第14話 どんでん返し


 身体の芯から揺さぶるような魔物の群れが奏でる足音。

 逃げきれずに潰され、断末魔の叫びに興奮し、さらに魔物が駆ける足を速める。


 それはさながら黒い波だった。

 轟々と音を立て、大地を揺らし、鬼気迫る勢いのままに迫る黒い津波だ。


 それを引き受ける四人の顔は、まさに四者四様に異なる。


 ケインはこれから自らが死地と化すその中心に曝されながらも、どこか獰猛な、愉しげな笑みを浮かべて顔を引き攣らせる。エルファは一切の油断もなく、小さな口を早口で動かし、自らが契約している精霊達へと呼びかけを開始――魔法の準備に取り掛かり、瞑目していた。


 マリーナはガチガチと震える身体を、歯を食いしばり、手を血が滲む程に力強く握り続けることで必死に支え、目を大きく見開くように魔物の群れを睥睨していた。


 そしてジネットは――笑っていた。


「――懐かしい。あぁ、懐かしい。

 押し寄せる波のような魔物の群れ、強者が弱者へと襲いかかろうとする殺気。

 私は――再びこの場所へと帰ってきてしまったようだ」


 歌うように空を見上げ、老婆を思わせる間延びした物言いは消え去り、遥かな過去に想いを馳せるように――それは生み出される。


 中空を踊る銀珠がジネットの上空で眩い烈光を放ち、巨大な紫紺の魔法陣を生み出した。バチバチと激しい音を立てて雷撃の余波が飛び交い、ケインとエルファ、マリーナの三人は前方から迫る魔物の波すら忘れるように魔法陣を見上げた。


 上空に生み出された巨大な魔法陣はやがて光を中心へと集結させ、今にも破裂してしまいそうな危うい膨張を見せる。


「さぁ、始まりだ。

 血で血を洗う争いを。荒れ狂う命の収穫を始めよう。

 まずは挨拶代わりに受け取るがいいッ!」


 刹那、巨大な魔法陣から紫電の槍が放たれた。

 目にも留まらぬ速さで魔物の軍勢へと放たれたそれは、光の残滓を虚空に残しながら正面から魔物を迎撃した。


 視界を白く塗り潰す程の、圧倒的な魔法。

 ジネットの十八番【雷神の三叉槍】と名付けられた戦略級の魔法が、暴れる魔物の軍勢に突き刺さり、全てを呑み込み、紫電が拡散した。


 衝撃の余波はジネットに操られた銀珠によって防がれ、ケインとエルファ、マリーナの三人はただただ呆然と、初撃の挨拶代わりの一撃と謳われた魔法が生み出した光景に目を奪われていた。




 ――――これが、英雄。




 先程の大地を割った一撃がただの下準備であったという事実を、ジネットはその一撃を以って証明してみせた。


「さて、ひよっ子ども。いつまでも呆けてる暇があると思うなよ」


 ジネットから紡がれた声は、先程までの年齢を感じさせるような僅かに嗄れた声ではなく、張りのある妖艶な女性の声。聞き覚えのない声に驚き、振り返る三人が見たのは、エルファよりも僅かに年上といった程度の妖艶さを携えた一人の美女の姿であった。


「何を驚いてる。これだけの力を老体で使える訳がないだろう。少し昔の姿に戻っただけだ」

「そ、そんな魔法、聞いた事もないですよ……!? 一体どうやって……!」

「治癒魔法を少しいじってあるんだよ。あの娘の言い方を借りるなら、「魂魄に時間を刻みつけて保存している」といったとこだ。さっきまでの姿も所詮はその保存された情報の一つに過ぎない。ま、分からないだろうが」


 ジネットの年齢に対して容姿が異なる理由は、このジネットの特殊な魔法にある。これこそ、ジネットが不老不死に近い性質を宿し、『魔と叡智の神』が彼女に加護を与えたその理由ともなった魔法の一つである。

