第53話② 虫取り(見られていたお話)

 えっちい話はさておき、なんとか帰宅。

 有喜と二人、ソッコーでシャワーを浴び、冷たい飲み物(エタノール0%含有)で内側から冷却。

 虫刺されに薬を塗った。

 そして、虫かごに虫たちを移す。


 本日の成果。

 コクワガタ:1

 ノコギリクワガタ(スイギュウ):1

 ミヤマクワガタ:1

 ヒラタクワガタ:1

 の、計4匹。

 暑い思いをしただけのことはあった。なかなかの成果だ。


 ヒラタだけは噛む力が強いので別の虫かごに入れる。

 他は広い虫かごに一緒に入れる。

 ケンカしないようエサを充分与えた。




 落ち着いたところで千尋に「クワガタ取ったよ」とライン。

 写真も送った。

 千尋は今、出向ですぐ近くの会社に通勤しているため実家にいる。

 すぐに返信。

 見にくるらしい。

 数分後、


「ユキ~。」


 勝手口から千尋の声。


「どーぞ。」


「ん?千尋ニーチャン?」


「そーばい。行ってこい。」


 有喜が走って行く。


「千尋ニーチャン!」


「おっ!ユーキ。クワガタ取れたっちやねーか!」


「うん!あっ!菜桜ねーちゃん!」


 一緒に来ていた菜桜に気付き飛びついた。実は飛びつくとフワフワなのがお気に入りだったりするスケベな有喜なのだ。参考までにミクも好きだ。


「うわ!お前、元気良過ぎ。こそばいーっちゃ!」

 訳:くすぐったい


 有喜の魂胆を分かっていながらも、優しく抱きしめてあげる。

 すると、


「こら!ユーキ!またおっぱい触って!はよ下りんか!バカ!菜桜ねーちゃんイヤっちいーよろーが!」


 桃代から怒られる。


「いーやんか、のぉ。お母さん骨が当たって痛いっちゆってやれ。」


「うるさい!バカ菜桜!いらんことゆーな!」


 この夏さらに小さくなってほぼ元通りの桃代。ブラがいらなくなってしまい、かなり気にしていた。


 菜桜はユキへの気持ちにキリがついたらしく、ぎこちなさも無くなり、普通に接することができるようになっていた。そんでもって千尋にはデレデレだ。傍で見ていてかなり恥ずかしくなるレベル。ユキ&桃代ペアにも勝るとも劣らないイチャイチャっぷり。哀しい恋から一転。只今幸せ真っ只中だったりする。


 全員で虫かごを囲み、熱心に観察する。

 ヒラタとコクワは昆虫マットに潜ってしまい出てこない。今活動中なのはミヤマとスイギュウ。採取した当初は敵同士だったのだが、今は各々専用のエサを与えられ、リラックスしてゼリーを食っている。

 千尋が、


「どっちもでったん久しぶりに見た。今見てもカッキーね!」


 ワクワクしている。


「もし捕まえたら飼う?」


 菜桜から聞かれ、


「う~ん…おったらとりあえず捕まえる。そのあとは…ユーキにでもやろっか?」


 それを聞いた有喜は


「ホント?おったらくれるん?」


 テンションが上がる。


「そーやの。おったら持って帰ってきちゃー。そんかわし、約束はできんぞ?」


「わかった!」


 その辺の聞き分けはいいのでダダをこねたりはしない。

 嬉しそうな表情になる。

 千尋は純粋に可愛らしいと思った。

 ユキと桃代を交互に見て、


「子供っちいーな。オレもはよ結婚して子供ほしい。そしたら虫取りとか釣とか一緒行ける。」


 羨ましそうに言った。

 横で菜桜が照れている。


「うわっ!コイツ赤くなっちょーき!」


 桃代から冷やかされ、


「うるせー!」


 とりあえず反撃するが、顔を真っ赤にし小さくなってしまっており、今までのような勢いがない。菜桜は、千尋と付き合いだしてからずっとこうなのだ。ホントに可愛らしくて羨ましいばかりの桃代なのだ。


 なんだか弄るのもバカらしくなって再び虫かごに目を戻すと…大変なことが起こっていた。

 いつの間にか出てきていたヒラタがガッツリ交尾しやがっていたのだ。

 大人たちは全員ギョッとする。

 ビミョーな空気が流れだす。

 有喜はまだミヤマの虫かごの方を見ていて気付いていない。が、気付けば何を言い出すか分からない。

 実を言うと、ユキと桃代はヤッている最中、偶然起きてきた有喜に見られてしまったと思うことが何度かあったのだ。寝ぼけてトイレに行き、自分の部屋と寝室を間違って開けてしまうことがある。バックからハメていたコトもあったから、覚えているならば絶対に虫の交尾と似た感じだと思うはず!

