第1章 4話

「ふむ。なるほど」

木の机に古い大きな本を広げブツブツ呟く私。

これはこの異世界の地図だ。

正直言うと、全くわからない。

カユアにこの世界の文字を教わってなんとか解読できるまでに至ったのだが時間が掛かり過ぎて飽きるのだ。

「もうやめだ、やめ。」

ニートの私には地図なんて縁遠いもの。

「あぁー!魔法の練習でもしようかな。」

そう言って私は人差し指に意識を集中させる。

すると薄い銀色の光が人差し指からでてそしてすぐ消えた。

「はぁ。これがチート...か。」

ギルドでチート級の魔力があることがわかり早速なにか使えるかなとワクワクしながらとりあえず意識を集中させていたが、何度やってもさっきのようにしょぼいののしか出てこず、今に至る。

「そもそも火魔法、水魔法とか決めてないからいけないんだよ。絶対そうだ。そうに違いない。」

とは言ったもののその後小1時間ほど何魔法にするか悩み、疲れて寝た。


───────────


「やばい。もう夜だぜ...」

何魔法の使い手になろうか悩みに悩んだ末寝た私が目覚めた頃には夜になっていた。

「これはやばい。カユアになんと言われるか」

考えただけでも震えが起こる。

「もう、どうにでもなれ!」

私は意を決してカユアのいる下の階に行く。

しかし当のカユアはおらず机には料理が置いてあった

ふむ。今日の夜ご飯はカボチャのソテーか

「カユアどこいったんだろ」

カボチャのソテーを食べながらカユアの居場所を探る。

「酒場かも...」

きっと酒場だ。一筋の希望を掴み家を出た。


────────────

「こんばんわー」

私は革ののれんを潜り、酒場「ショバーナ」に入る。

「よお!シカンダ。今日は1人か?」

「あれ、カユア来てないの?」

「カユアのやつは来てねーぜ。どうした?カユアに脈ありか?」

「......えっとじゃあありがとうございました」

ニヤニヤしながら聞いてくる親父さんを神対応で話をそらし店を出た。

「ここじゃないって言ったら...あとは...」

私は異世界の「シエンタルタ」に来てまだ日が浅い。どこに何があるとかはよくはわからないがとりあえず手当たり次第に行ってみよう。

「まずは...隣の家のシャーリンさんの家で、次は図書館...カユアなら行きそうだよな...あとは.........迷宮(ダンジョン).........?」

迷宮(ダンジョン)...これだけはあって欲しくない。大丈夫だ。カユアならそれはない。そう言い聞かせ私はカユアを探す。


────────

「ふむ。いない。」

他に行きそうなところは全部行った。しかしながらカユアはいない。

「やっぱ...迷宮(ダンジョン)...?」

そんなはずはない。と思いながらこのモヤモヤをかき消そうと迷宮(ダンジョン)に入ってみる。

迷宮(ダンジョン)の中はまっすぐ伸びた舗装道路が続き横には木、岩、冒険者の武器、血のあとなどが目に入る。

私はとりあえずまっすぐ進むことにした。

「いやぁこれが迷宮(ダンジョン)か。ホントマンガとかアニメとかの世界に入ったみたい」

興奮気味の私は他から見たら変な人だろう。

「とにかく早くカユア見つけなきゃ!」

その時、ガザガサと物音がした。

「ん?モンスター?それともカユア?」

一応のためあらかじめ持っている剣を構え待ってみる。

そして出てきたのは

大きな黒い毛皮を持ったモンスターだ。

簡単な説明をすると熊のようだ。

私は剣を改めて構え、熊のようなモンスターに立ち向かう。横に縦に振り回しているとモンスターは宝石のような綺麗な石に変わっていた。

「倒したのかな...」

挙動不審に綺麗な石を拾う。エメラルドグリーンの石だ。ゲームのように武器に変えたりお金に変えたりできるのだろうか。

「私、モンスター倒したんだッ!」

私は他から見たらただの変な人だがそんなこと考えてられない。初めてこの異世界に来て異世界らしいことが出来たのだ。こういった類いのものが好きな私にとっては嬉しすぎる。

「......やばい。嬉しすぎて本題忘れてた。」

我に戻った私はカユアを探すミニ冒険に戻った。


「結構奥に来たけどそろそろモンスター倒せなくなるかもな...」

ここに至るまでに数匹モンスターを倒した。

レベルも上がっていることを信じて奥に進んでいる。

「おーい。カユアー!」

ふむ。見つからない。

やっぱりここにはいないんだ。家にいるんじゃないか?灯台もと暗しって言うしさ!

