スパイダーワイヤー

流民

第1話

 2112年、人類は一つの危機に直面していた。そう、人類絶滅、いや人類のみに止まらず、地球規模の災害が後十年後つまり2122年に到来しようとしていたのだ。

 なぜ、これほどの事が予測できたのか? それはいたって簡単な事だった。なぜならそれは、地球外からの小惑星の観測に基づいた結果だからだ。そう、後十年後に地球に小惑星『メンフィス』が地球と衝突する事が観測結果で分かったからである。

 今まで観測された小惑星の中で最も大きく、トリノスケールも10が付けられ、それが地球に衝突すると間違いなく地球は劇的な環境変化をもたらし、ほとんどの生き物は絶滅してしまうだろうと予測された。

 そして、それから人類は大急ぎで対策を練るが、未だに人類は統一された国家の下には有らず、それぞれの国は独自にそれの対策に乗り出した。

 ある国は小惑星の破壊を考え、それに向けてミサイルを撃ち込む計画を実行しようとしたが、それは途中で阻止された。それは、もっともで、破壊すれば小さくなった破片が無軌道に動き回り、更に細かな破片の地球への衝突が予測されたからだ。

 確かに、最初の大きさに比べれば被害は小さくなるかもしれないが、それでも文明はかなりの打撃を受ける事になるだろう。それに、もともとミサイルで破壊できるような大きさでもなかった。

 直径は長辺方向で百キロ、短辺方向でも五十キロを超える様な巨大な小惑星であったのだ。

 こういった国も有ったが、他の国の多くは宇宙船の建造に力を注いでいた。しかし、宇宙船の建造には時間がかかり、とても総ての人口を乗せれるほどの大きさも作れなかった。

 そして、宇宙船を作るには資源が必要だった。その頃にはもう地球にはほとんどの資源はリサイクルなどで循環させており、新たな資源は殆どが採掘されなくなってきていた。

 自国の中でほとんどの資源は循環しているので、人口すべてを乗せる様な宇宙船を作るにはとても資源が足りなかったのだ。

 そして、資源が無い国が取った行動、それが資源をめぐっての戦争だった。資源をめぐっての戦争は一年にわたって地球の殆どの国を巻き込んで行われた。

 そして、一年後戦争が終結した時には人口は一年前の半分にまで激減していた。そして、それが幸か不幸か、そのくらいの人口であれば何とか宇宙船は殆どの人を乗せる位のものは建造可能であった。しかし、それはあくまで宇宙空間で作った場合の話であって、地球上で作った場合にはその人口を乗せた物を打ち上げる事は不可能だった。

 しかし、そこである国が戦争にも中立を保ち、独自に脱出計画を進めていた国が有った。その国が独自に進めていた計画は、軌道エレベーターの開発であった。実際、それの工事は順調とは言わないが、その工程の半分ほどまでは終了しており、今は軌道エレベーターの一つは十分に使用可能であった。

 しかし、その国もその時点で資源が尽きてしまいそこから先へ進むことが出来なかった。

 この時点でメンフィスが地球に衝突するまで後三年ほどしかなかった。もう、これ以上は争っている暇もなく、様々な物資をその国に集め、軌道エレベーターの建設と並行して、宇宙空間で巨大な宇宙船を作る計画が実行に移された。

 そしてメンフィス衝突一か月前ようやく脱出用宇宙船は完成した。しかし、軌道エレベーターは途中宇宙船の建設に力を入れたため完成せず、その輸送能力は当初の五割にとどまった。

 起動エレベーターは十機が稼働し、それぞれが一階で百人運べる能力が有った、だが後一カ月で運べる人員はしれている。エレベーターは一往復するのに一週間かかる、後一カ月では脱出できる人間はしれている。宇宙船建造に参加した国の政府高官達はまず自分達が先に乗り込み、その後一般人を乗せるつもりで秘密で動いていたが、その情報はどこかから洩れ、地球中の人達は軌道エレベーターに殺到した。

 そして、定員百人のエレベーターに倍以上の人間を乗せ、無理やり動かそうとしたが、途中まで上がったエレベーターは昇り切る事が出来ず、総て落ちてきてしまう。

 そして、十機有るエレベーターの最後の一基を守るために軍隊が派遣されたが、もう誰も暴動を止める事は出来ず、最後の一機のエレベーターも壊されてしまった。

 そして、宇宙船には誰も乗る事が無く、地球にメンフィスが衝突してしまった……

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