第6話

 広場に戻るとパーティを募集している傭兵や法術師を募集しているどう見ても脳筋パーティでごった返していた。

その中からギルド職員を見つけ出すのは至難の技と言える。

何か目印になるようなものがないのか、受付のお姉さんに聞いておくべきだった。

しばらく、人ごみの中をさ迷っているとやっとギルド職員と思われる人を発見する。

 今はボクと同年代と思われる少女の相手をしている。

ロッドを持っている事から法術師か魔術師だろう。

彼女の言葉を聴きながらギルド職員は、何かメモ書きをしている事から聞き取り調査の様な事をしていると思われる。

少女の聞き取りが終わり右手を上げて何か合図をすると、しばらくして他のギルド職員が三十代半ばぐらいの傭兵を連れてきた。

これが斡旋つまり傭兵同志の引き合わせだろう。


「っあの・・・!」

「はい。 斡旋希望の子かい?」

「お願いします」


 会釈をした後、受付のお姉さんから渡された紙を渡す。


「ふんふん、それじゃ、簡単で良いので質問に答えてもらえるかな?」

「はい」

「魔法関連は実際どのくらい使えるのかな?」

「精霊魔法はあまり・・・、法術と魔術は基本と初級をある程度・・・」

「OKOK。 意図は分ったよ」


 精霊魔法と法術と魔術の三種も使えると書いたのは、ボクがハーフエルフ族だというアピールに過ぎない。

それをこの職員はちゃんと把握してくれたようで少し安心した。

まぁ、ハーフエルフっていうのも厳密に言えば違うのだけど、それ以上の詮索をされない為だ。


「ふむふむ、じゃぁ、取り合えず前衛という事で良いのかな?」

「はい、それで良いです」

「う~ん、前衛か・・・」

「何か不都合でも?」

「あ、いや、前衛希望の新人くんちゃん達が多いからね。

もう、大方埋まっちゃってるんだよ」

「そうですか・・・」


 戦力になる後衛職・支援職は斡旋して貰うまでもなくすでにパーティに入っている。

中級以上使える法術師も斡旋どころか、向こうから寄ってくる。

若干見劣りしても前衛職以外なら使い道がある。

前衛職は、常に危険性がはらんでいる為、中途半端な実力を持った新人は足手まといにしかならない。

それでも大目に見て一人までが許容範囲だろう。

そうなると必然的に前衛職の新人が溢れてしまう訳だ。


「はは、ちゃんと斡旋してあげるから心配しないで良いよ」


 前の少女の時みたいに右手を上げ何か合図をするが、少し合図の順番が違う様に思える。

ちょっと時間が掛かっている様で待っている間、心配そうにしているボクと同じ高さまで目線を下げ優しい手つきで頭を撫でてくれる。

少しくすぐったくて、無意識に耳の先がピクピクと動く。


「はぁはぁはぁ、やっっと見付けましたっ!!」

「はい、ごくろうさん」


 職員はボクの頭から手を放し、両肩を優しく掴んで反対を向かせ別の職員が連れてきた傭兵を指差す。


「彼が君をパーティに入れてくれる、かも知れない人だよ」


 見上げると如何にもという悪人顔の傭兵が立っており、まるで品定めをするかの様にボクの全身を見据える。

そして、小さく舌打をするが、ギルド職員は気付いていない様子だ。


「・・・ま、いいぜ。 付いてきな」


 何かあまり良い方向にならない気がする。

ボクはギルド職員の方へ振り返る。

”がんばってねぇ”とボクが期待した言葉とは逆の言葉で見送られる。


 中央広場を抜け西大通をしばらく進むと宿屋と宿屋の間にある暗い脇道へと案内される。

怪しいなんてものじゃない。 怪しすぎる。


「あ、あの・・・」

「あん? 心配すんなって、俺達でちょいっとお前さんの実力テストをするからよ。

邪魔の入らねぇ所へ移動するだけだ」


 かなり怪しいけど筋は通っている。

テストとはいえ傭兵同志の私闘は、ご法度とされ表立って出来ない。

ギルド地下に鍛錬所があるが、使えるのは登録から一年未満の新人だけ。

どういった理由があれど、それ以外の傭兵は使う事が出来ない。

そうなると街の外か人の目”特に騎士の目”がない所へ移動し、そこでするしかない。

街の外は、現在未知の部分が多い為、人目のない所まで移動するのは危険すぎる。

街中で人の目のない所となるとほぼ必然的にクランホームぐらいだが、中小のクランがクランホームを持っているのは稀だ。

あったとしてもプレイヤータウンでないと土地代および建築費だけで莫大なお金が飛ぶ事になる。

ピンキリではあるけれどプレイヤーハウスの十倍以上だ。

そうなるともうスラム街と呼ばれる人の目があったとしても問題ない場所へとなってしまう。 


 脇道を抜けると街頭が全くなく薄暗い少し広めの所へ着くとそこから下へ延びる階段を下りて行き、また広めの所へと出る。

それを三回ほど繰り返すと広場と言って良いぐらいの広さがある窪みへと入る。

スラム街かつ周りが壁で囲まれた窪みという事もあり、灯りはなく建物と建物の隙間から覗く日の光だけが光源となっている。

壁と壁の間には、ここよりも暗い小道が延びており人影らしき者がチラホラと見える。

しかし、人の気配がなく嘗め回すような視線だけが周囲から感じる。

そして、暗闇となった小道から三人ほどの人影が出てくる。

この悪人顔の傭兵と元から広場にいた男を足すと全員で五人となる。


「おっと、警戒しなくて良いぜ。 こいつらは俺の仲間だ」


 暗闇になれてきた目は、この悪人顔の傭兵と良く似た風貌の姿を捉える。

五人の内、三人が剣士、一人は弓使い、そして、魔術師といった感じだ。

その誰もが薄気味悪い笑みを浮かべている。


「おい、法術師じゃねぇのかよ」

「すまねぇ。 新人の法術師さえ見当たらねぇわ」

「で、そのガキか・・・。 そいつ武器持っちゃいねぇが、何が出来んだ?」

「剣士だとよ」

「チッ、剣士かよ」

「剣士なんていらねぇ。 返品だ返品」

 

 ボクが加わると剣士が四人となる。

さすがにこれはバランスが悪過ぎるので彼らの言葉も分らなくもない。


「まぁまぁ、そう言うなってお前ら、取り合えず実力テストしてやろうじゃねぇか」

「はぁ、なんで!?」

「まぁ聞け・・・・・・・・・・」


 悪人顔は、リーダー格と思われる男にコソコソと内緒話を持ちかける。

嫌そうな表情だった顔が、少しずつ笑みへと変わっていく。


「そういう事かよ・・・。 いいぜ、してやるよ。

その代わり、テストは実戦形式へ行く。

俺達の仲間になりたきゃコイツに勝ってみろよ」


 悪人顔を親指で指差す。


 「おらっ、これ使え」


 そして、弓使いの傭兵が、腰に差してあった小剣をボクの足元へ投げる。

ボクは、それを拾い上げ小剣を鞘から抜く。

手入れはされている様だが、砥石による応急処置程度に思える。

中堅傭兵なら収入も悪くない筈なのに何故ちゃんとした鍛冶屋で直して貰わないのだろうか。

何度か振り下ろしたり振り上げたりと使い心地を確かめる。

剣を振るう毎にヒュパと風を斬る良い音がなる。

これなら相当実力差がない限り折れる心配はなさそうだ。


「じゃ、始めっか」

「・・・」


 ボクはコクッと頷いた。

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