と思い始めていた時、叫び声が聞こえた。

────そしてその声は最悪なことに知っている声だった。

「──ッ!カユアッ!」

舗装された道から外れ草を掻き分け声の方へ行く。

真っ黒の体は液体になったり個体になったりして生理的嫌悪感を覚える。

「なっ!シカンダなんでここにッ!」

カユアはかろうじてモンスターの攻撃を防いでいるが右足からはドクドクと赤い鮮血が流れ出している。

私はモンスターへ斬りかかるしかしモンスターは液体化し、攻撃が通らない。

「───ッ!剣じゃ歯が立たない!どうしたら...!!」

「シカンダ!!魔法だ!」

「魔法?!む、無理だよ!1回もできてないのに!」

「大丈夫だ!シカンダならできる!剣じゃこいつを...アンディアン(十層神)には!」

「アンディアン?」

私はアンディアンと呼ばれたモンスターから距離を取りカユアの話へ耳を傾ける。

「アンディアンってのは、十層のボスモンスターだ。」

「ボスモンスター?!十層?!」

「ここは十層、この迷宮の第一の試練だ!」

なんでカユアはこんなところでボスモンスターと戦っているんだろう、そんなことは考えさせてもくれない。

アンディアンはゆっくりと個体───人間の形になっていく。

「ふふふ。楽しいね。もっと楽しもうよ!」

「 え、、喋った?!」

いきなりのことで驚いたがすぐに持ち直す。

「僕は十層のボス。アンディアン。そこの子が言ったことをリピートすることになるから省くね♪」

これがボスモンスター...?!

すごくゆるい。ものすごく。

「もう...そんな怖い顔しないでよ。僕怖いなぁ」

アンディアンは完全に人間の形になって淡々と話す。

その風貌はふわふわの茶髪、綺麗な赤目の双眼

小学四年生ぐらいの身長ぐらいで可愛らしい。

「?。君さ、まだ自分の力に目覚めてないんだね。」

「え?」

「言葉のまんまだよ。君みたいな子は500年ぶりぐらいに見たよ♪」

自分の力...きっとチート級で銀色の光を放つ魔力のことだ。

「私の魔力について知っているの?」

「うん♪知ってる。沢山ね。」

アンディアンは─500年ぶりぐらいに見た─

といった。私のこの魔力と同じものを持っていた人がいたということだ。話を聞けば私がどんな魔法を使えるのかも図書館にあった本より詳しくわかるだろう。

だけど...

