第48話⑤ ロストバージン…菜桜の場合(祝福)

 帰ってもっかい風呂。

 夕飯を済ませ、有喜を寝かせ、落ち着いたところで、


「ユキくん!菜桜んち行こ?」


「いーけど、何しに?」


「ん?ラブホの件、追及!」


 活き活きしている。

 ユキは「仕方ないな」という顔で笑う。

 菜桜に

『今どこ?何しよん?行っていい?』

 と送信。

『くんな!』と返ってきた。

 もう一度

『今どこ?何しよん?行っていい?』

『うるさい!そっとしちょけ』

 断固拒否の姿勢。


「アイツ…おしえんつもりやな。こうなれば!」


 電話すると…かなりコールして、やっとのことで出た。


「もしもし?どこで何しよん?」


「うるさいな~。どげでもいーやろ?」


「昼間の状況、詳しく!」


「やかましい!バカ桃!切るぞ。」


「ダメ!マジで今何しよん?」


 昼間の食材で千尋と二人鍋中だった。

 邪魔されたくないな~と思っている。

 なのに桃代は必要以上に食い下がる。


「ちょー待て。」


 強制的に切ってもまたかけてくるのは目に見えているので諦めた。

 何やらごそごそ喋っている雰囲気。


「あ~!お前、今、何しよんか?」


 叫ぶような口調で話しかけるが、電話を遠ざけ千尋に内容を伝えていたので返事がない。

 ちょっとの間を置き、


「千尋んちで鍋しよる。」


「いーなー。具持って行くきかてて?」

 かてて=混ぜて 遊びになどに加えてほしいとき使う言葉。

 

「んじゃ、和牛の霜降りの最高級のヤツ持って来い。そしたらかてちゃってもいい。」

 

 かなりの上から目線である。


「お前、今、何時っち思っちょーんか?スーパーしまえちょーし!っちゆーか、開いちょったっちゃそげな高級食材持っていかんし!」

 

「んじゃ、くんな。」

 

「もーいーわい!バーカバーカ!」

 

 言い争いが子供そのものだ。

 場所は判明した。しかし流石にタダ食いするつもりはないので、冷蔵庫を漁り、動物性蛋白質を引っ張り出すことにした。とりあえず、しゃぶしゃぶ用の牛と豚。それと鶏もも肉。あとは、タラの切り身。後は~…そうだ!〆のうどん!冷凍のがあったはず。これでかててもらえるほどの量あるのでは?なければ取りに帰ればいい。

 というわけで、千尋の家へGO!

 千尋の家はちょっと離れている。といってもゆっくり歩いて1分ほど。すぐに着く。

 ピンポンを鳴らすと、

 

「いらっしゃい。来ると思った。」

 

 千尋が笑いながら出てくる。

 

「どーぞ。っち桃、なんかいっぱい持って来たね?」

 

「うん!かててもらうからにはこれぐらいせんと。」

 

「でも実際有難かったかも。マジで二人鍋やったき、お前ら来たら具がないところやった。」

 

 部屋に入ると菜桜がいた。

 

「くんなくんな!帰れ!今すぐに!」

 

 真顔でシッシッと追い払う。

 

「うるせー!自分らだけこげな楽しいことしやがって!」

 

「くんなっちゆったのにきやがって。お前がユキとセックスの真っ最中、鍋セット持って行ってやるきの!覚悟しちょけ。」

 

 いつものやり取りだ。

 桃代はその挑発にはのらず、早速仕掛ける。

 

「ねぇ、千尋くん?いつから付き合いよん?」

 

 菜桜の顔が一瞬にして赤くなる。わざと答えないで黙々と食っている。

 すると、千尋から

 

「正月休み入ってすぐやね。」

 

 という答えが返ってきた。

 

「え~!まだほんのこの前やん!一週間経ってないよ?それなのにもぉえっち?」

 

 ぶっ!ゴホッゴホッ!

 

 菜桜が吹きだし、ムセまくる。

 

「早いか?でも、赤ちゃん時から知っちょーぞ?」

 

「そらぁまぁそぉやけど。」

 

 なんかもぉ、ものすごくキラキラの桃代。

 

「千尋くん、何ち告ったん?」

 

「ん?オレと付き合え!っち。男らしかろ?」

 

 照れもせず平然と言ってしまうカッコよさ。

 思わず感心してしまう。 

 

「おぉ~!ウチらとは大違いやん!マジで男らしいよ!ウチとユキくん彷徨いまくって、それでも言いきらんで、ユーキがキッカケ作ったきね~。ダメダメヘタレ夫婦。」

 

 自覚はあったんだ、と思われ笑われる。

 

「ダメダメでもいーやん、もぉ子供おるし。羨ましいよ。オレら、まだ結婚するところから始めないかんし。」

 

「おぉ~!結婚まで考えちょーん?」

 

「当たり前やん。できるだけ早くしたいっち思いよる。」

 

 最初二人で飲んだときも言ってくれてはいたが、今日改めて聞いて思わず、

 

「ホントにウチと結婚してくれるん?」

 

 確認。

 すると、

 

「うん、するよ。」

 

 即答。

 

「ありがと…。」

 

