第46話④ 新車(納車のお話)

 レジアスエースはどうなったかというと。

 契約し、お金を払い、あとは納車を待つだけ。

 只今待機中。

 機会を見つけてはミクが家に来るようになった。勿論、クルマはついででユキの顔を見るのがメイン。

 だから、その時は必ず桃代がセットでいる。

 飲み会の時のトンデモな出来事で、ツーショット禁止を言い渡されているユキだった。

 エロDVDのような展開がないか警戒しているのだ。

 ここまでするのに付き合ってもいない。ミクは不思議な気分になり、苦笑するしかなかった。




 そして納車の日。

 ホントにキッチリ2カ月だった。

 一週間前にミクが家に来て、


「一週間後のこの日、納車になる。家におる?」


 そう聞いてきたので、


「大丈夫ばい!」


 と答えておいた。

 勿論その日は開けておく。


 納車前日の夕方、ミクから


「ユキ!明日納車。会社終わる前連絡して!ウチが持ってくき!」


 電話があった。

 

「実際今目の前にあるっちゃけど、でったんキレーな色ばい!乗用車みたいな感じやし。暗い色やき黒バンパーが目立たんね。」


 ということらしい。


 待ちに待った新車との対面。

 少ない色なのでイメージが湧かない。200系がデビューしてこの色はまだ数回しか見たことがない。

 楽しみだ。



 ついに納車当日。

 終業時刻30分前。

 残業もなさそうなのでミクにメッセージを入れる。

 すぐに「了解」と返ってきた。

 残業もなく無事終了する。


 家に帰り待つこと約30分。

 入口の方からクルマの音がする。

 桃代と有喜と妹とで出迎える。

 妹が、


「兄ちゃん、これ千鳥饅頭の営業車やん。」


 冷たい口調で元も子もないことを言っている。


「そーばい。でもオレはこれがいいと。」


「ふ~ん…ウチには分からん。」


 実に興味なさげだ。


 ミクの乗ったレジアスエースに続き、ヴィッツに乗った営業マンが入ってくる。

 エンジンを切り、キーを抜いてミクが降りてくる。


「こんにちは。」


 出迎えたみんなに挨拶。

 妹だけが挨拶したら家に入っていった。


「お待たせ!色、なかなかキレかろ?」

 訳:キレイでしょ


「ホントね。間近で見たらこげな風なんて。青に見えんくもないね。」


「そぉやね。」


「ミクねーちゃん、こんにちは!」


 有喜が遅れて挨拶。


「オッス!ユーキ。」


 抱っこしてもらう。


「バスみたいねー!おっきーねー。」


 有喜は実物を初めてみる。

 なかなかのはしゃぎっぷりだ。


「乗ってみれ。」


 そう促しドアを開けてやると、早速一生懸命よじ登り、座ってドアを閉め、


「ユキオイチャン!こぉ!高いばい!」


 大喜びだ。


「ははは。可愛いね!はい、キー。」


 受け取るとキーレスエントリーだった。ここだけがミニカに勝っている。あとは同点か負けている。そういえば値段は勝っていた!同じグレードのミニカが新車で4台は買える。


「キーレス…ちょっと感動。標準装備やったんやね。」


「そうそう。ウチも知らんやった。」


 そして説明が始まる。

 ライトのレベライザーについて。

 ターボについて。

 電球の交換について。

 オイル交換について。

 排ガス浄化装置について。

 すべての説明が終わり、


「また飲もうね!」


 そう言って、付き添ってきた営業マンのクルマに乗って帰っていった。

 待望の新車である。

 嬉しさが爆発し、


「ちょいその辺乗ってみようや!」


 桃代に提案する。


「分かった!ジュニアシート持ってくる!」


 有喜はこの頃少し身長が伸びたので、下に敷くタイプのジュニアシートになった。

 前列に3人で乗る。真ん中が有喜。

 何気なく助手席の桃代がシートをリクライニング。

 そう言えば、Ⅰ型はスーパーGL以外助手席の背もたれが前にしか倒れなかったはず。

 変更点っちグリルとエンジンだけやなかったんやん。


 エンジンをかける。

 グローして…スタート!


