第51話② バスボート(上流に移動)
風景に飽きてきたので移動する。
「何処がいい?」
「ん~…支流のデカい水門の下とかは?」
「いーね。行ってみよ。あっこはね、合流地点からずっと狙えるよ。」
「よし!次も頑張る。ウチも操船したい。いい?」
「いーよ。浅いところは分っちょーき、オレのゆーとおり操船してね?」
「りょーかい!」
物珍しそうにエンジンを見ながら、
「どげやってかけるん?」
「このまんま、ヒモ引張ればかかる。キルスイッチ嵌めて、アクセルを『始動』の位置に固定して、エンジンかかるまでヒモ引張ればいい。」
言われた通りにしてヒモを引く。
プルル…プルル…プルル、ヴィ―――…
かかった!
アクセルを少しひねり、スピードを上げる。
ヴィ―――…
「あんまし真ん中らへんに寄らん方がいい。砂がたまっちょーき座礁するよ。」
「マジで?分かった。」
左岸側の岸近くを走る。
2馬力の速さでは時間がかかるので、途中目に付くポイントはあえてスルー。これを狙ってしまうと、時間が足りなくなってしまう。
ボートを出したスロープの対岸辺り。支流と本流の合流地点。
エンジンを止め、フットコンを下ろし、ゆっくりと狙いたいポイントに接近する。
支流に侵入。
ボートポジションを川の真ん中に取り、両岸狙えるようにする。
ユキは4インチグラブのテキサス。桃代はワイルドハンチ黒金から始める。
「工事あってツンツルテンやけど、元の川の跡はまだ残っちょーき、岸ギリギリまで投げんでもいーよ。」
「分かった。」
少しずつ進みながら、両岸の目につくポイントを撃っていく。
すると突然、
「食った!」
桃代の赤いサオ、ギャレットディツアーエディション622Mがモーレツな勢いで絞り込まれた。
狙い始めてまだ数分。
いきなりのヒットだ。
「すっげ~!やっぱ、巻きっちハマったら早いね。」
「うん。」
「じゃ、オレも巻こう。」
この釣果に便乗しようと、巻き物をセットしたサオを手に取る。
ユキのチョイスはノーマルワイルドハンチのクラウン。
桃代はなおもファイト中。
ボートから遠ざかる方向に必死で逃げる。
僅かだがボートが魚に引張られ、方向が変わっていく。
リョウガ1016(帰郷する少し前買った)なので余裕はある。多少強引に巻くと徐々に寄ってきた。
船縁で反転。魚体が見えた。
かなりデカい。
サオを立て、こちらを向かせると、水面に顔が出る。
リアフックだけが掛かっているためちょっと怖い。サオを魚が突進するのとは逆の方向に倒し、フロントフックを別のところに掛けようと試みる。が、座ってやり取りしているので、なかなか思うようにならない。
ボートなので足場が不安定な為、立ち上がることができないのだ。
「え~くそ!前のハリが掛からん!こーなったら手で取る!」
ランディングネットは持ってない。サオを左手で高く上げ右手をおろし、親指を口に入れようとする。
掛かり具合が見えた。
トレブルフックが上下のアゴにしっかり掛っている。
大丈夫!
右手を引っ込め、両方の手でサオを持ち、
「よいしょー!」
一気に抜き上げる。
デカい!
「何それ!でったん太いね!」
丸々と肥えたキレイな魚。素早くフックを外し、スケールを当てる。
45cm!
確実に1kgは超えていると思われる。
「写真写真!」
カメラを起動し記念撮影。
「やるねー!」
「クランクで釣れた!でったん嬉しいき!」
大喜びだ。
再度、バス持ちして写真を撮り、
「ありがと!バイバイ!」
逃がしてあげる。
ユキは…必死こいて投げては巻き、投げては巻きを繰り返している。
なのに来ない。
なんで?
回遊系の出会い頭だったのだろう。それからかなり上流まで登ってきたが何の音沙汰もない。
「もーすぐ水門ばい。オカッパリおるき、ひっくりかえろっか?」
「そやね。」
ボートの向きを変え、本流へ。
「巻き、あれっきりやね。撃ちながら戻ろ?」
「それがいー。」
ユキはサイラスSYC-63MH+T.D.ジリオン100H、フットボールジグにダブルテールグラブ。桃代はバロウズBRSC-64H+ミリオネアHL-SLC凛牙103、シングルテールグラブのテキサスリグに持ち替える。
ボートポジションを川の真ん中に取り、流れに任せて下って行く。
ユキは右岸、桃代は左岸をピッチングで探っていく。
竹林があり、竹が倒れているポイントでユキ。
隙間に落とし込んでいたら、糸が岸と平行に走った!
