第49話③ クローズドフェイスリール(どハマり)

 釣りから帰って。


「リールの使い心地にハマったね。」


「うん。2タイプあるけど両方ともほしい。両方買って7千円ぐらいばい。」


「いーね!フリームス1台よか安いっちどーゆーことかな?っち感じ。ウチも2個買う!」


「明日、買いに行こうね。」


「うん。」



 翌日、朝のうちに二人で買いに行く。

 有喜は…爺婆に強奪された。


「一日でリール2個も買うとか今までなかったよね。」


「この値段であの『いー感じ』を味わえるなら安いモン。もうワクワクしよる。」


「あはは。ホントよね。」


 今日は買うものがとてもハッキリしている。

 帰ってすぐに使いたいから釣具屋デートどころじゃなかった。

 空いているサオが無いため中古ロッドを買って、必要な小物だけを揃え、すぐに帰宅する。


 帰り着くとすぐサオにセット。

 早速、前の川へと繰り出した。



 実釣開始。

 色んなルアーを投げてみる。


 すると、色んなことが分かった。

 まず、極小ルアーには向かない。どうしてもカップの放出口の抵抗で飛距離が出ない。

 重いルアーや水圧がかかるルアーにも向かない。巻き取り時のハンドルの重さといったらもぉ!とにかく巻く力が弱いため、総重量は10g程度が限界だ。巻き物もディープクランクなど、水圧かかりまくりのルアーは骨が折れそう。

 遠投にも向かない。スプールが小さく(狭く深い)、ラインキャパが少ないのが原因。アンダースピン、スピンキャストともに8ポンド(2号)が70m。

 ライントラブルも無い訳じゃない。とにかく糸ヨレが激しいのだ。これはスピニングの比じゃなかった。

 スピニングみたいにオシュレーションシステムがないため、同じところに糸が巻き続けられることになる。なので、ある程度テンションをかけて巻かないと、ローターの内側に干渉してしまい、ハンドルが回らなくなってしまう。基本、サオを持つ方の手の指で糸を摘まんで巻き取る(上に着けるタイプの場合。下向きのはどうしようもない)。

 あと、糸が噛みこむ。オシュレーションがないため、巻きの密度のムラが激しく、柔らかく巻いてあるところに噛みこんでしまうのだ。

 根掛かりを切ると、ピックアップピンのところから切れることがある。ピンの直径が2mmくらいしかないので瞬間的な力がかかるとピンに集中してしまうのだろう。


 以上のような短所があるリールだった。機械的にかなり致命的な短所である。廃れた訳が分かってしまったのだが…何とゆーか…いい!何がいいのかと問われても困るのだが、いいのだ。まだこのリールが廃れてなかったとき、それを使っていた大人たちが懐かしさのあまり買い漁っている意味が分かる。そんな味のある機械だった。

 なんというか…出来の悪い子ほど可愛い的な?

 こんなデメリットだらけのリールだが、とにかく投げやすいし飛んでいくとき糸が切れたかのような錯覚に陥る感触と、あの音は癖になる。

 変な中毒を起こすのだ。



 各メーカーさんにお願いしたい!

 今の素晴らしい技術をこれでもかと言わんばかりに盛り込んだ、超高性能なクローズドフェイスリールをリリースしてください!


 そう声を大にして言いたい二人だった。


「2万以上でも買うよね!」


 桃代はそう思った。




 釣りは続く。

 今日中に全部のセットに魂を込めたい!

 ファイトの感触を確かめてみたいのだ。


 只今のユキのチョイスは以下の通り。

 アンダースピンにはシャッドシェイプのスプリットショット。

 スピンキャストにはテールの切れた4インチグラブ再利用のイモグラブ。


 桃代のチョイスは以下の通り。

 アンダースピンには4インチカットテールストレート刺しノーシンカー。

 スピンキャストにはプチピーナッツ。



 頑張ること30分。

 先に感触を味わえたのはユキ。

 アンダースピンの方に来た。

 ゴロタ場を通過中、居食いした。

 モワッと重くなるアタリ。

 底を跳ねさせるイメージで操作していたら食っていた。

 聞いてみると、僅かだが動いている。


「食った!」


 小さくつぶやき、鋭くアワセる。

 サオが弓なりになり対岸へと突っ走る。


 ギ~~~ッ!


