第47話④ 別の道(急展開)
日本酒を飲みながら、難しい顔をして何やら考え事をしている様子の千尋。
どげしたんかな?
と、突然、
「そぉだ!いーこと考えた!」
でったん良い表情。キラキラしていらっしゃる。
「どげした?いきなし。」
何を思い付いた?
次の言葉を待っていると、
「オレら、付き合おーや!」
なんか、とんでもないことを言ってきやがった!
今までしたことないタイプの動揺。
一瞬で酔いが醒め、劇的に顔が熱を帯びていく。
「はぁ?お前、何いーよん?ウチのことやら全然好きやなかろーもん?」
夜中だというのに思わず大きな声が出た。
「うん、今はね。でも、ゼッテー好きになれる!さっきから今までの菜桜見よって確信できた。間違いない。」
正直過ぎる!好きじゃないのに付き合う?何それ?
「おい!ちょー待てちゃ!お前、でたん酔っちょーやろ?」
「それが何か?酔った時の方が本音が出るき、信じられるんぞ!」
悪びれもせず答えやがる。
「『それが何か?』じゃねーっちゃ!ワケわからんことゆーなちゃ!そもそもウチの気持ちは?」
焦りまくって絶賛取り乱し中。
「ん?菜桜もオレのコト好きになりゃいーやん!これですべて解決!ね?」
同意を求めてくる笑顔が眩しすぎて…ちょっとだけ眩暈がした、気がした。
若干悪戯っぽい笑顔のようにも見えなくはないが、それでも全くの冗談で言っている風ではない。
この提案にノッていいのか、ワタシ?
全力で考える。
「そりゃ…そーやけど…。」
完全に千尋のペースに飲み込まれていた。
この提案を飲めば、今、この場でカッコイイ彼氏ができる、のだが…斜め上を行く展開に全くついていけてない。
さあ!どーする?
ここが正念場。
千尋のことは嫌いなのか?
考える。
一生懸命考える。
嫌いじゃないが、好きではない。
というか、そもそも恋愛対象としてみたことがない。
んじゃ、これから好きになれそう?
それは…
「ね?」
同意を求めてくる。
なんかテンパり過ぎて、
「でもウチ…ユキのコト忘れられてねぇんぞ?そげなんでお前と付き合ったら悪いし…」
グダグダになってしまっていた。
「そげなん最初っから分かっちょーコトやんか。それを分かった上での提案ばってんが…イヤ?」
「え~…そげないい加減な気持ちで付き合うの、なんかダメな気がする…。」
マジで困った。
千尋は少し真剣な顔になって、
「滅茶苦茶なこと言いよる自覚はあるけど、いい加減な気持ちじゃねーよ?このまんま、もっと仲良くなって結婚まで辿り着けたらいーな、っち思うぐらいには真剣なんやけど?」
結婚?
この言葉で、今、何かがたしかに変わった。
「ウソ?結婚?マジで?そこまで?」
ウチ、チョロ過ぎ?
こんな短時間で少しなびいた自分。とてつもなく不安になってくる。
考える。
千尋は悪いヤツじゃない。
むしろいーヤツの部類だ。
まだ恋愛感情は芽生えていない、が…コイツに未来を任せるのはあり?ありなのか?
心配を払拭するかの如く、
「勿論!当たり前。」
笑顔で言い切った。
迷いなど一切ない、ように見える。
「ちょっと待て!考えさせろ!」
考えてどうするつもり?
ヘタレとゆーことはユキの件で痛いほどわかったはず。
それならば、いっそ…
「イヤ!ダメ!考えさせん!やっぱ、今から付き合うことにする!これは命令!」
悪戯心フル装備の笑顔。
それにしても展開がとんでもなく早すぎる!
勢いに押されたまま、
「う…うん…」
つ、ついつい返事してしまった!
今、この場で美男美女カップル爆誕!
「おっしゃ!今から菜桜がオレの彼女!」
「………。」
茫然としてしまっている。
何も考えられない。
真っ白だ。
「ホントにこげなんでいーっちゃろか…この場の勢いだけでゆったんやない?」
不安な顔をして尋ねると、
「んーなコトするか!オレ、どげな悪者なんか?」
笑いながら怒られる。
「だって…」
「どーせお前、返事しきらんやったろーもん?」
見抜いていやがる。
悔しいがその通りだ。
「そぉやけど…あ~…どーしてこーなった。」
頭を抱え込む。
「イヤやった?」
「イヤじゃないけど…こげなんでいーんかなっち。」
「きっかけはどーであれ、でったん大事にするよ?」
大事にしてもらえるのは嬉しい。
だから、
「うん…分かった。じゃ、これから…よろしく?」
「なんで疑問形?」
笑われた。
「だって…」
「おっ!菜桜が珍しく女の子っぽい。なにげに初めてかも。」
「うるせー!バカー!お前がとんでもねぇことゆーき!」
プチ発狂。
いつの間にか元気が出ていた。
当然気付かれる。
「よかった。菜桜、元気になった。」
「!」
「あ~緊張したぁ。でも、よかった。菜桜がOKしてくれて。必死こいた甲斐があった。」
あれで緊張とか…ウソやろ?全然余裕やったくせに!