「食った!」
小さくつぶやき、一呼吸置き鋭くアワセた。
「おっしゃ!乗った!」
サオが弓なりに曲がった。が、それも一瞬だけ。巻き始めると同時に吹っ飛んできた。
「カワイ子ちゃんがきた。」
思わず微笑む。
20cmあるかないかの模様がクッキリした魚。
「カワイーね!ハニバニやね。」
「ホント、ハニバニやね。この前のスゴイアワー見たっちゃろ?」
「へへへ。バレた?」
「オレも見たもん。しかし、こげなデカいルアーよぉ食ったよね。活性高いっちゃろか?」
「かもね。よし!ウチも頑張る。」
小さくても嬉しいから記念撮影は忘れない。
だいぶ下ってきた。ボチボチ本流との合流地点。少し川幅の広くなったところに、昔流れてきたであろう大木が立ち枯れの如く立っている。いかにも!なストラクチャーなので、この支流に入ってきた人間は必ず撃つであろうお約束なポイントだ。いないだろうけどいたら勿体無いのであいさつ程度の撃ってみることにする。
桃代が撃つと、
コン!
弾くようなアタリ。
一呼吸待ってアワセるが、何の抵抗もなくリグがぶっ飛んできた。
「うぉ~!飛んできたー。確実に食った感触やったのにすっぽ抜けげな…かなりショックやし。」
「撃たれ過ぎでスレちょーっちゃろ。ここの主かもね。」
数回投げるものの異常なし。早々と見切った。
本流に出る。
今度は上流を攻める。
スロープから上流に向けてのストレッチ。
左岸側が大規模工事でツンツルテン。
このせいで支流にボートが増え、オカッパリが難しくなってしまった。
以前は、垂直に切り立っていて護岸されてなかった。アシが生え、ゴロタがあり、杭がありで、魅力的なポイントだったのだ。陸上がメインの工事だったため、元の川底の状況はさほど変わっていないだろうが、何せ目印になるものが無い。とりあえず右岸側を撃つことにした。こちらはゴロタ場あり、大木あり、アシや野ばらなどのつる草でできたカバーありで、一見美味しそうなのだが、これまた撃つ人間が多い。恐らく居着きの魚の警戒レベルは相当なモノだろう。回遊系の出会い頭に期待したい。上りながら右岸、下りながら左岸という攻め方をすることにした。
右岸は、大きな木が数キロにわたって不連続に生えている。オーバーハングの下に投げ込んで釣っていく。が、みんなやっているからそう簡単には釣れない。木が途切れ、アシになる。そこに窪みができていて、なおかつ流木っぽい枯れ木が沈む複合的なポイント。いかにも美味しそうだが…やはり釣れない。根気強く撃っていく。やがて、野ばらのイガイガしたツルがこんもり盛上って、水際まで群生しているポイントにさしかかる。思ったより深い。来そうなのだが…来ない。ある程度諦めに似た感情で撃っている。来たら儲け、的な?
そろそろ菜の花橋下流から始まる護岸の長いストレッチ。
足場もよく、クルマも近くに止められるオカッパリの人気スポット。今日も数名の釣り人の姿が確認できる。筑豊、というか県内の人間のボート持ちであれば、このポイントを必ずスルーする。暗黙の了解なのだ。何故かというとオカッパリは狙える範囲が狭い。歩いてランガンしてもたかが知れている。だから、この場所は釣れるけどオカッパリ優先地帯。ボートを止めて釣っているのは、ほぼ県外の人間だ。今、この場所でのボートの人間はいない。ということは、先行者は福岡県民なのだろう。
護岸のオカッパリ優先地帯が終わり、天然の地形が少しだけ残るエリアで、大水によって崩れ落ちたススキの塊が点在する。
ずっと先にはボートが何隻か見える。多分その人間に撃たれている。が、回遊系の魚が後から入ったのなら釣れる可能性はある。撃ってみるのだが…釣れない。
菜の花橋橋脚。数年前、BIG BITEで菊元プロがデカいのを釣ったポイント。とりあえず、ユキはノーシンカー、桃代はシャッドを引いてみる。が…釣れない。
橋を越え、また天然の地形。ここも先程と同じ感じで崩れた岸の一部が沈む。送水管も通っていて、その橋脚も美味しそう。でも異常なし。
支流の合流地点が見えてくる。ここも、条件が揃えば複数本出る。撃ってみるのだが…何も起こらなかった。ギルでさえ見向きもしないようだ。
完全に沈黙中。
これより少し上がると、落差が50cm程度の堰がある。そこで行き止まり。他のボートは全員その堰の落ち込みを狙っていた。その下の浅場でも、魚の姿は見えるのだが、警戒しているのか、全く口を使ってくれない。撃たれ過ぎて天才化しているのだ。これは、今まで撃ってきたところでも言える。まぁ、分かってはいたけど…厳しい。
下ることにする。
左岸側。
岸から5mほど離れたところにボートポジションを取る。
ユキが撃ち、桃代が巻き作戦。
菜の花橋より少し上流。岸がゴロタ場のところから始める。
ユキはゴロタの穴を丁寧に探るイメージ。