 もっとも、最近ではこの全盛期に戻るのも負担が大きくなりつつあるため、ジネット自身が禁じ手として封じてきた秘術でもあるのだが、出し惜しみするつもりはない。


 未だに呆けたままの三人を見てこめかみに青筋を立てると、ジネットは再び魔法を構築させながら苛立たしげに口を開いた。


「いつまで呆けている! 現在いまを生きているのはお前達だろうが! さっさと気持ちを切り替えろ!」


「「「はっ、はいぃぃっ!」」」


 一喝されて、ようやく三人が先程までの緊張すら忘れ魔物の軍勢へと向き直る。


 ――――ジネットの挨拶代わりとして放たれた【雷神の三叉槍】は、十分過ぎる程の牽制となった。


 大地を穿った最初の一撃が、ジネットの強力な魔法から逃れようと方向を転換しようとした魔物達を呑み込み、多くの魔物が奈落の底へと沈んでいく。

 唯一開かれた中央の道も、ジネットが再び構築した魔法が迎え撃つように再び魔力を集めて待機しているのだ、興奮すらも吹き飛ばした一撃によって魔物達が二の足を踏む。


 それでも後方から押し出されるように魔物達は進む事しか選択できない。


 ジネットの魔法が前線を無視するように山なりに後方へと放たれ、後続の魔物を次々と屠っていく。

 これを好機と前線の魔物が前へと進み始めれば、今度は飛び出してきたケインが躍り出て、剣を振るう。


 魔力を爆発させる対集団戦用の一撃。


 それでも殺到する魔物の勢いは止まらず、次々とケインを呑み込もうと飛びかかる魔物達が、後方から放たれたエルファの魔力を貰った精霊が織り成す精霊魔法によって一瞬にして肉塊へと変貌を遂げた。


 踊るようにケインは剣を振るう。

 ケインの死角を狙った魔物を、エルファが次々に屠る。

 互いにアイコンタクトをしてみせると、エルファが再び精霊へと声をかけ、新たな魔法を紡ぎ始めた。


 ケインとエルファの魔法の完成。それはまさに阿吽の呼吸と言っても過言ではないタイミングで放たれた。風の精霊によって生み出された竜巻が、ケインの立っていたその場所で暴威を振るう。


「詰めが甘い。下がれ、ひよっ子!」


 ジネットの声を耳にしてさらに後方へと下がったケインとすれ違うように、炎の矢がエルファの生み出した竜巻へと放り込まれ、爆発した。燃え広がる火炎を巻き込んで膨れ上がった火炎竜巻が膨張し、さらに多くの魔物を呑み込んで荒れ狂う。


「危ない危ない……。危うく巻き込まれるところでしたよ」

「エルファ! あの竜巻を広げな!」

「は、はい!」


 ケインのぼやく声など一切気にせずに指示を出すジネット。そんなジネットの前では、二級冒険者として賞賛を浴びているエルファも必死に食らいつくのがやっとといった所のようで、ケインは改めて自分達の未熟さに苦笑を浮かべた。


 曲がりなりにも冒険者としては上位にいるというのに、この戦いが始まってから魔物を屠った数で言えば、ジネットが九、ケインとエルファでようやく一に届くかどうかといった割合でしかないのだ。


「さて、僕達でこれだ。あの子は……」


 ちらりと見やる先で――マリーナの心は震えていた。


 本物の英雄と、現在の英雄。

 まだまだ戦いは始まったばかりだが、たった三人で魔物の群れを押し留めてみせるその様を見つめるマリーナもまた、気が付けば剣を抜いていた。


 ――このまま見ているだけなんて、


 揺さぶられる魂は切に叫ぶ。

 これ程までの実力者達と肩を並べる機会は、そうそう訪れはしない。ここまで絶望的な状況にしてもなお「この人達と肩を並べて戦いたい」とすら思えてしまう程には、マリーナは力を求める冒険者らしい性格をしていると言えた。


