第5話「意外な過去」

「起きた?」


藤音が目を覚ますとエリオスが読んでいた本から視線を外し、おはよう。と声をかけた。

藤音はエリオスにおはよう、と返し、ベッドから起きて伸びをする。

久々によく寝たのかとてもすっきりした気分だ、体の調子も良い。


「エリオスはいつ起きたんだ?」


身の支度が済んで本を読んでいる様子からして、エリオスが自分より早く起きて自分が起きるのを待っていたのは明らかで、申し訳なさを感じる。


「3時間前くらいかな」


エリオスは特に気にしていないようでさらっと言う。

現在の時刻もせいぜい8時前だ、つまり3時間前ということは5時には起きていたことになる。


「すまない…!」


「気にしないで、さっきまで散歩に行ってて楽しかったから。」


顔を青くして申し訳なさそうに謝る藤音。

エリオスには気にしないで、と言われたがエリオスが起きたのにも気が付かず、それどころか3時間も寝過ごした自分に忍者としてそれはどうなんだ、と頭を抱えた。


エリオスもエリオスで、疲れている様子の藤音を気遣い寝かせたおいたのだが、藤音にとってはありがたくも、自分だけぐっすり眠ったことに申し訳なく感じたようで、それを聞いたエリオスはやっぱり律儀な人だと思った。



