第5話
「ようこそ、傭兵ギルド、元ノースブレイ王国ヴェユス支部へ。
新規登録の方ですね」
傭兵ギルドに入ると全部で八つあるカウンターは、ボクの様な傭兵希望の少年少女によって列を成して占拠されていた。
待つ事三十分以上やっとボクの番となり、本日何回目かになるだろう決まり文句を受付のお姉さんが笑顔で言った。
「はい。 登録お願いします」
「では、こちらの方に必要事項を書いた上で書名して下さい」
彼女に渡された書類をよく見ると
「あの・・・これは?」
「あなたも領主様の発表を聞いたと思うけど、今は猫の手も借りたい状況なのよ。
特に田畑開拓や港や街道を設けようと思ったら、あなた達の様な若い力が必要って訳・・・」
説明を聞きながら必要事項を書き込んでいく。
戦闘経験の有無など戦闘に関わる項目がなくなり、非常に簡素になった事で悩む事なく記入が終わり、最後に名前を記入する。
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・新規傭兵登録用紙・
年齢:16歳
性別:女
種族:ハーフエルフ
二つ名:なし
役割(※自己申告):剣士
流派:月守夢想流剣術
得意属性:―
得意武器:―
戦闘経験の有無:―
戦闘履歴:―年
過去所属団体:―
その他備考:魔術と法術が少し使えます。
書名:アキラ・ローグライト
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「はい、じゃあ、確認するからちょっと待ってね」
項目ごとに指でなぞりながら、一つずつ確認して行く。
そして、最後の書名の所で指が止まり、顔を上げボクの顔をまじまじと見る。
「ん?」
ボクは首を傾げ、何か誤って記入したのかと用紙の方を覗き見る。
「ああ、間違ってないわよ。
それよりもあなたって
雷迅様・・・つまり、ボクになる前のプレイヤーキャラ、ヴォルト・ローグライトの事だろう。
まぁ、今はボクの
ボクが扱う剣術「
丁度その時、大規模戦争が始まり初め劣勢とされた勢力をボク・・・じゃなくて、ヴォルトを含めた八人の傭兵で勝利へと導いた。
これは驕りでも何でもなくて真実で普通無双などなる筈がないゲームシステムの中、まさに無双と言えるほどに敵を圧倒した。
彼らが得意としていた属性(もしくは武器)が見事八つに分かれていた事もあり、畏怖と憐れみから”
後で知った事だけど、”八迅”本来の意味は”八人の廃神”らしい。
つまり、ヴォルトは”雷使いの廃神”という事になる。
「それはボクがローグライトだから、ですか?」
「違うの?」
「いえ、あっています」
「やっぱり! 握手して貰って良い?」
「え、ボク、父様と違いますけど・・・」
「いいの、いいの」
ハイっと手を差し伸べられたので恐る恐る手を握る。
数分経ってまだ手を放してくれない。
そろそろ・・・というか、周り特に後ろからの奇異な視線が痛い。
「ところで登録はまだですか?」
「・・・え?」
「え?」
「ああ、うん、大丈夫大丈夫。 登録完了よ」
この人、完全に忘れていたな。
用紙を仕舞い新たに別の用紙が目の前に出される。
「今回の事態について、あなたはどのクエストを希望します?」
そこには・・・。
一つ、ヴェユス周辺の探索 [希望する・希望しない]
一つ、農家の方達と協力して田畑の開拓 [希望する・希望しない]
一つ、周辺の魔物を狩り生態調査および食料の調達 [希望する・希望しない]
一つ、隣街の探索および街道設置の下調べ [希望する・希望しない]
一つ、港の設置協力 [希望する・希望しない]
一つ、その他 [希望する・希望しない]
と書かれていた。
「これ、全部希望するって出来るの?」
「出来ますよ。 ま、実現性は低いでしょうけど」
「じゃ、このその他ってのは?」
「領主様の依頼以外って事ね。
当然、今まで通りの依頼をこなして貰っても構わないわ。
ただ、今回の転移で無効になってしまった依頼も結構あって、今その精査中だから実際に依頼が提出されるまで少し時間が掛かるわね」
「ふ~ん」
どれにしよう。
ボクとしては、隣街の探索および街道設置の下調べってのを希望したところだけど・・・。
そもそも、参加条件が中級法術が使える者がパーティにいないといけない事がネックだ。
いくら中級法術が使えてもソロだとダメだし、そもそも時代進行してボクとなってしまった事からヴォルトの伝手は使えないからパーティを組む事自体が難しい。
というか、まぁ、法術を使う事は出来るけど中級までがほど遠いしなぁ。
「う~ん。 この隣街の探索って中級法術が使えない且つパーティの伝手がなくても希望出来るの?」
「もちろんよ。 ちゃんと斡旋するから心配しないで」
「じゃあ」
ヴェユス周辺の探索・・・希望しない。
農家の方達と協力して田畑の開拓・・・希望しない。
周辺の魔物を狩り生態調査および食料の調達・・・希望しない。
隣街の探索および街道設置の下調べ・・・希望する。
港の設置協力・・・希望しない。
その他・・・希望しない。
これでいいや。 後はなるようになる。
「これで・・・」
「ふむふむ、じゃ、パーティの斡旋を希望する、で良いのよね?」
「はい」
彼女は、隣街の探索および街道設置の下調べ欄の希望するに○を付けた横に斡旋希望とメモ書きをする。
「じゃ、この札を持って外にいる臨時カウンター以外にいる職員に渡してね」
渡された札には、斡旋希望と赤ペンで手書きされた簡単なものだった。
恐らく、ボクの様に隣街探索を希望する新人傭兵がたくさんいるからだろう。
よく見ると同じ様な札を持った新人傭兵がギルドの外へ向かっているのが見えた。
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