 魔物を呑み込む大地の亀裂を飛び越えて、狼型の魔物が一匹、肉薄してくる。

 気が付けば、マリーナは飛び出していた。

 その端正な顔に、鬼気迫る獰猛な気迫と笑みを湛えて。


「――はあああぁぁぁッ!」


 裂帛の気合を伴って、マリーナもまた戦場へと躍り出る。


「……へぇ。なるほど、やるね」


 今しがた見せた、ケインの踊るような剣技。

 拙いながらもマリーナはそれを真似つつ、彼女にとっては格上であろう狼型の魔物――シルバーガルムの鋭い爪を避けながら振るわれていた。


 さらに肉薄した、もう一匹の魔物。


 マリーナは後方に飛びつつもくるりと空中で回転しながら魔法で追撃を放ち、あっさりとシルバーガルムの命を刈り取ってみせた。

 続けて襲いかかる魔物に、再び――今度は先程よりも洗練された動きを以って、マリーナは迎え撃つ。


 ケインのように剣一辺倒で魔物の大群を足止めする事はできなくとも、魔法剣士という自らの特性を活かして不足を補ってみせるだけの機転を利かせる冷静さ。

 格上の魔物を相手に怯えずに戦ってみせるだけの胆力。


 周囲から天才剣士と持て囃されたのは、ただの伊達やおべっかではなかった。

 ケインも、マリーナの戦いを横目で見ていたジネットでさえも思わず感心する程に、マリーナの動きはこの数分の戦いの中で昇華している。


「これはうかうかしていられないねッ!」


 火炎竜巻がようやく終息を迎え、未だにジリジリと肌を焦がすような熱が漂う中へとケインは再び身を投じていく。


「はぁ、はぁっ。まったく、楽しそうね、あのバカ……!」


 相棒の背を見つめながら、エルファは酷い疲労感に苛まれながら肩で呼吸を繰り返していた。

 ジネットによって火炎を放り込まれ、それを制御するのはエルファの技量でもギリギリでどうにかなったといったところであり、周囲の全てを呑み込もうと広がる火炎をなんとか押さえつつも範囲を広げ、どうにか制御しきってみせたのだ。


 崩折れそうになりながらも自らの膝に手を当ててどうにか耐えつつ、ジネットを見やれば、当のジネットもまた全盛期を維持するのは想像以上に負担が大きく、表情を歪ませる程ではないにしろ額からは汗が流れ、余裕綽々といった様相からはかけ離れている。


 幸い、魔物達はジネットらの先手によって大きく戦力を削がれている。


 大穴に呑み込まれ、紫電に貫かれ、火炎に焼きつくされるというジネットが放った手と、後方から迫る地竜の気迫。まさに前門の虎、後門の狼といったところである。


 それでも、この過剰な攻撃を繰り返すには、あまりにも魔力が足りない。


 一度は潰れた魔物の波も、再び森から沁み出るようにあっという間に溢れ、再びジネットらへと肉薄を開始した。


「……チィッ、面倒な!」


 濃密な魔物の波がここまで続くとは、さすがに経験が豊富なジネットとて予想だにしていなかった。というのも、一般的な大暴走スタンピードでは本来、ここまでの壊滅的な先手さえ打てば波は引くものだからだ。


