第11話
ボクがスラム街の広場へ行くとすでに二人の姿はあり足元には数名のチンピラが横たわっている。
待っている間に絡まれたのだろうけれど、恐らくお嬢様の姿を見た瞬間、チンピラが広場の外へ猛ダッシュしたのが死体の状況で分る。
「待っていましたわ」
「ほう・・・」
お嬢様は、チンピラの頭部を押しつぶしているメイスを持ち上げながら相変わらず人の殺せそうな眼光でボクを見る。
セバスチャンさん・・・じゃなくて、イカロスさんは、ボクの顔を見るなり、すぐに装備の方を品定めしている。
「それは、
服匠アップルが作った中で人気なのが”幕末”シリーズと呼ばれる作品群でこの「壬生」もその一つ。
あまりにも人気ぶりに滅多に作らない男性用も作られたほどだ。
抜刀術・刀使いに「
当然、イカロスさんも知っている筈なのでボクの得物と防具を見てどういう剣術を使うのか検討がついたのだろう。
空気がさらに張り詰めた様に感じた。
「それでは、始めますわよ。 用意は良いかしら?」
「私はいつでもいけますよ」
「ボクも大丈夫です」
イカロスさんとボクは広場の中央で握手をした後、お互い壁際へと移動する。
そして・・・。
「アスタリア流剣術、イカロス=アスター。 いきますよ、お嬢さん」
「
「はじめっ! ですわ」
ボクは、お嬢様の合図とほぼ同時に縮地法で間合いを詰める。
そして、朧龍天照に手を添え・・・。
『
月守夢想流剣術で基本中の基本かつもっとも使用頻度の高い技を放つ。
端的に言えば横薙ぎの抜刀術だ。
ただし、流派ボーナスとイスカ刀ボーナスと防具ボーナスと縮地法による加速で基本技の域を軽く超えた状態だけど・・・。
ギャリンッと金属と金属が激しく接触する音が鳴り響く。
ボクの渾身の先制攻撃は、あっさりとイカロスさんの剣によって防がれ鍔迫り合いとなる。
月守夢想流剣術は、縮地法からの抜刀術と鎌鼬による二段構えの技が多く、この『壱乃太刀』もそれに含まれる。
しかし、鎌鼬が出るタイミングは、剣を振り切った瞬間なので途中で防がれてしまうと鎌鼬は不発に終わってしまう。
ボクにとって途中で防がれるなんて想定外で、これが
「速いですね。 それも恐ろしく・・・」
「くっ」
「ですが、重みが足りませんっ!」
恐らく、これでもイカロスさんは力を加減していたのだろう。
鍔迫り合いは、ほんの少しですぐに身体ごと弾き飛ばされる。
いくら腕力が高くても体重だけはどうしようもない。
頭部以外全身に鎧を纏った成人の男性と比べると、ほぼ初期能力の今のボクではそれが顕著に出てくる。
ボクは空中で身体を捻り壁へと着地し、地面へと落下しながら腰の後ろへと差していた緑龍森剣の柄を左手で掴む。
『
地面へと着地すると共に剣を抜き下から上へと振り上げる。
振り上げたのとほぼ同時に『伸びろ』と念じる。
緑龍森剣の刀身は、分割していき、まるで意志があるかの様に素早く地面を這いずりイカロスさんの足元まで伸び突然上へと跳ね上がる。
「ぬぅ!?」
油断をしていたのだろう。
しかし、イカロスさんは、冷静に後ろへとステップし剣先が当たるのを回避する。
「
『戻れ』と念じ、分割した刀身を元に戻す。
ガキンッと重い音と共に元の小剣となる。
本来、蛇腹剣とは鍔の下にトリガーがあり、それを引いたり押したりする事で伸び縮みするのだが、この緑龍森剣に限っては剣自体に意志があり心の中で念じる事で伸び縮みする。
ただし、方向転換は、通常の蛇腹剣と同じで手首による動きで制御する。
蛇腹剣での奇襲も失敗した事だし、ボクは緑龍森剣を元の腰へと戻す。
イスカ刀と小剣の二刀流も悪くないけど、ボクは抜刀術で戦う方が好きだ。
「これは厄介な・・・」
イカロスさんは、警戒を強めるが、攻撃しようという意志が感じられない。
ボクの実力(ちから)を見極めようとしているのだろうか。
なら、これならどうだろう。
『
初代アキラ(月守夢想流)の時と違い、抜刀術だけの流派ではすでになく、面影があるけれど威力の期待できる遠距離技がある。
これもその一つで本来攻撃と同時に複数の鎌鼬が発生するのだけど、それを意図的に一本に纏め上げ一気に放つ事で威力と飛距離が増した鎌鼬となる。
さらに朧龍天照の属性である光が乗り、鎌鼬が極大の光刃波となって標的を襲う。
「!? ぬぅ!!」
一瞬驚いた表情をしたもののイカロスさんは、冷静に対処しボクの放った光刃波を単純な力技で霧散させた。
勢いの乗った光刃波は、霧散した所で勢い自体を止める事は出来ず小さな粒子となった光波はイカロスさんの身体に小さな裂傷をいくつか与えた。
「無理やり過ぎましたか・・・」
「デタラメですね」
「はは。それはこちらのセリフですよ」
恐らく、イカロスさんの剣は、朧龍天照と同じ光属性の剣だと思われる。
光と闇属性以外の属性だといくら力技でやったとしても防ぐ事が出来ない。
闇属性だとしたら、そもそも力技の必要がない。
同じ属性が相反した時、単純に強力な方が勝る。
だから、力技でどうにかなったのだろう。
と言うよりも、光刃波を完全に無効化できるだろうけれどイカロスさんの剣にも相当なダメージが入るはず。
ま、普通の人には同じ属性の剣を持っていたからといって力技でどうにかなるとは思えない。
技量は基より剣自体の属性攻撃力が高かったのだろう。
というか、エピック級の朧龍天照の属性攻撃力より勝ってるとかビックリなんだけど・・・。
「では、こちらから行きますよ」
一瞬、イカロスさんの姿が視界から消える。
気付いた時には、ボクの軸足側の背後で剣を振りぬいているところだった。
「はやっ」
けど、追えない速さではない。
元々、月守夢想流を使っている時点で動体視力がズバ抜けている。
同じ縮地法使いでも目視する自信はある。
想定外だったのは、身体能力だけでこの速さを出したことだ。
ボクは、剣の動きを目で追いながら横へステップして紙一重で避ける。
イカロスさんが剣を振り切ったと同時に上段に剣を構えた状態となっていた。
「ヴェルチェハーツ」
上段に構えた剣が眩しいくらいに光輝く。
これは、ステップからの着地のスキを狙った攻撃だ。
ヤバイとボクの本能が警笛を鳴らす。
ボクは悪あがき中に学んだスキル『跳脚』を使い上へと向かって跳んだ。
元々は、三世代前のキャラで習得した流派にあったスキルで、空中に足場を生成して多段ジャンプや軌道修正が出来る。
つまり、着地予定の場所より手前に足場を生成して軌道修正したという訳だけど、少し遅かったかも知れない。
イカロスさんの振り下ろした斬撃は、ボクが完全に跳びきる前に広範囲の衝撃波が襲い地上高く吹き飛ばされた。
そして、広場の壁を通り越し建物の外壁に背中を打ち付け広場へと落下する。
地面に激突する直前に身体を翻して着地に成功するが、外壁に打ち付けた背中から鈍い痛みが走る。
「ぐっ・・・」
「まだまだ、これからですよ」
イカロスさんは剣をボクの鼻先に突き付けてそう言った。
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