桃代はスピナーベイトをたまにゴロタに当て、一瞬姿勢を崩し、リアクション狙い。
やはりメジャーなポイントなだけあって、釣りビジョンの大好きな表現である「一筋縄ではいかない」感じ。
上流を狙い始めてかなりの時間が経過した。しかし完全ノーバイト。流れに任せ下ってゆく。オカッパリ優先地帯の対岸は工事で砂が溜まり、浅くなっている。座礁に気を付けつつ通り過ぎる。
護岸が切れた延長線辺りから撃っていく。以前は竹林があり、そこの根元辺りを根気よく狙うと1~3本は出たのだが…気配がない。
しかしまぁ、ホントにツンツルテン。面影なんかあったもんじゃない。必死こいてどこにどのようなストラクチャーがあったのか、思い出そうと試みるものの、数回の大水で地形そのものがかなり変わってしまっており、思い出せない。注意深く見ながら撃ってボートを進めていく。中島橋までやってきた。この橋の下も切り立った天然の川岸だったのだが、垂直な部分が削られ、緩やかな斜面となっていた。幸いなことに水中は、前のままらしく、深くなっていた。4インチセンコーのノーシンカーを落す。糸が僅かに走る。一呼吸おいて合わせるもののすっぽ抜け。久々の生命感。乗らなかったところを見るとギルかも。再度狙うも異常なし。諦めてこの場を後にした。
ものすごく手堅い方法を試しているのだが食わない。
困った。
桃代は巻き疲れ休憩。コンビニおにぎりを開封中だ。
「ここまで釣れんとは。」
「この感じで流して今日は終わりにしよ?」
「そやね。」
ということになった。
以前、立て続けに40up釣ったポイントにさしかかる。
ここは確か、4インチカットテールの1.8gライトテキサスがハマったな。前はスピニングやったけど、今回はベイトフィネスでやってみよ。
あの時と全く同じルアー。
進行方向の斜め前にキャスト。
オカッパリの要領で、底をズル引いてくる。
?
モワッとした重さを感じる。
もしかして居食い?
確かめるため、サオを少しだけ立て聞いてみた。
やっぱし重さが乗っている。
時間が経っているから待たないままアワセる。
直後、猛然と走りだす。
「やっと食った!」
「うお~、すっげー!おにぎりやら食いよる場合やないばい!」
1/3ほど残っていたおにぎりを無理矢理口の中に押し込んだ。
この上なく残念な顔になっている桃代。
モグモグしながら全く同じベイトフィネスタックルを手に取った。
そして投げる。
ユキは絶賛ファイト中。ブラックレーベルPF6101MLFBが激しく弧を描いていた。
キリキリ…
ドラグが出ている。
「30はあるっぽい!」
そんなことを言いながら、巧みなサオ捌きで突進を制御する。
フワッと魚体が浮いてきて、エラ洗い。
「ふぇ~!デケーし。」
40cmは確実にありそうだ。
必死こいてポンピングしながら巻いている。
なんとか寄ってきて、手を伸ばし…取った!
早速計測すると42cmの立派な魚。
記念撮影して逃がしてあげた。
桃代が手前までルアーを引いてきて、回収しようとしたその時。
ガボッ!
「うわ!あー…ビックリした。」
船縁まで追ってきていて、抜き上げる瞬間バイトして食い損ねた。
「今の、50upやったばい!」
「あれは掛けれんよね。たま~にあるもんね。」
「うっわ~、ショック。ガンバろ。」
一瞬かかってしまっているので次はないのだが、それでも逃げた方に投げてみる。
気を取り直して投げること数回。
底をズル引きしていると、突如激しいアタリでサオ先をひったくられる。
「うわ!またまたビックシ。今度は乗った!」
向こうアワセで掛っていた。
突如軽くなる。こちらに向かって走っていた。急いでリールを巻く。流石ギア比8.1!弛みが一気になくなり、寄ってきた勢いを利用して、そのままボートへ。
「あんましおっきくないけど超久々の魚。感謝感謝。」
そう言って、ハリを外し、記念撮影。
32cm。身体に少し傷のある魚。エサは食っているみたいでまあまあ太い。
「ありがと!バイバイ!はよケガ治せ。」
逃がしてあげて本日の釣りは終了だ。
しかしまぁ…後半苦労した。
テレビで放映なんかするから…と、自分の腕のことは棚に上げ、テレビのせいにしてみたり。
とはいえ、ボートでの釣りは最高に楽しかった。
楽しさが釣りだけではない。普段岸からしか見ることのできない遠くのストラクチャーが間近で見れたり、逆に、普段釣っている場所をボートから見れたり、といった視点の違いには正直感動すら覚えた。
水面が近いため、目線も低く目前でエラ洗いされたり、反転されたりすると、かなり興奮する。命の力強さを間近に感じることがでるのだ。
色々と新鮮な気分になることができた。
今日は一日、存分に楽しめたと思う。
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