第2話「家に帰るために」

日が昇り、私達は街に行くために歩いていた。

少しお互いの話をして分かったことがある。


エリオスは狩りで生計を立てていたらしく、戦闘においてはとても頼りになる。

更に、氷の属性持ちでそれだけでも驚いたのに、先ほど、国が討伐隊組んで倒す様なモンスターをあっさり倒した時はとても驚いた。

そしてエリオスは18歳と言ったが、私は14.5歳だと思っていた。それを言ったら苦い顔をされた。申し訳ない。

そんな彼の両親は既に他界しており、育ててくれた祖母も今年亡くなったらしい。


重要な事といえばこれくらいで、それからは他愛もない話をしながら歩みを進めた。

暫く歩くと街にたどり着き、私はこれからの事をゆっくり話すためにまずは宿を探す。

多少のお金は持ち合わせているから泊まれないという事はないだろう、多分。

街に入ってすぐ見つけたのは冒険者たちが利用するような宿、なんとギルドの役割も受け持っていてしかも食事付きらしい。


「お2人様のご利用ですね」

「ああ」


受付の若いお嬢さんが素敵な笑顔を見せながら対応している。


「ギルドには登録されていますか?」

「いや、今は」

「よろしければ今でも承りますよ」


お嬢さんは申し込みの用紙をだそうとしていたが、今はいい、と断りを入れる。

結果的に登録することになるだろうが、まずはエリオスと話し合わねばならない。

お嬢さんはそうですか、と残念そうに用紙をしまい、受付を続けた。

そして無事部屋を取ることが出来、私は鍵を受け取った。


「ではごゆっくりおくつろぎ下さいね!」

「あぁ、ありがとう」


挨拶をして、ロビーに待たせているエリオスの元に戻る。

私の姿に気が付いたのか、エリオスがソファから立ち上がってこちらに向かってきた。


「藤音さんおかえり」

「ただいま、部屋は無事に取れたから行こうか」

「あ、まって宿代出すよ」


エリオスがそう言うと同時に服を後ろから捕まれ、私の動きは止まる。

宿代を出すといったか?まさかこんな子に出させるわけにもいかず、私は気にするなと伝える。

だがエリオスは納得行っていないようで首を振った。


「僕もお金はちゃんと持ってるから出す」

「エリオス、そのお金は君が大切に持っておけ。それは君が貯めたお金だろう?」

「それは藤音さんも一緒でしょ」


痛いところを鋭く突いてくる子だな…

だが私にも年上としてのプライドがある。なんとか説得を試みた。


「どうか私に払わせてくれ、こういうのは年上の役目だ」

「……………うん」


かなり間が空いたあとにエリオスはなんとか納得してくれた。

それじゃあ今度こそ部屋にいこうか、と私が言えばエリオスは頷いて私の後ろを付いて来た。



扉にかけられていた鍵を開け、部屋に入る。

2人で泊まるには十分の広さだ。

とりあえずエリオスに腰掛けるように言い、私もベッドに腰掛ける。


「さて、これからの事について話そう。」

「うん」

「まず旅には資金が必要だ」

「うん」

「というわけでギルドに登録して稼ごうと思う。」

「うん」


ギルドに登録すれば、色々な補助を受けれる事を説明した。

説明を聞いたエリオスはどうやらやる気の様で、心なしか目が輝いている。

そうと決まれば登録しに行かなければ。


「じゃあ行こうか」


かさばる荷物を部屋に置いていき、部屋を後にする。

先程の受付のお嬢さんにギルドに登録する旨を伝えると、快く対応してくれた。

名前と少しの個人情報を書いて後はバッチを手渡されるというだけで、登録はいたって簡単だった。そんなに簡単でいいのかと聞いてみたらギルドは人手が欲しいようで、誰でも歓迎、というわけらしい。


「はい、ではこれで登録は完了です。直ぐにクエストを受けることが出来ますがどうしますか?」


どうする?と聞こうとエリオスの方を見たが、顔が行きたい、と訴えかけていた。


「では頼む」


私がそういうや否や、お嬢さんは「あちらをご覧ください」と扉付近の掲示板を指さす。

その掲示板には紙が沢山貼り付けられており、その近くにあるテーブルには依頼書が置かれていた。

どうやらその依頼書を受付に持ってきたらクエストを受けることが出来る、というわけらしい。


「何かご不明な点があればいつでも聞いてくださいね!」


お嬢さんにお礼を言って、その掲示板に向かう。

魔物退治からアイテムの回収、ダンジョン探索、等様々なクエストがあった。

いくらエリオスが戦闘において頼りになるとはいえ、あんなことがあった次の日にハードなクエストは……いや、さっきあっさりモンスター退治してたな…

ふとエリオスを見ると一つの依頼書を見つめていた。…嫌な予感がする。

どんな依頼書を見ているのかと後ろから覗いてみた。




予感は的中、見ていた依頼書は、EXモンスター討伐のクエスト。

いやいやいや、それ受けるのか?行きたいのか?


