第47話② 別の道(終わった…)
話しは飲み会に戻る。
桃には既に子供がいるらしい。
具体的な話しをしている最中だ。
大学の時、ユキとの間にできた子だという。
既成事実があるというのは強い。
後悔以前の問題だった。
最初から勝負にすらならなかったということだ。
それから過去の恋愛話に変わっていった。
美咲も渓も、ユキのことは何度も意識したことがあり、妊娠発覚の際には相当ショックを受けたらしい。
直前の飲み会では、酔った勢いでユキへの好意を二人してぶちまけ、桃を怒らせたんだとか。
それを聞いて、千春までもがユキが好きだと白状した。
自分と一緒になってユキを責めたのはやはり同じ理由だったみたいで酷く後悔していた。
幼馴染の女全員の好意がユキに向いていたという事実。
知りたくもなかった。
同時にそのことを言い当てた環。彼女の観察力には恐れ入った。
飲みながら悲しい気分になる。
幼馴染達のユキへの本心を桃が知ってしまい、飲み会の空気がビミョーになったため、早目の解散となってしまった。
そんなこんなで時は過ぎ、秋。
あれから数回飲み会はあったものの、相変わらずユキが来る場には怖くて参加できないでいた。
今は11月も終盤。
夜はかなり冷え込む。
そんな時、また飲み会の誘いがあった。ユキも来るのだという。断ろうとも思ったが、ユキ本人からの強い希望を間接的に何回も聞いており、断り続けることの申し訳なさもあり、勇気を出して参加することにした。
飲み会当日。
福岡の会社に勤めているためどうしても移動時間が長くなる。東区だから比較的近いとはいえ、渋滞に引っかかるため一時間前後かかるのだ。
開始時間を30分程過ぎた頃、やっと合流できた。
合流すると真っ先に、
「菜桜ちゃん!久しぶり!」
ユキが声をかけてくる。
嬉しそうなのが一目でわかる。
気にしてないというのはどうやら本当らしい。
「ここ、座り?」
桃と反対側の隣を空けてくれていた。
やっぱり嬉しい。
「うん。」
とだけ答え隣に座る。
すぐに、
「やっと会えた。よかった。ホント、あの時はダメダメで…ごめんね。」
謝ってくる。
悪いのは自分なのに…。
「いや…そんなこと…」
上手いこと話せない。
昔はどうやって喋りよったんかな?
そんなことを考えてしまうくらい、ぎこちない。
「ううん。そんなことある。オレがシッカリしてなかったばっかりに…迷惑かけた。ごめん。んで、本気で心配してくれてありがと。」
頭を下げる。
頭やら下げんなっちゃ!悪いのはこっちなんに!
申し訳なさ過ぎて涙が出そうになる。
恐らく千春も同じことを考えているだろう。泣きそうな表情をしているのが見えた。
そんなやり取りがあっている最中、自分の分の生中が運ばれてくる。
「よし!飲もうや!」
ユキが空気を切り替える。
「「「「かんぱーい!」」」」
「おつかれー!」
この雰囲気、なんか落ち着く。やっぱ、幼馴染が最高に心地よい。
ん?
そういえば…ユキとこうして飲むのっち初めて…よね?
