだなぁ、城に行った奴はちゃんと帰ってくるし、街に被害が出てないからじゃないか?」


それに続けて、吸血鬼はそこから出れないみたいだし、植物のおかげで街の周辺にはモンスターは寄り付かないしな、と言う。

確かにこの街に近づくにつれてモンスターは見なくなっていた、そういう事か。


暫く話を聞いていたのだが、エリオスを待たせている事を思いだし、主人にお礼を言って慌ててエリオスの元に戻る。


「あ、おかえり」


「すまない、待たせてしまって」


「本読んでたから良いよ」


エリオスは読んでいた本を閉じて立ち上がる。

何冊読んだんだ?と聞いてみると2冊読んだらしい。この短時間でマジか。

私も何の話をしていたのか聞かれたので、、厨房で食事を作れることや、植物が多い理由、街外れの城の話をすると、街外れの城に興味を持ったのか食いついてきた。

どうやらさっき読んでいた本の中に吸血鬼に関係する本があったらしい。


そんな会話をしているうちに、部屋にたどり着いたので入ってくつろぐ。

流石に長旅で疲れていたのか、部屋についた途端、疲れがどっと押し寄せてきた。

だが、お腹がすいているので、寝るわけにはいかない。

せっかく厨房を借りたので、食事をらなければ、と眠りに落ちかけていた意識をなんとか覚ます。


「私は食事を作ってくる、待っててくれ」


そう言って部屋を出ようとすると呼び止められた。


「まって、僕も手伝う」


エリオスがついてくる。

疲れているだろうから休んでてくれ、と言ったら。藤音さんもでしょ、と言われた。確かに疲れているが…


「それに僕、藤音さんに何から何までしてもらって頼りっぱなしだから…」


エリオスは申し訳なさそうに言うが、私は好きでやっているからそんな事気にしなくていいのに…

だが、せっかくの好意を無下にするわけにも行かないので、じゃあ一緒に作ろう。と言うと嬉しそうに頷く。


受け付けに行き、主人に厨房を使いたいと言うと案内してくれた。

そして、火には気をつけるんだぞ、と言って厨房を出ていく。


さて何を作るか、と私はアイテムウィンドウを開き、エリオスと食材を見る。

幸い、クエストや道中エリオスがモンスターを狩りまくってたので食材は豊富にある。

え?腐らないのかって?ははは、腐るわけないだろう?一応RPGだぞ?


おっと話が反れてしまったな。


「ちなみにエリオスの得意料理は?」


「刺身」


「刺身…」


「そう、刺身」


そっか、刺身かー…

…じゃあ米炊いて海鮮丼にするか!と言うとエリオスも異論はないらしく、普通に喜んでいたので晩御飯は海鮮丼に決定した。

そして、エリオスに魚を捌くのをお願いし、私は米を炊いて味噌汁を作る作業に入る。

ちゃんと出汁から作るに決まっているだろう。

暫く各々が手を進めると、あっという間に出来上がる。

刺身が得意料理?というのは本当らしく、エリオスは手際よく魚を捌いていた。

しかも身も綺麗に取れている…

そんな新たな一面を発見しつつ、料理を器に盛り、手を合わせて食べ始める。


「それにしても上手に捌くんだな」


「ん?あぁ、港町だったからよく素潜りもしてたんだ。それを捌いてたら自然と上手くなってたよ。」


狩りとか素潜りとか、落ち着いた見た目に反して本当に行動がアグレッシブで毎回驚かされる。

熊を丸腰で仕留める母と凄く気が合いそうだ。


「ねぇ藤音さん」


ぼーっとしているとエリオスに名前を呼ばれた。


「どうした?」


「明日街外れの城に言ってみない?」


突然のエリオスからの提案。どうやらEXモンスターはいつでも狩れるから城に行ってみたいらしい。

アグレッシブに加えて好奇心旺盛ときたか!

だがな…うーん…


「だめ?」


「だめ…とは言いたくないが…」


「確か行った人はみんな帰ってきてるんだよね」


「追い返されるけどな」


「行くだけ行ってみようよ」


エリオスは私を真っ直ぐ見つめてくる。

そのあまりにも真っ直ぐな視線に頷きそうになるがぐっと堪える。

何にせよ危険には変わりないのだから。

なかなか頷かない藤音に痺れ切らしたエリオスがじゃあ、と口を開く。


[newpage]


「僕一人で行ってくる。」


その言葉に藤音は飲んでいたお茶を危うく噴き出しそうになった。

そうきたか…!まったく怖いもの知らずなのか、命知らずなのか、何なのか…!!


「どうして行きたいんだ?」


「その吸血鬼と話がしたい」


「何故!?」


「おばあちゃんが言ってたんだ、世間には色んな人がいて色んな種族がいるから冒険して沢山のもの見て世界を広く持ちなさいって」


旅をしたいと言ったのもおばあさんがそう言ったからだと、エリオスは言う。

確かにその精神は素晴らしいが死んでは元も子もない。


「藤音さんもしかして怖い?」


「…そりゃあ」


吸血鬼といえば人間より圧倒的な力を持ち、人間を襲い、血を吸う冷血無慈悲な種族…と一般的には言われている。

私はまだ死にたくない、やり残したことが沢山ある。

彼は死ぬことが怖くないのだろうか、それとも死なない自信があるのだろうか。



「君は怖くないのか、命を危険に晒すことが」


「怖い?何で?」


「…だって、死んでしまったら親にも、友人にも会えないんだぞ、やりたいことも出来なくなる。それでもいいのか」


私の言葉にエリオスは少し考えて、話し始める


「僕はおばあちゃんも、父さんも母さんも死んじゃって家族はいないから、死んだらおばあちゃんたちの所に行けるかなって、思ってる。…だから怖くないかな」


あ、でも仲のいい幼馴染はいるよ、と言うがまさかの答えに私は何も言えなかった。

両親と伯父、祖父もいる私と天涯孤独のエリオス、私と彼は何もかも違いすぎるのだ。


「…」


思いもよらない所でエリオスの境遇を知り、私は黙ってしまう。

私が何を言ったところで、彼の価値観は変わらない。むしろ、そんな境遇で生きてきた彼の価値観に私が口出しすること自体がおこがましい。


「これは僕のワガママだから付いてこなくても大丈夫だよ。」


私が思考を巡らせているとそうエリオスは言う。それどころか、無理に誘ってごめんね、と謝られた。

違う、謝らないでくれ、君は悪くない。


「私も付いていく。」


「え、でも」


自分の世界を広げるために危険を顧みない目の前の少年。

何故だかは分からないが、彼を守らなければ、と使命感が私の中に芽生える。

お節介かもしれない、鬱陶しいと思われるかもしれない、嫌われるかもしれない。それでもいい、私は彼の側に居なくてはいけない、そんな気がするんだ。


「君は私が守ろう、死なせはしない。」

「それに、そんな若さで会いに行ったらおばあさんたちが悲しむぞ?」


私の言葉にエリオスは目をぱちくりさせ、そうだね、と呟く。


明日は万全に準備をして行こうか、と2人で笑う。

そうとなれば、使った器具や食器を洗って片付け、風呂を済ませ、部屋に戻って私たちは早めに寝ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る