「藤音さん、これ…」


行きたいんだな…目が訴えている。その目をやめるんだ…!!


「お願い、駄目?」


私の方が身長が高い為、必然的に上目遣いになりしかも首をかしげている。

女の子がすれば男はコロッと落ちてしまうだろう。

だが、エリオスは男なのにその仕草がとんでもなく様になっているので、美少年というのは恐ろしい。

現に私もほだされかけている。私の場合ただのお人好しだと思いたい。


「…本当に?」

「うん、嫌なら僕だけで行くから…」


そういう問題ではない。君が危険な目にあうから私は素直に頷けないのだ。

死んでしまっては元も子もない、と考えを改めてもらう為に屈んで目線を合わせて説得する。

それでもエリオスは渋る。

これではキリがない。まさか彼がここまで頑固だったとは…


「EXモンスター倒したらお金も貰えるし…藤音さんに迷惑かけたくない」


この宿の料金を私が払った事で、金銭的に迷惑をかけたくないと思ったのだろう。…気にしなくていいと言ったのに…

ある意味甘えれないタイプの子なのだろうか…そんな子だと思ってしまうと余計に甘やかしたりしたくなる自分の性格本当お節介だな…

とまあそんな事はさておき、ならば徹底的に彼に付き合おうと、私は決める


「分かった、そのクエストを受けよう。だが危険だと判断したら直ぐに撤退する。いいな?」

「うん!」


しゅん、としていた表情が明るくなる。


そうと決まればエリオスが見ていた依頼書を剥がして受付に持っていく。

剥がす時に気が付いたのだが、掲示板に乗せられている依頼書は優先度や危険度が高いクエストだった。

目に付きやすいようにだろう、優先度はともかくEXモンスター討伐のクエストといった危険度の高いものまで貼ってあるとは、よほどそのモンスターをすぐにでも討伐して欲しいのだろうか。

