第49話② クローズドフェイスリール(出会い)

 6月も後半。

 有喜の誕生日が近い。

 おかげでテンションアゲアゲだ。

 もっとテンションを上げさせるため、サオとリールのセットを買ってあげようと思った。

 まだまだ手が小さいため、ベイトキャスティングリールよりもスピニングリールの方がしっかり握ることができていいだろう。


 なんてことを考えながら釣具屋へ。

 安物コーナーで色々触って試していると、端の方に見慣れない型の赤いリールがあった。


 何、これ?

 

 スプールと思われる個所にカップのようなモノが被っており、その前面には穴が開いている。その穴からは糸が出ていて妙にハイテクな感じがする。

 ボディ形状からしてスピニングの親戚っぽい。その横には同じような形でベイトみたいにサオの上側にセットするタイプのもある。


 でったん気になる!もしや、新ジャンルのリール?


 何やらとても面白そうだ。

 値段を見ると3千円ちょい。

 商品名は、下に着けるタイプが「アンダースピン80」、上に着けるタイプが「スピンキャスト80」というらしい。

 イマイチ使い方が想像できなくて、店員に説明してもらうことにする。

 


 店員が言うには入門用なんだそうだ。

 やはり見た目どおり、スピニングの親戚とのことで、クローズドフェイスリールとかスピンキャスティングリールとかいうらしい。

 操作が簡単なので、数回練習するだけでとりあえず飛ばせるようになるとのこと。

 下に着けるタイプ、「アンダースピン80」を買うことにした。中古のサオも買い、店内でキャスティング(ピッチング)の実演をしてもらった。

 投げ方も分かったので釣具屋を後にする。


 ワクワクしながら家に帰る。


 喜んでくれるかな?


 誕生日までは秘密にしておこう。

 クルマの中で一時保管することにした。



 家に帰り、クローズドフェイスリールについてネットで調べてみたり、親に聞いてみたりする。

 親が小学生くらいだった頃、ルアー用リールは大まかに分けてスピニング、ベイト、クローズドフェイスという3つのタイプがあったみたい。

 

 その当時は各メーカーでラインナップされていたが、スピニングとベイトだけ進化し、クローズドフェイスリールだけが置き去りにされた。

 巻き上げる力が弱い。

 糸ヨレがかなり激しい。

 ドラグの性能も、スピニングと比べるとはるかに劣る。

 糸のキャパが少なく、遠投できない。

 というデメリットが置き去りにされた原因なんだとか。

 徐々にカタログから消え、今では国内の大きなメーカーではダイワだけが細々と製造、販売している。


 こんなクローズドフェイスリールだが、長所もちゃんとある。

 それは何かというと。

 投げ方がスピニングよりも簡単。

 これ、大事!非常に大事!!

 下に着けるタイプはキャスティングトリガーというレバーを引いて、スピニングと同じタイミングで離すだけ。

 上に着けるタイプはクラッチボタンを押し、ベイトと同じタイミングで離すだけ。しかもサミングはいらない(厳密には飛び過ぎた時などに行う)。特に下につけるタイプは「糸を指に掛ける」という動作がないため、ワンハンドキャストできるため、スピニングリールより早く投げられる。

 スピニングみたいに下に巻いてある糸が一緒に出てグチャグチャになるトラブルを起こしにくい。これは特に子供に釣りをさせる場合、かなり重宝する。実際外国では、初心者の定番アイテムとしてメジャーなタックルだったりするのだ。

 とは言え、大人も普通にメインタックルとして使っている。ちゃんとモデルチェンジもしていて、今日まで進化し続けている。

 日本のメーカーは初心者向けのアイテムとして位置づけているが、昔を懐かしむ昭和生まれの人は好んで買っていくらしい。その証拠に、アンダースピンとスピンキャストはデビュー当初品切れ続出で、この頃やっと落ち着き店頭に出回ってきたとのこと。ちなみに親父も買おうとしていた。

 全然新ジャンルじゃなかった。

 数年前のカタログを全部引張り出し見てみると、「カーボストライカー」「スピンキャストST」という名で毎年スピニングの最後のページに載っていた。気にも留めてないだけのハナシだったというわけだ。歴史は古く、スピンキャストSTは親父が中学生の頃既にあったらしい。

 今回買ったアンダースピンはカーボストライカーのフルモデルチェンジ版。

 スピンキャストに至っては、名前もそのままでグレードと番手の表示のみが変化していた。勿論フルモデルチェンジ。

 何処が変わったかというと…正転時のカリカリ音がしなくなった。

 そしてボールベアリングが一つ入った。

 大きな進歩である。

 外国のメーカーではゼブコ、ABUが有名で、ベアリングがいっぱい入りかなり高額な(とはいっても1万前後)機種も存在する…らしい。


 店員が言っていたことといっぱい被っていた。


 う~ん…なかなか奥が深いぞ!クローズドフェイスリール!!