とか思っていると、
「それじゃ、カレカノイベント第一弾。開始っ!」
今度は何?何を思いついた?
目まぐるしく変化していっているこの状況に先ほどから置いて行かれっぱなし。まるでついていけてない。
千尋は菜桜のすぐ隣に移動する。
かなり近い距離。
「目ぇつぶってん?」
「は?」
この展開はもしかして…いや、もしかせんでも、キス?ちょっと待て!
焦ってモタモタしていると、
「いーき、つぶれちゃ!」
掌を遠慮なし瞼に当てながら、笑って命令。
やっぱり押し切られる。
ウチ、強引なのに弱いんかな?
新たな自分に気付き、心配になってしまう。
にしても、既に自分の扱い方がうまいとか…。
仕方なしにつぶると、すぐに顔が近づく気配。
吐息を感じる。
軟らかさと優しい温もりを唇に一瞬感じた。
25歳にしてホントのファーストキス。
日本酒と缶詰のタレの匂いがした。
レモンの味じゃなかったのに不覚にも感動してしまい、涙が出そうになる。
すぐに離れ、
「よし、完了!オレの初めて。」
照れ隠しで少し上げ気味のテンション。
少し頬が赤い。
「ウチも厳密には。」
昔、やらかしたことに強烈な罪悪感。
いきなし彼女効果?
「はぁ?何それ?オレ、それ聞いたコトないぞ?」
一瞬にして不機嫌な顔になる千尋。
モーレツにアワアワなる菜桜。
「い、いや、一回、未遂みたいなんがあって、ね?」
「ユキ?」
ソッコーバレる。
隠したくはないので素直に白状することにする。
「うん。高校ん時、スピニング買い行った帰りにウチから無理矢理…でもね!ギリギリ口じゃなかったんちゃ!ここらへん!」
焦りながら唇の横辺りを指さした。
っち、何、必死こいて言い訳やらしよるん?カッコ悪っ!
とか思っていたら、考えを読まれたらしく、
「菜桜、必死。」
笑われた。
「でも!」
「そこ、口やないやん。オレ的には全然ノーカンなんやけど。」
全く怒ってない様子。
優しい。
こうなってくると、
「…千尋はホントに無いん?」
早速知らない間の千尋のことが気になりだす。
既に「好き」が芽生え始めている。しかも、かなり大きい。
もっと後からじわじわ来るものだとばかり思っていたのだが…。
マジでウチ…チョロ過ぎる。
「心配性やな。さっきもゆったけど、無いよ。大学は工学部で電気関係やき女は殆どおらんし。会社ではゆったとおりやし。」
「そっか…よかった。」
自然と安心の笑みがこぼれた。
そしてまじまじと見つめられ、
「幼馴染として見ても可愛いけど、女として見たらやっぱでったんレベル高いばい!これは友達に自慢できるぞ。」
「ホントに?ありがと。」
なんか嬉しいことばっか言ってくれる。
そうなってくると、ますますいらん心配が顔を出し、
「絶対浮気やらせんでよ?」
独占欲までもが発現する。
「するか!さっきゆったとおり、ゼッテー大事にする。これは約束。それよりも、お前は大丈夫なんか?可愛いけど。」
さっきから「可愛い」に異常なまでに反応している。
恥かし過ぎだ。
「するワケねぇやんか!確実なモンがあれば強い!」
強い口調で否定する。
「ならいい。これからもずっとよろしく。」
「ん。」
あまりのぶっ飛んだ展開に、しばらくついてゆけてなかったが、何とか持ち直した。
気を取り直し再び飲み始めると、
「明日、ここに来るんやろ?そん時はセックス。初体験を実施する!これ、決定事項ね。今はゴムがないきできん。これから用意しとく。」
吹きだしそうになる。
またもやトンデモなことを言い出しやがった!
「バカ!ここでか?声が出るき親にバレる!っちゆーか、いきなり?」
「いきなりっち…知らん仲やないっちゃきよかろーが。ちゆーか知り過ぎちょーし。」
確かにそうだ。そうだけど!
知っているからこそ逆に恥ずかしい。
ホントに明日するっちゃろか?
勿論イヤではない。
むしろ嬉しいのだが、ちょっと怖い。
経験がないので考えてもしょうがない。成り行きに任せよう。
でも部屋でするのはマジで恥ずかしい。
多分、滅茶苦茶声が出る…と思う。
場所だけは何とか変えさせよう。
っち、あら?
もう、する方向で考えている自分がいることに軽く驚いた。
再度一生懸命気を取り直し、飲み直す。
なるべく、明日のえっちのことは考えないようにして。
それにしてもよかった。
この先、ユキのコトで悩み続けるのかと思いゾッとしていた。
ユキへの気持ちは、現時点で完全には消えてないものの、思いのほか早く消えそうだ。
トンデモ展開だった。
でも、今はよかったと思える。
千尋には救われた。
感謝してもしきれない。
これからは、今までできていなかった彼氏彼女としての思い出をたくさん作ろう。
そして。
ゼッテー幸せになってやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます