第9話
ザキラの件は後で考える事にして、ニセ傭兵四人組から傭兵タグを回収しよう。
頭部がない魔術師の死体から傭兵タグを回収し、弓使いに向かって歩いてる時、突然後ろから声を掛けられる。
「おや? 心配は無用でしたか」
「え?」
後ろを振り向くと西門で出会ったイケメンが立っており、ボクのいる広場を見回していた。
というか、なんでここにいるのだろう。
「ご親切な方がいましてね。 連れて行かれたお嬢さんを助けてやってくれって・・・」
ああ、なるほど。
確かに傍から見ると悪党っぽい人に無手のボクが連れて行かれる図に見えなくもないか。
「これは、お嬢さんが?」
「・・・まぁ」
「
イケメンは、優しそうな表情とは裏腹に鋭い眼光でボクを見る。
悪人顔と違い、見ている場所は長剣を持っている腕や脚などの肉付きや筋肉だ。
恐らく、彼の中でボクがどれだけの能力かなどを換算しているのだろう。
「ふむ。 お嬢さんさえ良ければどうです?」
「?」
「ぐぐ、くそっ・・・ゴホッ、・・・こんな所で死んで、たまるかよ」
ボク達の注意が少し緩むタイミングを見計らったのか、血反吐を吐きながら悪人顔が表通り方面の階段へ這いずる。
「あ」
そして、階段手前で立ち上がり階段を駆け上った。
「しまっ・・・」
「ヒッ、バ化物ォォォォ!?」
取り逃がしたと思った瞬間、悲鳴を上げ転げ落ちる様に階段が降りてくる。
「え・・・」
「ぷぎゃッ!?」
悪人顔が階段から転げ落ち地面で尻餅を着いている所へ階段の陰からボクの頭ぐらいある柄頭のメイスが出てきて悪人顔を頭から腰しかけて潰す。
「・・・」
「失礼な方ですわね。 誰が化物ですの?」
メイスに続くように階段の陰から出来てきたのは、お嬢様言葉を使う巨漢・・・いや、女の人、・・・うん、わからない。
多分、修道女の法衣(ただし、金の刺繍が入った派手なピンク色)を着た”漢・・・の娘”?
ボクには、脂肪なのか筋肉なのか判断のつかない胸板、はち切れんばかりにパツンパツンの袖口から出る丸太の様な腕、スリットから大胆に覗く筋肉隆々の太股は、非常に目の毒(悪い意味で)となる。
「何ですの? その目は・・・」
ボクの視線に気付いた彼女(?)は、小さな子供なら即死しそうな鋭い眼光で睨んでくる。
「お嬢様。 このお嬢さんが件の子供ですよ」
「そう、それにしてもセバスチャンにしては珍しいわね。 一人逃すなんて・・・」
セ、セバスチャン?
え、このイケメン顔に似合わずセバスチャンなの?
それにこの漢・・・の娘がお嬢様?
え?
「いえ、彼らの殺ったのは、このお嬢さんです。
それと、お嬢様、私の名前はイカロスです。 人前でその呼び名はお止め下さい」
「そ・・・」
お嬢様と呼ばれている漢の娘は、メイスを振り上げ肩に担ぐ。
メイスの柄頭からは、悪人顔だったモノの血と肉塊がボトリボトリと落ちる。
「これでセバスチャンも気が済んだでしょ? 戻りますわよ」
「いえ、お嬢様。 一つご提案があるのですが、宜しいでしょうか?」
と、セバスチャンじゃなくてイカロスさんがボクを見る。
「何ですの?」
「このお嬢さんを私達のパーティに加えてはどうでしょうか?」
「え?」
「理由は何ですの?」
くだらない理由なら殺しますわよ、と目が語っている・・・様に見える。
「チンピラ共を躊躇なく殺ったのは勿論ですが、お嬢さんは私達の同類です」
お、おと・・・お嬢様は、ボクを目を細めて見据える。
「それは、プレイヤーって事ですの?」
「はい、そうです。 それに先ほど精霊契約をした様です」
「精霊ね・・・。 セバスチャンが契約すれば問題はなくて?」
「私には無理ですよ。 そこまでの余裕はありません」
「どういう事?」
「ああ、それはですね。 お嬢様と私の二人パーティだという事です。
私は剣士兼執事、お嬢様は法術師兼戦士、つまり、戦術パターンが少ないんです」
ん?
