第8話

「・・・フッ」


 まるでボクの向けている剣が見えないかの様に指先についた鼻くそを息で吹き飛ばす。

そして、鼻くそがついていた手で今度は尻を掻く。

これってボク、バカにされているのかな?

剣先がチンピラの鼻先十センチぐらいの位置にあるのに危機感がない様に思える。

まるで自分に攻撃が当たる筈がないという自信なのだろうか。


「あん? もう、戦闘終わったのかよ・・・」


 周りを見渡しチンピラはそう呟く。


「つー事は、このガキンチョが勝ったって事か・・・。

オレ様ならこんなガキンチョなんて瞬殺だぜ。 うひゃひゃひゃ、のわぁっ!!」


 ボクは堪らずチンピラの脳天に向けて長剣を振り下ろす。

茣蓙(ござ)かいて座ってたし当たるかと思ったけど間一髪で避けられてしまった。


「あっぶねぇ。 咄嗟に避けちまったけど、オレ様じゃなかったら死んでるぞ」

「チッ」

 

 こちらは結構本気だったんだけど残念。

というか、悪人顔達と行動を共にしていたのに何で他人事なのかな。

ボクは据えた目でチンピラを見る。

今度は、外さない為に・・・。


「・・・あれ? このガキンチョ、オレ様見えて・・・る?」

「見えてますけど、何か?」


 ボクは横薙ぎの構えをし、剣身がチンピラの首の高さになる様に調整する。


「おい、ガキンチョ、やっても無駄だ。 やめときな」

「やって、みなきゃ、わから、ないっ!!」


 挑発されたからか、どうか分らないけれど悪人顔達との戦闘よりも本気で横へ振り抜く。

チンピラは避ける動作もせず、座った状態のまま微動だにしない。

それなのにボクの剣はチンピラに当たる事はなかった。


「だから、無駄だって言ったろ。 オレ様とガキンチョの住む世界が違うから当たり前なんだよ」

「はぁ?」

「あ~、そういう事か。 ガキンチョお前、精霊見るの初めてか?」

「精霊?」

「そうだ。 精霊ってのはエルフにしか見えねぇし、見えてもオレ様の様に人間に近い容姿だと見分けつかねぇからなぁ」


 え、精霊ってもっと神秘的で知的なイメージ、もしくは猛々しく禍々しいイメージだった。

なのに・・・、え? これ、どう見てもチンピラなんですけど?

特攻服な上に無意味にサラシをお腹に巻いている。

威嚇の為だろうか右胸に呪術っぽい刺青が見える。

そして、髪は無駄に前方へ張り出しているリーゼント、腰にはドスの様な短い刀を差している。

この見た目で精霊と判断するのはムリだよ。


「えー」

「な、てめ、信じてねぇな。 なら、モノは試しだ。 オレ様と契約してみな」

「えー」


 流石にボクにも選ぶ権利がある。

見た目からして弱そうな精霊がボクにとっての初めての契約精霊とかヤダなぁ。

何か、鉄砲玉って感じですぐやられそう。

同じ弱い精霊でも、もう少し精霊っぽいのが良いな。


「ぐぐっ・・・お願いしやすっ。 この通~り。 オレ様いえ私めをここから連れ出して下せぇ、いえ、下さい」


 ジャンピング土下座、初めて見たかも・・・。

ボクの事をガキンチョ呼ばわりしていたのに、いきなり下手に出てきたなぁ。

そんなにここから出たいのか?

と、周りを見渡したけど、まぁ、ここまで何もないと出たい気持ち分らなくもない、かも知れない。 多分。


「どうしようかなー」

「て、てめ、下手に出てりゃいい気になりやがって」

「あっそ」


 ボクは踵を返し表通りに向けて一歩踏み出した。


「あ”ぁぁぁ~嘘、嘘ですよ。 へへ」

「ま、するかどうかは一先ず置いておいて「って置くなよ」契約ってどうするの?」

「仕方ねぇな。 精霊見るの初めてみてぇだし、オレ様が直々に教えてやんよ」

「なんか、上から目線・・・」

「いや、オレ様、精霊だし、ガキンチョもエルフなら敬えよな・・・って、そんな事はどうでも良い。

取り合えず、オレ様が今から言う言葉を復唱してみろ。

『古の誓約に基づき【ここオレ様の精霊名】と契約を結ばん。汝の名は【ガキンチョが決めてくれ】。我が名は【ガキンチョの名前な】』」

「時々、入ってる注釈は何?」

「一つ目は『風の精霊ソードレス』、二つ目は、契約精霊にガキンチョ自ら名付けるって事だ。 あとは、まぁ分るよな?」


 名付けるって事は、このチンピラに名前を付けなきゃいけないって事だよね。

そんな事、突然言われても何も思いつかないよ。

うん、直感テキトーで良いやで行こう。


「えーと、『古の誓約に基づき風の精霊ソードレスと契約を結ばん。汝の名はザキラ。我が名はアキラ=ローグライト』、こんな感じ?」

「うひゃひゃ、来た来たキターーーッ」


 チンピラ・・・改め、ザキラの身体を中心に突風が断続的に吹き荒れる。

目も開けてられないほど強くなったと思えば、いきなり風が止み、そこにいた筈のザキラの身体はなくなっていた。

その代わり視認出来ないけどボクのすぐ傍にザキラの存在を感じる。


『ひゃっひゃっひゃっ、これから宜しく頼むぜ。 ガキンチョ』

「契約したんだし、ガキンチョ呼ばわりは止めてよ」

『まだ、ガキンチョを認めてねぇからなぁ。 名前で呼んで欲しかったらオレ様からの信頼を勝ち取って見せろよ』

「・・・ま、どうでも良いか・・・」

『あ、いや、オレ様いえ私めは、役に立つと思うので、時々いえ気が向いたらで良いので喚(よ)んで下さると嬉しいです。 はい』

「気が向いたら、ね」 

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