 気付くな!忘れていてくれ!と、念を送る。

 桃代が不自然に、


「さ、お茶にしよっか?」


 そう言うと、みんなが、


「う…うん。」


 これまたビミョーな返事をする。


「んじゃ、ユーキ。虫かご片付けよ?ジュース飲むよ。」


 まだ、大人たちの変な空気には気付いてない。


「え~!まだ見よきたい。」


 ダダをこねる。


「そげなこと言いよったらジュースやらんきね。」


「お母さんのケチ!まだ見たいのに。」


 不自然な展開に有喜は納得いってない様子。

 ユキが、


「よし!虫もジュースの時間。お父さんと一緒に持っていこ?」


「…分かった。」


 渋々だがいうことを聞く。

 あえて、ヒラタの虫かごを持とうとしたその時、


「僕がこれ持っていく。」


 ♂♀同居で一番お気に入りの虫かご。いつか交尾して、卵産むかも!と、期待大なのだ。

 素早く横から割り込まれ、虫かごを抱えてしまう。

 そして、


「あー!交尾しよぉ!交尾しよぉばい!ねぇお父さん!ほら!」


 しまったー!気づかれたー!


 ふて腐れかかっていた顔が一気に喜びへと変わる。どうだ!と言わんばかりにユキの顔の前に虫かごを突き出した。


「あ!ホントね!」


 リアクションはしたものの、あんまし心がこもっていない。我ながらヘタクソな演技だと思ってしまう。

 大人たちは一層気まずい表情になる。

 その場に虫かごを置き、寝そべり、再び観察モードに入ってしまう。


「ねぇ?卵産むやか?」


「産んだらいーね。」


 ワクワクしながら交尾の様子を凝視する。もう、桃代とユキは気が気じゃない。千尋と菜桜も変な汗が流れだす。


「ねぇユーキ?はよジュース飲も?」


「ちょっと待って!今、見よぉき。」


 研究者の顔になっていた。

 ヒラタを熱心に観察している。

 そして、何かを思い出したようにユキの方へ視線を移し、ごく自然に、 


「この前、お父さんとお母さんもこげな感じやったよね?」


 とんでもないことを口走った!


「………。」


 あの時だ!やっぱし見られていた!しかも覚えていやがった!例え見たとしても、寝ぼけていて覚えてないかと思っていたのに。

 自分から言う分にはなんともないユキだが、我が子からバラされるのは流石に恥ずかしいものがある。

 固まってしまっていた。

 桃代は、


「ユーキ、あんた!」


 超絶赤面で悲鳴を上げ、それ以上喋らないように口を塞ぐ。

 有喜はお母さんがなんでそんなリアクションをしたのか分からなかった。が、表情を見て少し考え、口に出しちゃいけない類のネタなんだと理解する。


 千尋と菜桜も自分らの方に飛び火しないかと気が気じゃない。二人同時に青ざめる。わざとらしく目線を逸らした。

 先程まで可愛くてたまらなかった子供が、今は悪魔に見えている。


 危険だ!


 結婚して子供できたらヤるときだけはゼッテー寝室に鍵をかけよう。

 この時ばかりは純粋にそう思った千尋と菜桜だった。




 空気を読んだ有喜。


「お母さん、ジュース飲みたい。」


「ちょ、ちょっと待ってね。注いでくるき。む、虫かごなおしておいで。」


 それはそれはぎこちなくて。


「は~い。」


 素直に部屋から虫かごを持って出て行った。


 やっとのことで、お茶の時間が始まった。

 しばらくは気まずい雰囲気だった。




 虫の観察からとんでもない方向にハナシが飛んで、それはもう恥ずかしかった。

 子供は見てないようで見ている。覚えてないようで覚えている。

 またもや子供の記憶力の凄さを痛感してしまう出来事だった。




 ヤッていた話はさておき。


 クワガタ&カブトムシ。

 子供のころ好きだった人にとっては大人になってもトキメク存在だ。

 これまで図鑑でしか見たことがなかった世界のクワガタやカブトムシが、結構簡単に入手できる今日この頃である。例えばショッピングモールやスーパー、農協の直売などにおいて、夏限定で販売したりするし、ペットショップでは年中購入できる。専門店なんかもある。ネット通販でも買える。もうこれは子供だけの趣味ではない。小さい頃の憧れを手に入れ、観賞する。繁殖させる。繁殖させた個体を大きく育て、ギネスに挑戦する。色々な楽しみ方がある。専門の雑誌もたくさん出ている。

 完全に大人も楽しめる趣味である。





 我が子と雑木林を駆け巡り、必死こいて捕まえたクワガタムシ。

 売っている外国の虫たちと比較すると地味でショボイのだが、自らの力で捕まえたから満足感といった面では決して負けていない。むしろ勝っているとさえ思える。

 きつかったけど楽しかった。

 そして何よりも子供が喜んでくれたのが嬉しい。

 いい思い出となった。

 有喜の楽しかった思い出として後々まで心に残っていてほしいな、と思うユキだった。



 虫取り。


 大人になってもでったん楽しいじゃないか!

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