剣士は分る。
法術師も分る。
戦士はまぁ分る。
でも、執事は分らない。
「戦術に執事って関係あるの?」
「・・・条件付でなら良いですわよ」
「条件ですか」
「あなた、セバスチャンと本気で戦って見せなさい。
結果はどっちでも構いませんわ。 あなたの実力(ちから)が見たいの」
ボクの質問は見事にスルーされ何故かセバスチャン・・・じゃなくて、イカロスさんと戦う事が決定してしまった。
しかも、悪人顔達との茶番ではなく本気で戦う事に・・・。
まぁ、でも、悪人顔達がニセ傭兵だった事から別のパーティを探さないと行けなかったし丁度良いかもしれない。
「セバスチャンはすごく強いわよ。
でも、ご安心なさい。 私(わたくし)は、これでも『聖女』と呼ばれるぐらい法術に自信がありますの。
死んでもすぐに私(わたくし)が、蘇生してあげますわ」
「はぁ」
生返事をしてしまったけど、気になる単語が二つある。
それは『聖女』と『蘇生』だ。
ここがE/Oの世界を元にしているのは明白なので、二つ名や見た目で『聖女』や『勇者』などが決定されない。
全て才能スキルから決定される。
つまり、二つ名が『聖女』なら確実に才能スキルに『聖女』が含まれている筈だ。
また、才能スキルは、ほぼプラスの恩恵がある筈なので彼女(?)が法術師という事を考慮すれば法術に何かしら効果がある思われる。
『蘇生』については、法術に死んだ者を蘇らせる蘇生魔法が存在しない。
いや、正確には、禁呪指定され通常では習得出来ない様になっている。
つまり、ボクの母様であるアニエラと同様に難関かつ長編クエストをクリアする事で習得できた記憶がある。
難易度的には母様よりも低いらしいけど、長編をこなす根気が必要な上に生半可な意気ではクリア出来ないギリギリに設定していた気がする。
ただ、禁呪がどのくらいあって何人が挑戦し何人がクリアしたのかリアルの記憶が欠如しているので覚えていない。
まぁ、言葉通りとするならば、この、お・・・嬢様は、禁呪指定された蘇生魔法が使えるという事になる。
「私は良いですよ。 ただ、すぐとはいかないでしょう」
「そうですわね。 あなた、何日必要ですの?」
「えっと・・・」
何日準備に必要か、か・・・、早すぎて失敗する訳にもいかないし遅すぎてなかった事にされるのも困る。
「準備期間を評価に加えるつもりはないですわ。
で、何日必要ですの?」
「・・・では、一週間ください」
「決まりですわね。 楽しみにしていますわ。
それでは行きますの、セバスチャン」
「はい。
ですが、お嬢様、私の名前はセバスチャンではなくイカロスです」
「どうでも良いですわ。 一週間後、昼過ぎここに来なさい。
日が沈むと同時にこの話はなかった事にするので気を付けなさい」
◇◇◇
二人が広場からいなくなり静けさが戻る。
ボクは弓使いとリーダー格の首から傭兵タグを回収し、悪人顔だったモノからひしゃげた傭兵タグを回収する。
そして、表通りへ向かう階段を何事もなく上りきった頃には、二つの太陽の内一つは完全に落ち、もう一つも今まさに城郭の向こうに落ちようとしていた。
母様に晩御飯までに戻る様に言われていたけど間に合うかな。
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