第3話
日はのぼり、沈み、月はふくらみ、満ち満ちて、ふたたび欠けはじめる。いくつもの昼と夜を超え、二年の月日が過ぎた。ユウナは十六になった。すこし背がのび、からだは丸みをおび、見た目はずいぶん娘らしくなった。
相変わらず泳ぎは達者で、仕事の合間に海へもぐって魚と遊ぶ日々。そんな、ゆったりと流れる時間のなかにあっても、ユウナを悩ませることがらはある。
デイゴの花が揺れる初夏のある日、ユウナはひとり、芭蕉の木陰にたたずんでため息をこぼした。
――-逃げてきちゃった。とうさまと、かあさまから。
ユウナに、嫁にいけというのだ。相手は二十歳になるライラという青年だ。
「でもあたし、まだ十六になったばかりだし、考えられない」
そう言って、首を横にふった、もちろん。
「ぜひに、と請われたのだ」父は眉をさげて頭のうしろを掻いた。「おまえにべた惚れらしいぞ。毎日毎日思いつめているそうだ。ライラの家はここから遠くないし、畑もたくさんあって豊かだし、ユウナにとっても悪い話じゃない」
「ひとめぼれ、って」ユウナはぎゅっと膝の上に置いた手をにぎりしめた。「それならあたし自身に言えばいいのに。いきなり嫁にだなんて、そんな、あたし、そのひとのことそんなに知らないのに」
ユウナを欲しいという男の、ライラという名を、聞いたことはあったがうまく像がむすべない。祭りの夜か宴の夜にちらと見かけたことがあるくらいで、その記憶はあまりにもうすく、つかめない霞のようだ。いずれにせよ、二十歳にもなって恋する娘に声ひとつかけられず、親がかりでものにしようとする男なんてごめんだ。
「ユウナ。同じ村のね、近いところで生まれ育った者同士が連れ添うのが、結局はしあわせになれるんだよ」母がやさしく諭すように言った。「それともおまえ、だれかほかに、思っているひとがいるのかい?」
ぐっと言葉につまった。そんなひとはいないとむきになって言い返すものの、むかし一度だけ会った海色の目をした少年のすがたがいまだによぎってしまうのはなぜだろう。
ユウナはそのまま家を飛び出し、今にいたる。
風がふき、さわさわと芭蕉の葉が揺れた。
あれから結局、彼には一度も会うことはなかった。彼の名はなんというのか、歳はいくつか。知りたかったけど、だれかにたずねるわけにもいかない。
サリエに止められたのだ。村の女たちで集まって機を織っていたときのこと。サリエは生まれて半年になる我が子に乳をあげていた。そのタイミングで、ユウナは何気なく「空みたいな、海みたいな、そんな色の目をした人間っているのかしら」と、話を向けてみたのだ。サリエは、しっ、とユウナのくちびるに指をあてた。
「となり村の、灯台守の息子でしょ? 得体が知れないって、避けられているという話よ」
声をひそめ、耳元で、早口でささやく。
「うわさだけど、ね。そういえば前、見かけたことがあるわね。どっちにしろ、灯台守なんてろくなもんじゃないわ。畑もない、舟もない、漁もできないから仕方なくやる仕事よ」
「そんな言い方って。だいじな仕事じゃない。灯台の光がないと船が迷子になるんでしょう?」
この島の南に、もっと栄えた大きな島があり、大島と呼ばれている。ユウナたちの島のひとびとにとって、貴重な、唯一の取引相手だ。灯台に光をともすのは、大陸にある国と貿易をしている大島からのたっての要望でもあるのだ。大陸と大島とを行き来する船のためだ。
思わずむきになるユウナをサリエは制した。
「声が大きい。とにかく、あんまり人に聞かないほうがいいよ、そのひとのこと。それともまさか、ユウナ」
じっとりしたサリエの目つきに、ユウナはあわてて首をふる。
「知らないよ、ほんとに、そのひとのこと。ただ、ちょっと気になっただけで」
そう。ちょっと気になっただけ、それだけだ。