 嬉しすぎてそれ以上言葉が出なくなっていた。

 泣きそうになっている。

 桃代は、

 

「きゃ~!それっちプロポーズよね?」

 

 感動しまくりだ。

 

「そげん風に取ってもらいたい。」

 

「は~…プロポーズやらナマで初めてみたばい!よかったやん、菜桜!」

 

 興奮しつつ菜桜にハナシを振る。

 

「…うん。」

 

 素直に嬉しそうに返事をする。

  

「ところで、菜桜?」 

 

 邪悪な笑みを浮かべ、ターゲットを菜桜一人に変えた桃代。

 

「なんか?なんがいーたいんか?」

 

 警戒しだす菜桜。

 

「どーやった?」

 

「何がか?」

 

「ん?セックス。したきラブホおったっちゃろ?」

 

「!」

 

 顔が真っ赤になり、ソッコーそっぽ向く。

 

「どげんやった?」

 

 千尋に聞けばすぐにおしえてくれるのは分かっているが、あえて聞かない。

 そーとー意地が悪い。

 千尋は「やれやれ」と言った顔で笑っている。

 桃代の追及は続く。

 

「うるせー!どげでんよかろーが!」

 

 菜桜は勢いでその質問を跳ねのけ、追及を免れようとしている。

 

「全然よくないね!プレイの内容をおしえなさい。」

 

 なおも食い下がる。

 

「なんでそこまで知りたがるんか?」

 

「だってね、ウチらおった部屋まで声が聞こえよったんよ?」


 ニヤッと笑うと、

 

「!!!」

 

 菜桜が固まった。

 

 え~!聞かれちょったと?そげん声デカかった?

 

 心の中で叫ぶ。

 今のはかなり堪えた。


 まさか桃代にアノ声を聞かれていたとは!


 大人しくなり、真っ赤になって俯いてしまう。

 流石に千尋も恥ずかしかったらしく、少し頬が赤くなっている。

 

「どげなプレイしたらそこまで声出るん?でったん気持ちよかったっちゃろ?今後のためにおしえてちょーだいまし。」

 

 ニヤニヤしながら聞いてくる桃代。

 菜桜はラブホでの出来事を思いだし、恥ずかしさが頂点に達する。

 完全に勢いが無くなった。

 

「…もぉ…どーでもいーやん…。」

 

 キャラが変わった!

 か細くて蚊の鳴くような声になってしまっている。


「うわっ!菜桜が可愛くなった!でったんビックリ!初めてみたかも!」


 ここぞとばかりにいじり倒す。


「うるさい!」


 超絶真っ赤になり下を向く。

 肌の色は桃代並みに白いため、それはそれは赤く見える。


「千尋くん?千尋くんの前でもこげ女の子みたいになった?」


 この質問は恥ずかしすぎる。


「うん、なったよ。可愛いよね。オレもちょっと前初めて知ったもん。」


 千尋の答えは嬉しいが、それ以上に恥ずかしい。


「桃っ!もぉ聞くな!」


 か細い声ながらも必死で抵抗しているが、いつもの威圧感が全くなく、羨ましくなるほど可愛らしい。


「うわ~…なんか抱きしめたくなるね!菜桜、可愛過ぎ!」


 キラキラ表情のまま菜桜の顔を覗き込んでいる。


「もー!」


 発狂した。

 桃代は突き飛ばされ、コタツの敷布団の上に転がった。

 ニヤニヤが止まらない。

 いつもの菜桜じゃないのが可笑しくて、それ以上に可愛くて。


 今後、実体験に基づくエロネタのいじりでことごとく桃代から逆襲されることとなる。



 逆襲はさておき。

 すっかり菜桜が大人しくなってしまった。

 立ち直るには時間がかかるらしい。

 小さい声で反撃しながら鍋をつつく。

 さっきからエロいプレイに関する追求が容赦なく続いている。

 しかし、喋ろうにも極々ノーマルなことしかしていない。ソフトなDVDとかと比べても圧倒的に負けている。


「何も大したことやらしちょらん。ウチ、感じやすいの知っちょろーが。だき、ちょっとしたことであげな声出るって。」


 そっか!確かに。


 菜桜の感じやすさは桃代も知り過ぎるくらい知っている。

 流石に納得した。


「な~んか…ガッカリ。参考にしよっかと思いよったんに。」


 恥かしいのを必死に我慢して言ったのにこの言い草。


「期待外れで悪かったの。こっちはお前らみたいにベテランやないんぞ。っちゆーか、ウチ、朝まで処女やったっちゃきの?」


 なるほど。納得の〆だった。

 こうなってくるともうイジるネタがない。

 飲み食いに走る。

 そこからは話題を変えて互いの知らない離れていた頃の釣りのハナシ、クルマの話などで盛上る。




 今日、激しく追及していたのは仕返しの意味を込めた悪ふざけ。

 菜桜のことは好きなので、別れ際、


「でも、よかったね!色々とおめでと!はよ結婚せぇよ?」


 祝福の言葉を贈った。

 まだ立ち直れてないらしく、可愛らしくて女の子らしい声で、


「ん。ありがと。」


 微笑みながら応える菜桜だった。

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