まぁ今の私には関係の無いことなので、それを忘れることにした。



「このクエストを受けたいんだが」


さっきのお嬢さんにクエストの依頼書を出すと、えっ!?と驚きの声を上げる。


「これ、あの…っ!」


言いたいことはよくわかる。

何か言いたそうなお嬢さんに無理を言ってなんとかクエストの受付をしてもらった。

さて、無事にクエストを受けることは出来たが…私はEXモンスターと戦った事は無い。私1人では適わないからだ。

そんな不安を胸にエリオスの元に戻る。

そしてエリオスにある事を聞いてみることにした。


「どうしてエリオスはこのクエストを受けようと思ったんだ?いくら報酬が多いとはいえ怖くないのか?」

「うん、だってこのモンスター何回も倒してるもん」


衝撃の事実をあっさり告白された。

どおりで行きたがるわけだ…私は頭を抱えた。倒した事があるならそりゃあ怖くはないか…

改めてこの少年が戦闘面でかなり頼りになる事を思い出した。


その後街を出てモンスターが居るという場所に来たが…今まさに目の前に居る。

硬そうな鱗が全身を覆った、竜の様だ。生えた牙や角や爪は刺されば一溜りもなさそうである。

エリオスが行こう、と声をかけてくるが正直行けない。ここにきて2人で倒すにはあまりにも無謀だと思った。

私の魔法で動きを封じて拘束してもすぐに解かれそうで、勝てるとは到底思えない。

それを見たエリオスは気を使ってくれたのかエリオスが言う。


「藤音さん、怖かったら下がってて。僕がやる」


エリオスが言葉を発した瞬間、先程までのおっとりした雰囲気は消え、ひやりとした冷気を漂わせ、獲物を見つめる。その目は捕獲者の目付きだ。

不覚にもそんなエリオスを見て背筋をぞくりとさせてしまった。それが恐怖からなのか何なのかはわからない。


本当は私もやる、と言いたかったが至近距離で初めて目にしたEXモンスターに対し、恐怖心を抱いてしまってそれは叶わず、大人しく頷いた。

そして、純粋に目の前の少年が戦う様を見ていたいと思ったのだ。


殺意に気が付いたモンスターがこちらに襲いかかる。

エリオスはひらりと尻尾の攻撃を交わし、付け根に槍の先を突き刺せば竜は苦しげな鳴き声を上げる。

その小柄な身から次々繰り出される攻撃は竜の体力を確実に奪っていく。

そうこうしているうちに竜は満身創痍になっていた。

最後の力を振り絞ったのか竜はところ構わず炎を吐く。まずい!と思った時には既に遅くエリオスは、私は、炎に飲まれていた。


とっさに目を瞑るが、いつまで経っても感じない熱さに不思議に思い、瞼をゆっくり開く。

視界に映ったのは一面の凍りついた世界


「え?」


吐き出した息は白かった。

竜は足元から次第に凍りつき、今では全身が氷で覆われている。

そしてその氷像は突然音を立てて崩れた。

崩れた竜の向こう側からは槍を構えるエリオスが現れる。


どうやら竜を凍らせ、それに槍を突き刺すことで竜を仕留めたらしい。

地面に着地しようとしているエリオスの周りに細かい氷の欠片が舞う。

キラキラした氷を纏ってひらりと着地するその姿はまるで氷の妖精だ、と私は思った。


その光景を見て呆気にとられていた私はエリオスの声によって意識を現実に引き戻される。


「藤音さん怪我はない?」


心配そうに私を見つめている少年はあれ程激しい戦いを繰り広げていたのに擦り傷一つない。

私が、あぁ…と返事をすると「良かった」と安堵の表情を見せる。先程の殺意と凍りつくような捕獲者の目付きはとうに消え去っていた。


エリオスは狩りで生計を立てていただけあり、モンスター、いやむしろEXモンスターを倒すのは慣れっこの様で、いつも通りだった。

私は戦うことに離れているが、普段人間しか相手にしない上に不意打ちをつくスタイルだ。このようなEXモンスター討伐は初めてで私はただぼーっと見ていることしかできなかった。

これではどちらが守られているのやら…恥ずかしくなって小さくため息を吐いた。

だが落ち込んでいる暇はない、さっさと町に戻ろう。

竜の死体から討伐の証拠になる、竜の牙、竜の爪、竜の角、ウロコなどのアイテムを回収し、アイテムボックスにしまう。

持ちきれるわけないだろ、という苦情は受け付けない。RPGのお約束だ。




「えっ、と…」


宿に戻り、受け付けのお嬢さんに報告する、お嬢さんの顔は心なしか引きつっていた。

それもそうだ、危険なクエストを行き帰りの時間を含めものの1時間と少しで済ませたのだから。

余りにも早すぎる仕事に嘘だと思ったのだろうが、回収したアイテムを出すと認めざるを得ないようで、お嬢さんは快く処理をしてくれた。


「ではクエスト達成とさせて頂きますね。…あの、お2人ともお怪我はありませんか?」

「見ての通りだ」

「ないよ」

「それは良かったです。あ、こちら報酬ですのでお受け取り下さい。」


受け付けのお嬢さんがそう言うと、受け取った報酬がウィンドウに表示される。…何だこの量…

私は思わず引いた。いや、依頼書に報酬が書いていたので知っていたのだが…

エリオスを見ると同じリアクションだった。そうだよな、そうなるよな…


とりあえずお嬢さんにお礼を言って部屋に戻る。


「思いの外量があるな」

「う、うん」


目の前には大金が表示されたウィンドウ。

お金が手に入ったのと回復アイテムを買う手間が省けたのは嬉しいのだが、こうも苦労せず手に入ってしまうと感動もクソもない。

しかも私はエリオスが戦うのを見ていただけで、何もしていないのだ。

ウィンドウを見て苦い顔をしているとエリオスが私の名を呼ぶ。


「ねえ、お金はクエストを受けた分から使おう」

「え?」

「2人で一緒に稼いだお金だから」


この少年は多くを語らないが、私は何を考えているのか大体わかった。

2人で稼いだお金があればお互いのお金を使うことなく旅ができる、だからクエストで稼いだお金は旅の資金に。ということだと思う。


「そうだな、この量なら当分は無くならないしお互い気を使うことは無いからな」


私がそう言えばエリオスは満足そうに頷いた。

さて金銭的な問題は解決した、次はこの先どうするかだ。

実は暫くこの街でクエストを受けたりして資金を稼ぐつもりだったのだがこれだけの量があれば明日にでも街を出発できる、私はエリオスに尋ねた。


「明日にでも旅に出れるが・・・エリオスはどうしたい?」


あくまでもこの旅の主役はエリオスなのだ、そして私はそれに付いて行くだけ。

エリオスは暫く考えた後ポツリポツリと話し始める。


「あのね、僕、色んな物見たり色んな場所に行ってみたいんだ」


申し訳なさそうな声色だった、恐らくまた気を使っているのだろう。


「あんまり故郷以外の場所を自由に動き回ったことなくて・・・」

「ならいっそ思い切り旅を満喫しようじゃないか」


エリオスは私の提案に顔を上げる。

まだ若いのだからもっと楽しめばいいじゃないか。私の言葉にエリオスは眉をハの字にして言う。


「でも、藤音さんが」

「私の事は気にするな。わがままも子どもの特権だ、今のうちに使っとくと良い。」


そしてついでに、実は私も任務の為に色々見ることはあれど、自由に外の世界を楽しんだことはない。と伝えると嬉しそうに本当?と聞かれたので本当だ、と念押しすればエリオスの表情は安心を見せた。どうやら不安要素は除くことが出来た様だ。

かくして私たちは、家に帰る事に加え、観光するという目標が出来上がり、午後からははのんびり町を見て回ろうという事になった。

正直街に着き、ギルドに登録してEXモンスター討伐したのは午前中の出来事という事に、自分でも驚いている。




何話がひと段落したところでそろそろ昼だから外でお昼を食べようという話になり、私達は街へ出かけることにした。

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