 大暴走スタンピードは群れを率いる『王』が現れた場合と、強力な魔物によって住処を追われた魔物達が引き起こす現象だ。

 当然、ここまでの圧倒的な虐殺を目の当たりにすれば少なからず魔物の波は引く。


 しかし今回ばかりは、ジネットの読みが浅かったと言うべきだろう。

 この大暴走スタンピードは人為的に引き起こされたものであり、従来のそれとは大きく異なるという点を看過してしまっていた。


 そして何より。

 魔物達が退けない理由が、四人の視界についに映り込んだ。


「……山が、動いてる……」


 地竜の行進が、ついに四人の視界からも捉えられる位置まで近づきつつあった。

 森の木々の上に姿を見せた黒い山、地竜の背が近づいている。

 まだ距離はあるものの、その速度は見た目以上に早くナゼスへと辿り着こうとしていた。


「ひよっ子ども! 雑魚の足止めは任せる!」


 誰より早く動いたのはジネットであった。

 先程放った【雷神の三叉槍】以上に強力な魔法を構築すべく、銀珠を操って中空で大きな三角形の頂点を象らせる。


 それぞれが円を描き、幾何学的な紋様が刻まれていく。

 黄金に輝いた光の魔法陣が三つ、さらにその三つの円を囲むように巨大な円が中空へと生み出され、それぞれの魔法陣を繋ぐように光の線が走っていく。


 大規模殲滅級魔法――【裁きの審判】。


 現在では失伝され、復活したとしても一級冒険者や宮廷魔術師が数十人規模で構築させて復活に到れるかどうか、とまで云わしめるお伽話のような魔法。

 かつてジネットが、魔王を討伐する際にその一撃を以って魔王への血路を開いたと伝わる最凶の切り札だ。


「ぐ……ぅっ」


 複雑かつ強大な魔法に、ジネットの意識が持って行かれそうになる。

 唇をわざと噛み切り、歯を食い縛りながら魔法の完成へと注力する。


 ケインとマリーナが前へと躍り出て魔物の足止めを続け、エルファが二人のフォローをしようと必死に支援を続ける。


 たった四人の防衛。

 しかし地竜の登場はつまり、〈魔境の深林ネプラ・コルクス〉の最奥部に棲まう強力な魔物達の登場も意味しており、ケインとマリーナ、それにエルファでは足止めが精一杯だ。


 亀裂を飛び越えてくる魔物、味方である魔物を巻き込む事すら厭わない魔物の追い討ちに、ケインとマリーナは徐々に後方へと下がる事しかできない。


 もはやジネットの【裁きの審判】を放つ事でしか、挽回できる状況ではなかった。


「このままじゃ……ッ!」

「――完成だ! 退け!」


 瓦解寸前の二人にとって、待ちに待ったジネットの合図。

 二人は即座に斜め後方へと反転して飛び出し、ジネットの立つ射線から離脱を始めた。


 放たれた金色の光線。

 リアがもしそれを見ていたなら、「レーザービーム」とでも称するであろう金色の光が魔物達を呑み込み、渦を巻いて木々を穿ち、大地を削りながらまっすぐ地竜へと向かう。


 ――勝った、とジネットは確信する。


 いくら頑強な肉体を持ち、物理的、魔力的に強固な防御力を誇る地竜であっても、ジネットの放った【裁きの審判】を防ぎきる事は不可能だ。

 何せ、それ以上の力を有していた魔族にすら怖れられた魔法だ。


 これでようやく戦いが終わる、と思わず口元が緩む程には、勝利を確信した一撃。





 しかし――――それを良しとしない者がそこにはいた。




「さすがは〈銀珠の魔女〉。

 ――でも、そんな魔法で終わらせるなんてつまらないわ」




 森の向こう側から激しい戦いを見つめていた[色欲の罪源ラスト]。

 愉悦に浸り、陶然とした笑みを浮かべながら、パチンと軽快な音を奏でさせて指を鳴らした。


 地竜の身体を覆うように虹色の光が展開され、直後――ジネットの魔法が地竜へとぶつかり、ガリガリと耳障りな音を立てながら激しい金色の光を拡散させ、森を抉り取るように光が荒れ狂う。






 ――――そしてジネットの渾身の魔法は、遥か空へと弾かれた。







「……ばか、な……」


 愕然としながらジネットは思わず声を漏らした。


 かつて魔族にすら怖れられた最強の魔法が今、何者かによって邪魔をされた。

 全盛期を取り戻していた身体も、【裁きの審判】の反動によっていつもの姿へと戻ってしまっている。もう一度【裁きの審判】を放つことはできない。


「……困りましたね。エルファ、アレを止められるかい?」

「……無理よ。強固な結界を幾重にも張っても減速が限界。止められるなら、最初からジネット様が止めてるに決まっているわ」

「だよね……。さて、これは本当にまずいね」


 諦念とも取れるケインの言葉に、誰も続きの言葉を口にしようとはしなかった。

 不幸中の幸いは、ジネットの【裁きの審判】によって地竜以外の魔物が呑み込まれた事か。地竜さえ避ければ、生き残る事は容易い。


「……あんた達は逃げな」

「どうなさるおつもりで?」

「決まってるさ。あれをどうにか止めれないか試してみるよ」

「無茶です!」

「そうは言っても、このままじゃナゼスは壊滅だよ。あの地竜はそう簡単に止まってくれないだろうしね。村を守ってる結界も、あのまま突っ込まれちゃ焼け石に水ってもんさ。まぁ力を振り絞って減速させれば、どうにかなるかもしれないからねぇ」