 興味が湧いてきた。


 ここは大人買いで2機種揃えてみよっかな。



 桃代に写メを送ると興味津々のご様子。




 誕生日当日。

 有喜にプレゼントを渡す。


「ユーキ、おめでと。これ、オイチャンからのプレゼント。」


「わっ!サオ!スゲー!」


「こら、ユーキ。オイチャンにありがとは?ごめんね、わざわざ。ありがとね。」


「あ。ユキオイチャン、ありがと!」


「どーいたしまして。また行こうの。」


「うん!」


 サオを手に、キラキラしながら眺め中。


 よかった。喜んでくれた。あとは魂を込めなくては。早く釣ってもらいたいな!


 渋い中どうやって一本出すか、悩むところである。

 ここは子供の無欲さに賭けてみようと思った。


 この後は、美咲、渓、海、涼を呼んでお祝いをした。




 週末。

 ユキと有喜と桃代とで釣り。

 ブルーギルでも釣れたらいいかなと思い、近所の足場がいい溜め池に行く。ダムサイトから奥の方まで護岸されていて釣りしやすい。池の上流を向くと右側。堰堤が山に接した角にゴミが溜まる。そこにギルや子バスが群れている。幸いなことに、先行者は逆側のオーバーフローの周辺を狙っていたのですんなり入ることができた。

 まずは投げ方をおしえる、とはいえユキも初心者。借りて投げてみる。

 リグはノーシンカーで、ルアーはイモグラブ。


 カチン!


 キャスティングトリガーを引き、バックスイング。

 そしてスピニングと同じ要領でサオを振る。


 キュフィ~ン!


 特徴的な音がしてルアーが飛んだ。

 かなりの飛距離。


 なんか…いい!


 何が?と聞かれても困るが、とにかくいい!

 この一投だけで二台とも買うことを決意した。


「ユキくん?どげな感じ?」


 興味津々の眼差しで桃代が聞いてくる。


「何か分からんけどいい!やってみてん?」


「うん!」


 カチン!


 レバーを引いて…


 ビュッ!


 サオを振ると、


 キュフィ~ン!


 特徴的な音がしてぶっ飛んでゆく。


「お~、いーね!これ、楽しいかも!」


 子供用に買ったはずなのに、大人の方が病みつきになってしまっている。

 有喜は不満そうに見ている。

 あまりにも返してもらえないので、


「おかーさん!僕のばい!させて!」


 お願いする。

 なのに、


「もっかい!もっかいだけ!ね?」


 返さずに投げまくっていた。


「ボチボチユーキにさせちゃらな泣くよ?」


「だって楽しいっちゃもん!」


「も~、お母さん!」


 有喜から怒られ、


「…しょーがない。はい、ユーキ。」


 なんとか欲望をねじ伏せた。


「明日買いに行こう?」


「そやね。オレも買うつもりやったし。」


 釣具屋デートが決定した。


 さて、有喜はというと。

 数度、目の前にボチャンとやったり高~く上がったりしていたが、スピニングの時より早く投げられるようになっていた。

 ルアーの引き方もちゃんとおしえ、なんとか様になってきた。

 と、その時、


「来たかも!」


 大きな声。

 見てみると、サオが結構な弧を描き、生命感のある動きをしている。


「やったやん!そんまんま巻け!」


「うん!」


 言われた通り巻き続けると、突然


 バシャバシャ!


 エラ洗い。

 なんと!いきなりのバス!


「やった!魚!」

 

 あまり大きくはないものの、なかなかの抵抗を見せている。


「うわ!強い!」


 深場に潜られ必死に耐えている。


「「頑張れ!」」


 大人二人も大はしゃぎである。

 右に左に走り回る魚。

 一生懸命リールを巻く有喜。

 数十秒のやり取りの後、ようやく足元まで寄ってきた。

 20cm程のキレイなバス。


「やったやねーか!凄いぞ!」


 自分のことの様に喜ぶ大人たち。

 即座に取り込んで、ハリを外してバス持ちさせる。


「歯がザラザラやけど気にすんな。写真撮るき両手でしっかり持てよ?」


「はい!うわ~、でったん動く!」


 魚が大人しくなったところで記念撮影。

 初のマイタックルで初バス!

 いつもよりたくさんの写真を撮って、そっと逃がさせた。


「バイバイ!」


 しゃがんで手を振っている。

 釣った魚を逃がす時の桃代みたいだ。

 思わず笑顔になった。



 そのあとは、有喜が釣ったのが嬉しすぎて安心しきってしまい、出ない。

 必死に頑張っては見たものの…ダメだった。

 この日は有喜が釣った一本のみ。

 それでも、楽しい釣行だった。


 恐れていたライントラブルもなかった。


 あとは、様子見でその都度注意するしかないかな。

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