第4話
「どうなってんだ? これは・・・」
「俺が知るかよ」
「おいおいおいおいおい、これまずいって・・・」
「待て俺、待て俺、こんな時は冷静に・・・」
ボクはショックで絶句していたけど周りの人同様にかなり困惑していた。
この分だと西門・南門も同じ状況と言えるだろう。
となると、”街”だけが転移している状況は非常に良くない。
周りにあった田畑がヴェユスの食糧事情に大きく貢献していた事もあり、それらがこのヴァーニスには転移していないという事で自給自足が難しい状況と言える。
それに元プレイヤーと元NPCの農家の人から見れば己の死活問題でもあるだろう。
彼らにとって田畑は、全財産と言える。
また、道が消えているという状況を見るに隣町の場所が分らないという事でもある。
つまり、隣街に救援を求める事が出来ず、全てこの街の人間で解決しなければならない状況だ。
「っ、どうしよ・・・」
「そうだよ。 これからどうすんだ?」
「どうするって・・・、俺達で何とかするっきゃねぇだろ」
「ぉう、こうしちゃいられねぇ。 傭兵ギルドへ行くぞ」
ボクの呟きに呼応するかの様に周りの人達が慌しく動き始める。
ボクも何時までも動揺している訳にも行かない。
この街の行政というか騎士団では、人数的にこの事態を対処するのは難しい。
だけど、ヴェユスは傭兵の数ではどこにも負けない。
恐らくは、傭兵ギルドに何かしらの動きがある筈だ。
「傭兵ギルド・・・」
そう、傭兵ギルドへ行こう。
傭兵ギルドへ向かった人たちの後ろからボクも続く。
恐らくゲームであった魔物の街への不可侵などがなくなっている筈で、騎士の人数が少ないこの街では手が空いている騎士がいないと思われる。
傭兵ギルドは、この街の中央つまり時計塔のある中央広場に面している。
そして、ボクを含んだ北門からの集団は、傭兵ギルドの周りに人だかりが出来ているのに気付いた。
その数、このヴェユスにいる傭兵の三分の一はいそうで、普段はもっと大きく見えていた中央広場が狭く感じる。
「おい、あんた。 何が始まるんだ?」
「あん? ああ、領主様と傭兵ギルドから何か発表があるんだとよ」
「発表か・・・」
待つ事数分、傭兵ギルド前に置かれた台座に領主様が上る。
ボクを含めた皆の視線が注がれると気の所為か少しビクッとなった気がする。
慌てて胸ポケットからハンカチを取り出し、汗だらけの顔を拭う。
そして、ギルド職員から渡されたメガホンを持ち説明を始めた。
「えー、傭兵およびこれから傭兵になろうとする皆様、えー、お集まり頂き誠に有難うございます。
えー、皆様もすでにご承知かと思いますが、現在このヴェユスは、えー、孤立の状態に陥っています。
えー、ご存知ではない皆様もいらっしゃるかも知れませんので、えー、掻い摘んで状況をご説明致します。
えー、異世界の神と名乗るヴァーニシア・・・様によって、えー、我々はこの地に街ごとやって参りました。
えー、ただ、予想外と言いますか、えー、何と言いますか、”街だけ”でして周辺の環境はこちらに来ていない様なのです。
えーあー、つまり、この街の備蓄だけでは、食料が二ヶ月でなくなるという事です。
そこで皆様、傭兵にご協力頂こうと思います。
えー、詳しくは後にギルドが説明ありますので、しばらくその場に留まってください。
えー、以上で状況説明を終わらせて頂きます。ご清聴有難うございました」
領主様は一度深い礼をした後、台座から降り傭兵ギルドの職員と共にギルド内へ入っていった。
「続きまして、傭兵ギルドからお知らせします。
領主様からご提案されましたクエストは以下の通りとなります。
一つ、ヴェユス周辺の探索。
一つ、農家の方達と協力して田畑の開拓。
一つ、周辺の魔物を狩り生態調査および食料の調達。
一つ、隣街の探索および街道設置の下調べ
一つ、港の設置協力。
以上となります。
ただし、隣街探索に関しては、中級法術が使える者がいるパーティに限ります。
何か質問ありますか?」
ボクの視界から見える範囲でも二・三人手を挙げているので全体ではもっと多いだろう。
背伸びしても全然視界が取れないので分らないが・・・。
「何故、隣街探索に中級法術が必要なんだ?」
「転移後、新たに発見された魔法が、中級法術だからです」
「よく分らんのだが・・・」
「えーと、皆様、現在お持ちの地図を出して頂けますか」
初期装備でそのまま来たから何も持って来ていない。
仕方ないので隣で地図を広げていた傭兵の方を覗き見る。
「・・・ぁ」
「白紙・・・だと!?」
その地図には、右下の方に小さくヴェユスの街が描かれているだけで、そこ以外は真っ白つまり何も描かれていなかった。
白紙にも驚いたがE/Oでのヴェユスの位置は、左下の方だった筈なのでまったく正反対の位置に移動している事が分る。
「つまり、新たに発見された魔法は、三種。
半径五メートルの範囲を地図へ書き込むオートマッピング。
地図上にマークを書き込むマーキング。
二箇所の起点を適切な最短経路で導き出すルーティング。
ただし、ルーティングは上級法術になりまして、今の所はギルドの方で代行する予定です。また、起点登録はギルド内で行えます。
詳しくは、受注される際に説明します」
説明を終えたギルド職員は、隣にいた同僚にメガホンを渡しギルド内へと入る。
「それでは、これよりクエストと受注および新規傭兵の受入を開始します。
臨時でこの広場にカウンターを設置しますので、すでに傭兵の方はこちらで受注して下さい。
そして、新規に傭兵へとご希望の方は、ギルド内へお越し下さい。 以上です」
職員が説明している間にも続々と会議テーブルの様な臨時カウンターが設置されていて、説明を終えるとその職員もそれに加わった。
傭兵内でも動きがあり、まだ設置途中のカウンターへ行列が続々と出来きだしている。
そして、ボクの様な傭兵希望の若い人達は、ギルド内へと吸い込まれていく。
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