 ドラグが出る。

 糸は附属のナイロンライン1.5号。ポンド数は6ポンド。

 細いので、フルロックから少し緩めた状態にセットしている。

 巻く力が弱いため、魚から完全に伸されている。


「うお~!シビレル~!ドラグ出っ放し。」


 サオを立てて突っ込みに耐え、止まると巻く、を繰り返す。

 ドラグ性能がスピニングよりもはるかに劣るため、かなり冷や冷やする。

 エラ洗いされ、突っ込まれ、またもや糸を出される。

 何度繰り返したことか。

 寄せるのに一苦労だ。

 やっとのことで魚が弱りだす。

 しかし、一気に巻くことができない。

 走られては糸を出され、止まれば巻く。

 ポンピングで何とか寄せる。

 どうにかこうにか足元へ。

 口に親指を入れランディング。

 取った!


 早速記念撮影。

 指で測ると32~3cmくらい。


 それにしてもシビレタ!


 ベイトフィネスの時も楽しめたが、これもまた別の楽しさがある。

 低性能をなんとか使いこなす楽しみ。

 最新式スピニングなんかじゃまず味わえない。


 つくづく思う。


 買ってよかった!と。


 感動に浸りたいが、今度はスピンキャストの魂込めが残っている。

 逃がすと即座に実釣に入る。



 次にヒットしたのは桃代。

 こちらはスピンキャスト。

 プチピーナッツからフラッシュミノーに変えてすぐだった。

 ゴロタ場の石のツラギリギリを、I字引きに近い地味なアクションでただ巻き中、ひったくられた。

 サオ先が一気に絞り込まれる。


「うお~!巻き食ったし!つえ~!っちゆーか、巻けんし!」


 やはりドラグが悲鳴を上げている。

 あまり走られると石に糸が擦れ、切れてしてしまう。

 サオを立てたり寝かせたりして魚を誘導する。

 ただ単に深いだけの場所へと誘導成功。

 あとは思う存分ファイト。

 深みに走られ糸が出る。

 横に走ったかと思うと今度はフワッと軽くなる。


「ヤベ!飛ぶ!」


 ギア比が低いため、一生懸命巻かないと間に合わない。


 ガバガバ!


 強烈なエラ洗い数発。

 そしてまた潜る。


「く~!マジでシビレルね!」


「やろ?」


「ハンドルが回せんっちゃき!」


 とは言いつつも楽しい様子。

 必死に巻いている。

 スピニングみたいに咄嗟のドラグ操作ができないため、最初のセットのままやり取りする。

 まだまだ上がってくる様子ではない。

 走りまくられている。

 サオを立て、突っ込みに耐え、止まるとポンピングしながら巻く。

 巻く力が弱いため、自然とそうなってしまうのだ。

 少しずつ魚が寄ってくる。

 掛けてから恐らくは1~2分経っている。ベイトじゃこんなことにはならない。例え50オーバーで手こずったとしてもいいとこ1分程度。そのことから考えると、このリールの非力さが分かるだろう。

 それからも散々走り回られ、何とか寄せてくるまでさらに倍近くの時間を要した。

 足元まで寄せてくるが、勿論抜き上げるなんてできない。左手を高く上げ、魚を十分に寄せ、フックに気を付けながらなんとか魚の口に親指をねじ込みゲット。


 デカい!


 丸々肥えた40up。スケールを持ってきていないので、いつもの如くおおよそではあるが、指で計測。42~3cmといったところだ。

 それにしても巻き上げる力が弱い!でも、それが楽しい!不自由さの美学とでもいうのだろうか?知ってしまうとハマりまくる。知らない人は是非知ってほしいと思った。でも、釣り人が増えるのは嫌なので、幼馴染達にだけおしえる予定。

 これから先、しばらくはクローズドフェイスリールの出番が増えそうだ。




 結局、この後魚からの音沙汰は何もなく、帰ることになる。

 釣果は二人で一本ずつ。

 運がいいことにそれぞれ違うタイプのリールで釣り上げることができた。

 互いの感想を述べ合う。


「アンダースピンどーやった?」


「う~ん…一言でゆーと…弱い。でも、やり取りはオモシレー!」


「そこは一緒やね。っちゆーことは、投げる動作の違いだけやね。」


「そやね。」


 大きな違いはスピニング感覚かベイト感覚かという事。


 その後、集中的に釣れてない方を使い、なんとかどちら共に魂を込めることができた。

 嬉しい限りである。




 有喜のプレゼントから始まったリールの選択肢拡大。

 それにしても思ってもみないところから楽しみが見つかった。

 実に楽しい。


 まさに大人のおもちゃ!


 子供用、初心者用と決めつけてしまうのは本当に勿体ないことだと思う。

 ベテランの人ももっと使おうよ!クローズドフェイスリール!

 きっと新たな世界を見せてくれるはず!


 っち、ちょっとぎょーらし過ぎたかな?

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