乳が離れて、赤ん坊が甘えた泣き声をはなつ。サリエは、もうこのお話はおしまいと言わんばかりに、よしよしと赤子をあやしはじめた。
得体が知れないって……ほんとうかしら。ユウナは思う。なぜあのひとが皆に避けられるの。だってあんなにやさしい声、あんなにやさしいまなざし。
思い出すと胸の奥がじんわり熱くなって、ユウナは袂に手をあてて動悸がしずまるのを待った。たった一度、みじかいやり取りをしただけなのに、どうして自分はこんなにおかしくなるのか。
気づいてしまうのが、怖かった。
それに。気づいたからといって、どうにかできるものでもない。
母のことばが耳の奥でこだまする。同じ村で生まれ育ったもの同士が連れ添ったほうがいい、それが父母の望み。ちがう村の、しかもみんなに避けられている少年だなんて。許してくれるわけがない。
そこまで考えて、ユウナはふふっと笑いをもらした。ばかみたい。結婚のゆるしだなんて、彼は自分のことを忘れているかもしれないのに。彼には、思い人がいるというのに。
あれから二年。彼はいまもまだ、あの、星読みの娘のことを。忘れられないでいるのだろうか。
……星読み。未来を見通す力があるという、星に選ばれた、とくべつな娘。ユウナは突如ひらめいてひざを打った。
あの娘のところに行こう。そして、まだ結婚などしないほうがいいと、助言してもらうのだ。星読みの言うことならば両親も相手の男もすんなりと受け入れるだろう。おたがい運命の相手ではない、縁がないのだと。
すっくと立ち上がる。思い立ったらすぐに行動にうつそう。
いったん家にもどり、家族の目をぬすんで、こっそりと魚の干物や芋や果物をカゴに詰めた。気づかれないようにそっとふたたび家を出る。星読みに未来を占ってもらうにあたり、食物や日用品を礼として渡すのがならわしだ。星読みに選ばれた娘はどこの村にも属さず、ひとり森のはずれで孤独に暮らす。占いの報酬で食べていくしかないが、市に出かけて買い物をするのもままならない身なので、直接品物を渡すのがむしろ望ましいのだ。
かわいそうだと、サリエは言っていた。家族とも友人とも引き裂かれて。もちろん、恋人、とも。
神聖なガジュマルの森に続く道すがら、甘いかおりがしてふと立ち止まると、プルメリアの木立にたくさんの花が咲き誇っていた。そっと、ひと房手折る。星のかたちをした白い花たち。あの日、あの娘は、編みこんだ髪にこの花を挿していた。あれから二年、あの娘は今、十八。さぞかし美しい娘になっているだろう。
照葉樹の森に入ると道はゆるやかな坂道になり、だんだん勾配がきつくなり、狭く細くなっていった。白っぽい岩に樹の根が無数にからみつき、気を付けないと転んでしまいそうだ。やがて視界に巨大なガジュマルがあらわれ、そのすぐそばに一軒のちいさな家を見つけた。ガジュマルの気根が触手のように伸び、家にまで絡みついている。その奥にはガジュマルたちの森が広がっている。
ここだ、とユウナはつぶやいた。茅葺の、ユウナたちの村の人間がすむのとなんら変わりのない素朴な住まいで、聖なる仕事に一生をささげる巫女にはふさわしくないようにも思えたが、ここ以外に家らしきものはない。星読みの住む家。
水の流れる音がする。すぐそばに泉水が湧いているのだろう。
「占いですか」
背後から声をかけられてびくんと震えた。細いけれど芯のある、透き通るような、鈴の音のような声。ふりかえると、少女がいた。いつかそのすがたを垣間見た少女そのものであった。ゆたかな黒髪は腰のあたりまであり、木漏れ日をうけて艶めいている。ユウナよりあたまひとつぶん背がひくく、目がくるんと丸くて幼い顔立ちも相まって、ユウナと同じか、もしくは年下にすら見える。
星読みの娘は水桶を手にしている。泉に汲みに行っていたのだろう、わずかに息がはずんで、白い肌も桃のように上気している。
