第4話「早朝のお出かけ」

窓から入ってくる朝日の眩しさにエリオスは目を覚ます。

横を見ると藤音さんが面白い状態で気持ちよさそうに寝てた。

寝相悪いんだ…なんて意外な発見をしつつベッドから起き上がり、窓を開けて伸びをする。

そういえば昨日ベッドに入った記憶が無いんだけどもしかして藤音さんが運んてくれたのかな。そうならお礼を言わなきゃ。


エリオスはもう一度藤音を見る。あまりにも気持ち良さそうに寝ているので起こすのも悪いかと思ってそのままにしておく事にした。

エリオスは朝早くに起きるのが習慣になっており、早起きは当たり前になのだがなんせまだ朝の5時だ、普通に起きるにしても少々早すぎる。


「散歩でもしてこようかなぁ…」


天気も良いし。

まだ起きる気配のない藤音を見て、部屋に常備されていた紙にペンを走らせ、置き手紙を残して部屋を出た。

起きていた宿の主人に一言声をかけて外に出る。


昼間の風景とは打って変わって、人気がなく、街はひんやりとした澄んだ空気が漂っている。

昨日見た光景とこんなに違うのかと、きょろきょろ周りを見ながら進んでいたが、昨日のラピスと出会った噴水まで来て足を止め、噴水の淵に腰掛ける。


エリオスはラピスの顔に見覚えがあった。

1年前だか2年前だったかは忘れたが見たことがあったのた。

お互い名乗ったのは覚えているが、随分前のことなので忘れてしまっていた。

名前どころか相手は会ったことすら忘れていたようだが…


そんな事を考えていると、腹の虫が鳴った。

朝で人がいなくてよかった、と腹の音を聞かれていないことにほっとする。

そういえば昨日は食べ歩いていたから晩御飯を食べてないんだっけ…腹の虫を沈めるためにお腹をさすっていたら後ろから笑い声が聞こえた。しまった人が居たか。



「やぁ、…エリオス」


「ラピス」


振り向けば昨日であったラピスがいた。

昨日会った時は完全に初対面、という風だったので名前を呼ばれて少しだけ驚く。


「覚えてたの?」


「当たり前だろ」


ラピスは笑う。

だったら何故初対面のフリをしたのか、と聞いてみる


「だってお前俺を見てもなんの反応もなかったから忘れてると思ったんだよ!俺からしてみれば命の恩人だけどさ、お前にとっては俺なんてただの一般人だぜ?」


「それは、ごめん。まさか一回会ったきりだから覚えてるとは思わなくて」


お互いが同じことを考えていたようで、2人はなーんだ、と脱力する。

そうだ、とラピスはエリオス気になっていたことを尋ねる。


「何でこんな所にいるんだ?遠征か?」


「ううん、観光。」


「休みでも取ってるのか?」


「取ってないよ」


「じゃあ何でだ?騎士団はどうした?」


「辞めた。」


「嘘だろ!?」


ラピスは驚いてエリオスの肩をつかんで揺さぶる。それはもう強く。

あまりの激しさにエリオスは目を回しながらもラピスの動きを止める。

目を回しているエリオスを見てごめん、と謝るが今度はまくし立ててなぜ騎士団を辞めたのか質問する。


「いやぁ…色々あって辞めちゃった。」


サラッと言い切るエリオスに驚きと落胆を隠しきれないのかラピスは、はぁ…とうなだれている。

そんなリアクション取ることかな…とエリオスはそんなラピスを見つめる。


「騎士団なんて入る事だけでも名誉なのに…」


「別に名誉のために入ってた訳じゃないから…」


エリオスの言葉に、お前はそんな感じだろうな、何となくわかるわ。とラピスは返し笑う。



「ラピスはこんな朝早くからどうしたの?」


「俺?今から今日使う石を取りに行くんだ」


宝石加工見習いのラピスはまだまだ修行中の身なので、とにかく数をこなせと師匠である父に言われているらしい。

そして毎日早朝に石を取りに行き、それで練習したり、昨日の様に実演をしているというわけだ。


「僕も行っていい?用心棒位にはなるよ。」


「え?そりゃ、有難いけど…昨日のお連れさんは?」


ラピスは昨日の一緒にいた藤音がいない事に気になってエリオスに聞く。

エリオスは、寝ていたので置き手紙を置いて出てきたという事を伝える。

ラピスはそれを聞いて納得し、2人は街の外にある鉱山に向かっていった。




石が取れるという場所に到着し、エリオスはその光景に目を輝かせる。

岩だらけの洞窟かと思えばそうではなく、水晶や、昨日見た加工する前の石が岩から生えており、ラピスはそれを器用に取っていく。

石とはこんな風に生える?のかと、エリオスはその辺に突き出している碧の石を撫でる。


「それ、昨日プレゼントしたのと同じ石でアクアマリンって言うんだ、エリオスの瞳と同じ色なんだよ。」


ラピスが石を撫でるエリオスに教えると、へぇ、と言ってその石をまじまじと見る。

アクアマリンの意味は安らぎと癒し、そして不慮の事故や災害から守ってくれる石。それを選んだのは、ラピスの旅の無事を思う気持ちからだった。


「藤音さんにあげたのは?」


「お兄さんにあげたやつはアメジストっていって。ある地域では最も気高い色といわれてて癒しの力が強く、マイナスのエネルギーを浄化してくれたりする。また愛の守護石とも呼ばれている。」


藤音さんって人にぴったりじゃないか?