 ――この老いぼれの命を賭けて、試してみようじゃないか。

 そう付け加えて小さく笑うジネットに、ケインらにかけられる言葉はなかった。


 今取れる最善は、逃げる事だ。

 ナゼスをどうしても守らなくてはならない理由がないのであれば、冒険者としてはこれ以上の命を賭ける理由はないのだから。


 迫り来る地竜を見つめて、ジネットは自らの死に場所がこんな場所になってしまうとはと苦笑を浮かべた。

 永く生き、緩やかに死を待ちつつも後継者を求めていた数十年だったが、この数年――リアという娘ができてからは幸せだったと、今更ながらに思う。


「――――!」


 なんとなく、最愛の娘が自分を呼んでいるような気がして、ジネットは穏やかな気持ちで笑みを浮かべた。


 今頃、あの無愛想な熾天使らが守ってくれているのだ。

 希わくは、あの子が大人になるまでは見守ってやりたかったと、思う。


「――おーい、ジーネー!」


 それにしたってこの間の抜けた、緊張感の欠片もない声はリアののほほんとした気性を知るからだろうか、とジネットは幻聴に向かって呆れてしまう。


「……子供?」

「じ、ジネット様。何やら呼んでいるみたいですけど……空から」

「……何言ってんだい?」


 ケインとエルファに言われて三人の視線を追ってみると、そこには。


 真っ白なワンピース、銀色の髪を肩口で切り揃え、紫紺の丸い瞳を満面の笑みに細めた少女――リアが、銀珠で展開している【結界術】の上に立って、手を振っていた。


「な、ななな……、何やってるんだい、リア!」

「きちゃった!」

「バカタレ! 家で留守番してないかい!」


 先程までのシリアスはどこへやら、である。


「飛んでる……」

「あれ、ジネット様と同じ……銀珠?」


 ケインとエルファ、マリーナの三人は我が目を疑っていた。

 それもそうだろう、何せリアは空に浮いていて、銀珠をふわふわと操っているのだ。そんな光景を目の当たりにして驚く三人とは裏腹に、ジネットは「やっぱりあの子ならできるのか」と歓びと確信に、誇らしげな気分になっている。


 それはさて置き。


「リア、ここから離れな! あっちのバカデカいのが見えるだろう! あれが来るんだよ!」

「おっきいよねー」

「呑気かい!? いいからさっさとお逃げ!」

「ジーネ、あれ止めればいいの?」

「……止めるったって、あんなバカデカいのを受け止めるなんて難しいだろうね。だから早く……――」

「――じゃあやってみるー」


 誰もが予想だにしていなかった返事が返ってきて、「へ?」と声を漏らした。

 そんな四人を他所に、リアが自らを支える足元の銀珠を一つに絞り、残りの四つを操り、空高くへと向かって放った。


 まったく見えなくなる程の高さへと銀珠を見送り、思わずそれを目で追うジネット達四人。


 すでに地竜は、森の切れ目からその全貌を明らかにさせており、もはや一刻の猶予もない。が、どうにもリアによって毒気が抜かれてしまったというべきか、或いは現実離れしている光景に、頭が働いていないのか。


 そんな四人の視線を一身に受けていたリアが、四つの銀珠を操るために空へと掲げていた小さな片手を――勢い良く振り下ろす。


「――どーーん!」


 キィン、と甲高い風切り音が鳴り響き、空から銀珠が下りてくる。


 それらは虹色の光――【結界術】をそれぞれに大きく展開しており、虹色の面とでも言うべきそれが、目にも留まらぬ速さで地竜に向かって上空から肉薄。







 ――――そして、あまりにも強烈な鈍い音を奏でて、地竜を地面へと陥没させ、その動きを強引に







 大地を抉りながら、地竜の身体が地面へと埋まること、数十メートル。

 地竜は――沈黙した。







「「「「…………は?」」」」







「魔法が効かないなら、物理で潰せばいいっていうのはジョーシキだよ!」








 誰もが呆気に取られる中、リアはふふんと笑ってそう告げたのであった。

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