 キュキュキュカラカラカラ…。


 4気筒なので桃代のグロリアより音が軽く乾いた音がする。

 それにしても…ケツの下がエンジンなので結構やかましい。シートの隙間から熱気も上がってくる。

 内装は前列シートの背もたれまでがトリムしてあるだけ。二列目と荷室は鉄板剥き出し。ドアの内張りは木くずを圧縮したボード。スーパーGLはフロアカーペットだったがDXはビニールシート。かなり貧乏くさい。でも、考えようによっちゃビニールの内装は便利かも!泥がついても雑巾で拭ける。ミニカは掃除機かけるの苦労した。


 いざ出発!

 目線が高くて見晴らしがいい。

 なんかいい気分だ。

 ブレーキを踏み、セレクトレバーを「D」に入れ、昔のクルマっぽいステッキ式サイドブレーキのボタンを押し、回しつつリリース。

 ウィンカーを上げ左に出る。一気に加速してみる。スポーツカーの様にはいかないけどなかなかの加速。流石136馬力、30.6kgf・mのトルクは伊達じゃない!

 加速時のタービンの音が静か。会社の100系ハイエースワゴンは加速の時「ビュオ―――!」っと勇ましい音がしていたように思う。


「速いね!」


「うん。」


 そしてバイパスに入る。

 ブレーキを踏んで減速。ハンドルを切ると


「ギギギキュイ~ン」


 ABSが作動した。


「ぅお?何じゃこりゃ!」


 初めて味わうABSの感触にビックリ。


 こんなに簡単に効くモノなのか?


 大学時代の友達のクルマにも着いていたはずで、何度となく運転させてもらったが、一度も作動したことがない。重心が高いクルマだとこうなのか。交差点で曲がるたびに作動して気色悪い。


 慣れるしかないな。


 目線が高くて先までよく見える。数台先まで見えるので渋滞中、急ブレーキ踏むことも少なくなりそうだ。

 目線が高いことで気付いたこと、その二。

 スピードが出過ぎる。これはレーダー積んどかんとスピード違反で捕まるぞ。目線が低いミニカだと時速60キロで走るとかなりのスピード感がある。これがレジアスエースになると、おなじ60キロでも遅く感じる。体感速度の差が激しい。目線が路面から離れるとこうなるのか。


 そう言えば!

 ナンバー見てなかった。

 家に戻り、降りてみて目が点。


 69て…


 桃代から大笑いされた。


 数日後、「ナンバー気に入った?」とメッセージが入った。

 偶然だと思っていた。

 しかしミクはナンバーを取るとき、その番号が取れそうなことに気付いてわざわざそうなるよう、順番を変わってもらったらしい。


 何やってくれよぉん?マジで。



 しばらく乗ってみて気付いたこと。

 走っていると、だんだんアクセルが重くなり反応が鈍くなっていく。エンジン音が籠ってアイドリングが上がり、トラックの排気ブレーキと同じ音がし出す。排ガス浄化装置の作動音だった。クルマの中で聞こえる音はそこまで大きくない。アクセルを踏んだ瞬間に「プシュ、プシュ」と聞こえるだけだが、外で聞くと大違い。「シュパ!」と辺りに響き渡るものすごい大音量だった。

 チョイ乗りが多ければ100キロ毎に作動する。作動し始めると10キロ走らないと終了しない。浄化中にエンジンを切ると何度でも作動する。これを繰り返すと最終的には浄化装置の警告灯が点き、販売店に持ち込んでススを焼いてもらわないといけなくなる。2回ほどそうなった。だから、そうならないよう、終わるまで近所を走り回ることにした。会社が近いため、しょっちゅう作動している。

 エンジンオイルが増えるのも困ったものだ。

 6リッター弱入れたエンジンオイルが交換時8リッター以上出てくる。しかも泡ブクブク。異常かと思いミクに相談すると、技術の人を呼んでくれた。その話によると排ガス浄化装置の機能上、軽油を使いススを燃やすらしいが、この時余った軽油がエンジンオイルに混じるようにできているらしい。かなりの勢いで増えるため、オイル交換を少し先のばしたりすると、オイルの「アッパーレベル警告灯」というのが点灯する。知らないと故障したかと思い心配になってくる。



 後日、色々知ったことがある。

 盗難件数ブッチギリナンバーワン。

 これはセキュリティが甘く中古価格が高いためだ。

 盗難車ということを警戒し、バラして部品として外国に売り飛ばすから発見がきわめて困難とのこと。

 高速道路でマナーの悪いクルマワースト上位。

 とにかく煽りまくってくるとのこと。特にハイエースは山のように大きいため、迫力があって後ろに着かれるとかなりの恐怖らしい。

 そして、女性(特に幼女)を拉致監禁することを「ハイエースする」と言うそうだ。ドアの開口部が大きく、簡単に車内に引っ張り込めて、中も広く、ヤラシイことするのにも最適なんだとか。


 なんか…マイナスイメージ多いなこりゃ。




 まだまだ暑い季節。

 ボートを出すには勇気がいる。

 しかし、一度載せておかないと、いざ行くことになりダメだったでは話にならない。

 もし載らない場合、ルーフキャリアを装着しないと運べない。そのルーフキャリアも店舗に在庫があればその日のうちに装着できるが、なければ注文してもらうことになり、さらに数日かかることになる。

 というわけでリハーサル。

 ハッチバックを開け、積み込む。

 ジョンボートなので先端は四角い。Vハルなら真ん中の補助シートを倒せば難なく乗るのだが…。結局、助手席の背もたれを垂直まで起こしギリギリだった。でも乗った。これで一安心だ。

 涼しくなったらボート実行だ!



 オカッパリのときの便利さはどーだ?

 スライドドアを開け、後部座席の背もたれにサオを立てかけるだけ。開口部が広いから、すごく使いやすい。ロッドホルダーみたいな釣りグッズを装着して、カスタマイズしている人もいるが、そんなことしなくても全く大丈夫。



 荷室の広さもなかなかのモノ。

 チャリが立てたまま数台乗る。そういえばバイクの競技などをしている人たちはハイエースやキャラバンをトランスポーターとして使っていることが多い。

 そのままキャンピングカーとして使える。トイレのある駐車場に停めればすべて事足りる。本格的にこだわる人以外、キャンピングカーいらないんじゃないの?というノリだ。寝るときは布団かシュラフを積んでいけばいい。風呂とキッチンがないだけ。風呂はどうしようもないとしても、キッチンはなんとかなりそう。水は汲んでいけばいいし、出先で買ってもいい。冷蔵庫もクーラーボックスで何とかなるし、火もカセットコンロで何とかなる。

 本来は荷物を運ぶための「働くクルマ」なんだけど、立派な遊べるクルマだ。仕事以外の用途=自家用車として使っている人が多いのが頷ける。これは日産のキャラバンでも同じことが言える。

 このクルマを選んでよかった。

 ちょっとした癖はあるものの、そんなに気になるほどのコトじゃない(乗り心地重視な人や、腰痛が酷い人には致命的らしいが)。何と言ってもこの広さは魅力的。燃費も通勤+遊びで9km/l、遠出すれば11km/lと、3リッターの排気量を考慮しても納得いくレベル。満足だ。夢が膨らんでいく。みんなで行く遠征とかも計画したい。色々と楽しみになってきた。




 この後、アルミを着け、ユーロテールでおめかししたところで結婚が決まり、手放さなくてはならないかとも思われたが、桃代が気に入ってくれたのと、税金の安さ(年間19500円)が幸いして、ユキの元を離れずに済んだ。これからもユキの家族の一員として頑張っていくレジアスエースだった。

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