とラピスに言われ、エリオスは確かに気高い、という感じは藤音にぴったりだと思った。

エリオスはそれぞれ意味があったのかと感動し、それからもラピスの話を聞きながら石を取っていく。


しばらく取り続けていたが結構な量を取っていたらしく、袋には沢山の石が入っていた。

持てるのだろうか、とさえ思えるが毎日の事で慣れっこのラピスは、袋をヒョイっと持ち上げる。



「少し魔物が居る場所に行きたいんだがいいか?」


申し訳なさそうにラピスが尋ねる。

普段はあまり危険な場所に行かないのだが、そう言った場所は貴重な石は多く、行けるなら行きたい。

ラピスはエリオスの実力を知っているのでそれを見込んでお願いする。


「良いよ、でも危険なのには変わりないから警戒は怠らないでね」


狩りで危険な場所に行ったり危険な生き物と戦うエリオスはその危険さを知っているのでしっかり念を押す。

ラピスがそれに頷くと、エリオス達は別の場所に移動する




四方からモンスターの気配がする

エリオスは辺りを見回すが、ラピスは気が付いてないのか石を集めていた。

何があっても守れるようにエリオスはラピスの側に寄る。


「ん?どうした?」


モンスターがすぐそばにいるとも知らず、ラピスは呑気に石を集めている。

貴重な石を沢山取れて嬉しいのかその顔は綻んでいる。

警戒は怠らないでって言ったのに・・・とエリオスは思ったが、貴重な石に気持ちが行ってしまっているのだろう。

自分も熱中すると周りが見えない時があるので、何も言わず、ラピスの言葉に何も、とだけ返して神経を集中させた。


暫くの時間が過ぎ、帰ろうか、とラピスが立ち上がると、モンスター達も動き出す。

草陰から現れる獣の目は飢えている。


「下がってて」


ラピスは驚いてエリオスにくっつく。だが、落ち着きを取り戻すと頷いて一歩下がる。

途端に周囲に氷の壁が現れ、それはエリオスが自分を守るためにしてくれたのだと理解する。

1年前と同じだ、と少し懐かしさを感じた。


「今だと食前の運動かな」


軽く体を動かして、獣達に先制攻撃を仕掛ける。

どこから出したのか槍を振りかざしモンスターを退けるが、他のモンスターが振りかざした後の隙だらけのエリオスに襲いかかる。

エリオスは視線だけ動かし、背後のモンスターを氷で貫くと苦しそうな鳴き声を上げ、その光景を見たモンスターは怖気づいて後ずさっていた。

それに目を付けたエリオスが、槍に冷気を纏わせて振りかぶり氷の刃を飛ばすと、モンスターが凍りつく。


「これで終わりかな」


ニヤリ、と口を歪め普段のぼんやりした雰囲気を殺し、狩人の目でモンスターを見る。

そうすると、モンスターは完全に刃向かう戦意を失い、耳としっぽを下げて降参しているのが見て取れた。

別に今日は狩りの為に来たのではないので、攻撃をやめる。

エリオスが槍を下ろすと、獣達は草陰に逃げていき、エリオスもそれを追う事はしなかった。


「終わったよ、帰ろう」


エリオスがラピスを守っていた氷に触れると、がしゃん、と音を立てて割れていく。

先ほどの戦いを見て、獣を恐がらせて退散させるとは相変わらず強い奴だ、とラピスは改めてエリオスの実力を再確認する。むしろ前より強くなったのではないか、とさえ思えた。


そろそろいい時間でもあるし、モンスターが再び襲ってくる前に2人はそこを後にした。

帰る道中、あんな石が取れた、こんな石がある、といったいろんな話に花を咲かせながら街に戻る。


早朝に出会った噴水でラピスに別れを告げ、宿に戻る。




結構長い間外にいたから藤音さんはもう起きてるかな…

宿に入ると、席を外しているのかカウンターにもロビーにも人は居なかった。


部屋の扉を開けると、藤音さんが起き…起き…・・・・・・いや、寝てる、体は起こしてるけど目は完全に閉じてて揺れている。



出かける前の寝相といい、普段しっかりして頼れる藤音の、少し抜けた貴重な一面を知ることが出来て少し嬉くなったエリオスだった。


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