不可思議な街の山田三丁目

乃上 よしお ( 野上 芳夫 )

第2話 ようこそ!山田三丁目へ

 さっそくオネエから電話がきた。


「ふぇー。バイト疲れた...。

 やっぱ、お金もらうのって、大変だよね。

 それで、何かおいしい事みっけたの?」


 ...だから連絡したっつーの...


「あのさー、今日、帰ってくる時に、

 ちょっと道に迷ったの。

 そしたらさー、山田っていう家があったんだ。

 それで、そこのオヤジがえらい広い土地持ちで、茶畑いじればお金くれるって」


「何それ?ちょっとイージー過ぎて

 怪しくね?

 茶畑いじるんじゃなくて刈るんでしょ?」


「そうそう。よかったら一緒にやらない?

 昼ごはん付けてくれるって」

 たぶんオネエは食べモノには弱いはずだ。


「そっかー、今日のバイト疲れるだけでおもしろくないし、行ってみようかな?」

 ...そうこなくっちゃ!


「じゃあ、決まりねー。

 楽しみだよー、オネエがきてくれて。

 月曜日の朝、迎えに行くから、

 よろしくね!」


 たぶんオネエも、慣れないバイトで

 疲れているだろう。

 話は早目に切り上げたほうがいい。


 ......あっ、お母さん帰ってきたかな?

 バイトのこと言わないと......


「お帰りー。

 あのさー、バイト決まったんで、

 月曜日から...」


 なんか、お母さんちょっと恐い顔してるなあ、どうしたんだろう?


「リン、今日どこに行って来た?

 お母さんの携帯電話に、学校から

 注意情報がきてるよ。」


 例のやつか...

 生徒が好ましくない所に行くと

 GPSで自動判定されて、学校経由で父兄に通知がいくんだ。

 まぁ、正直に言うしかないなぁ。


「今日さぁ、学校から近道して帰ろうとしてたら、山田三丁目についたんだ。

 緑が多くてキレイな場所で、山田さん

 から茶畑のアルバイトを頼まれたんだけど...」


「そうだったんだ...。

 いちおう、先生と町内会長さんに

 聞いてみるね...」


 お母さんはそう言って電話をかけに

 いった。


 ...山田三丁目は、私も知らない場所

 だったけど、みんなはどう思ってるのかな?

 住んでいるオジさんは、普通の人だったけど...。


 このシステムのせいで、私たちは、

 ゲーセンや家から遠く離れた海や山にも一人じゃ行けなくなったんだ。

 それでも無理に行こうとした友だちもいたけど、GPSで追跡されて、途中の山の中で、あっけなく捕まってたっけ...。


「リンちゃん、大丈夫だったよ。

 最近、あの辺りにいく人がいなかったんで、コンピューターでアラーム警報を出したみたい。

 あの広い山田三丁目に、住んでいるのはたった三軒の三人だけだからねぇ。

 町内会長さんも、山田さんたちは悪い人たちじゃないって言ってるし」


 よかった...これでバイトができる。


「お母さんは、あの辺りには行ったことないけど、先生が言うには、とにかく怪我に気をつけてくださいって」


「わかったよ。オネエも一緒だから大丈夫だよ」


 ......バイトに行く月曜日が来た。

 オネエのほうが、ウチに迎えに来てくれた。


 ...さて、時間も決めて無かったけど、

 きっと農家なんて、そんなもんなんだろう。

 まぁ、昼前までについたらいいかな?

「オネエ、行こうゼ!」


 一緒にオネエと歩いてると、歩幅が向こうは広いもんだから、疲れるわ...。

 でも、この体力なら、仕事では頼りになること間違いなし!...ムフフ。


 さて、コンビニの前を通り過ぎて、それからラーメン屋の角を曲がって...


「ちょっと、リンちゃん。

 このとんこつの匂い、私、耐えられないんだけど...」


「何言ってるんだよー。昼ごはん出すって向こうは言ってたし...」


「大丈夫!私、ラーメン食べた後に、

 残さずバイト先のランチも食べられるから...」


 しょうがないなぁ...。

 まぁ、オネエはただ一人の頼りになる働き手だし、食べていくとするか。


「イラっしゃい!」

 のれんをくぐると、イキのいいお兄さんが歓迎してくれた。

 お店は開いたばかりで、私たちしかいない。

「とんこつラーメン二つ、お願いします」

「あいよー!」


 時間は気になるけど、ここから

 山田三丁目までは五分くらいだから

 まぁ、大丈夫かな?


「お客さん、今日はテニスでも行くのかな?」

 ラーメン屋のお兄さんがきいてきた。

 やっぱり、茶畑作業で二人ともジャージ着ているから、しょうがないか...。


「いいえ、この先の山田さんちの茶畑のお手伝いに行くんです」

 それを聞いていたお兄さんの眼が、

 一瞬、鋭く光ったことに、私は気づいてしまった。

 その時、お店のカウンターの隅に置いてある、白い招きネコの眼も、同時に光ったみたいだった。


 このラーメン屋は、もうすでに山田三丁目の入り口なのかも知れない。

「それは、それは。

 御苦労様なこってす。

 山田さんちには、ウチらもお世話になってますから」

 お兄さんはそう言いながら、ラーメンを私たちの前に置いた。


「それで、山田さんって、どんな人なんですか?」

 おっと、オネエが突然に訊くもんだから、ラーメン吹きそうになった。


「あそこはねぇ、今では凄く貴重な場所で、国の方でも自然環境の実験場としてみてるみたいだねー。

 いろんな植物や動物がいて、昔ながらの暮らしが残っているから。

 でも、山田三兄弟の方々は、ただの農家じゃあないと思うよ」


 ラーメン屋のお兄さんは、ちょっと考えこむような顔をして話を続けた。


「時々ラーメンの出前にいくんだけど、

 山田さんちの奥の部屋には、何十台もパソコンやモニターがあって、何かやってるみたいだったなぁ。

 まぁ、悪い人たちではないんで、

 安心していいんだけど」


 そうなんだ......。


「リン、実はウチのお父さんが政府のお仕事をしていて、山田三丁目の畑のバイトに行くって言ったら、見てきたことを教えてほしいって言ってたんだ。

 なんか悪いことでもしてるの?って

 聞いたら、そんなことは無いらしい。

 ただ、最近、あそこの私有地に入った人があまり居なくて、どんな自然が残っているのか、そんなことが知りたいらしいよ」


 オネエの親はそんな仕事をしてたんだ。


 たしかに、私が親から聞いている

 昔の生活では、子供たちは野原を走って蝶をとり、山や海に行って遊んでいたそうだ。

 今は私たちは、蝶が飛んでるのなんか見たことないし、海も汚いから泳がないようにと親から言われている。


 社会科で習った話では、CO2対策で

 アマゾンやロッキー山脈、日本は長野県や北海道とか、限られた地域に森があるらしいけど、私たちの住んでいる都市には、緑はなくなってしまった。


 きっと、そんなものは後回しにして、街を造っているうちに、気がついたら森はなくなってしまったのだろう。


 都市の外には悪い人たちがさまよってるから、電気バリヤーが張り巡らされてて、ある所から外には出られないようになってるし。


 そんな中で山田さんちに行ける私たちは、ラッキーなのかも知れない。


 ......あっ、もうオネエはラーメン食べ終わったみたいだ。


 じゃあ、行くとするか。


「ごちそうさまでした!」


 さあ、もう少し行けば山田三丁目だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

不可思議な街の山田三丁目 乃上 よしお ( 野上 芳夫 ) @worldcomsys

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