「ふふふ♪すっごい考えてるね。教えてあげようか?」

「い、いい。」

「ふ〜ん。まぁいいか。」

アンディアンと話してわかったことは

こういうタイプは苦手だ。ということだ。

「カユア...アンディアンはどんな属性なの?」

「アンディアンは水属性。空気中の水分をも操れる。」

「水属性...ね。」

「何か策があるのか?」

今の私には計画なんてもの無い。

だけど何故かいける気がした。

「おっ。なになに?♪ほんと怖いなぁ♪」

私は剣を構える。アンディアンは楽しそうにこちらを見ている

「あれ?来ないの?僕から行くよ?」

そう言うとアンディアンは何も無かった右手に水の槍を作り出し目にも止まらぬ速さ投げた水の槍は私の横を通り過ぎた。

そしてコンマ数秒後。カユアの左腕に水の槍を刺していた。

「────ッ!!」

「カユア!!」

「ふふふ♪君が死ぬのも時間の問題だね♪」

────その時カユアがもたれ掛かっていた木からつるが伸びカユアに絡み付いた。

「え?!傷が...!!」

カユアの右足、左腕の傷は跡形もなく消えた。

そして傷が癒えたカユアをつるが優しく地面に返し、勢いよくアンディアンへ向かっていった。

「ふふふ♪久しぶりだなぁ!!!」

「おい!シカンダ!...え?」

私からギルドで見た銀色の光が溢れ、私を包んでいた。とても暖かく優しい光だ。

「こ、これなに...?!」

「──シカンダ。私の言う通りにして。」

頭の中に直接声が聞こえる。

すごく優しい声が。

「だ、誰?!」

「説明は後でやります。今はとにかく私の言う通りにして!」

「わ、わかった。」

私は言われるがまま優しい声の言う通りにした。

そうすると、アンディアンは緑の光に包まれながら

「ふふふ♪これが君の魔法だよ...♪僕も仲間に入れて欲しいな...500年前は頼んでもダメだったから...♪」

悲しそうな声でだけど笑顔でアンディアンは言った

「アンディアンはすごく強いね。仲間に欲しいよ」

そうすると私から銀色の光が消えた。アンディアンを包んでいた光も消えアンディアンはかなり辛そうに息を切らしている。

「ふふふ♪君は優しいね...僕は君のお友達を傷つけたんだよ?」

「そうだね。それは許せない。だからその償いとして私の友達になってよ。」

「お、おい!待てシカンダ!!」

「カユア的には許せないだろうけど大目に見て?」

「それはいいんだが、その後だ。アンディアンと友達になりたい?!無謀だ!」

「う〜ん。そうかな。アンディアンはどう?」

「え?僕?僕は...なれたら嬉しいかな...♪」

アンディアンは小さくつぶやくように言った。

「じゃあ、今日から友達だよ!アンディアン!!」

「ほんとにいいの?僕は───」

「私気が短い方だからすぐに気が変わるよ?」

「あ、あぁ!待って!」

「よろしくねアンディアン♪」

「おいおい!俺のこと忘れてるよな?!」

「カユア。ごめんね勝手に決めて。」

「あ、えっと」

カユアは涙目の私を見て焦っていたがその後はアンディアンと話をし始めた

「えっと...さっきはごめんなさい...」

「なっ...い、いいよ。傷治ってるし。あぁ!泣くなって!」

なんだかんだ言って馴染んでるみたいだ

今のアンディアンは先ほどのアンディアンの面影がなく本当にただの男の子にしかみえない。

「────私のこともお忘れでは?」

優しい声が頭の中に直接聞こえる。

「あっ!さっきの!あなたは誰?」

「さっきの とは少しばかり悲しいですね」

そう言っだなにがは私の目の前に現れた。

薄い緑の髪。エメラルドグリーンの瞳。綺麗な顔立ち

第一印象は『花の精』 だ。

「初めて─になりますね。我が主シカンダ」

「主?!」

「私は木の聖霊 ユグドラシルです。」

本で見た事がある。木、葉、花などの植物を司る聖霊 だと。

「だいぶ混乱していますね。ゆっくり説明しましょう。」

「お、お願いします」

「まず貴女の魔法は私のような聖霊を呼び出すことが出来る『聖霊魔道士』です。」

「僕は聖霊じゃないけど契約を交わせばいつでも呼び出せるようになるよ♪」

アンディアンからの一言アドバイスも耳に入れながらユグドラシルの話にかじりつく。

「先ほどは我が主のカユアさんを思う気持ちが私を呼びました。カユアさんの傷を癒したつるは私の一部です。」

「なるほど。ユグドラシルは傷も癒せるのか。」

「はい。瀕死の状態でも時間がかかりますが治せます。」

「ユグドラシルすげぇ!さっきはありがとな!」

「ユグドラシルの攻撃痛かったなぁ」

「アンディアンはもう私たちの友達、仲間ですからね。先ほどのこと。お詫びいたします」

「いいよいいよ♪」

「ユグドラシル以外に私が呼び出せる聖霊っているの?」

「はい。呼んでみますか?」

「うん!」

「では──」

「────?!」

私の右手にthe 魔法使いの杖!!という感じの丈が現れた。

「この杖に意識を集中させ、こう唱えてください」

「私の声に応えて。ここに汝を召喚する!」

その瞬間、眩しい光が起き、目の前にたくさんの聖霊と思われる生き物が現れた

「さすが我が主。1度にこれだけの聖霊を召喚できるとは...」

「シカンダの魔法すげぇ!」

水の聖霊・火の聖霊・空気の聖霊。

いろいろな聖霊が私を囲み「我が主。やっとお目にかかれた」などまるで王様になったかのような扱いで少しうかれてしまう。


────これが私の魔法。

私の異世界での冒険はやっと始まるんだ!


───────続く


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