「お腹空いただろう?食事にしよう。」


いつの間にか身支度を済ませていた藤音かエリオスに声をかける。

身支度の速さに驚きながらも、エリオスは頷いて藤音の後をついて行く。


ロビーに行くと、先程とはうってかわって賑やかだった。

ただ賑やかなだけでなく、どこかそわそわしたり興奮している人達が多いようで、エリオスと藤音はお互い顔を見合わせて首を傾げる。


「おはようございます」


2人に気がついたシャリーが朝の挨拶をする。

2人はそれにおはよう、と返し、この状態は何なのか聞いた。


「どうやら街に騎士団の方々が来ているみたいなんです、私もさっき見かけたんですがとてもかっこよかったですよ!」


シャリーは嬉しそうに話す。

へぇ、騎士団が…と藤音は興味を示し一目見てみたいと思った。

今ままで遠目で見る機会はあったのだが、近くでまじまじと見たことはないのだ。


ふと、藤音は黙ったままのエリオスを不審に思い、視線を移す。

エリオスは眉間にシワを寄せていた。


「エリオスは騎士団に興味無いのか?」


皇帝陛下が管轄する直属の騎士団は、シャンリアネ帝国民の英雄であり、憧れを抱き目指す者も多い。

だがエリオスは興味どころか、騎士団と聞いて少し嫌そうな顔をしている。

あえて興味はないのか、と聞いてみた。


「ない」


間一髪入れず、一言だけ返された。

そんなに!?と藤音は驚く。

なぜそこまで毛嫌いしているのかは分からないが、事情があるのだろう。

私はそれ以上追及する事をやめた。


話は逸れたが、外で朝食を食べる予定を立てていたが、エリオスが外に出たくないというので、私が外に買いに出て宿で食べることにした。




「じゃあ行ってくる」


「いってらっしゃい、藤音さん」


エリオスに見送られながら私は街に出る。

騎士団の周りには街の人が集まっていたり、ととても賑やかだ。

騎士団は視察に来ているらしく、街を見て回っていた。

別に威圧感を与えていたり、何かを無理強いしているわけではない、街の人には歓迎されているように思える。

エリオスは何がそんなに気に入らないのだろうか・・・そんな事を考えていたが、埒が明かない為、そんな光景を横目で見ながら何を買うか決めるために店を見て回る。

しまった、エリオスの好きな食べ物聞いてくればよかった…宿に戻ろうかと思ったが結構歩いてきてしまったので、諦めた。

今はとりあえず美味しそうな物を買って、後で何が好きか聞いてみよう…


昨日の噴水の所まで来ると、見知った人物を見つける。

向こうも私に気がついたようで、顔を明るくさせてこちらに走ってきた。


「やぁ藤音さん!」


名前を呼ばれて、ん?となる。

私、名前を教えただろうか…と思っていたらその答えが返ってきた。


「今朝エリオスと会ってね、その時に聞いたよ」


なるほど、散歩に行っていたと言っていたしその時にラピスに出会っていたのか。

納得して頷く。

今日も実演をする為に来ているのかと思ったが、道具を持っていないのでどうしたんだと聞いてみる。


「こんな調子じゃ商売あがったりだから置いてきたよ、せっかくエリオスに付いてきてもらって石を取ってきたのにさ」


ラピスは騎士団を見ながら頬をぷくっと膨らませて拗ねている。

確かに街の人の関心は騎士団に向いているので、実演しても人が来ないだろう、という事らしい。


「まぁそこそこ栄えてるとはいえ、こんな国境付近の街に騎士団が来ることなんて滅多にないからな、1日くらい構わないさ。」


「そ、そうか」


「そういえばエリオスはどうしたんだ?2度寝か?」


あはは、とラピスは笑っている。

騎士団が、いるのを知って外に出たくないと言って宿にいることを伝えると、一言


「そうか」


と呟く。

その顔は何か知っている様子だった。

エリオスに聞くのは流石にアレなので、この際だ、ラピスに聞いてみることにした。

そしたらラピスの口から思いもよらない言葉を発せられる。


「知らないのか?エリオスは騎士団に居たんだぞ、今は辞めたらしいけどな」


エリオスが騎士団に入っていた?本当かと尋ねるとラピスは頷いた。


「あぁ、1年前に騎士団がこの街をモンスターの手から救ってくれた事があってな。その時モンスターに殺される寸前だった俺を助けてくれたのはエリオスなんだ。」


そんな事があったのか…まさかの繋がりに驚くが、あることに気がつく。

昨日はまるで初対面の様だった、そう言うと、あれはまさかお互い覚えてるとは思わなくて言わなかったんだ、と言われた。

そして今朝に、やっぱりあの時の!となって意気投合したらしい。


エリオスがやたら強いのも納得が行く。騎士団に所属していたのならそりゃあ強いはずだ。

思いもよらない過去を知って、正直私は驚いている。

謎の多い子だ、と改めて思った。



「辞めた理由は俺も知らないけど勿体ないよな」


「確かに・・・」


だがなんとなく、エリオスはそんなもの関係ない、とあっさり手放しそうだと思った。

それからもう少しエリオスの話を聞いたり、後は持ち帰りができる美味しい店をラピスに教えてもらい、そこで朝食を買う。

昨日のお礼に彼の昼食も一緒に買った。

もっとちゃんとした礼を、と言ったがこれで十分だ、と返されてそのまま別れる。


そんな事がありつつ、思ったより長く話していたようで、時刻は9時になろうとしていた。

しまった、お腹を空かせているだろう、とラピスに別れを告げて慌てて宿に戻る。




部屋に入るとエリオスはベッドに腰掛けて本を読んでいた。

扉が開いた音に気が付いてこちらを見ると、おかえりなさい、と言って本を閉じる。


「ただいま、途中でラピスに会って美味しいと聞いたものを買ってきた」


部屋に置かれた小さなテーブルにさっき買ってきたパンで具を挟んだ、サンドイッチと飲み物を置く。

店でも思ったが、改めて見ると美味しそうだ。

実はサンドイッチという食べ物は知っていたが、食べるのは今日が初めてなので少し楽しみだ。



「ありがとう。でもごめんね、僕が我儘言ったから藤音さんに買いに行ってもらう事になっちゃって…」


「気にしなくていい、寝てる間退屈させたからこれで帳消しだ」


そういうと、しゅんとしていたエリオスの顔に明るさが戻る。

流石にお腹が空いただろうから食べよう、そうして私達は朝食を食べ始めた。

あ、美味しい・・・今度作ってみよう。なんてことを考えながら食事を進める。


・・・それにしてもまさかエリオスが騎士団に所属していたとは…先程知った意外な事実を思い出す。

だが、全く想像つかない訳ではない、昨日のEXモンスターとの戦いでは普段からは想像もつかないがその片鱗を見せていた。

人は見かけによらないものである。

驚きはしたが、藤音は目の前で美味しそうにサンドイッチを食べている少年を少しだけ知ることが出来て嬉しく思い、微笑んだ。




藤音とエリオスはお互いの事をまだ良く知らない。

だが知らないのなら知っていけばいい。

2人の旅はまだ始まったばかりなの

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