考えていた矢先、
「菜桜ちゃんと千春ちゃんは、こげして飲むの初めてやね。」
ユキからの言葉。
些細なことだけど、気付いてくれていたことが嬉しくて、ついつい笑顔になる。
「ん。」
と一言だけ発し頷くだけの自分。気の利いた言葉が出てこなくてホントに情けない。
千春は、
「そっかー。初めてなんよね。なんか不思議。前から飲みよった気がする。」
フツーに会話できている。
自分よりも断然マシだ。
余程嬉しかったらしく、
「今度からは飲み会あったら絶対来てよ?」
ユキは念を押してくる。
「うん。わかった。」
答えつつ、料理に手を着け桃代に目をやる。
相変わらずユキに尽くしている。届かないところにある料理を小皿に盛ってあげているところを見ると、まるで新婚さん。
やっぱこいつらお似合いやん。
そう思うと妬けてくる。
その時、何気なく桃代の左手に目が行った。
薬指には輝く指輪。
胸を締め付けられるような感覚に陥った。
反射的に、
「桃…お前、それ…」
口に出してしまっていた。
「ん?なん?」
「…指輪…」
「あ、うん。チョイ前…ちゆってもホントにチョイ前にね、入籍した。結婚指輪作り行ったのそのあとやきまだ出来ちょらん。とりあえずファッションリングで間に合わせよぉっちゆーことになって。んで、しちょーっちゃ。でったん可愛かろ?」
嬉しそうに微笑みながら左手を出してくる。
ユキがもう完全に手の届かない存在となってしまったコトを意味する指輪。
ショックだった。
「うん、そっか。だき、ユキはしちょらんっちゃね?」
微笑んだつもりだけど…笑えてなかったと思う。
「そ。出来上がったら二人でちゃんとしちょく。入籍のこと話したら、美咲と渓が『お祝いしよ』っちゆってくれて。菜桜と千春、来てくれて嬉しかった。」
桃代は幸せそうに笑う。
何の飲み会か詳しい話しが聞いてなかったけど、文句なんか言えた柄じゃない。
ユキに会うのを怖がって、逃げ続けていた結果がこれなのだから。
桃代が帰ってくる前に環みたいに行動を起こしていれば、或いは…
何を考えても今更だ。
「後の祭り」という言葉しか思い浮かばない。
自分にできることは後悔だけだということを思い知った。
頭の中が真っ白になっていく気がした。
気付いたら頬を涙が伝っていた。
「菜桜ちゃん?どげしたん?」
ユキが心配して声をかけてくる。
みんなの前でなんちゅー…
とても体裁が悪い。
でも、流石にこの状況で誤魔化し切る術は持ち合わせていない。
諦めて白状することにした。
「あんね…ウチ…今でもユキが好きで…」
桃代がビクッとなりこっちを向く。
笑顔が消えていた、が、知ったこっちゃない。
構わず続ける。
「小さいときから…ずっと好きで…ユキ、桃のこと…好きなの…分っちょーのに…諦めきれんで…今、結婚すんの知って…どげすりゃいーか分からんごとなった。」
涙のワケを打ち明けた。
するとユキは、
「ごめんね。ありがと。こんなヤツ好きになってくれて。ホントに嬉しいよ。こんな場面やき、キッチリと言わないかんのよね?オレに言えるやか…自信ねぇな。えっと…その…」
言いたいことを纏めることができず、グダグダになっていた。
「桃が好きだから一緒になることはできない。ごめん」的なことを言う場面だ。
なのに、
「桃ちゃんのことが好きやき結婚することにした、っちゆーのは理由にならんかな?」
相変わらず、未練を断ち切るに値する言葉が出てこない。
だから、その問いには答えず、
「前もゆーたっち思うけど…フッてほしい。お前のことは好かんっちゆってほしい。いらんっち、顔も見たくない、会いたくないっち。そげせなウチ、諦めきらん。」
「あのね、菜桜ちゃん…それはゆえん。」
「…なんで?」
「好かんとも思わんし、いらんとも思わん。顔は見たい。会って話もしたいし、これからも仲良くしたい。菜桜ちゃんと千春ちゃん、会えんやったときずっと寂しかったんよ?大事な友達…いや、幼馴染やもん。それこそそんな嘘は言いたくない。」
幼馴染は特別大切にするユキのこと。
そこだけはキッパリと言った。
こう言うのは目に見えていた。
「そっか…そうやね。ユキらしい。」
「うん。今まで好きでおってくれてホントにありがとね。やっぱキッチリと言えんやったね。オレ、ヘタレ過ぎ。」
優しい性格ゆえの優柔不断。
「ユキ!」
感極まって抱きしめてしまう。
すると優しく、ものすごく優しく抱きしめ返された。
髪を撫でられ、
「ホントにありがとね。」
感謝の言葉。
完全に終わった。
涙が止まらない。
しばらくそのまま人目も気にせず泣いた。
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