「あっ、えっと」ユウナはなぜかどぎまぎした。「持ちます、それ」
「お構いなく、自分でやるわ」娘はにっこりとほほ笑んだ。「あなた、両手が荷物でふさがっているじゃない? すてきな香りがするわね、それ」
ユウナの右手には土産を入れたかご、左手にはプルメリアの花房。ユウナはすっと、花を差し出した。
「あなた、に」
娘はみずからの顔をゆびさして首をかしげ、ユウナがうなずくと花開くように笑んだ。
「ありがとう。このお花、大好きよ」
受け取った花房に鼻をうずめ、うっとりとその香りに酔いしれながら、娘はわずかに瞳をうるませた。一瞬、だけ。
娘にうながされて家に入る。ユウナの家と変わらぬぐらい質素で飾り気がない。だけどすっきりと片づけられ、清潔な空気に満ちている。
出された水を飲む。つめたく清らかで、ほんのり柑橘系のさわやかな香りがする。
「島みかんをいただいたから、果汁をしぼって入れてみたの」
「とっても、おいしい」
ユウナはごくごくと一気に飲み干した。からだじゅうに染み渡るようだ。ここまで来る長い道のりの中、ユウナはなにも口にしてはいなかった。喉がからからにかわいていたのだ。
「あ。ごめんなさい、あたしったら」
あっという間にぜんぶ飲んでしまうなど、自分の子どものようなふるまいが恥ずかしくなり、ユウナが縮こまっていると、娘は
「気にしないで。いくらでも飲んで」
と、ほほ笑んだ。おかわりを注ぎに立った娘の足首で、貝の飾りが揺れている。
「すてき、それ」
「ありがとう」
「それも、占いのお礼にもらったの?」
「ううん、これは……」娘は答えあぐねている。長い髪を揺らして振り返ると、「それよりあなたの話をしましょう。ユウナさん」
と笑顔になった。
どきりとした。心臓をつめたいものが撫でた。
まだ名乗っていないのに、この娘は自分の名を知っている。
「あなたのことは、ずいぶん前から知っているの」
「リゼ、さん」
「リゼでいいわ」
「リゼ。あたし、は……」
「心配しなくていい。なにも悩むことなんてない。お父様やお母様のすすめる相手は、あなたの夫にはならない。あなたと結ばれるべき相手は、ほかにいるの」
見透かされている、すべて。いまの自分がかかえている悩みも、まだ自分も知らない自分自身の未来すらも。これが彼女のちから。
サリエの話とはぜんぜん違う、と思った。サリエが相談に訪れたときは、リゼは彼女の話をただうなずいて聞くだけで、結局、決断を下したのはすべてサリエ自身だったという。それでも彼女は満足げであったが。
リゼはそっと、とまどうユウナの手に自分の手のひらをかさねた。冷たくてすべすべした、陶器のような肌の質感。触れあっていると、じんわりとぬくもりを帯びてくる星読みのちいさな手のひら。なにも、なにも心配しなくていい。ほんとうに、そんな気持ちになってくる。
「ユウナ」
自分の名を呼ぶリゼの声は、どこか切なげにひびいて。ユウナは思わず、リゼの手をぎゅっと握り返した。そうせずにはいられなかった。ことばにならない思いを、リゼは自分に伝えようとしている、そんな気がして。
日が暮れ始める前に、ユウナはリゼの家をあとにした。まだ明るいうちに森をぬけたほうがいい、とリゼが忠告したのだ。何度もふかぶかと頭を下げ、笑顔でリゼに手を振ってユウナは去った。
遠ざかるそのうしろすがたを見つめて、リゼは、小さくつぶやいた。
「間もなく。間もなくあなたは出会うわ。星がさだめた、たったひとりのひとに。あのひとに」
あまりにはかないそのつぶやきは、ガジュマルの森から吹く風にさらわれ、ちりぢりに舞って消えた。
坂道を下り、照葉樹の森を抜けると、空は朱に染まっていた。丸い陽があかあかと燃えて落ちていく。ぬるく湿った風がふく。ユウナはもう一度きびすを返し、こんもり茂る森を見つめた。森の奥はさらに深い、ガジュマルたちの森。星読みだけが踏み入ることのできる神聖な場所。
――ふしぎなひと、だった。しばらくぼうっとたたずんで、ユウナはリゼとの時間を反芻していた。白い小道が夕陽に照らされて、ユウナの影が長く伸びる。ふと気づけば、ユウナの影のそばに、もうひとつ、ひときわ長い影があった。
思わずふり返る。あっ、と声をあげそうになってあわてて口を押える。
あのひと。
夜の浜で会ったときよりも背がのびて、すっかり青年らしくなっているが、あの海色をした瞳のかがやきは変わらない。こんな、こんなところで会えるなんて。
青年はふいに視線を落とすと、ユウナと目を合わせた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
どきどきしていた。ほおが熱いのは、きっと夕陽に照らされているせいだ。ユウナはそう自分に言い聞かせる。
「森のそばへ、行っていたの?」
「……はい」
「そう」
彼の澄んだひとみが揺れる。さびしげに伏せたまつげの影。あの、とユウナは思い切って切り出した。
「おぼえていますか。ずっとずっと前。あたし、あなたに会ったことがあります。浜で。溺れたのかって、心配してもらって、」
たどたどしく言葉をつなぐユウナの顔を、青年はじっと見つめ、ややあって「ああ」と口をひらいた。
「浜辺で寝てた子だ。あのときは本当に、びっくりした」
「あの。あたし、ごめんなさい。心配かけたのに、逃げるように走っていっちゃったから。あのときは、その……、あまりに恥ずかしくて」
今だって思い出すと顔が熱くなる。濡れた着物に砂が貼りついて、ひどいすがただったにちがいない。
「そうか。てっきり、怖がらせちゃったのかと思って」
「怖がる……? どうして……?」
「気持ち悪くないの? おれの、目」
青年はそのみずいろの瞳をくもらせた。ユウナは吸い込まれるように見入ってしまう。
「とても、きれい」
思ったままを、素直に口にしてしまう。あまりに率直すぎたと、ユウナがわれにかえってふたたび赤面していると、青年は、びっくりしたように目を見開き、やがて、
「ありがとう」
と、笑った。
――笑ってる。笑うとまゆが下がって、ちょっとだけ、困ってるみたいな顔になる。
ユウナはそんなことを考えていた。心臓はうるさいくらいに高鳴って、顔も手も足も火照って熱くてたまらない。それなのに胸の奥のほうがきゅうっと縮んで痛いような、苦しいような、息ができないような、味わったことのない感覚に戸惑ってしまう。
どこから来たのと問われて、みずからの村の名を告げる。ふうん、とだけ青年は言って、森に背を向け、そのまま歩きだした。ユウナはあわてて追いかける。もう二度とこんな偶然はありえないような気がした。青年は歩をゆるめ、ユウナの歩く速さに合わせた。
あたりにはふたりのほか、だれもいない。暮れなずむ白い道を、肩をならべて歩く。ややあって、青年が遠慮がちに口をひらいた。
「きみは、その、何をしに、森に」
「……相談、に。星読みのところへ」
正直に告げると、青年は口を引き結んで、だまりこんでしまった。あなたこそあんな場所でなにを、と、聞き返すこともできたが、しなかった。わかっているから。
彼は、リゼを。リゼのおもかげを追って、だけど踏み入ることはできなくて、森の入口でひとり、たたずんでいたのだろう。ユウナには、わかってしまう。はじめて彼を見たときからずっと、わかっていたことだ。
うつむいて歩く青年は自分のなかの迷宮に入り込んでしまったがごとく、何もことばは口にせず、それどころか、となりにユウナがいることすら忘れてしまっているようだ。
「あの。灯台守、の」
なにかに急き立てられるように、ユウナは思いついた単語をそのまま口にしてしまう。サリエが言っていた、彼は灯台守の息子だと。青年は少しだけ口の端を上げる。
「おれは有名人なのかな。ほかの村にまでうわさが広まっているなんて」
「そんな、こと」
しまったと後悔していた。青年は村のものたちから避けられているという話だ。自分が皆に良く思われていないことを、だれよりもこの青年自身がわかっているにちがいない。
「あの」
何を言えばいいんだろう。何を。
「ひと晩じゅう、薪を燃やし続けるんですか」
「ん。まあ、ね。親父と交代でやっているよ。日没に火をともすのは親父、夜明けとともに火を消すのは、おれだ」
「たいへん、ですね」
「そんなことないよ。ひとりじゃないし……。星読みにくらべれば」
どきりと心臓がうずく。ユウナは彼の顔を見ることができない。たんたんと、青年はつづける。
「皆と同じじゃいられない人間は、忌み嫌われるか、聖なる存在として崇められるか、そのどちらかだ。結局どちらも、隅に追いやられて避けられる」
感情のこもらない平坦な声に、ユウナは胸がくるしくなる。
「村から追い出して、あの森に縛り付けて。そのくせ、自分たちのいいように、利用だけはする」
皆とちがう髪の色、瞳の色。皆とちがう、未来を見通すちから。星読みなんてかわいそう、と言っていたサリエの声。彼の話はしないほうがいいと釘をさされたことも。よみがえって、ユウナは、くるしくなる。
自分はいまだかつて、そんな風にうとまれたことも避けられたこともない。なのに彼らは。
着物の生地をぎゅっとにぎりしめる。
「あたしは」振り絞るように声を出す。「あたしはリゼが好きです。今日、会って、好きになりました。あたし、は」
自分がなにを言っているのかわからない。
「あたしは、避けたりなんか、ぜったい、に」
鼻の奥がつんとする。
「したく、な、い」
あなたのことも。声にならないつづきのことばを、彼は汲んでくれたのだろうか、困ったように眉を少しだけ下げて、ふっと、笑った。
灯台のある岬へつづくわかれ道で、ユウナは彼の名を聞いた。
トキ。灯台守のシュウキの息子。母親はいない。自分がシュウキの本当の息子かどうかわからない、村人はみんな拾われた子だと噂する。自分でも真実はわからない、と言った。となり村に住むユウナの耳にだって、いずれはトキに関するさまざまなうわさ話がはいるだろう。それを見越して、彼は自分の口から率直に事実を告げたのだった。
「きみは」
「え?」
「名前」
「……ユウナ」
島はたそがれ。空と海のさかい目に、夕陽のなごりの赤がうっすらと残り、天頂へむかってうす紫からみずいろへとグラデーションをえがく。昼と夜のあわい。
花のなまえだ、とトキは言った。ちいさくほほえむと、気を付けて、とだけことばを残して、彼は、自分の住む場所へと帰っていった。ユウナも、また。自分の村へ、両親の待つ家へ戻る。
星読みに言われたことばを両親に告げると、予想どおり、「それならば仕方ない」と縁談はあきらめてくれた。星がさだめた相手が、ほかにいるというのならば。
その夜ユウナは眠れず、浅いまどろみをうつらうつらとさまよって、夜明け前に身をおこして外へ出た。村に面した海辺と反対側、森のほうから日はのぼる。ユウナはひとり浜に出て、じっと、となり村と自分の村をへだてるちいさな岬の先端を見つめていた。夜明けとともに火を消すのは、トキ。空が白み始め、息を詰めて見つめるユウナの瞳にうつるちいさな灯りが、ふっと、消えた。
――おやすみなさい、トキ。
浜にはやさしい風が吹いている。太陽が海を照らしはじめ、ユウナは、砂地を駆けた。また会いたいと思った。彼に。会いたいと、思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます