第12話

「ボクも、これからです」


 ヴォルト全盛期時代では味わえない生死を賭けた戦闘にボクは自然と笑みが零れる。

前はこちらが蹂躙する側で今はされる側、実力差ははっきりとしている。

ボクの方が圧倒的に不利だ。

プレイヤーとしての力は、ボクの方があるだろうけれど、キャラとしての力は遠く及ばない。

今はスキルで何とか凌いでいる状態だ。

でも、それが楽しくて仕方がない。


 『縮地法しゅくちほう』で真上に飛び、大体十メートルほど跳んだ所でさらに『跳脚ちょうきゃく』で足場を生成しもう一度『縮地法』で跳ぶ。

『跳脚』で生成された足場は、限定的にしか使用出来ない。

足場は、タイミングが任意に行える以外、足元に限定される上に一度足を付け離れると途端に消える。

留まれる時間は、凡そ二秒ほどで足場を軸に攻撃をするという事は出来ない。

また、現時点では足場は一つしか生成できない上に連続使用が出来ない。

下を見るとイカロスさん(とお嬢様)を見下ろす視点となる。


玖乃太刀きゅうのたち


 そして、落下体勢になる前に月守夢想流で唯一の対地攻撃技(ジャンプ攻撃)を地上へ向けて放つ。

その内約は、連続抜刀術からの鎌鼬の掃射で目標地点一帯に対しての無差別攻撃となる。

ゲームの時は、SPが尽きるか着地するまで攻撃し続けられる特徴があった。


「『暴虐』という二つ名は伊達ではない、と言う事ですか」


 イカロスさんの声が聞こえたが、壁や地面を粉砕する鎌鼬にて粉塵が舞いどこにいるのかが分らない。

『暴虐』・・・イカロスさんは、ボクの前キャラであるヴォルト=ローグライトの事を知っているのは間違いないようだ。

しかも、『暴虐』は、『雷迅のヴォルト』と呼ばれる以前の二つ名だ。

『暴虐』という二つ名が付いた理由は、味方をも巻き込んだ無差別広範囲攻撃によるもので、本来、月守夢想流は一対一よりも一対多を想定している。

対多と言えど数人十数人とかでなはく、もっと多くの人数、例えばクランやレイドを想定してたりする。


「それはボクじゃありません」

「知っていますっ!」


 地面まで残り五メートル、粉塵が足元にまで迫ってきたタイミングで粉塵の中からイカロスさんが剣を上段に構えて跳び出して来る。

イカロスさんの構える剣の剣身が輝き何かしらの技だという事が伺える。

咄嗟に連続抜刀術を止めて朧龍を鞘に納めた状態のままタイミングを計る。


『リヒトクロイツ』


 イカロスさんの剣から放たれている光が増していく。

剣を振り下ろすと同時に光が巨大な剣の様な形となる。

普通に考えて実力テストで使う様な技ではない。


捌乃太刀はちのたち


 光の巨剣が正にボクへと振り下ろされるというタイミングで技が発動する。

月守夢想流の二つあるカウンター技の一つで相手の攻撃が当たる直前に蜃気楼の様に姿を掻き消え、それと同時に抜刀術が発動し相手後方へ出現する。

要するにタイミングさえあえばダメージを無効にしつつ攻撃をしさらに相手の隙を作る事が出来る。


「な、んと!!」


 イカロスさんの攻撃は見事に空振り、地面に着地すると共にイカロスさんの赤い血が付いた朧龍を血振りしてから鞘へと納め後ろへ振り返る。

交差する様にボクの後方でイカロスさんが着地しボクが斬り払った脇腹を押さえ片膝を付く。


「っ、まさか、一太刀を入れられるとは・・・」


 油断をしていた訳ではないだろうけれど手加減をしていた筈だ。

イカロスさんの目付きが変わると同時に周りの空気がズシリと重くなる。

背筋が寒くなり身体が震える。

寒い・・・訳ではない。

恐らく、圧倒的な力の差による恐怖、本能が警告を発している。

気持ちはまだ大丈夫、まだ、やれる。

むしろ、命を賭した戦いは本望ではないのか・・・。


「手加減の必要はない様ですね。 次で最後です」

「・・・」


 イカロスさんは、上段の構えから剣先を前にする霞の構えを変化する。

先ほど放った『リヒトクロイツ』が上段だったし違う技なのは間違いなさそう。

剣へ集まる様に光の奔流が止まらない。

今なお光の剣の肥大化している。


 ボクはボクで目を閉じ中腰となり右手を鞘に納められた朧龍に手を添え抜刀術の構えをとる。

ヴォルト時代および知識としてこのアキラにも備わっているがまだ一度も試していない技。

月守夢想流剣術の奥義『絶技ぜつぎ他化自在天たげじざいてん』の準備に意識を集中する。

ゲームだからこそ出来た技、成長しきったからこそ出来た技、現実となりほぼ初期能力のアキラで出せるか分らない。

アキラとしての記憶からヴォルトが一度だけ見せている。


――あの感覚を思い出せ。

――神経を研ぎ澄ませ。

――朧龍天照の全てを把握しろ。

――周囲の事は考えるな。

――目の前に集中しろ。

――ボクなら出来る!


「・・・」


 自己暗示を終え目を開ける。

イカロスさんの剣が凄い事になっている。

光の奔流が広場全体に広がっていて大気が揺れている。

これ喰らったら死ぬよね・・・どう考えても。

お嬢様が生き返らせてくれるとか言っているけど、これ喰らったら塵も残りそうにない。

それに痛みに慣れているとはいえ、やっぱり痛いのは嫌だ。

その為にはそれに対抗できる力によって真っ向から相殺するしかない。

出来なくても少しでも軽減ぐらいしないと・・・。


「行きます・・・『リュミエールエクストリーム』」

『絶技・他化自在天』


◆◆◆



 力と力のぶつかり合いは、周囲を消し飛ばし周辺の脆くなったスラムの建物を半壊させ広場を強引に拡張させ陰で隠れていたスラムの住人をも木っ端微塵にした。

ボクとイカロスさんと何故かお嬢様の立っている所だけそのまま残っている。

ボクの放った『絶技・他化自在天』は全盛期の三分の一程度の威力と密度だったが、何とか無傷で済んだ。

イカロスさんの技は、実際どういうものだったのかよく分らない。

ただ、ボクの斬撃によって分散した光の分流でさえ地面を抉っていたので威力は相当のものだろう。

多分、攻撃の痕跡から極太ビームか何かだったのだと思う。


「・・・私(わたくし)が言うのも何なのですけど、貴方達(あなたたち)デタラメですわね」

「それは違います。 お嬢様。 デタラメなのはお嬢さんだけです」


 イカロスさんは剣を鞘に納めつつそう言った。

心外だ。 十分、イカロスさんもデタラメだ。


「私はすでに成長限界に達していますし、これでも『勇者』ですから・・・」


 『勇者』って『聖女』と並ぶユニーク才能スキルだった筈だよね。

聖女と同じく何かに特化したスキル特性があった筈で、恐らく光に関する技が多いのもその所為なのかもしれない。


「お嬢さんいえアキラさんは、年齢から見ても初期段階の能力しかない筈です。 それなのに私の奥義を無傷で凌いだのです。

これをデタラメと言わず何と言うのでしょうか?」

「確かにそうですわね・・・」

「それにアノ技は見覚えがあります。

確かロードグリアード帝国・華朝連邦間戦争で華朝連邦の主力の一つとして期待されていた『緋風ひかぜの武士団』総勢約百八十名と騎獣約八十体をたった一度で葬った技です。

この程度の損害で済んだのは彼女が未熟だったからでしょう」

「これで未熟ですの?」

「ええ」

「・・・よく覚えていますね」

「自分の十数メートル先を先行していた部隊が一瞬で細切れにされて地面に伏していたのですよ。 忘れる筈がありません」


 それにしても、緋色の鎧を着た武士集団に見覚えはあるけど、イカロスさんと戦った記憶がない。


「私は余波で感電・気絶しましてね。 治った頃には拠点が落とされていました」

「なるほど、見覚えがない筈です」

「それではお嬢様、彼女は合格で良いですね?」

「え? ええ、そうね。 それで良いですわ」

「それでは早くここから立ち去りましょう。

いくらスラム街とはいえ、これだけ破壊すれば騎士が来てしまいます」


 表通り方面の階段から金属音のする足音が複数降りてくる。


「お嬢様、少し遠回りになりますが反対から行きましょう。 アキラさんも良いですね」

「はい。 わかr、アレ?」


 頭がクラッとし途端に足の力が入らなくなる。

それを当たり前の様にイカロスさんがボクを支え右手は肩へ左手は足へ腕を回しお姫様だっこしながらスラム街を駆け抜ける。


「イカロスさん、大丈夫です。 一人で走れますっ!!」

「本当ですか?」

「・・・」

私達わたくしたちのパーティに入るのでしょ? なら、大人しく従いなさい」

「すみません・・・」

「口は閉じて下さいね。 よっと!」


 イカロスさんはボクを抱っこしながら、お嬢様はあの巨体で階段を軽々と駆け抜け抜けていく。

騎士が追ってくる様子はない。

五分もしない内にスラム街から居住区エリアへと出る。

スラム街は、表の街の裏と地下全体に迷路の様に広がっている為、実は領主の館以外のあらゆるエリアに繋がっていたりする。

ここならボクの庭みたいな所だなので二人に自宅へ行く様にお願いして向かった。

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